農業農村工学会論文集
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88 巻, 1 号
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研究論文
  • 塚本 康貴, 北川 巌, 竹内 晴信
    2020 年88 巻1 号 p. I_1-I_9
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/18
    ジャーナル フリー

    ダイズを栽培している粘質な道央転換畑を対象に土壌理化学性の調査を実施し, 土壌物理性の簡易な評価手法としてシリンダーインテークレート法を検討した.調査圃場の土壌化学性は土壌診断基準値を概ね満たしていたが, 土壌物理性の不良な土層が作土下の浅い位置から出現する傾向が認められた.シリンダーインテークレート法を実施した結果, 基準浸入能Ibが100 mm・h-1未満では個体あたり子実重に影響を及ぼし子実収量が300 g・m-2を下回った.Ibに影響を及ぼす土壌物理性の要因について数量化Ⅱ類による解析を行った結果, 土壌構造が未発達で亀裂や孔隙の少ない環境がIbを100 mm・h-1未満に低下させ, ダイズの生育収量を低下させることがわかった.以上のことから土壌物理性の改善指標値として, シリンダーインテークレート法のIb を用いることが有効で, その値は 100 mm・h-1以上とすることを提案した.

  • 中野 拓治, 中村 真也, 松村 綾子, 高畑 陽, 崎濱 秀明, 大城 秀樹, 幸地 優作, 平田 英次
    2020 年88 巻1 号 p. I_11-I_20
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    沖縄本島北部に分布する国頭マージ土壌を用いて油汚染土壌のバイオレメディエーションによる屋外実証試験を実施した.油汚染土壌に琉球石灰岩砕や栄養塩を加えることで, いずれも浄化促進効果が認められた.琉球石灰岩砕添加により油分(Total Petroleum Hydrocarbons(TPH))の浄化開始から分解活性が高まるまでの期間が短縮され, 強制通気が不要なランドファーミング工法により油汚染土壌の浄化を図れる可能性が示された.含水比低下やpH値の中性化により石油分解菌の浄化活性が高まったものと考えられる.実規模レベルでのパイロットスケール試験により, 油臭とTPH 濃度の関係を把握し, 浄化に必要な期間を評価するためのTPH除去速度係数が得られることが確認された.屋外実証試験結果は, 栄養塩添加や異なる浄化促進手法について, 実務に即した検討に有益な情報を与えるものと考えられる.

  • 平嶋 雄太, 宮本 英揮, 弓削 こずえ
    2020 年88 巻1 号 p. I_21-I_28
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    諫早湾干拓地から採取した粘質土の見かけの誘電率(ε)を, 種々の水分および塩分条件下における室内排水実験によって測定した.そして, 干拓地内の5深度に水平埋設した時間領域透過法(TDT)センサを用いて, 夏季のεおよびバルク電気伝導度(σb)の経日変化を測定し, それらに基づいて体積含水率(θ), マトリックポテンシャル(ψm), 土中水の電気伝導度(σw), 浸透ポテンシャル(ψo)の計4項目を推定した.室内排水実験によって得られた知見を効果的に活用することにより, 30 cm以浅のそれらの変化の態様を明らかにすることができた.実験上の制約による誘電率に関する情報不足が原因で, 30 cm以深のθ, ψm, σw, ψoを評価することはできなかったが, 野外における粘質土中のθ, ψm, σw, ψo等の同時推定手法として, 本法は有用であると考える.

  • 中嶋 佳貴, 沖 陽子, 足立 忠司, 永井 明博, 近森 秀高
    2020 年88 巻1 号 p. I_29-I_37
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    河川生態系における沈水雑草群落の発生動態を把握するために, 岡山県南部の二級河川の前川において, 2004年から沈水雑草群落の分布を11年間調査し, 自然攪乱に伴う環境要因の変動と沈水雑草群落の分布との関係について検討した.2004年はセキショウモ及びササバモが優占し, ナガエミクリも帯状に群落を形成していた.その後, セキショウモ群落は2006年には全域に拡大し, 底質の粒径組成が細粒化すると共に全体の種組成は単純化した.ナガエミクリ群落はセキショウモ群落との競合により2007年に消失した.ササバモ群落もセキショウモ群落との競合により2008年から徐々に衰退したが, 2011年及び2013年の100mm以上の一雨降雨による自然攪乱によってセキショウモ群落が流出し, 再びササバモの分布が促されて種組成が多様化した.

  • 硲 昌也, 竹田 誠, 毛利 栄征, 有吉 充, 田中 忠次
    2020 年88 巻1 号 p. I_39-I_45
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    老朽化の進んだパイプラインやトンネル等の基幹施設の力学的な機能回復を目的として, 既設管内に更生管を内挿後, 既設管との空隙部に中込材を打設することにより多層構造として更生する技術がある.このような更生を実施した大口径のパイプラインやトンネルにおいて突発的な座屈破壊が発生しており, そのメカニズムの解明と座屈強度の推定手法の検証が喫緊の課題となっている.本研究では, 中込材の充填率が座屈強度に及ぼす影響を解明するために, 室内模型座屈試験を実施した.実験モデルは実際に施工されるトンネルの1/10スケールとし, 呼び径150の円形供試管を用いて, 中込材の充填不良時における更生管の挙動解明を実施した.これらの検討結果から, 外水圧を受けるトンネルなどの地中構造物に内挿される更生管の限界座屈強度推定手法を提案した.

  • ― 振動台模型実験による液状化に対する鋼矢板の補強効果の検証 ―
    籾山 嵩, 妙中 真治, 原 忠, 棚谷 南海彦
    2020 年88 巻1 号 p. I_47-I_58
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    南海トラフ地震等の巨大地震への備えとして, ため池の防災技術を確立することは重要かつ喫緊の課題である.著者らは, 海岸堤防の耐震対策として施工実績を有する, 靱性に優れた鋼矢板によるため池堤体の補強工法について検討している.ため池堤体を対象とした模型実験として浸透実験・加振実験・越水実験を実施した結果, 従来工法であるおさえ盛土工法は法面の変形抑制を狙いとしていることから, 巨大地震時に生じる基礎地盤の液状化に対しては対策効果が限定的であることを確認した.一方, 堤体内に鋼矢板を設置した場合, 揺れによる堤体の損傷を最小限に留めつつ, 越流による被害を軽減する効果を発揮することが確認された.

  • 島本 由麻, 萩原 大生, 鈴木 哲也
    2020 年88 巻1 号 p. I_59-I_65
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    近年,コンクリート構造物では長期供用によって劣化や損傷が顕在化しており,劣化・損傷状況を簡易かつ正確に把握する必要がある.道路橋床版においては遊離石灰の把握が重要な課題の一つである.本研究では,竣工後50年が経過した道路橋RC床版を対象に,機械学習手法の一つである決定木を用いて遊離石灰の抽出を試みた.説明変数として輝度値およびDoG(Difference of Gaussian)フィルタ後の画素値という2つの特徴量を設定した.検討の結果,本提案手法は判別分析法の一つである大津の方法と比較して,正解率,感度,適合率,F値のすべての指標で精度が高く,正解率,感度,F値の3つの指標では0.8以上だった.このことから,本提案手法は遊離石灰の抽出において有用な手法であると考えられる.

  • 鈴木 哲也, 島本 由麻
    2020 年88 巻1 号 p. I_67-I_75
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    近年,コンクリート水利施設の長期耐久性へ及ぼす損傷蓄積の影響が重要な技術的課題となっている.本論では,欠陥を有する鉄筋コンクリート部材を模擬し,たわみ共振現象からコンクリート表層部の欠陥と周波数応答の関連について実験的に検討することを目的としている.実験的検討では,促進劣化処理を施した鉄筋コンクリートサンプルの損傷状況についてX線CT法による実態評価を試みた後に,共鳴振動法によるたわみ共振特性を評価した.検討の結果,促進劣化処理によりひび割れが発達した供試体において共振周波数の低下傾向が確認された.加えて,振動特性と欠陥との関連が明らかとなり,共鳴振動法により鉄筋コンクリート表層の損傷発達状況が同定できる可能性が明らかになった.

  • 皆川 明子, 中林 真由, 藪田 暢也, 饗庭 俊, 大久保 卓也
    2020 年88 巻1 号 p. I_77-I_84
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    圃場整備事業に伴い同じ排水路線上に近接して施工された2つの魚溜工を対象として,施工後3年間にわたり,毎年4月に堆積土砂を全て浚渫してから10月までの土砂の堆積状況を調査した.その結果,魚溜工容積に対する堆積土砂の占有率は,上流側で18~39%,下流側で11~17%であった.したがって,魚溜工を同じ水路の上下流に近接して施工することにより,上流側を土砂溜としても機能させ,下流側は水生生物の越冬場として水深を確保できる可能性が示唆された.また,供用開始後2か月の時点で魚溜工容積の23~29%が土砂で占められ,堆積土砂と法面,畦畔,圃場の土壌の粒径分布から,堆積土砂には法面や畦畔から供給された土砂が含まれると考えられた.よって,維持管理労力の軽減のためには整備直後の畦畔・法面の緑化を促し,降雨時の土壌侵食を抑制することが必要と考えられる.

  • 有田 博之
    2020 年88 巻1 号 p. I_85-I_91
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    上野英三郎の「耕地整理講義」は,農業土木学を確立した著書として高く評価される一方で,方法論は観念的との見方が広く受け入れられている.しかし,上野が農法の発達に則した耕地形態の実現を目指したという重要な事項は看過され,評価は一面的なものとなっている.本論では上野の視点と姿勢をもとに耕地整理講義の再評価を試み,上野の技術観について述べた.また,本書が耕地整理の技術原理に基づく計画指針として読まれるなら今後の農業土木学に新たな視野を提示してくれることを論じた.一方,上野は適切な耕地形態実現に必要な換地・農具改良等の技術開発について,狭い工学概念に縛られて対応せず,その後の農業土木学の保守性に影響を及ぼした可能性があることを指摘した.

  • 相原 星哉, 福田 信二
    2020 年88 巻1 号 p. I_93-I_103
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    農業水路に生息する魚類を対象に,modified TWINSPAN分析を用いた群集解析とランダムフォレストを用いた種別の生息場モデルの2手法を用いて生息環境評価を行い,両手法による評価の整合性や適用可能性を比較した.Modified TWINSPAN分析により分類された6つの魚類群集と,各魚類群集の指標種である10魚種に関するランダムフォレストを用いた種別の生息場解析の結果,各魚類群集や各魚種に特有の生息環境特性が明らかになった.同一群集に属する魚種では,両手法による生息環境評価は概ね一致した.一方,広範に分布し,多様な規模の水路を利用する種では,両手法による評価に差異が見られ,種別の生息環境評価の必要性が示唆された.今後は,農業水路の水利機能の維持と水生生物の生息環境の保全の両立に向けた環境評価の枠組みの確立に向けた知見の収集が必要である.

  • 柴田 俊文, 田本 敏之, 西村 伸一, 珠玖 隆行, 福元 豊
    2020 年88 巻1 号 p. I_105-I_116
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    老朽化した農業用水路トンネルの維持管理は社会的な懸案事項となっており,現時点でのトンネル変状の正確な把握が重要である.矢板工法で施工されたトンネルでは,施工中・施工後にトンネル覆工に背面空洞が発生することが多く,この空洞により劣化が進展する.そのため地山と背面空洞を有する覆工の挙動の正確な理解が必要である.本論文では,地山に背面空洞を有するトンネルを想定したモデルを用い模型実験により相互挙動を確認した.載荷実験では,背面空洞が90°の場合に,縦方向と横方向の内空変位量が大きくなることが明らかになった.また,変形挙動やひび割れ性状を検討するため,構成式にConcrete Particle Modelを用いた三次元の個別要素法により解析を行い,実験結果との比較を行った.比較検討により,本解析手法がトンネルの模型実験の変状を定性的に評価できることが明らかとなった.

  • 上村 将彰, 宮本 英揮, 登尾 浩助
    2020 年88 巻1 号 p. I_117-I_124
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/05
    ジャーナル フリー

    広く利用されている時間領域反射法(TDR)に対する時間領域透過法(TDT)の性能を比較検討するために, 測定条件を統一したTDRおよびTDT計測システムを構築し, 電気伝導度の異なるCaCl2溶液により飽和した砂の排水過程における体積含水率(θ), バルク電気伝導度(σb), 土中溶液の電気伝導度(σw)の同時計測実験を行った.測定された時間領域波形を解析した結果, 両法によるθ, σb, σwの測定精度は同程度であり, 時間領域における信号伝播時間測定に基づく両法の本質的な共通性が認められた.

  • 羽田野 袈裟義, 荒尾 慎司
    2020 年88 巻1 号 p. I_125-I_134
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    ゲートをすぎる流れの水理は流量評価に重点が置かれている.水理学の理論によると流量係数は縮流係数を用いて表現されるが, 既往研究では実験データを示すことによりこれらの係数の関係づけを量的に示すに至っていない.本研究では, この問題に着目し, 流量係数Cと縮流係数Ccの関係づけとこれらの量の評価を行っている.既往の実験データの解析により縮流係数Ccをレイノルズ数の関数として表現することを試みている.また, 縮流断面までのエネルギー損失に着目し, 流速係数Cvを0.95程度と見積もり流量係数の表現式を与えている.得られた流量係数の式は広範囲の水理条件の室内実験の結果と良好に一致した.

  • 大久保 天, 中村 和正, 今泉 祐治, 寺田 健司, 川口 清美
    2020 年88 巻1 号 p. I_135-I_144
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    地震動に伴い農業用管水路内には動水圧が発生する.しかし, その観測実績は少なく, 地震時動水圧の実態は明らかではない.筆者らは, 供用中の農業用管水路において, 地震動の加速度と水圧を常時観測して, これまでに震度2から震度4の17回に及ぶ地震時動水圧のデータを取得した.本研究では, そのデータ解析から主に次のような知見を得た.(1)地震動の速度の最大値と地震時動水圧の最大値は比例関係にあり, その相関係数は0.9を超える.(2)地震動に起因して管水路の複数箇所で発生した地震時動水圧の圧力波が互いに重なり合うことで, 地震時動水圧は増大する.(3)入力地震動として正弦波を仮定した動水圧の基礎方程式から解析的に導いた理論式を用いて, 実際の地震時動水圧の最大値を推定できる.

  • 萩原 大生, 島本 由麻, 鈴木 哲也, 大高 範寛, 藤本 雄充
    2020 年88 巻1 号 p. I_145-I_153
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    農業用排水路に用いられている鋼矢板の腐食実態を可視画像により評価する場合, 腐食画像におけるテクスチャの特徴は重要な情報となり得る.本稿では, 腐食状況の異なる鋼矢板の可視画像に対して同時生起行列を用いたテクスチャ解析を行い, 濃淡分布の定量評価を試みた.検討の結果, 解析画像の彩度の色領域において, 新設鋼矢板のテクスチャの均質性が腐食鋼矢板と比較して高いことが確認された.孔食を伴う極端な腐食状況の鋼矢板では, 解析画像において均質性が最も低いことが確認された.解析方向を考慮すると, 鋼矢板の長辺方向と短辺方向における均質性の相違から, 腐食の初期段階における線状の腐食の特徴を捉えられる結果となった.鋼矢板の表面画像におけるテクスチャの均質性と空間的異方性から, 非腐食, 腐食および孔食の定量評価の可能性が示唆された.

  • ― 気象データを用いた消費水量推定方法の精度向上に向けて ―
    弓削 こずえ, 阿南 光政, 平嶋 雄太
    2020 年88 巻1 号 p. I_155-I_164
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    本研究では, 施設畑における水分消費環境を評価して計画基準で推奨されている補正方法の妥当性を検証するとともに, 施設畑の土壌水分状態ならびに上向き補給水量を評価することを目的として, 現地調査およびHYDRUS 2D/3Dを用いた数値解析を行った.まず, イチゴが栽培された加温ビニルハウスにおいて, 気温, 湿度, 日射量および風速を測定するとともに, 近傍の気象台から収集したデータを補正して, Penman法によってポテンシャル蒸発散速度を算定した.気温の補正値と実測値には大きな差があったもののポテンシャル蒸発散速度の計算への影響は小さく, ポテンシャル蒸発散速度を精度よく算定するには, ハウス内の日射量を適切に実測あるいは推定することが重要であることが明らかになった.また, 土壌中の水分動態解析の結果より, 根群域より深部においては比較的土壌水分状態の高い層が存在していたが, 上向きの水分移動はほとんど生じないことが確認された.

  • 古郡 憲洋, 岸本 圭子, 本間 航介
    2020 年88 巻1 号 p. I_165-I_177
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/12
    ジャーナル フリー

    里山の景観構成要素の接合部では, 生物の移動等を介して双方の景観要素が持つ物質循環機能が維持されてきたとされる.本研究では, 里山の森林と水田畦畔の接続性に着目し, これが生物群集や物質循環機能に与える影響を評価した.調査は, 新潟県佐渡市の伝統的な畦畔管理がなされた地域と基盤整備が施された圃場で現代的な畦畔管理がなされた地域で行い, 森林と水田畦畔の接続性が異なる環境間で微少環境要因, 土壌動物群集, 有機物分解率を比較した.その結果, 林縁構造が存在する接合部ではリター量が増加し, 林縁付近の有機物分解率が増大した.また, 林縁部が分断された畦畔では, 捕食者の個体数密度の低下, デコンポーザーとシュレッダーの個体数密度の増加, 有機物分解率の増大がみられた.森林と農地が隣接する場合でも, その接続性の違いにより林縁部の物質循環機能が異なることが示唆された.

研究報文
  • —模擬バイオガスによる二酸化炭素溶解への対策検討—
    山岡 賢, 中村 真人, 折立 文子
    2020 年88 巻1 号 p. II_1-II_9
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/18
    ジャーナル フリー

    本報では, 先に試作したバイオガス体積の簡易測定器でバイオガスに含まれる二酸化炭素(CO2)の水への溶解の影響を評価した.簡易測定器は, 水上置換法を基にしているため, CO2の水への溶解は簡易測定器の水柱高の低下を招き, 体積測定を不安定なものとした.このため, 簡易測定器を改良し, メタンガスとCO2を混合して作成した模擬バイオガスをシリンジで定量注入して同体積を試作器で測定し, 測定精度を検証した.模擬バイオガスの体積測定値の平均値は真値から-2.8~4.7mLのズレが生じ, 標準偏差は0~3.0mLであった.水柱高の低下速度はCO2濃度と相関関係が認められ, メタン発酵実験でのバイオガス中のメタン濃度のモニタリングへの活用が期待される.また, 簡易測定器に水酸化ナトリウム水溶液を添加してCO2を吸収させることで, CO2濃度が測定できることを示した.

  • 髙田 亜沙里, 平松 和昭, Anh Ngoc TRIEU, 原田 昌佳, 田畑 俊範
    2020 年88 巻1 号 p. II_11-II_20
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    本研究は東南アジア流域を対象に, 計算時間やデータ寡少性の問題を同時に克服可能な降雨流出モデルの開発, および地域開発や気候変動に伴った降雨流出過程の将来変化を定量的に評価することを目的とした.流域を矩形メッシュの集合体で表現する分布型降雨流出モデルを構築し, メッシュ分解能をkm単位とすることで計算時間を短縮した.一方で, 流域内の土地利用状況を的確に表現するため, 各メッシュに森林, 水田, 畑地, 市街地における流出特性を表現可能なタンクモデルを配置し, 時間的に安定した基底流成分を表現する流域地下水タンクモデルを設定した.シナリオ分析により, 土地利用状況や降雨量の変化に伴う降雨流出過程の将来変化を, 流域全体の年間流出量やピーク流量のみならず, 各土地利用における流出量や流出パターンの変化という観点も含めて定量的に評価できた.

  • 福本 昌人
    2020 年88 巻1 号 p. II_21-II_28
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    営農形態の変化に対応して試験的に水利権上の代かき期の前倒しが行われることがある.本研究では, その前倒しに伴う代かきの早期化状況の調査においてSentinel-1衛星の合成開口レーダ(SAR)データが有効利用できるか否かを明らかにするため, 同データと圃場区画データを用いて水田の湛水有無を圃場毎に判別(後方散乱係数の圃場平均値がある閾値以下の圃場を「湛水あり」と判定)した場合の判別精度を検証した.その検証は, 同じ快晴日にSentinel-1衛星とSentinel-2衛星の両方で観測が行われていた調査エリアにおいて行い, Sentinel-2衛星のマルチスペクトルデータによる湛水有無の判別結果を検証用データとして用いた.判別精度は, VV偏波が79.1%, VH偏波が75.8%で, VV偏波のSAR画像の方が判別に適していた.上記のような調査においてSentinel-1衛星データは十分に有効利用できると判断された.

  • 長谷川 雄基, 佐藤 周之, 上野 和広, 長束 勇
    2020 年88 巻1 号 p. II_29-II_34
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,水砂噴流摩耗試験に対するサンドブラスト法の代替性の検討および材料の耐摩耗性の評価試験として実務上多用されるテーバー式摩耗試験とサンドブラスト法の比較検討を目的とし,細骨材粒径を変化させたモルタル供試体を対象とした比較検証実験を行った.結果として,サンドブラスト法では,試験時間の差異により試験後の供試体表面の状態は変化し,試験時間が短いと水砂噴流摩耗試験に近い選択的な摩耗現象を再現し,試験時間が長くなるとテーバー式摩耗試験に近い面的に進む摩耗現象を再現できる可能性が考えられた.加えて,粒径0.6mm以上の割合が大きい細骨材を使用した無機系補修材については,サンドブラスト法の試験時間を10秒とすることで,水砂噴流摩耗試験による現行の無機系補修材の品質評価と同等の評価ができる可能性が示された.

研究ノート
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