農業農村工学会論文集
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91 巻, 1 号
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研究論文
  • ― 複数地区及び同一圃場内における越冬環境の比較 ―
    茂木 万理菜, 守山 拓弥, 中島 直久
    2023 年91 巻1 号 p. I_1-I_10
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/05
    ジャーナル フリー

    平野部水田地帯での減少が著しいトウキョウダルマガエルについて,保全策の検討に向けて越冬場及びその環境の把握を圃場整備実施済み及び未実施の地区で実施した.本種はどの地区においても地中で越冬していた.越冬場の土地の状況は地区によって異なり,水田が優占的な地区では田面で,畑地が混在する地区では畑地で,湿田が存在する地区では湿田内を避け隣接した畦畔や法面で,越冬する傾向が見られた.本種の越冬場の土壌水分量(体積含水率)については,地区間で有意な差は見られなかった.また,同一圃場内における越冬場と非越冬場の土壌水分量は,越冬場で有意に少なかった.これらの結果から,越冬には土壌水分量の多い箇所は忌避され,適度に水分がある箇所が選好されることが示唆された.

  • 森 充広, 川邉 翔平, 金森 拓也, 浅野 勇
    2023 年91 巻1 号 p. I_11-I_19
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル フリー

    落差工や頭首工エプロンなど,激しい流水や砂礫の衝撃の作用を受ける材料の耐衝撃性を評価することを目的として,高さ1mから150mm角の立方供試体の一面に鋼球を自由落下させ,供試体を摩耗させる鋼球落下式衝撃摩耗試験装置を試作した.コンクリート供試体を対象として,鋼球の質量を1,041.7gと439.5gの2種類,設置角度を10°と20°の2種類とした比較試験を実施し,試験条件が結果に及ぼす影響を評価した.その結果,質量が大きいほど供試体の最大摩耗深さが大きくなること,圧縮強度が40N/mm2以上の供試体では,設置角度の影響はほぼ無視できることが明らかとなった.ただし,鋼球の質量や直径が異なる場合,結果を直接相互比較することはできず,補正が必要である.

  • 相原 星哉, 吉田 武郎, 皆川 裕樹, 髙田 亜沙里
    2023 年91 巻1 号 p. I_21-I_28
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    農業水利施設による流域治水への貢献可能性の評価に向けて, 分布型水循環モデルによる短期流出再現精度の向上を目的に, モデルの貯留層構造と地表流出発生機構を変更した.従来モデルと改良モデルを矢木沢ダム流域に適用した結果, 規模の異なる2洪水イベントにおけるNSEは0.889から0.956に, ピーク流入量の相対誤差は20.9%から8.7%まで改善し, 短期流出再現精度の向上が確認された.全国9基の農業用ダム流域に改良モデルを適用した結果, 流域面積5.1 km2の小流域である1流域を除いては, 中規模以上の洪水イベントに対するNSEは0.696以上となり, 大~中規模の洪水時における流出の立ち上がりからピーク流出にかけての短期流出を良好に再現できた.本モデルは, 洪水ピーク低減に対する農業水利施設の治水面での貢献や流域規模の洪水対応策の評価検討に活用できる.

  • 相原 星哉, 吉田 武郎, 上山 泰宏
    2023 年91 巻1 号 p. I_29-I_37
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    農業用ダムにおいて, 治水協定に基づく事前放流が実施された場合に期待される治水効果について, ダム放流量のピークカット効果とともに, それが下流域に波及することによる河川流量のピークカット効果に基づいて評価し, 両効果を類型化した.その結果, ダム放流量のピークカット効果は, ダム集水面積あたりの事前放流による確保容量(相当雨量)の増加とともにS字型の曲線状に増加する関係により類型化された.下流河川におけるピークカット効果は, ダムと流域内の各地点における集水面積の比(ダム集水面積比)とともにほぼ線形に減少する関係により類型化された.相当雨量およびダム集水面積比に基づく類型化手法を活用すれば, 各地の農業用ダム流域で期待される事前放流の治水効果を簡易に推定できる.

  • 久米 崇, 鈴木 芽偉, 嶋村 鉄也, 治多 伸介
    2023 年91 巻1 号 p. I_39-I_47
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/04
    ジャーナル フリー

    本研究では, もみ殻, 稲わら, バガスを用いて温度, 時間が異なる条件でバイオ炭を焼成し, その性質と塩類土壌(ECe = 0 dS/m, 4.0 dS/m, 8.0 dS/m)に施用した際の耐塩性作物であるセスバニア(Sesbania cannabina)の成長に与える影響を明らかにした.バイオ炭の焼成温度は250∼300℃が適しており, 焼成時間が長くなると収率(炭化前質量に対する炭化後質量の割合)が低下した.水溶性イオンの含有量は, 焼成温度が高いほど, また焼成時間が長くなるほど多くなった.栽培試験では, 土壌のECeが8.0 dS/mのとき, もみ殻炭と稲わら炭の施用がコントロールとバガス炭施用時に比べて有意に乾物重量を大きくした.もみ殻炭と稲わら炭では, 焼成方法の違いは乾物重量に有意差を与えなかったため, ペール缶の中に原料を詰め外側から熱する簡易法によるバイオ炭の施用が塩類土壌におけるセスバニア栽培に最も適していると考えられた.

  • 久米 崇, 稲田 唯花, 嶋村 鉄也, 治多 伸介
    2023 年91 巻1 号 p. I_49-I_56
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/04
    ジャーナル フリー

    本研究では, 塩類化した水田におけるワサビノキの転換作物利用を目指し, 水田土壌にNaClを添加した異なる4条件のECe(飽和抽出液の電気伝導度)(コントロール, 4, 8, 16 dS/m)の土壌で栽培試験を行いワサビノキの耐塩性を評価した.地上部の乾物重量は4条件間で有意差は認められなかった.最も樹高が高く乾物重量が多かったのは4 dS/mで栽培した場合であった.一方, 8 dS/mおよび16 dS/mの土壌で栽培した根の乾物重量および16 dS/m土壌での樹高は, 4 dS/mの場合と比べて有意に小さい値を示した.塩分濃度が増加すると乾物1g中に含まれるNaの含有量も増加した.以上よりワサビノキは, ECeが4 dS/m以下であれば問題なく成長するが, 8 dS/mの土壌では根において成長阻害が発生することがわかった.16 dS/mでは他の条件に比べ樹高, 総乾物重量, 根の乾物重量において明確な成長阻害がみられた.

  • 柴野 一真, Nadezhda MOROZOVA, 島本 由麻, 鈴木 哲也
    2023 年91 巻1 号 p. I_57-I_68
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    農業水利施設や農道は老朽化に伴う機能低下のために適切な維持管理が求められている.農業水利施設や農道の多くはコンクリート材料が用いられており,その損傷度の定量的な評価は既存施設の維持管理において重要な技術課題である.本論ではコンクリートの圧縮強度試験にAcoustic Emission(AE)計測を導入し,検出されたAEエネルギ特性を用いてAEダブルロジスティック解析を行い,定量的損傷度評価を試みた.累積AEエネルギ発生頻度割合をダブルロジスティック曲線で近似し,損傷度指標を抽出した.ランダムフォレストによる波形分類後,各波形のAEエネルギ放出特性の比較により,ダブルロジスティックパラメータとひび割れ挙動の関係を確認した.その結果,ダブルロジスティック曲線はひび割れ挙動と対応しており,損傷度指標は動弾性係数との間に相関が確認された.

  • 島本 由麻, 鈴木 哲也
    2023 年91 巻1 号 p. I_69-I_76
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    本研究では,竣工後50年が経過した道路橋RC床版を対象に,ディジタル画像の機械学習によって遊離石灰の検出を試みた.学習モデルの説明変数として輝度値,DoG(Difference of Gaussian)フィルタ後の画素値,ヒストグラム平坦化後の画素値の3つの特徴量を設定し,アルゴリズムには決定木とランダムフォレストを用いた.検討の結果,本提案手法は判別分析法の一つである大津の方法と比較して正解率が10%高かった(正解率:95%).特に遊離石灰の有無におけるデータ数を統一することで,より正確な検出が可能であった.SHAP値によって説明変数の重要度を評価した結果,ヒストグラム平坦化後の画素値の有用性が明らかになった.以上より,本提案手法は道路橋RC床版における遊離石灰の自動検出に寄与できるものと考えられる.

  • 長島 繁男, 石神 暁郎, 大久保 天
    2023 年91 巻1 号 p. I_77-I_88
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/12
    ジャーナル フリー

    積雪寒冷地におけるコンクリート開水路の劣化予測を行う上で,凍害発生の要因であるコンクリート開水路の内部温度を把握することは重要である.本研究では,凍害補修に用いられる表面被覆材の熱的性質を把握し,積雪寒冷地における表面被覆工法が施工されたコンクリート開水路側壁の内部温度を一次元非定常熱伝導解析により推定するとともに,北海道内の供用中の水路に設置した供試体から実測した温度と推定式から得られた結果との比較を行い推定式の適用性を検証した.その結果,12 月から3 月の冬期における表面被覆工法が施工されたコンクリート開水路側壁の内部温度は,コンクリート開水路側壁の表面を熱伝達境界とした一次元非定常熱伝導解析により推定できる可能性が示され,表面から深さ50 mmまでの範囲ではおおよそ±1.5℃以内の精度で推定できることがわかった.

  • 平石 カムイ, 武山 絵美, 小林 範之
    2023 年91 巻1 号 p. I_89-I_98
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/12
    ジャーナル フリー

    本研究では,大日川ダム(兵庫県南あわじ市)下流域のため池群を対象に,各ため池の取水源と配水先を指標に,ため池群水利ネットワーク内での機能に応じて各ため池を6類型に分類し,各類型の立地特性および管理上の課題を明らかにした.その結果,ダム受益地にもかかわらず,本地域では周辺の山・河川等から取水してほかのため池へ配水する「集水型」が最も多いことがわかった.また,「集水型」は傾斜地に立地する小規模なため池であり,ダムから比較的遠い場所に立地する傾向がみられた.一方,ほかのため池から取水する「中継型・利用型」は,平地および傾斜地との境界に立地する規模の大きなため池であった.さらに,ため池管理者を対象としたアンケート調査により,「集水型」と「中継型・利用型」では,豪雨対策としての落水の実施や,今後に求められる整備内容が異なることを示した.

  • 島 武男, 原 貴洋, 中野 恵子, 渕山 律子, 竹島 亮馬, 神山 拓也, 村上 隼, 小林 省吾, 藤原 洋介
    2023 年91 巻1 号 p. I_99-I_111
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/08
    ジャーナル フリー

    現在, 新規導入品目の一つとしてソバが着目されている.ソバは湿害の影響を受けやすく, 収量が極端に減少する事例があり, 湿害に関する情報が農業生産法人, 栽培農家, 市町村のソバ栽培担当者から求められている.そこで, 本研究では, 秋田県羽後町を事例として市町村全域のような広域を対象にソバ収量の空間分布の把握, ソバ収量と地形, 土壌, 排水改良事業の有無, 暗渠排水能力との関係性を解析した.その結果, 羽後町では谷地のような湿害リスクが高い地形にある圃場でもソバが栽培されており, そのような圃場では収量が低いこと, また, 低平地では暗渠が湿害リスクを低減させていることが分かった.このように羽後町においては, 地形と排水改良事業の有無, 暗渠排水能力で, 湿害リスクをおおよそ推定できることが分かった.

研究報文
  • 橋本 直之, 北沢 晴花, 近田 典章, 山﨑 真
    2023 年91 巻1 号 p. II_1-II_7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    竹林の管理や有効利用に向けた基礎資料とするため,航空写真を用いて竹林の分布域を地理空間データ化した.しかし,竹林は年とともに拡大していくことが予想され,継続的な拡大状況を把握する手法が求められる.本報では,Sentinel-2衛星画像を用い,竹林抽出に有効と報告されている短波長赤外波長帯のデータ(空間分解能:20 m)を用いて竹林を抽出する分類木(Overall accuracy:95%)を作成した.これを2018年度と2021年度に観測された衛星画像に適用して抽出結果を比較することで,作成済みの竹林分布域のデータにおいて拡大している可能性がある場所の抽出を試みた.現地調査をした場所のうち61%において実際に拡大を確認することができ,単バンドを用いた簡易な手法による拡大状況把握の可能性を示した.

  • 福本 昌人, 篠原 健吾
    2023 年91 巻1 号 p. II_9-II_18
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,衛星データと水田台帳データで2018年の取水開始時期と作付品種が圃場ごとに把握されている地区において,あきたこまち作とコシヒカリ作の水稲圃場について2018年の6月29日(出穂期の前),8月1日(出穂期の後)の正規化植生指数(NDVI)と田植時期との関係を調べた.NDVIはSentinel-2衛星データから求め,その値を圃場ごとに集約した区画平均NDVIを分析に供した.また,あきたこまち作の田植時期が①(4月6~8日)~⑤(4月26日~5月2日)の圃場について,6月29日の区画平均NDVIによる収量の相対評価,8月1日の区画平均NDVIによる米タンパク含有率の相対評価を試みた.この評価で収量は多く,かつ,米タンパク含有率は高いと判定された圃場を,追肥量の削減や追肥時期を検討すべき圃場と位置づけて営農者に情報提供すれば,次年度の栽培管理に役立つと考えられた.

  • —岡山県浅口市鴨方町六条院中地区を事例に—
    高橋 諄, 廣瀬 裕一, 中島 正裕
    2023 年91 巻1 号 p. II_19-II_29
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/08
    ジャーナル フリー

    本研究は, ため池災害に対する住民の避難意図を形成する要因を明らかにすることを目的に, まずため池独自の項目を含んだ, ため池災害の避難意図モデルを構築した.次に構築したモデルを援用したアンケート調査を, 岡山県浅口市六条院中地区を対象に実施した.重回帰分析を用いて, 避難意図に強く影響する要因を検討したところ, 主に避難を呼びかけられたら前向きな態度をとる人, 災害時に周りの人が自身の避難を望んでいると思う人ほど避難意図が肯定的であること, ため池が決壊したら自宅が被害を受けると思うこと, 避難は面倒と思わないことが影響することが明らかになった.よって, ため池に決壊の恐れが生じた際に避難を呼びかけあうことや避難を促す者を育成すること, およびハザードマップ等を用いて住民自身がおかれたリスクを十分に認識させることが住民の避難意図の醸成に有効であると考えられた.

  • —京都府A町におけるワークショップを事例として—
    岩﨑 吉隆, 鬼塚 健一郎, 星野 敏
    2023 年91 巻1 号 p. II_31-II_39
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/08
    ジャーナル フリー

    農村を取り巻く外部環境が不確実かつ複雑化する中, 複数の未来を想定し対策を検討するシナリオ活用の重要性が高まっている.しかし, 行政主導のシナリオプランニング・ワークショップ(以下, WS)では高いシナリオ精度を求められるため, 事前調査や専門家召集など複雑なプロセスが必要となり, 人的リソースが不足しがちな農村地域において実施は難しい.そこでシナリオプランニングWSが持つ参加者の学習効果に着目し, 専門家等の召集や事前調査を行わず少人数の住民参加でも開催できるシナリオプランニングWS手法を考案し, 京都府A町にて実施した.実施後のアンケート調査では, ①複数の未来描写による備えの構築ができる, ②参加者のメンタルモデルの更新がされる, ③多様なステークホルダー間の関係性が強化される点に一定の効果が得られることを確認できた.今後の課題として, 多様な参加者によるWSの実施, 住民だけで議論可能なテーマ範囲の検証, キーワード抽出を容易にするための関連情報の付与, 高齢参加者への時間的負担の軽減が求められる.

研究ノート
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