糖タンパク質のN-結合型糖鎖、あるいはO-結合型糖鎖の生合成やプロセッシングを研究するモデル系として酵母が使われる。Glc
3Man
9GlcNAc
2-PP-Dolの合成とその14糖のタンパク質中のアスパラギン残基への転移およびグルコース3分子の切断は、酵母と哺乳類の細胞で同じように受け継がれている。しかし、哺乳類の細胞におけるN-結合型糖鎖が14糖からトリマンノシルコアまで分解され、ゴルジ体において、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、シアル酸、硫酸基、フコースによって複雑に修飾され、複数に分岐した“complex”糖鎖を形成するのに対し、酵母では、ERにおいて、最初の糖鎖からマンノース1残基のみが切断されてMan
8GlcNAc
2Asnとなり、さらにゴルジ体において、ハイマンノース型オリゴ糖鎖にマンノース残基が付加することによって伸長され、“マンナン”となる。このマンナンは、主鎖がα1, 6-結合で、α1, 2-とα1, 3-結合のマンノース側鎖を有する50~100糖からなる多糖である。セリン及びトレオニン残基へのO-グリコシル化においては、哺乳類細胞では、すべての反応がゴルジ体で起こるのに対して、酵母では、ERにおけるマンノース1残基のアミノ酸残基上への転移反応によって開始されるところに違いがある。酵母では、その後、O-結合したマンノース残基に1~4分子のマンノースがゴルジ体において付加、伸長する。N-およびO-結合型糖鎖プロセッシングの後半の段階では、酵母と哺乳類細胞において大きな違いがあるが、糖タンパク質代謝における特異性や複雑さを理解する上で、酵母における遣伝子研究や生化学研究は、有用な範例として扱うことができる。
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