農業農村工学会論文集
Online ISSN : 1884-7242
Print ISSN : 1882-2789
ISSN-L : 1882-2789
78 巻, 6 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
研究論文
  • 趙 宇清, 甲本 達也, 近藤 文義
    2010 年 78 巻 6 号 p. 437-443
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/12/25
    ジャーナル フリー
    ジオポリマーは,近年ポルトランドセメントの代替物としての利用が注目されている.このジオポリマーの力学性や流動性は,フライアッシュの化学組成の影響を顕著に受ける.本論では,CaOを添加したフライアッシュによるジオポリマーの圧縮強さの変化について検討した.CaO含有量に拘わらず材齢の経過と共にジオポリマーの強度は増加し,土質材料のような塑性的性質からコンクリートのような脆性材料的性質へと変化した.この場合,CaO含有量が8~10%の場合に圧縮強さと変形係数は最大値を示した.この結果は,ジオポリマーの脱水過程と添加したCaOの吸水過程とが釣り合った状態で最大の強度特性が発揮されることによるものと推定された.
  • ― 沖縄,島尻層群泥岩地すべりを事例として ―
    木村 匠, 宜保 清一, 中村 真也
    2010 年 78 巻 6 号 p. 445-453
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/12/25
    ジャーナル フリー
    沖縄,島尻層群泥岩地すべりのすべり形態の異なる4事例について,地すべり土の強度図を活用してすべり面平均強度定数(c´,φ´)を求め,測定せん断強度適用のc´,φ´と比較検討した.両者のc´,φ´は,すべり面に破砕ピーク強度が関与する地すべりでも差は小さく,残留強度および完全軟化強度が関与する地すべりでは一致した.適切なc´,φ´の決定のためには,すべり面土のせん断強度測定が原則であるが,何らかの制約によってそれが困難な場合には,地すべり土の強度図を活用してc´,φ´を推算することができると考える.
  • 岡島 賢治, 今井 淳一, 田中 忠次, 飯田 俊彰
    2010 年 78 巻 6 号 p. 455-464
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/12/25
    ジャーナル フリー
    大地震などにおいて地盤中の拘束力が低下した杭基礎の被災事例は数多く報告されている.その被災要因には杭頭に作用する水平荷重や地盤の側方流動と共に,鉛直荷重による杭の座屈が考えられる.地盤中における杭の座屈メカニズムは,鉛直荷重を受けて変位する杭とそれに伴って変化する土圧との相互作用によるものである.本研究では,地盤中における単杭の静的座屈試験を行い,Implicit-Explicit混合型動的緩和法をリターンマッピング法と組み合わせて適用した弾塑性有限要素解析を適用することで,この解析手法が地盤中における杭の座屈メカニズムの解明に有効な解析手法であることを検証した.また,土層の厚さを変化させた実験と解析により,層厚の違いが杭の座屈に与える影響を,座屈メカニズムを踏まえて明らかにした.
  • 中島 正裕, 中村 理人, 弘重 穣
    2010 年 78 巻 6 号 p. 465-477
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/12/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,外部主体(学生団体)主導による地域環境管理(耕作放棄地解消)システムを事例として,地域住民との連携・協力体制の構造とその形成過程を人的ネットワークの観点から分析した.「仕掛け」「協力・参加」「自発的な交流・要望」の概念を用いて,学生団体による耕作放棄地解消のための89活動を時系列的に整理した.これを基に分析し,以下の結果を得た.1)地域住民(27名)との連携・協力体制の構造とその形成過程を個人レベルから解明できた.2)一連の活動における主要人物(地域住民)として10人が抽出でき各人の特性が解明できた.3)地域住民との連携・協力体制の形成において,既存NPO組織の仲介役,及び地域住民の親睦的社会関係などの重要性が明らかとなった.4)大学生の「若さ」「未熟さ」「非定常型組織」という特性が,結果的には地域住民との連携・協力体制の持続・拡張に寄与していた.
  • 大久保 天, 秀島 好昭, 主藤 祐功, 近江谷 和彦
    2010 年 78 巻 6 号 p. 479-491
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/12/25
    ジャーナル フリー
    乳牛ふん尿を主原料とするバイオガスプラントから発生するバイオガスを精製し,そのバイオガス精製メタン(バイオメタン)を地域において一般需要家のエネルギー資源として利用するシステムについて検討を行った.バイオガスプラントの実証運転とバイオメタン製造実験より得られたデータを基礎に,乳牛1,000頭のふん尿処理規模のバイオメタン製造プラントを想定し,線形計画法を用いて,環境性(温室効果ガス排出削減量)の最大と経済性(プラント経営収支)の最大を各目的関数とするプラント運転の最適化を行った.その結果,最適化の目的によりプラント運転方法は異なり,環境性と経済性は互いにトレードオフの関係となったが,経済性を最大とした場合においても環境性を最大とした場合と同程度の温室効果ガス排出削減効果が示された.しかし,いずれの場合もプラント経営収支はマイナスとなり,現状においてプラントの経済的成立は困難と示唆された.プラント経営収支をプラスとするためには,プラント建設費の低減や利子費の減免措置等が必要となる.また,こうしたバイオメタンの地域における利用方法の将来像として,バイオメタンを原燃料とする分散型電源を用いたマイクログリッドシステムを提案した.
  • 堀 俊和, 毛利 栄征, 松島 健一, 有吉 充
    2010 年 78 巻 6 号 p. 493-503
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/12/25
    ジャーナル フリー
    近年,集中豪雨の多発により,老朽化ため池の被災が多数報告されており,ため池の減災対策が急務となっている.一方,国や地方公共団体の財政状況が逼迫していることから,ため池の豪雨対策の低コスト化が必要となっている.本研究は,できるだけ少ない対策コストでため池下流域の安全性を最大限に向上させることを目的として,豪雨リスクを考慮したため池のライフサイクルコストの評価を試みた.流出解析と飽和不飽和浸透流解析,すべり安定解析法を組み合わせた安全性評価手法により,ため池の部分的損傷確率および決壊確率を算出し,堤体復旧費と下流域の二次被害額からライフサイクルコストを算出した.ため池に種々の減災対策を施した場合について,最小のライフサイクルコストを求めることにより最適な減災対策法を選定する手法を示した.また,破壊パターンを考慮して対策法を選定することによって,ソフト対策等の低コストな対策でもライフサイクルコストを大きく低減できることが分かった.
研究報文
  • —生態系配慮工法を導入した大江排水路の事例—
    平松 研, 西村 眞一, 清水 英良, 中根 正喜, 一恩 英二
    2010 年 78 巻 6 号 p. 505-514
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/12/25
    ジャーナル フリー
    魚溜工や魚巣ブロックといった生態系配慮工法の導入と水路床のコンクリート化が2001年度より進められた大江幹線農業排水路内において,これらの改修が魚類相に与える影響について検討し,導入された生態系配慮工法の効果を評価した.調査は,魚類相,水理,水質について,2003年から2007年にかけて継続的に実施した.その結果,産卵形態が魚溜工やコンクリート水路に適していると考えられるモツゴ,ヨシノボリ類,スゴモロコ類,カダヤシ等の相対的増加,不向きであると考えられるメダカ,カムルチー等の減少,水路全体の魚類個体数の若干の減少傾向と種数の増加傾向が示され,多様性を示す指数には大きな変化がないこと,改修後概ね3年から4年程度で魚類相変化が小さくなること,生態系配慮工法が魚類の生息場所あるいは非灌漑期の避難場所として一定量の効果があることが明らかとなった.
  • 藤井 秀人, DAWUNI Busia, TAHIRU Fulera, YANGYUORU Macarius
    2010 年 78 巻 6 号 p. 515-522
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/12/25
    ジャーナル フリー
    栽培方式の違いによる稲作の水生産性の比較を行うため,西アフリカガーナの沿岸サバンナ帯,ギニアサバンナ帯,半落葉樹林帯からアシャマン地区,ニャンパラ地区,ポン地区を選定し,各地区について3種類の栽培方式(陸稲,天水低地,灌漑)の栽培試験を2008年雨季作に実施した.その結果以下の知見が得られた.1) 稲作の栽培方式ごとの水生産性は,陸稲0.02~0.40kg/m3,天水低地0.28~0.53 kg/m3,灌漑0.24~0.66 kg/m3となった.陸稲については降雨量の違いにより水生産性に大きな差が認められた.天水低地の水生産性は灌漑と比較しても遜色のない値を示した.2) 水生産性は投入水量の増加に伴い増加するが,投入水量が650mmを超えると水生産性は低下することが今回の試験で示された.
  • 森 丈久, 中矢 哲郎, 石神 暁郎, 加藤 智丈
    2010 年 78 巻 6 号 p. 523-530
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/12/25
    ジャーナル フリー
    農家や土地改良区職員の直営施工による小規模コンクリート水路の簡易補修の現状について調査した結果,目地の補修が最も多く,既存の目地補修工法には耐久性や施工の簡易性に課題があることを明らかにした.そこで,シーリング材と接着型テープを組合せた目地の簡易漏水補修工法を新たに開発した.開発した工法は,止水性,接着性,目地の伸縮挙動への追従性といった要求性能を満たしていることを示した.また,補修工事の経験のない農家でも短時間で施工できる簡易施工性や,施工後2年以上を経過しても変状を生じない耐久性を有することを示した.
  • 松井 宏之
    2010 年 78 巻 6 号 p. 531-536
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/12/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,館野で観測されている長波放射量から有効長波放射量を求め,Penman型蒸発散量推定式で用いられることが多い3つの有効長波放射量推定式の精度について比較した.その結果,以下のことが明らかとなった.(1)Penmanが提示した推定式は,誤差のばらつきが小さくないものの,比較した式の中でRMSEは最小となる.(2)FAOで推奨されている2式は年間を通して有効長波放射量を過小評価する傾向がある.(3)わが国での年可能蒸発散量の推定に,Penmanの推定式を用いると推定誤差は小さいものの, FAOが推奨している2式を用いると,100 mm前後過大評価する可能性がある.(4)今後,精度の高い長波放射の測定に基づき,わが国に適応した有効長波放射量推定式の係数について検討する必要がある.
研究ノート
feedback
Top