1) 大戸川 (だいとがわ) は, 滋賀県の最南部の信楽田上地域を流れる全長約35kmの河川であって, 琵琶湖には流入せず, 琵琶湖からの唯一の流出河川である瀬田川に流入する。
2) 流域の地質は変成花崗岩より成り, 大戸川の河床にはその分解によって出来た流砂が多い。
3) 大戸川に5つの観測地点を設定して, 水温・pH・電気伝導度などの測定を行い, 同時に岩石上に着生した藻類の資料を採集した。
4) 全調査地点から見出された珪藻の種類を総括した結果, 大戸川の珪藻フロラは25属54種類のものから成ることが判明した。
5) 珪藻群集の分析を行ったところ, 上流から下流に向って
St.5 (東出橋)
Achnanthes japonica-Nitzschia palea群叢
St.4 (大鳥居発電所)
Melosira varians-Synedra vaucheriae群叢
St.3 (斧研橋)
Achnanthes japonica-
Synedra vaucheriae var.perminuta群叢
St.2 (荒戸橋)
Achnanthes japonica-
Cymbella turgidula var. nipponica群叢
St.1 (黒津橋)
Achnanthes japonica-Nitzschia pales群叢となっていることが判明した。
6)
Achnanthes japonicaは, 我が国の河川において上流部から中流部まで広く出現する種であるが,
Nitzsehia paleaは汚濁の著しい地点に夥しく産することが知られている。St.5 (東出橋) とSt.1 (黒津橋) は, 従って汚濁の著しい地点であることがわかる。St.5の汚濁は信楽町の生活排水によるものであり, St.1の汚濁はその上流地点にある屎尿処理場からの排水によるものと思われる。
7) St.4 (大鳥居発電所) の珪藻群集は極めて特異なものであるが, これは発電所へ導かれている田代川ダムからの取水によって大きく影響されているからである。
8) St.3 (斧研橋) とSt.2 (唐戸橋) は, 比較的に清い水であることは, そこに
Nitzschia paleaが少く,
Gomphonema quadripunctatumが出現することでわかる。
9) 大戸川の上流部は信楽町の生活排水によって一旦汚染されるが, その汚染水は中流部で浄化される。その事実は, 河川水の電気伝導度や生物化学的酸素要求量の測定によって知られるが, 浄化は大戸川の河床に広く且つ大量に堆積している花崗岩の分解による砂粒 (流砂) によって行われるものと想像される。
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