日本水処理生物学会誌
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52 巻, 3 号
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報文
  • 中村 和德, 矢野 篤男, 陶山 佳久, 西村 修, 中野 和典
    原稿種別: 報文
    2016 年52 巻3 号 p. 45-54
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー
    人工湿地での植栽が大型土壌動物群集に与える影響を明らかにするために、実規模の鉛直流型人工湿地の濾床で大型土壌動物数を調査した。調査対象は、餌資源となる有機物が最も多く堆積する一段目の濾床とし、植栽したヨシが旺盛にバイオマス量を増加している栄養生長期に行なった。植物の栄養生長期における大型土壌動物数は、無植栽区よりも植栽区で多く、人工湿地への植栽が土壌動物の多様性を高めることが確認できた。また植物の存在によって多様性に影響を受ける動物群が確認された。人工湿地には餌資源となる豊富な有機物が堆積するにも関わらず、植栽が土壌動物の多様性に大きく影響を与えた。大型ミミズは植栽区の0-10 cm層で最も個体数が多かった一方で、無植栽区では10-20 cm層で最も多く採取された。これらの結果は、植栽は大型土壌動物へ餌資源(リターなど)を供給する役割よりもむしろ急激な温度変化などの劇的な環境変化を緩和する役割の方が大きいことを示しており、廃水由来の有機物が常に供給される人工湿地においても植栽が大型土壌動物の多様性にとって重要であることが明らかとなった。
  • 市瀬 裕樹, 上手 麻希, 北島 圭, 白井 昭博, 間世田 英明
    原稿種別: 報文
    2016 年52 巻3 号 p. 55-63
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー
    水環境での抗生物質の普及と抗生物質耐性菌の蔓延は世界中で主要な問題となっており、耐性菌の増殖を防止することはグローバルヘルスにとって最も重要な関心の一つである。耐性菌の増殖防止を達成するために、抗生物質耐性遺伝子とその発現機構を解析することが重要であると考えられる。Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)は広範な環境に生息するグラム陰性菌であり、抗生物質環境に直ちに適応する。これは、本菌がゲノム中に未だ知られていない多くの耐性関連遺伝子を保有している現れである。新たな未知の耐性関連遺伝子を取得するために、ランダムに剪断された緑膿菌8380株の染色体DNA断片をpUCP24プラスミドに挿入し、それを8380株に導入し、耐性を誘導する新たなDNA断片を獲得した。そのDNA断片にはPA8380_33440(scfB)遺伝子がコードされており、詳細な解析の結果、この遺伝子が抗生物質耐性を誘導することが示された。その耐性プロファイルはMexT依存的にMexEF-OprN多剤排出ポンプを発現しているNfxC型変異株の耐性プロファイルと同様であったことから、scfB遺伝子は、MexEF-OprNを誘導すると考えられた。野生型8380株のMexEF-OprNの発現は、負の制御因子MexSが正の制御因子MexTを抑制しているため、ほぼ認められることはできないが、scfB遺伝子の導入によって、タンパク質レベルで同ポンプの発現が促されていることが認められた。一方で、mexTが欠失した8380株にscfB遺伝子を導入しても、同ポンプの発現は確認できなかったことから、scfB遺伝子はMexT依存的にMexEF-OprN排出ポンプの発現を誘導することが示され、通常機能が抑制されている耐性遺伝子が未知の遺伝子により発現誘導され、容易に抗生物質耐性株に変化していくことが示された。
  • 野村 宗弘, 安斎 英悟, 秋葉 道宏, 西村 修
    原稿種別: 報文
    2016 年52 巻3 号 p. 65-71
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー
    ピコ植物プランクトンに対するろ過処理に及ぼす凝集の効果を明らかにするため、凝集ろ過実験、および一般的な浄水処理法である凝集沈殿ろ過実験を行い、両者の処理過程を比較解析した。その結果、凝集沈殿ろ過実験でろ過漏出する物質は4.2μmにピークが検出され、未凝集ではなく微少なフロックを形成していたこと。また、ピコ植物プランクトンの凝集処理において、凝集剤の注入量が少ない場合、粒径10μm以下のフロックが形成され、凝集剤注入量が多い場合、フロックの再分散により一部が粒径10μm以下となることから、最適な凝集剤注入量によってろ層に侵入するフロック径を10μm以上に保つことがろ過漏出を防ぐために重要であることが明らかとなった。
  • 朴 起里, 手嶋 菜美, 中山 雄喜, 武川 将士, 惣田 訓, 池 道彦, 井坂 和一, 古川 憲治
    原稿種別: 報文
    2016 年52 巻3 号 p. 73-83
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー
    嫌気性アンモニウム酸化(アナモックス)の至適温度は通常は30-37℃とされており、一般的な廃水の温度よりも高いため、効率的な窒素除去のためにはアナモックスリアクターを加温するためのエネルギーが必要となる。そのため、より持続可能であり、汎用性の高い窒素除去技術を開発するためには、常温(20-25℃)で利用可能なアナモックスプロセスが必要である。そこで複数の植種源を用いて不織布充填型のラボスケールリアクターの20℃におけるスタートアップを行った。リアクター1には温帯地域である熊本で採取した活性汚泥を植種した。リアクター2には亜寒帯地域である北海道で採取した活性汚泥を植種した。リアクター3には熊本の地下水中の微生物を植種した。リアクターの立ち上げから約800日後、リアクター1とリアクター2ではアナモックス反応として報告されている典型的な窒素の反応比とともに0.64kg-N/m3/dayの高い窒素除去率(NRR)が得られた。一方、立ち上げから約700日後にリアクター3のNRRは0.38kg-N/m3/dayに達したものの、窒素除去は不安定であり、窒素の反応比からはアナモックス反応と硝化反応が同時に発生していることが示された。本研究の結果から、常温で生育できるアナモックス細菌が環境中に遍在していることが示唆された。
解説
  • 石橋 健二, 平島 隆義, 井上 剛, 平木 貞憲, 三池 純子
    原稿種別: 解説
    2016 年52 巻3 号 p. 85-91
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー
    平成21年4月末から5月中旬にかけて、筑後川上流の松原ダム上流域において珪藻類のSynedra acusが異常増殖し、その下流に位置する荒木浄水場でろ過閉塞障害が発生した。荒木浄水場では、ろ過池における損失水頭の急激な上昇に対し、浄水処理薬品の増量による凝集処理の強化を図るとともに、ろ過継続時間の段階的な短縮を行ったが、原水中のSynedra acusの経日的な増加も相俟って、十分な除去効果が得られず、浄水処理の機能が著しく低下した。これらの状況に対し、前塩素注入点の変更とろ過池の複層化を緊急的に実施した。前塩素注入点の変更により、Synedra acusと前塩素の接触時間を従来より長く取ることで、Synedra acusの沈殿池における凝集沈殿除去効果を約20ポイント向上することができた。また、約半数のろ過池を対象に、僅か50 mm厚のアンスラサイトを敷設することで、ろ過池の損失水頭上昇の顕著な抑制効果が確認され、浄水処理の機能を回復することができた。今後の同様な障害の発生に備え、ハード面での対策として、全ろ過池の複層化と前々塩素注入設備を常設するとともに、ソフト面での対応として、水安全計画の中で危害評価と危害解析を行うとともに、ろ過閉塞障害に係る対応について手順化した。
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