農業農村工学会論文集
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82 巻, 6 号
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研究論文
  • ― 茨城県五霞町パイプライン化事業の事例 ―
    谷口 智之, 宇田川 啓太
    2014 年 82 巻 6 号 p. 349-356
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    本稿では, 還元水の地区内反復利用の実態とその時間変化を明らかにするため, 茨城県五霞町のパイプライン灌漑地区を対象に, 幹線排水路内貯留水の水収支を分析し, 以下を明らかにした.1)地区内ポンプが停止する夜間の排水路内貯留水量の変動から, 水田還元水量は14.3mm/dと推定された.2)排水路内の貯留水利用量は平均3.6mm/d, 地区内全ポンプの総取水量は平均19.2mm/dであり, 総取水量の19%は還元水で賄われていた.3)本地区では夜間に蓄えられた排水路内貯留水を翌日の午前中に利用することで, 河川からのピーク揚水量を最大で1.0m3/s以上低減させていた.4)還元水量に対して貯水容量が小さい地区の残水率は大きな日内変動をもつ.5)ポンプ運転費用節減と水量確保の観点から, 本地区では事業完了後も下流部ポンプの水槽と排水路の常時接続が望ましい.
  • ― 富山県を事例に ―
    伊藤 孝史, 橋本 禅, 星野 敏, 九鬼 康彰, 清水 夏樹
    2014 年 82 巻 6 号 p. 357-365
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    固定価格買取制度の施行や土地改良法の改正により, 土地改良区が管理する農業用水を利用した小水力発電に注目が集まっている.本研究では, 富山県の土地改良区, 及びその支援組織である富山県庁組織や富山県土地改良事業団体連合会へ聞き取り調査を実施し, 小水力発電への取り組みの実態を明らかにした.さらに, 県下の土地改良区に対し導入意識調査を行い, 今後の小水力発電事業の課題を考察した.その結果, 聞き取り調査から, 土地改良区が小水力発電事業を行う際, 支援組織が土地改良区の能力の不足分を補完することで事業が実現に至ったことが分かった.導入意識調査から, 土地改良区の懸念として手続の煩雑さがあり, 他の機関に任せたい意向が強いこと, 他方で, 土地改良事業団体連合会は専門職員を抱えるため導入時の手続の多くを土地改良区の代わりに担いうることを示した.
  • Mohammad Raihanul ISLAM, Satoru ISHIGURO
    2014 年 82 巻 6 号 p. 367-372
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    This study was an attempt to investigate the effect of slag content on the compressive strength of river sand (RS) and oyster shell aggregate (OS) mortar in different aspects; fineness of slag, different percentage of slag content, cement types and use of chemical admixture (super plasticizer). Compressive strength of moist cured specimen was measured at 3, 7, 28, 91 days. Slag could be used up to 85% in partial replacement of cement and 75% slag content will give the highest strength for OS mortar. The compressive strength of RS-slag mortar could be lowered at initial stage but finally will increase about 17% than that of no slag mortar. OS mortar strength increased by adding chemical admixture with or without slag condition. Oyster shell aggregate could be used as fine aggregate and slag could be added with it to increase the compressive strength.
  • 西田 和弘, 宇尾 卓也, 吉田 修一郎, 塚口 直史
    2014 年 82 巻 6 号 p. 373-381
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    水稲の登熟期に常時掛流し灌漑試験を行い, 冷水掛流し灌漑による水田水温の低下が群落内気温・地温に与える影響を調べた.また, 夜間・昼間掛流し灌漑試験時に稲体温度を測定し, 水温低下が稲体温度に与える影響を調べた.その結果, 水温低下に伴う稲体温度・群落内気温低下は, 下部では大きいが, 上部では小さいことがわかった.昼夜を区別せずに求めた1℃の水温低下に対する稲体温度低下は, 高さ30cmで0.54℃, 50cmで0.34℃, 70cmで0.28℃, 90cmで0.11℃であった.また, 水温低下による群落内気温低下効果は, 風速が強いほど小さくなった.一方, 地温は, 水温低下によって稲体温度や群落内気温よりも大きく低下した.平均地温の低下は, 表層に近いほど大きく, 日平均水温1℃の低下に対し, 深さ1cmで0.86℃, 4cmで0.80℃, 9cmで0.73℃であった.
  • 上野 和広, 毛利 栄征, 田中 忠次, 龍岡 文夫
    2014 年 82 巻 6 号 p. 383-393
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    近代的な設計・施工が行われていないため池の堤体は, しばしば強震動を受けてすべりや亀裂が発生する.その主因は, 地震時に堤体内の飽和部分で間隙水圧が上昇して非排水せん断強度が大幅に低下することである.この現象を解明するため, 異なる乾燥密度の飽和供試体の非排水繰返し載荷を行うとともに, その直後に非排水単調載荷を行った.乾燥密度が低い場合, 負のダイレタンシーによって繰返し載荷を伴わない非排水せん断強度(初期値)が低下するとともに, 非排水繰返し載荷で生じるひずみが増大して初期値に対する非排水せん断強度の低下率が大きくなる.締固めは, 非排水せん断強度の増加と維持に対する効果が大きくため池の耐震性向上に極めて有効である.排水せん断強度に対する締固めの影響は小さく, 排水せん断強度に基づくと飽和盛土の地震時の安定性に対する締固めの影響を過小評価する.
  • 國枝 正, 安藤 泰久, 水間 啓慈, 森 充広, 川畑 雅彦
    2014 年 82 巻 6 号 p. 395-401
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    農業用ポンプ場は, 農地ばかりでなく地域の用排水を担う重要な施設である.その多くが更新の時期を迎えているものの, ポンプ設備の劣化の進行を評価するための情報が不足している現状にある.そこで本研究では, ポンプ設備の維持管理に関する実態や問題点を把握するためにアンケート調査を実施した.その結果, ポンプ設備の劣化の特徴の一つである軸受の不具合の原因の多くが, 稼働時間の増加とともに進行する摩耗によるものであることを確認した.さらに, 部品の劣化を定量的に診断すれば分解点検や補修の適切なタイミングの判断が可能となること, また, 劣化の進行を未然に防ぎ突発的な故障の防止を図るために状態監視保全の適用が重要であることを提案した.
  • 松原 英治, 泉 太郎, NGUYEN Huu Chiem, NGUYEN Hieu Trung
    2014 年 82 巻 6 号 p. 403-412
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    途上国では農村部が主要な温室効果ガス排出源であり, 生産性向上や生活改善を図りながら, 排出削減を達成することが課題である.途上国での排出削減量を炭素クレジット(CER)へ収益化する京都議定書の仕組みとして, クリーン開発メカニズム(CDM)がある.ベトナムのメコンデルタ農村部で, 961戸の農家へのバイオガス発生装置(BD)の導入により, 調理用燃料をバイオガスで代替し, 排出削減と経費節減を図るCDM事業を計画した.このCDM事業では, 1,403tCO2•year-1の排出削減が見込まれたが, 2008年のCER価格30US$•tCO2-1では資金不足となった.BD導入によるCDM事業の実現可能性は低いが, 事業形成の過程で明らかにされたBD導入方法や排出削減量の評価手法は, 今後ベトナムが策定する排出削減計画に活用できる.
  • 土原 健雄, 奥山 武彦, 吉本 周平, 白旗 克志, 石田 聡
    2014 年 82 巻 6 号 p. 413-422
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    山形県七五三掛地すべり地において, 地下水の流動状況を把握するため, 六フッ化硫黄(SF6), フロン類(CFCs), 水素・酸素安定同位体比(δD, δ18O), 放射性同位体トリチウム, 溶存イオン濃度を測定し, 地下水の年代推定を行った.浅部地下水の年代推定にはSF6, 深部の古い地下水にはトリチウムが有用であった.年代推定結果と他の水質要素の関係性のうち, 特に(Ca2++Mg2+)/HCO3-比は古い地下水ほど低下する傾向にあり, 年代推定結果の検証に適用可能である.また, 地形・地質情報に加え, 地下水のδ18O分布は, 多層的な地下水流動機構を確認し, 地すべり地へ異なる涵養域から年代の異なる地下水が流入することを示す上で有効である.本研究で適用した環境トレーサーを組み合わせて用いることで, 地すべり地において対策工からどのような地下水を排除しているか, 滞留時間, 涵養年代による地下水の分類が可能である.
  • 遠藤 明, 加藤 千尋, 佐々木 長市, 伊藤 大雄
    2014 年 82 巻 6 号 p. 423-431
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    本研究では, 2011~2013年の3年間におけるリンゴ園土壌中の無機態窒素の浸透流出挙動を理解するために数値計算を実施し, 施肥条件および無施肥条件のもとでの土壌中の無機態窒素濃度の時空間的動態を把握した.数値計算では, リンゴ園土壌の透水性・保水性・無機態窒素の吸着特性等の理化学的性質の他, 地力窒素発現挙動やマメ科植物による窒素固定も勘案し解析を行った.その結果, 無施肥条件においては, リンゴ園土壌間隙水中の年平均NO3-N濃度が10mg/Lを下回るが, 施肥条件(150kg/(ha・year))においては約20mg/Lになることが明らかになった.また, 地表面~深度100cmの年平均NO3-N濃度が10mg/L未満になる減肥量を算定した結果, 12~59kg/(ha・year)の減肥量が必要であることが明らかになった.
研究報文
  • 戴 燕燕, 近藤 美麻, 伊藤 健吾, 吉山 浩平, 張 鵬飛, 張 福平, 千家 正照
    2014 年 82 巻 6 号 p. 433-440
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    本研究では, トマト青枯病に対する太陽熱土壌消毒に必要な栽培管理用水量の基礎的な知見を得ることを目的とし, 岐阜県海津市内の6ハウスを対象にして灌水量や土壌温度, 土壌消毒前後の青枯病菌数等を調査した.その結果, ハウスの密閉状態, ハウス内外の気温差, 消毒期間の長さ, 期間中の気象条件が地温の上昇に影響することを明らかにした.一般に, 青枯病菌を死滅させるためには, 日平均地温が40℃以上で連続して10日間, あるいは還元処理を併用して3日以上維持することが必要とされている.調査の結果, この条件を満たしたときに消毒後の菌数は著しく減少し, 十分な消毒効果を確認した.また, 消毒効果が確認された2ハウスの調査結果から, 太陽熱土壌消毒に使用された栽培管理用水量は155.6~495.2mm(平均:291.3mm)であり, それは間隙飽和に必要な水量の104~346%(平均:218%)に相当することが明らかになった.
  • 皆川 明子, 西田 一也, 西川 弘美
    2014 年 82 巻 6 号 p. 441-447
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    農業水路における通水状況の違いが魚類相に及ぼす影響を明らかにするため, 農業水路の通年通水区間と季節通水区間とで魚類の生息密度および物理環境条件を比較した.その結果, タモロコとドジョウでは通年通水区間の生息密度が有意に高かった.特にドジョウは, 本種が選好するとされる泥底の割合が季節通水区間で高かったにもかかわらず生息密度が著しく低かった.一方で, 季節通水区間であっても隣接水域からの供給が豊富な魚種については通水状況により生息密度に有意な差は見られなかった.ドジョウのように移動性の低い魚類については, 農業水路が完全に季節通水化されると個体群が縮小・消失する可能性がある.
  • 近藤 文義, Roski Rolans Izack LEGRANS, 甲本 達也
    2014 年 82 巻 6 号 p. 449-455
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/12/25
    ジャーナル フリー
    化学組成の異なる2種類のフライアッシュを使用したジオポリマー硬化体の強度特性を実験的に検討した.自硬性のあるPFBC灰を使用したジオポリマーは材齢7日までの圧縮強度の増加が大きく, これと対照的に自硬性のないJIS灰を使用したジオポリマーは材齢28日以降での圧縮強度の増加が大きかった.また, PFBC灰を使用したジオポリマーはセメント系材料と比較して引張強度比と曲げ強度比が大きい特色が明らかとなった.SEM観察の結果, PFBC灰が大小不規則形状粒子の集合体であるのに対して, JIS灰は比較的均一な球状粒子の集合体であり, この違いが両ジオポリマーの強度特性の違いに反映されているものと推定された.
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