The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine
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58 巻, 6 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
巻頭言
特集『サルコペニアに対するリハビリテーション医療』
  • 荒井 秀典
    2021 年 58 巻 6 号 p. 600-604
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    ジャーナル フリー

    高齢化の進行とともに,加齢に伴って増加する疾患,病態の重要性が高くなっている.加齢とともに骨格筋量は減少するが,骨格筋量とともに歩行速度や握力など機能的な低下も認められる.このような加齢に伴う骨格筋の機能低下がサルコペニアと定義されたが,サルコペニアは,日常生活活動(ADL)の低下,フレイル,転倒・骨折,入院,施設入所,死亡などの危険因子であり,その診断基準も2010年から2014年にかけて欧米およびアジアで確立してきた.その後,EWGSOPは2018年診断基準の改訂を発表し,続いてAWGSも2019年10月に診断基準を改訂した.さまざまな診療科において高齢化とともにサルコペニアの診断・治療の重要性は高まっており,治療の質向上や健康寿命延伸のためガイドラインに応じたサルコペニアの管理が必要である.

  • 千田 益生, 濱田 全紀, 堅山 佳美, 伊勢 真人, 本郷 匡一, 濱崎 比果瑠
    2021 年 58 巻 6 号 p. 605-614
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    ジャーナル フリー

    運動療法は,サルコペニアの発生予防あるいは治療に関して,栄養療法とともに中心をなすものである.ガイドラインによると,運動療法はサルコペニア発症の予防・抑制に対して推奨され,治療法としても推奨される.また,サルコペニアに対する介入の基本は,運動と栄養の組み合わせであるとしている.サルコペニアに対する運動療法として,レジスタンスエクササイズ,エアロビックエクササイズ,高強度インターバルトレーニング,Whole-Body Vibration Therapyについて,レビューを行い,有効性や具体的な方法,注意点などについて記載した.ロコモティブシンドロームに対するロコトレについても紹介した.運動療法に関する現状と課題について,周術期やCOVID-19関連について記載した.

  • 酒井 義人, 渡邉 剛
    2021 年 58 巻 6 号 p. 615-620
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    ジャーナル フリー

    加齢に伴い骨量の減少と並行して骨格筋量も減少する.Type II筋線維の加齢性減少であるサルコペニアは下肢から起こり歩行障害,移動能力の低下をきたし,進行すると体幹筋にも及ぶことで姿勢異常,易転倒性を惹起する.高齢者の運動器疾患においては,骨密度のみならず,骨格筋量を考慮した治療がリハビリテーション医療領域では必須である.骨粗鬆症に関連した疾患として,骨粗鬆症性椎体骨折や大腿骨近位部骨折がサルコペニアと関連があり,両骨折とも治療後の予後に影響を与える.骨格筋量の減少した高齢者の大腿骨近位部骨折では生命予後にも影響を及ぼす.サルコペニアに対する有効な治療法は確立されておらず,運動による予防的治療が重要である.

  • 柴田 斉子
    2021 年 58 巻 6 号 p. 621-626
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    ジャーナル フリー

    サルコペニアは筋肉量減少を意味する語として提案され,生命予後とも関連することから注目を集め,その後,筋力低下や身体機能低下を含めて診断基準が改定されてきている.サルコペニアは摂食嚥下障害の独立した因子であることが報告されており,高齢社会ではその対応が重要となる.高齢者の嚥下障害には,多くの疾患や薬剤,栄養障害や廃用が複雑に絡み合っているが,「サルコペニアの嚥下障害」は,全身と嚥下筋のサルコペニアによって生じる嚥下障害と定義され,全身のサルコペニアがあることが診断の必要条件となっている.サルコペニアの嚥下障害の治療は,原疾患の治療に加え,栄養を確保したうえでの運動(筋力増強)がポイントである.

  • 若林 秀隆
    2021 年 58 巻 6 号 p. 627-632
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    ジャーナル フリー

    サルコペニア肥満とは,サルコペニアと肥満を合併した病態である.サルコペニア肥満に関する論文は多数あるが,現時点で統一した定義,診断基準,カットオフ値は存在しない.欧州と日本で現在,検討中である.回復期リハビリテーション病棟では,サルコペニアと体脂肪率で診断したサルコペニア肥満が,ADL自立度や自宅退院率と関連するため,その評価と対応が重要である.運動療法ではレジスタンストレーニングと持久性トレーニングが重要である.栄養療法では栄養のゴールを設定して,1日エネルギー必要量=1日エネルギー消費量-1日エネルギー蓄積量とした攻めの栄養療法が重要であり,ケアプロセスを活用すべきである.

  • 杉本 大貴, 櫻井 孝
    2021 年 58 巻 6 号 p. 633-638
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    ジャーナル フリー

    サルコペニアと認知障害はともに高齢者に多い病態であり密接に関連している.サルコペニアを有する高齢者は,非サルコペニアの高齢者と比較して約2倍,認知障害を有する割合が高い.また,アルツハイマー型認知症では早期から筋肉量の減少が認められ,病期の進行に伴ってさらに筋肉量は減少し,筋力や歩行機能を含む身体機能が低下するためサルコペニアの有症率が高くなる.さらにサルコペニアは認知障害とは独立して,認知症患者の生活機能の障害と関連するため,軽度認知障害や認知症の早期からレジスタンストレーニングや栄養指導,またそれらを組み合わせた多因子介入など,サルコペニアへの対策が必要である.

  • 秋下 雅弘
    2021 年 58 巻 6 号 p. 639-643
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    ジャーナル フリー

    高齢者は多病ゆえに多剤服用となり,薬物有害事象や服薬アドヒアランス低下などの問題を起こしやすい.特に薬剤起因性老年症候群としてのサルコペニアに注意が必要で,ふらつき・転倒,排尿障害・尿失禁,食欲低下がある場合に考慮すべきである.多くの薬剤が原因となるが,ベンゾジアゼピン系薬剤をはじめとする向精神薬とさまざまな領域で用いられる抗コリン系薬剤に対する注意が最も重要である.次いで,副腎皮質ステロイドとmTOR阻害薬もサルコペニアをきたす薬剤として注目されている.以上の点に留意し,サルコペニア予防も考慮して高齢者に適した慢性疾患の管理と薬物療法を行うことが求められる.

  • 杉本 研
    2021 年 58 巻 6 号 p. 644-652
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    ジャーナル フリー

    サルコペニアは,加齢に伴う身体活動の低下や栄養状態の変化,内分泌系の変化,神経筋接合異常など,さまざまな要因が関与しており,併存する疾患の影響も大きく受ける.筋タンパク合成の低下・分解の亢進,オートファジー不全,ミトコンドリア機能障害,筋修復障害などがそのメカニズムとして考えられているが,最近はレニン-アンジオテンシン系,マイオカイン,筋微小循環とサルコペニアの関係も明らかにされつつある.これらの機序に基づくサルコペニアの治療法の開発も進められているが,既存の薬物で応用可能なものを除き,確立に至っているものはまだない.

教育講座
リハビリテーション医学研究のこれから
原著
  • 石谷 勇人, 田村 俊世, 金谷 重彦
    原稿種別: 原著
    2021 年 58 巻 6 号 p. 680-691
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    [早期公開] 公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー

    目的:日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOABPEQ)は,質問25項目で構成され,腰痛疾患患者を多面的に評価できる.JOABPEQにある質問項目から患者自身が訴える主観的な疼痛症状を定量化できれば,実際に直面している日常の問題が把握でき,理学療法に役立てられる.本研究では,JOABPEQにより腰部脊柱管狭窄症患者の腰痛,下肢症状の程度,股関節可動域を定量化するための回帰モデルが構築できるかどうかを調査した.

    方法:対象は,当院で手術を施行予定の腰部脊柱管狭窄症115例とした.検討項目は,手術直前のVisual Analogue Scale(VAS)による①腰痛,②下肢痛,③下肢のしびれの程度,股関節可動域(ROM)は④屈曲,⑤外旋,⑥内旋角度,JOABPEQとした.部分的最小二乗法(PLS)回帰分析を用いて,目的変数はVASの①,②,③と股関節ROMの④,⑤,⑥とし,説明変数はJOABPEQの質問25項目として回帰モデルの構築について検討した.PLSは,説明変数の部分的な情報だけのシンプルな回帰モデルを構築できるため,本課題に適応した.

    結果:①,②,③,④は,JOABPEQから回帰モデルを構築した.⑤,⑥は,JOABPEQから回帰モデルを構築できなかった.

    結論:本研究のPLS回帰分析の結果から,JOABPEQの質問項目より腰部脊柱管狭窄症患者の疼痛症状の程度を定量化できると考える.さらに,股関節ROMの屈曲角度においても,JOABPEQの質問項目から定量化の可能性が示唆された.本研究結果は,理学療法の治療計画を立てるうえで有効な手段と考える.

症例報告
  • 田畑 阿美, 中谷 未来, 入江 雄二, 伊藤 宣, 南角 学, 山脇 理恵, 池口 良輔, 松田 秀一
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 58 巻 6 号 p. 692-698
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    [早期公開] 公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー

    A 70-year-old woman with rheumatoid arthritis underwent above-knee amputation due to osteomyelitis after right total knee arthroplasty. After the surgery, the patient started rehabilitation for wearing a prosthetic leg. However, the patient could not wear the prosthesis by herself because of severe upper limb impairment due to bilateral finger joint deformity and muscle weakness associated with the rheumatoid arthritis. Therefore, physical therapists and prosthetists/orthotists collaborated to determine movements that could be performed, even with muscle weakness, using assistive devices such as a Velcro strip handle with the prosthesis and a prosthetic liner stand. Subsequently, repetitive training was performed in an environment similar to the setting of the patient's prosthesis use at home. Consequently, although no change in upper limb function was observed, the patient had increased independence during prosthesis attachment. As she had difficulty wearing and removing her trousers/underwear while wearing the prosthesis, she performed movements using assistive devices and made changes to the order of movements. Six months after the surgery, she could wear the prosthesis and perform self-care correctly by herself and return home. Therefore, to maximize function that enables independence after amputation, helping patients learn how to put on the prosthesis using a team approach is important.

  • 上垣 亮太, 荻野 智之, 金田 好弘, 和田 陽介, 道免 和久
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 58 巻 6 号 p. 699-704
    発行日: 2021/06/18
    公開日: 2021/08/16
    [早期公開] 公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー

    We report a case of a patient with chronic stroke who improved his gait ability through weekly gait training using Gait Exercise Assist Robot (GEAR). A man in his 70s, who developed cerebral infarction 27 years ago, presented with right-sided hemiplegia. Before gait training, the patient's gait ability was assessed to be independent, but poor toe clearance was observed on the paralyzed side during the swing phase. Therefore, we started gait training using GEAR with the goal of improving his gait pattern. The patient underwent gait training using GEAR for 20 min/day, 1 day/week for 12 weeks, wherein the treadmill speed was increased as much as possible in order to improve the swing of the paralyzed lower limbs, and the visual and auditory feedback functions were also used to promote the load and swing of the paralyzed lower limbs. As a result, the overground gait velocity, Timed Up and Go Test, and 6-minute walking distance increased after 4 weeks. However, poor toe clearance was observed on the paralyzed side during the swing phase even after 12 weeks of the training. These results suggest that 4 weeks of gait training using GEAR (performed only 1 day/week) may effectively improve the gait ability of patients with chronic stroke. On the other hand, no improvement in gait pattern was observed, and further investigation is required in the future.

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