ヘパリンとヘパラン硫酸 (HS) は高度に硫酸化された直鎖の多糖であるグリコサミノグリカン (GAG) の一種である。ヘパリンは主に結合組織型の肥満細胞で産生されるが、HSはほとんどの細胞によって合成される。最近、ヘパリン/HSはその多様な生物的機能や病気との関連でその関心が高まっており、実際に血液凝固、細胞接着、増殖因子によるシグナリング、ウイルス感染などの様々な生物学的過程の調節に関与すると考えられている (1)。ヘパリン/HSの生物学的機能は、プロテアーゼ、プロテアーゼインヒビター、増殖因子、細胞外マトリックスの構成成分、ウイルスタンパク質などの様々なタンパク質との相互作用に大きく依存している (2)。一般的に十糖以下であるが、特定の構造を持つ活性ドメインが、対応する個々のタンパク質との特異的な結合に必要である場合がいくつか知られている。さらに、ヘパリン/HS鎖は同一あるいは異なる二つ以上のタンパク質と複合体を形成すると考えられる。生物学的応答を引き起こすためには、これらの多糖鎖中の活性ドメインは正しく配置されていなければならない。
ヘパリン/HSの極めて多様な構造が複雑な生合成経路を経て作りだされる (3)。まず、D-グルクロン酸とD-グルコサミンとのくり返し二糖単位からなる前駆体多糖 ([GlcA-GlcNAc]
n) が形成されて、ヘパリン/HSの生合成が開始される。この多糖鎖は伸長していく間に、GlcNAcのN-脱アセチル化/
N-硫酸化、GlcAからイズロン酸 (IdoA) へのC5位のエピメリ化、イズロン酸のC2位とGlcNのC6位の
O-硫酸化を含む一連の反応によって修飾される。また、GlcAのC2位やGlcNのC3位もまれに硫酸化される場合があり、生物学的に重要であることが分かってきた。HS生合成に関与するほとんどの酵素はクローニングされ、分子生物学的な性質が詳細に明らかにされている。興味深いことに、これらの酵素のうちのいくつかは基質特異性の異なる数種のアイソフォームとして存在している (2、4、5)。
本学位論文では、ヘパリン/HSの生合成経路、構造と生物活性の相関関係に関して、次のような二つの具体的な問題をとり上げた。一つ目は、ヘパリン/HSの生合成過程においてGlcAやIdoAの2-
O-硫酸化が、どのように行われるのかということ、二つ目は、異なる糖鎖ドメインが生物活性を発揮するにはどのように配置されていなければならないかということである。
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