農業農村工学会論文集
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90 巻, 2 号
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研究論文
  • 時吉 充亮, 日野林 譲二, 河端 俊典, 栗山 卓
    2022 年 90 巻 2 号 p. I_229-I_237
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

    農業用パイプラインに適用されているガラス繊維強化ポリエチレン管(以下,PE-GF管という)は,ポリエチレン管よりも延性が低いため,管軸方向の追従性について曲げ性能限界を把握する必要がある.そこで,本報ではPE-GF管の電気融着継手(以下,EF継手という)の許容曲率半径に着目し,実際の管路で水平曲げ試験を実施し,曲げ限界性能把握とEF継手の曲げ終局限界を確認した.その結果,緩やかな曲線化した管路(曲率半径20DD:管外径))では,バット融着継手を含むEF継手に終局点が現れないとともに,管周方向の断面に大きな変化は見られず,通水断面に影響しないことがわかった.また,PE-GF管のEF継手の管軸方向許容曲率半径を60Dにすることが妥当であることを確認した.

  • 萩原 大生, 島本 由麻, 鈴木 哲也, 阿部 幸夫, 大高 範寛, 原田 剛男, 藤本 雄充, 川邉 翔平, 金森 拓也
    2022 年 90 巻 2 号 p. I_239-I_250
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

    農業用排水路の護岸に用いられる鋼矢板では,腐食実態の評価において板厚は指標のひとつに含まれる.本研究は鋼矢板の板厚の非接触検出につながるという位置付けの下,鋼材供試体における熱伝導の室内実験により,異なる板厚に起因して生じる温度変化量の相違について評価することを試みた.鋼矢板を模擬した板厚の異なる腐食鋼材の供試体と,背面土を模擬したガラスビーズとの2層による1次元熱伝導モデルにより伝熱現象の実験的検討を行った.熱伝導モデルによる解析の結果,熱流束の観点から,鋼材の板厚が薄いほど,その温度上昇に寄与する熱流束が単位幅あたりでより大きくなる傾向が確認された.これにより板厚が薄い鋼材ほど温度上昇はより大きくなり,板厚と温度変化量の間に負の相関を得る結果となった.

  • ― アンケート調査と測域センサを用いた歩行動線分析から ―
    星川 圭介, 宮口 知也, 寺田 和真, 榊原 一紀, 中村 正樹, 大原 誠, 田村 悟志, 竹沢 良治
    2022 年 90 巻 2 号 p. I_251-I_258
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル フリー

    水路に接する道路縁に一定間隔で設置したラバーポールが,歩行者の水路への近接を抑止する効果を検証するとともに,最適な設置間隔の検討を行った.農業用水路沿いにラバーポールを設置した集落の住民に対するアンケートでは,2mもしくは3m間隔で水路に面した道路縁に設置した場合において,警告効果が特に高いことが示された.また,測域センサを用いた歩行動線の観測により,ポールを3m間隔で道路縁に設置した場合,ポールを設置しない場合に比べて道路縁から歩行者の通行位置までの距離が統計的な有意差をもって大きくなることが示された.3m以下の間隔でラバーポールを水路沿いに設置することにより,不用意な水路沿いの歩行を抑止できる可能性がある.また,歩行者の動線は道路周辺の地物に影響されており,転落防止を目的とした施設の設置に際しては,歩行動線を把握しておくことの重要性も示唆された.

  • 松本 赳, 澤田 豊, 清水 正義, 河端 俊典
    2022 年 90 巻 2 号 p. I_259-I_266
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/12
    ジャーナル フリー

    近年,農業用ため池の老朽化にともなう堤体改修工事が増加している.検討項目のひとつである堤体内浸潤線の予測に関して,一般的な改修工法である前刃金工法(傾斜コアを用いた改修)の設計では,傾斜コアの形状と上流側水位および堤体材の透水係数をもとに計算される.しかし,この方法では基礎地盤への浸透が発生しないという条件のもとで計算が行われ,実際の浸潤線と異なることが指摘されている.本研究ではFEM浸透流解析をもとに,現行の浸潤線計算式の問題点について整理した.その結果,傾斜コアの透水性が低い場合,現行設計法による浸潤線は安定計算上危険側に計算されること,および,基礎地盤内の浸透が堤体内浸潤線の上昇に影響することがわかった.また,この2つの問題に対して,各堤体材の透水係数を変数とする関数を用いることで,現行設計法の計算上の誤差を小さくし,より実際の浸潤線に近い結果を得る方法を提案した.

  • ― 開水路システムにおける配水管理用水量の役割 ―
    西田 和弘
    2022 年 90 巻 2 号 p. I_267-I_277
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/08
    ジャーナル フリー

    水田群の水需要の短時間変動が水田用水量に与える影響を明らかにするために,同一小用水路から取水する水田群の灌漑水田数,総灌漑水量の半日変動を調べた.その結果,間断取水を基本とする現在の水田水管理体系の下では,水資源に制約がない限り圃場の水管理は他の圃場とは独立に行われるため,水田群の水需要(総灌漑水量)はランダムに大きな短時間変動(本研究地:圃場単位用水量の0~2.5倍)を示し,その最大値は圃場単位用水量をはるかに上回ることが明らかになった.このような大きな短時間変動を示す我が国の水田水需要を適切に満たすには,圃場単位用水量を大幅に上回る用水路の設計流量が求められ,開水路システムでは多量の配水管理用水量の供給が不可欠になる.開水路システムにおける配水管理用水量は,「水需要の短時間変動に応じた取水を可能にするための水量」と考えるべきである.

  • 多田 明夫, 田中丸 治哉
    2022 年 90 巻 2 号 p. I_279-I_290
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    陸域から河川を通じて下流の水域へ運ばれる物質量である河川負荷量の年間や期別の正確な推定量は,流域レベルの水質汚濁対策や物質収支把握のための基礎数値である.この河川負荷量の不偏推定量とその信頼区間はHorvitz-Thompson推定量に基づいて構成できるが,我が国の公共用水域の河川水質調査で採用されている月1度の低頻度モニタリングデータからは十分な精度で年間負荷量を推定することが困難である.本研究では長期間にわたり観測された年12個の水質観測値から,兵庫県内の揖保川上流域を対象として,10年間平均の年河川負荷量の不偏推定とその信頼区間を計算した.あわせて,対象流域に対しては,従来のLQ式法による負荷推定が偏った推定量を与える一方で,単純な平均負荷による推定量が不偏推定量として利用できることも示された.

  • ― 住民主体での維持管理作業が継続する 農業水路を対象とした研究 ―
    廣瀬 裕一, 中島 正裕, 新田 将之
    2022 年 90 巻 2 号 p. I_291-I_297
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/22
    ジャーナル フリー

    農業水路に対する選好性の決定に強く影響する要因を明らかにするために,滋賀県甲良町において評価構造モデルを用いた農業水路に対する評価を問うアンケート調査を行った.その結果,農業水路を流れる水がきれいと評価されること,多種の生き物が生息していると評価されること,住民によって農業水路がしっかり管理されていると評価されることが,農業水路に対する選好性の決定に強く影響した.出身地別に見ると,地元生まれは住民によって農業水路がしっかり管理されているとの評価が選好性に強く影響する関係が示された一方で,町外生まれは,多くの生き物が生息していることが最も強く影響し,水路が十分引かれていると評価すること,水量が十分流れていると評価すること,きれいな水が流れていると評価することが選好性に影響する関係が定量的に示された.

  • ― 愛媛県全20自治体を対象としたアンケート調査結果より ―
    藤原 千里, 武山 絵美
    2022 年 90 巻 2 号 p. I_299-I_308
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/22
    ジャーナル フリー

    非農地通知制度とは,農業委員会が再生利用困難と見込まれる荒廃農地(B分類)の所有者に非農地であることを通知する仕組みである.農振農用地区域(以下「青地」)で非農地通知を受けた土地は,青地からの除外が可能である.しかし,本制度の運用は全国的に進んでいない.そこで本研究では,愛媛県全20自治体を対象とするアンケート調査から,青地における非農地通知制度運用の阻害要因を明らかにした.その結果,愛媛県における阻害要因は,1.土地所有者不明の問題や土地境界の未確定問題のような土地利用の近代的問題から生じる事務手続きの煩雑さ,2.農家と自治体の協力関係の維持に配慮せざるを得ないB分類の基準の不明確さ,3.傾斜地農地の青地からの除外により行政による管理指導が困難となること,4.傾斜地農地の他用途への活用が懸念されること,であることが分かった.

研究報文
  • ― 豊川用水における事例 ―
    西村 眞一, 乃田 啓吾, 千家 正照
    2022 年 90 巻 2 号 p. II_93-II_99
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル フリー

    愛知県の東部に位置する豊川用水は,水需要の変動への迅速な対応や調整池への速やかな導水を目的に開水路である幹線水路に加え管水路による併設水路が設置され現在も全線開通に向けて建設中である.また,豊川用水の東部幹線水路では上流側の受益地で申込量より多く用水を消費することにより,下流への送水量が減少し下流受益地の用水不足がしばしば発生することがあり調整池から送水するなどその対応に苦慮している.そこで本研究では豊川用水の東部幹線水路を対象とし,用水不足に対応するための効率的な配水管理と開水路と管水路の複合型水路システムの導入効果についてシミュレーションにより検討した.その結果,管水路による複合型水路システムが完成した場合は用水不足に迅速に対応可能となることが定量的に示された.

  • 瑞慶村 知佳, 遠山 孝通, 原口 暢朗, 吉村 亜希子
    2022 年 90 巻 2 号 p. II_101-II_109
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/12
    ジャーナル フリー

    圃場面の傾斜化の地表排水効果について,不耕起栽培を組み合わせた場合にその効果が高いことは既往研究で示されているが,耕起栽培と組み合わせた評価事例は見当たらない.また,傾斜面の向きは,排水路側の辺の標高が最も低くなるように長辺長に沿って1方向に傾斜化させることが一般的であるが,運土距離が長くなるため,傾斜面の施工に時間と労力を要することや,水稲栽培時の田面高低差を考慮して,施工できる傾斜度に限界があるなどの課題があった.そこで,筆者らはGPSレベラーで短辺長に沿って2方向に傾斜化させた圃場で,平畝播種し,その地表排水効果を評価した.その結果,明渠の方が圃場面の傾斜化よりも地表排水効果に与える影響が大きかった.このため,圃場面傾斜化技術の導入には,地表排水効果の向上が期待できる耕種条件と輪作体系がマッチするかの検討が重要である.

  • 藤井 三志郎, 丸山 利輔
    2022 年 90 巻 2 号 p. II_111-II_122
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/12
    ジャーナル フリー

    手取川扇状地(石川県)の地下水は, 地表と河川からの浸透水で構成されている.この状況を総合的に把握するため, 手取川を中心とした分布型タンクモデルを採用し地下水流動解析を試みた.対象領域の地下水流動は地下水位等高線の直交方向に限定され, 地表や河川からの浸透水を受けながら流下する現象と捉え, 手取川を4区間に, 扇状地を13ブロックに分割しモデルを構築した.地表浸透は土地利用別(田, 宅地, その他)に違いを表現できるよう構成した.その結果, 地下浸透及び地下水流動過程を場所毎に数値化するとともに, 河川浸透水の地下水環境への影響を量的に評価することができた.本モデルは, 今後の地下水利用や管理に活用できるだけでなく, 地下水開発の影響が場所毎に特定できる特徴があり, 地域の地下水開発目標に応じて有用に機能すると考える.

  • 森 洋, 一戸 栄美
    2022 年 90 巻 2 号 p. II_123-II_130
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/12
    ジャーナル フリー

    各都道府県に行ったアンケート結果から, 農業用ため池に関わる新法施行後(平成31年法律第17号, 令和2年法律第56号)のため池廃止工事件数は3倍程度に増加しており, 今後もため池廃止工事への取り組みが促進されると伺える.そのため, 本報文では1道18県85箇所で調査したため池の廃止工事例を体系的に取りまとめ, 特徴的な廃止工事例について示した.主なため池の廃止工法は, 開削工法, 暗渠工法, 埋立工法の3種類であったが, それらを組み合わせた複合工法も見受けられた.特に, 排水時の土砂流出を防ぐための沈砂池を池敷内に設置したり, 排水用暗渠埋設管の閉塞を防ぐための流木止めを設置する等, 明確な対策工法や設計指針がない中で, 各自治体が独自に創意工夫して対応している実態が明らかになった.

研究ノート
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