水環境での抗生物質の普及と抗生物質耐性菌の蔓延は世界中で主要な問題となっており、耐性菌の増殖を防止することはグローバルヘルスにとって最も重要な関心の一つである。耐性菌の増殖防止を達成するために、抗生物質耐性遺伝子とその発現機構を解析することが重要であると考えられる。
Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)は広範な環境に生息するグラム陰性菌であり、抗生物質環境に直ちに適応する。これは、本菌がゲノム中に未だ知られていない多くの耐性関連遺伝子を保有している現れである。新たな未知の耐性関連遺伝子を取得するために、ランダムに剪断された緑膿菌8380株の染色体DNA断片をpUCP24プラスミドに挿入し、それを8380株に導入し、耐性を誘導する新たなDNA断片を獲得した。そのDNA断片にはPA8380_33440(
scfB)遺伝子がコードされており、詳細な解析の結果、この遺伝子が抗生物質耐性を誘導することが示された。その耐性プロファイルはMexT依存的にMexEF-OprN多剤排出ポンプを発現しているNfxC型変異株の耐性プロファイルと同様であったことから、
scfB遺伝子は、MexEF-OprNを誘導すると考えられた。野生型8380株のMexEF-OprNの発現は、負の制御因子MexSが正の制御因子MexTを抑制しているため、ほぼ認められることはできないが、
scfB遺伝子の導入によって、タンパク質レベルで同ポンプの発現が促されていることが認められた。一方で、
mexTが欠失した8380株に
scfB遺伝子を導入しても、同ポンプの発現は確認できなかったことから、
scfB遺伝子はMexT依存的にMexEF-OprN排出ポンプの発現を誘導することが示され、通常機能が抑制されている耐性遺伝子が未知の遺伝子により発現誘導され、容易に抗生物質耐性株に変化していくことが示された。
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