日本小児血液学会雑誌
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12 巻, 2 号
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  • 水谷 修紀
    1998 年12 巻2 号 p. 73-81
    発行日: 1998/04/30
    公開日: 2011/03/09
    ジャーナル フリー
    がんの細胞生物学的特性や遺伝子の安定性, DNA修復機構, 細胞周期制御機構などに関する分子生物学の進歩によってヒトがんの発生における遺伝学的要因の関与が明らかになりつつある.こどもの遺伝性腫瘍はまれではあるが小児がんの発生における遺伝的要因の占める役割は大きく, あらためて見直しが求められている.遺伝性腫瘍のgenetic/hereditary basisに対する理解は必ずや散発例の小児がんの発生要因を理解するうえでも役立つはずである.このような立場から小児期に特有の遺伝性腫瘍研究の進歩を紹介した.
  • 沢井 清, 澤 文博
    1998 年12 巻2 号 p. 82-86
    発行日: 1998/04/30
    公開日: 2011/03/09
    ジャーナル フリー
    L-Asparaginase (L-ASP) を含む化学療法中に, 一過性の肝腫大, 脂肪肝, Friedrickson V型高脂血症を呈した急性リンパ性白血病 (ALL) の8歳女児例を経験した.その後3例のALLを対象としてL-ASPを含む化学療法で前方視的に脂質関連因子を追跡した.3例ともlipoprotein lipase (LPL), hepatic triglyceridelipase (HTGL) 活性とアポ蛋白C-II (apo C-II) の低下が見られた.治療中食事摂取が十分であった1例にLPL, HTGL活性の低下に引き続きカイロミクロン, 超低密度リポ蛋白の増加が見られた. LPL活性の低下はL-ASPの蛋白合成阻害作用によるLPL蛋白減少とapo C-II蛋白減少によるものであった.また一過性の脂肪肝を呈した8歳女児例のように, 冶療終了後にアポ蛋白が増加した状況で急峻なピークを呈する別の高脂血症パターンも確認された.以上より, 冶療中の高脂血症はL-ASPが脂質代謝に必要なLPL, apo C-IIの合成を阻害し外因性脂肪が代謝できず肝臓や血液中に蓄積したためと考えられた.一方, 治療後の高脂血症はL-ASPの終了により脂質代謝が回復し, 肝臓に蓄積した内因性脂肪が血中に放出されたためと思われた.
  • 篠崎 康治, 安井 耕三, 小宮山 淳
    1998 年12 巻2 号 p. 87-92
    発行日: 1998/04/30
    公開日: 2011/03/09
    ジャーナル フリー
    GM-CSFと短時間, 37℃の条件下で好中球を培養するとFMLP刺激による走化性が亢進した.いっぽう長時間の培養では, 走化能はかえって抑制された.このとき好中球の運動に重要である接着分子 (C3biレセプター : CR3) の発現は, 培養時間とともに増強されていた.好中球の遊走能と接着分子発現を比較すると, GM-CSFによる一定の接着分子発現の増加が走化性亢進に必要であり, 過剰な発現はむしろ走化性を抑制すると推察された.この傾向は, 接着分子発現作用を有することが知られるPMAを用いても同様であった.GM-CSFの接着分子発現増強はPMAと違ってチロシンキナーゼ阻害剤により抑制され, 作用機序にはチロシンキナーゼの関与が示唆された.
  • 日本小児血液学会骨髄移植委員会
    1998 年12 巻2 号 p. 93-105
    発行日: 1998/04/30
    公開日: 2011/03/09
    ジャーナル フリー
    日本小児血液学会骨髄移植委員会は, 1983年より毎年, わが国の小児における骨髄移植の全国集計を行っている.1997年6月30日現在, 136施設において3,793例の造血幹細胞移植が行われており, 昨年度より572例増加した.今年度は, 1987年7月1日から1997年6月30日までの10年間の成績を主な疾患で検討した.重症型再生不良性貧血の無病生存率はHLA適合同胞86.4±5.8%, 非血縁65.0±17.7%であった.第1寛解での急性骨髄性白血病の移植別無病生存率はHLA適合同胞65.8±9.3%, 自家骨髄移植71.3±11.3%, 自家末梢血幹細胞移植47.9±12.8%で, HLA適合同胞と, 自家末梢血幹細胞移植の間に有意差を認めた (p<0.01).第1寛解での急性リンパ性白血病の移植別無病生存率はHLA適合同胞64.9±9.9%, 自家骨髄移植57.0±18.5%, 自家末梢血幹細胞移植58.3±11.7%で, 3者間に有意差を認めなかった.慢性骨髄性白血病の第1慢性期でHLA適合同胞から全身照射を含む前処置での無病生存率は86.9±17.1%と良好であった.骨髄バンクドナーからの移植の全体無病生存率は50.7±6.8%であった.臍帯血移植は18例に実施され15例生存, 同種末梢血幹細胞移植は54例で, そのうち35例にCD34陽性細胞が移植された.
  • 坂田 葉子, 東 寛, 鈴木 豊, 岡 敏明
    1998 年12 巻2 号 p. 106-109
    発行日: 1998/04/30
    公開日: 2011/03/09
    ジャーナル フリー
    症例は8カ月男児.顔色不良と腹部膨満を主訴に入院した.入院時の検査所見は白血球数23,890/μl (90%が芽球;L2), 赤血球数125万/μl, Hb 3.29/dl, 血小板数l.3万/μl.骨髄血の表面マーカーはCD10 (+), CD19 (+), HLA-DR (+), 染色体はt (4;11) (q21;q23), MLL遺伝子再構成 (+) であった.以上の結果から, 乳児リンパ球性白血病と診断し, CCLSG infant ALL protocolにそってVCR, ADR, PRD, L-Aspにて治療を開始した.治療開始5週後完全寛解に達し, 以後7年間寛解を継続している.治療開始27カ月後に頭蓋照射を施行したが, その3カ月後に甲状腺機能低下を発症.血清T3, T4, TSHの推移から, 甲状腺機能は初回寛解導入療法施行後に低下, 維持療法中に回復したものの, 頭蓋照射後再び低下したことが判明した.1例だけではあるが, 本症例の白血病細胞がMLL遺伝子再構成 (+) でありながらCD10 (+) であったことが, 本症例が良好な経過を得ている要因と考えられた.
  • 松原 央, 吉河 道人, 伊藤 仁也, 後藤 晶子, 東 寛, 奥野 晃正
    1998 年12 巻2 号 p. 110-114
    発行日: 1998/04/30
    公開日: 2011/03/09
    ジャーナル フリー
    症例は急性リンパ性白血病の8歳男児.完全寛解導入後, 維持療法中に中枢神経再発をきたした.末.梢血幹細胞採取目的の化学療法後に顆粒球減少を呈し, 胸痛と呼吸困難を訴え, 発熱と血痰の喀出を認めた.CRPと血清中β-D-glucanが高値で, 胸部断層撮影にて右上葉に菌球陰影を認めた.肺アスペルギローマと診断し, itraconazole (ITCZ) 6 mg/kg/dayの内服とamphotericin Bの持続静注を施行した.治療開始3カ月後, 菌球は画像上ほぼ消失した.5カ月後には自家造血幹細胞移植を施行できた.治療期間中のITCZの血中濃度は250-1,100 ng/mlでAspergillusのMICを上回っていた.ITCZの1日1回投与は肺アスペルギローマの治療に有効かつ安全な投与量と思われた.小児においてもアスペルギルス症が疑われる場合ITCZを投与することが望ましい.
  • 井口 晶裕, 渡辺 直樹, 吉田 真, 有岡 秀樹, 小林 良二, 石川 順一
    1998 年12 巻2 号 p. 115-119
    発行日: 1998/04/30
    公開日: 2011/03/09
    ジャーナル フリー
    同種骨髄移植後にtacrolimus (FK506) による脳症を発症した若年性慢性骨髄性白血病 (JCML) の4歳の男児例を報告する.TBI+VP-16+CYの前処置でドナーバンクの非血縁者から同種骨髄移植を施行した.移植細胞数は4.3×108/kgでGVHD予防はCsA+short term MTXで行った.Day 40頃からGrade IIIの急性GVHDを発症し, 同時に原因不明の意識障害を認めたが, 意識障害は対症療法で改善した.しかし急性GVHDはprednisolone投与開始後も改善を認めなかったため, day 53からCsAをFK 506に変更し, methylprednisoloneのパルス療法を併用した.FK506開始後徐々に意識状態が悪化し, 頭部MRIのT2強調画像で白質・灰白質に高信号域が散在性に認められるようになった.Day 93に急激な利尿の低下とともに痙攣発作を起こし, 意識状態は急激に悪化した.FK506による腎, 中枢神経障害を考え, FK 506を中止しCsAに戻したところ, MRI上の病変は消失し, 意識状態も移植前の状態に復した.FK 506の中止にともない, 明らかに臨床症状, 画像所見が改善したことから, 原因はFK506によると思われた.FK506の使用にあたっては, 腎障害のみならず中枢神経障害についても注意が必要である.
  • 東 寛, 後藤 晶子, 吉河 道人, 吉田 弘, 伊藤 仁也, 奥野 晃正
    1998 年12 巻2 号 p. 120-125
    発行日: 1998/04/30
    公開日: 2011/03/09
    ジャーナル フリー
    未分化神経外胚葉性腫瘍 (16歳女児) の治療をNew Al protocol (New Al) で行い自家末梢血純化CD34陽性細胞移植を施行し, その後の血液学的回復過程をPBSCT群5例と比較検討した.輸注CD34陽性細胞数は1.4×106/kg.G-CSFは移植後day 1から投与.好中球, 網状赤血球の回復はPBSCT群と差がなかった.血小板が2万/μl, リンパ球数が500/μ1を維持し得たのはday 112,215 (PBSCT群の平均はそれぞれday11.0, 24.8) と遷延.PBSCT群で血小板の回復が最も遷延したのはNew Alで治療された神経芽腫の1例であった.CD4陽性細胞が200/μlに達したのはday 328.免疫グロブリンはday 200以後上昇.Day 265日に帯状庖疹を発症.その後抗VZVIgG抗体が有意に上昇.以上から免疫機能はday 300までに回復したと推定される.血小板回復遅延の主因はNew Al, リンパ球数回復遅延の主因はCD34陽性細胞純化処理によると思われた.
  • 市川 正孝, 花田 良二, 菊地 陽, 岡田 周一, 山本 圭子
    1998 年12 巻2 号 p. 126-129
    発行日: 1998/04/30
    公開日: 2011/03/09
    ジャーナル フリー
    二次性白血病の2例を報告した.症例1は原疾患発症時11歳の女児で, 原疾患は非ホジキン悪性リンパ腫 (NHL) であった.6年7カ月後に二次性白血病 (M5a) を発症した.症例2は同じく5歳男児のNHLであった.7年4カ月後に二次性白血病 (ALL) を発症した.2例には, LSA2-L2プロトコールが施行され治療終了していたこと, MDSの時期を経て白血化したこと, -7の染色体異常がみられたこと, などの共通点がみられた.以上のことから2例はalkylating agent関連の二次性白血病であると思われた.わが国ではVP16関連の二次性白血病が盛んに注目されているが, 今後alkylating agent関連の二次性白血病にも監視の目を向ける必要があると思われた.
  • 林 英蔚, 秋山 祐一, 久保田 優
    1998 年12 巻2 号 p. 130-133
    発行日: 1998/04/30
    公開日: 2011/08/17
    ジャーナル フリー
    下顎部に腫瘤を形成し発見されたt (16;21) -急性骨髄性白血病 (AML) の1例を報告した.t (16 ; 21) (p11 ; q22) は稀な染色体異常でFAB type, 白血球数, 年齢, 性別などに一定の傾向はなく腫瘤形成の報告はなかった.本症例はANLL-91プロトコールにより寛解に導入し得たが, 治療開始後11カ月で強化療法中に再発をきたし, 以後各種抗癌剤がまったく無効で診断後2年で死亡した.t (16 ; 21) -AMLは, これまでの報告でも予後不良であり, 骨髄移植を含めて新たな治療戦略の開発が必要と思われた.
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