リポオリゴ糖 (lipooligosaccharide、LOS) は腸管以外の粘膜表面に定着するグラム陰性細菌によって産生される (1)。これらの表面に露出した外膜付随構造物は、腸内グラム陰性細菌のリポ多糖 (LPS) よりもヒトの細胞膜のスフィンゴ糖脂質 (GSL) に似ている (1-3)。
1つの高度に保存されたLOSとして、パラグロボシド類GSL (7-9) に共通に見られるラクト-N-ネオテトラオース (LacNAcβ1→3Lac) 構造が存在する (2、4-6)。他のLOS糖鎖構造は、ガングリオ系列 (GalNAcβ1→3Gal-R)、グロボ系列 (Galα1→4Lac-R、またはP-シリーズ)、そしてラクト系列 (Lac-R) のGSLと共通である (3、10)。これらの微生物はヒトの細胞と同じ表層糖質構造を持っているため、免疫認識機構から逃れることができる (11-13)。
LOSの生合成には柔軟性がある。ラクト-N-ネオテトラオースは、二糖類であるラクトサミン (LacNAc; Galβ1→4GlcNAc) とラクトース (Lac; Galβ1→4Glc) がβ1→3結合したものである。内部のラクトース部分のガラクトース (Gal) は“トグルスイッチ (訳者注: 一度押すと1つの機能がオンになり、もう一度押すと別の機能がオンになり前の機能はオフになる。押す度にこれを繰り返すようなスイッチ)”、あるいは生合成上の分岐点として働いており、それに連結している糖質によって、完成したLOSの構造が決まる。二番目のガラクトース残基がこれにα1→4 (P
kグロボシド) 結合で連結すると糖鎖の伸長は止まり、そしてLOSの末端はジガラクトシドで停止する。一方、もしグルコサミン (GlcNAc) がβ1→3結合でラクトシルガラクトースに結合したならば、次のガラクトース残基はGlcNAcにβ1→4結合で連結し、ラクト-N-ネオテトラオースのLacNAc二糖部分となる。
LacNAcの末端のガラクトースは2つ目の生合成分岐点である。置換されなければパラグロボシルであり (2)、シアル酸で修飾された場合にはシアロパラグロボシルとなり (14、15)、また、ガラクトサミン (GalNAc) によってβ位に置換された場合アシアローG
3ガングリオシル (6、16) となる。LOSにシアル酸が付加されると、微生物は補体による溶菌 (免疫溶菌) から免れ (14、17)、多形核白血球による殺菌を遅らせ (18、19)、そして菌の子宮頚部内膜の上皮細胞への侵襲能を高める (20)。LOS末端にGalNAcが付加すると、ヒト血清中に普遍的に存在する殺菌性IgMが結合するようになる (21、22)。これらの抗体は血液中に侵入した微生物の免疫溶菌を開始し (11)、それによって粘膜への定着集落形成を制限する。
ムコイド型細菌は、いくつかの異なった糖脂質を発現するようにLOSの生合成を変化させることができる。それによって異なったヒトGSLを模倣する(3)。LOSの相変異は非常に速い (10
-3) (23、24)。このことは、例えば異なった血液型の性病患者粘膜、あるいは気道粘膜及び髄膜炎にかかっている患者のクモ膜下領域のような、異なった分子環境下で細菌が生存しうる様になることを示唆している。LOSの相は病気の進行中に変化する。淋菌変異株がパラグロボシル、ガングリオシルそしてより高分子量のLOSsを産生する様になることは、ヒトにおける淋菌感染中の尿道の白帯下の前兆 (あるいは感染?) を予告している(24)。淋菌はまた子宮頚部上皮細胞に侵入するため、にシアル酸の付加されたパラグロボシルLOSを産生する (20)。
LOS生合成に関与する多くの遺伝子の同定は現在進行中である。LOSの生物学遺伝子がのレベルに至ったことにより、潜在的に病原性を有する細菌がLOSを用いてヒトに病気を起こし、様々な粘膜表層で生き残ることを正確に理解するのに道が開かれることであろう。
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