農業農村工学会論文集
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91 巻, 2 号
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研究論文
  • 近森 秀高, 工藤 亮治, 丸尾 啓太
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_113-I_120
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    確率日雨量の推定には,一般に年最大値法が用いられる.ただし,標本のサイズが小さく,非常に小さいまたは大きい年最大値が1個含まれている場合は,解析対象期間の変更によって確率日雨量の推定や確率年が大きく変動することがあり,降雨量の確率年やその期間長の経年変化を正確に推定することが困難な場合が多い.本研究では,メタ統計的極値分布(MEV分布)を適用して,日本における確率日雨量および確率年の経年変化を推定した.その結果,MEV分布により推定した100年確率日雨量は,年最大値法による推定値と同様に全国的に増加傾向を示した.また,年最大値法に比べて推定値のばらつきが抑えられ,経年変化の傾向がより明確に示された.

  • 上野 和広, 吉田 美里, 石井 将幸
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_121-I_128
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり

    水セメント比,表面粗さ,養生方法の異なる条件で作製したコンクリートの品質が,無機系補修材料との付着強度へ及ぼす影響について,せん断応力あるいは直応力が作用する条件下で評価を行った.せん断付着強度と単軸引張付着強度は,双方ともコンクリートの強度が高くなるほど高くなる傾向を示した.また,コンクリートの強度が等しい条件では,累積吸水量が大きな緻密でない組織構造であるほど付着強度が高くなった.これは,コンクリート中の空隙に向けてプライマーや無機系補修材料の成分が浸透することで,付着界面の一体性が高まったためと考えられる.表面粗さの影響については,算術平均粗さの上昇に伴ってせん断付着強度は高くなった.一方,単軸引張付着強度と算術平均粗さの間には相関性が確認されなかったことから,表面粗さの影響は作用する応力の方向によって異なることが示された.

  • 小丸 奏, 森部 絢嗣, 伊藤 健吾, 乃田 啓吾
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_129-I_135
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル フリー

    ケリは水田地帯で営巣し,農業と密接な関わりを持つ野鳥であるが,耕起などの営農活動が繁殖失敗の主な原因と報告されている.用排水路などの整備が進み,早生化が進む現在,ケリと農業の共生を図るためには,農事暦の違いが繁殖に与える影響を解明することが重要である.本研究では岐阜県で栽培される晩生品種ハツシモに注目し,岐阜県内の農事暦の違う調査地間でケリの繁殖状況を調査し,農事暦の違いがケリの繁殖に与える影響を調査した.結果,晩生品種の栽培地域では,他地域と比較し,ケリの繁殖に好適な環境が約1か月長く続き,営農活動などの人為攪乱の影響が小さいことが明らかになった.また,農事暦とそこで繁殖する生物の関係を明らかにすることで,水田生物の生活史を考慮した地域別農事暦を提案し,水田生物と農業の共生を図ることができると考えられる.

  • 平嶋 雄太, 橘 基, 徳本 家康, 宮本 英揮
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_137-I_147
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/01
    ジャーナル フリー

    宇宙線土壌水分観測システム(COSMOS)を用いて,重粘土が堆積した干拓農地において熱外中性子数の経時変化を観測した.そして,大気圧,絶対湿度,バックグラウンドの中性子数の3者に基づいて補正した熱外中性子数(N)と,COSMOS近傍の2地点の3深度(5 cm,15 cm,25 cm)に埋設した時間領域透過法(TDT)センサーにより観測した体積含水率(θ)との応答関係を解析した.1時間間隔で観測したNのばらつきが大きかったため,それとTDTセンサーによるθの1時間平均値に対する明確な応答関係を見出すことはできなかったものの,Nの日平均値と深さ5 cmのθとの負の応答関係を見出した.COSMOSは,乾燥地では深さ数十cmの面的なθの観測ツールとして利用されているが,高θ条件を維持した干拓農地の重粘土に同法を適用すると,深さ約10 cm以浅のθの日単位の変動を把握できることが示唆された.

  • 山岡 賢, 仲村 一郎, 金城 和俊, 遠藤 雅人, 山科 芙美香, 山内 千裕
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_149-I_155
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/01
    ジャーナル フリー

    海水魚(ヤイトハタ)を飼育する養殖水槽の沈殿固形物(魚のふん,残餌等)を回収して農地還元することを目指して,沈殿固形物の肥料成分や塩分などの性状を調査した.沈殿固形物はpH4.9と酸性を示し,C/N比は牛ふん及び豚ふんの値を下回った.全窒素及びりん酸の含有量は牛ふん及び豚ふんの値を上回ったが,カリでは大きく下回った.沈殿固形物の重金属の含有量は,汚泥肥料の許容量を大きく下回った.また,沈殿固形物は高濃度の塩化物イオン(Cl-)及びナトリウムイオン(Na+)を含有した.このCl-及びNa+の由来の大部分は,沈殿固形物が含有する水分が海水であるためと考えられた.牛ふんを原料とした市販堆肥は乾物中でCl-を1.82%及びNa+を0.57%程度含有していたため,沈殿固形物も同程度以下のCl-及びNa+の含有量であれば農地還元で問題にならないと考えられた.

  • ― 香川県育成品種「おいでまい」の事例 ―
    泊 昇哉, 谷口 智之, 凌 祥之
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_157-I_163
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    営農型太陽光発電を適用した水田(香川県丸亀市)複数枚において,2019年に収量構成要素調査を実施した.水田bを除く水田ではコブノメイガ(病害虫)が発生したため,水田bのパネル設置区画(以下,区画)内外の水稲生育を比較した結果,区画外に対して区画内の収量は54%,穂数は64%,登熟歩合は86%,1穂あたり籾数は98%,千粒重は99%であった.ただし,収量以外の要素に統計的な有意差は見られなかった.特に減少率が大きかった穂数について,2020年に水田bを対象に穂数分布調査を実施した.パネル直下の区画内では条によって穂数に50本/m2以上の差が見られ,また,区画外では区画から離れるほど穂数は増加した.季節や時刻による太陽の傾きによってパネルの影は時々刻々と移動するため,区画内,区画外の中でも地点によって生育に差が生じることが明らかになった.

  • ― 低頻度定期水質モニタリングを前提として ―
    多田 明夫, 田中丸 治哉
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_165-I_174
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    河川は陸域から受水域への主要な物質供給経路であるが,河川を流下する負荷推定量の不確かさの計算法は確立されていない.本論文では,漸近的に不偏で精度の高い単年度の河川負荷推定量として,Horvitz-Thompson推定とrating curve法を組み合わせた推定量を提案する.加えて,この推定量による信頼区間の構成法も提案する.米国の9流域からの173組の日単位水質データセットを用い,提案手法による年間河川負荷量の中央95%信頼区間が真値を含む確率とその区間幅について,月1度の水質調査のサンプリングの元で評価した.その結果,Horvitz-Thompson推定量のみに基づく従来の信頼区間よりも,提案手法の方が,負荷量の真値を適切な確率で被覆する,精度の高い信頼区間を提供できた.

  • 倉澤 智樹, 小林 範之
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_175-I_183
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,愛媛県久万高原町のトロメキ地区の地すべりを対象に,3つの観測孔の孔内傾斜計による現地観測と地下水位,雨量データを利用して,測線方向に対する地すべり移動の傾向と深さに応じたせん断変位特性を調査した.3つのうち最も標高の高い観測孔では,深度1~4 mと9~10 mの区間にすべり面が確認され,相対的に浅い1~4 mでは降水量の多い春季から秋季に変位速度が増加したものの,相対的に深い9~10 mでは季節変動が確認されなかった.しかしながら,平成30年7月豪雨によって日平均雨量が50 mmを超えた期間では,9~10 mのすべり面も大幅に変位速度が増加した.一方,最も標高の低い観測孔では,深さの異なる地点に2か所のすべり面が存在したものの,いずれも降雨への応答性はみられなかった.また,観測孔によらず,深さの異なるすべり面は類似方向へ遷移することがわかった.

  • 森井 俊廣, 小林 秀一, 小林 龍平, 鈴木 哲也, 稲葉 一成
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_185-I_192
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    ダム・ため池の越水保護工として,スチールメッシュで表面被覆補強あるいはかご枠補強したロックフィルの活用が期待される.越水が起きると,ロックフィル内を被圧浸透するスルーフローと天端表面を流下するオーバーフローが生じる.力学的に安定した構造体を適切に設計するには,2つのフローの水理挙動を定量化する必要がある.スルーフローに対して有限要素法を用いた非線形浸透流解析を,オーバーフローに対しては場所的に流量が変化する流れの数値積分法を適用し,フロー間の局所的な流量交換を考慮してこれらを連結した越水流れの水理解析法を開発した.室内水路に設置したロックフィル堤の越水実験により部分越水および完全越水を測定し,水理解析法による計算値と比較した.良好な対応が得られ,水理解析法の有効性が確認された.

  • 多田 明夫, 田中丸 治哉
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_193-I_202
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    本研究では,河川負荷量の流出特性を,河川の年単位の総比流量と総比負荷量の間のべき乗型関係式である年単位LQ式を用いて評価した.このため,様々な土地利用と面積を持つ米国の9流域からの日単位の水質濃度と流量の長期間データセットを用いて,土地利用と年単位LQ式のパラメーター値の関係を調べた.この結果,年単位LQ式の切片と傾きの値と土地利用面積率の間に定量的関係があることが示唆された.次に年単位LQ式を長期間の低頻度ランダム標本から推定可能かどうかを調べたところ,年単位LQ式パラメーターを正確に推定できるものの,標本サイズが月1度と小さな場合,その不確かさが大きくなることが示された.

  • 大高 範寛, 藤本 雄充, 浅野 勇, 川邉 翔平, 萩原 大生, 鈴木 哲也
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_203-I_209
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル 認証あり

    鋼矢板式護岸は,農業水利施設の中でも低平地の排水路に広く採用されている.40年以上使用された施設では,腐食が進行しているため,部分的な補修は不可能である.そのため長寿命でかつライフサイクルコストを低減できる新たな更新工法が求められている.筆者らは,耐食性と経済性に優れたステンレス鋼矢板を提案している.本研究では,農業用排水路におけるステンレス鋼製矢板の腐食特性を暴露試験により把握した.実環境におけるステンレス鋼の特性を調べた結果,開発材は従来の鋼矢板材に比べて腐食特性が改善されていることが明らかになった.鋼矢板の設計に用いられる腐食代をコストに換算することにより,耐用年数に応じたステンレス鋼材の選択が可能となることが明らかになった.

  • 鈴木 麻里子, 奥田 康博, 大澤 孝史, 岩本 昭仁, 吉村 睦, 井上 一哉
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_211-I_219
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル 認証あり

    農業水利施設の大半を占めるコンクリート構造物の主要な劣化はひび割れである.コンクリートのひび割れ抑制のために使用される混和材料には,膨張材や収縮低減剤などがあり,各種混和材料のひび割れ抑制効果は明らかになっているものの,混和材料を組合わせた際のひび割れ抑制効果を明らかにした研究は稀有である.そこで本研究では,ポリプロピレン短繊維,膨張材,収縮低減剤を配合したコンクリートを作製し,ひび割れ抑制効果を定量的に評価した.さらに,ポリプロピレン短繊維を配合することで施工性への影響が懸念されるため,中流動コンクリートへの適用性を室内試験,現場試験より検証した.その結果,本研究で提案する混和材料を組合わせた中流動コンクリートは,ひび割れ抑制効果が高く,農業水利施設への適用が可能であると結論付けた.

  • 多田 明夫, 田中丸 治哉
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_221-I_230
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    年河川負荷量は1年間に河川を通じて下流に輸送される物質総量であるが,この量を正確かつ精度良く推定するために,定期調査に加えて高流量時の水質調査がしばしば実行される.本研究では,米国の9流域からの計25年分の7項目にわたる日単位の水質濃度と流量データを用い,月1回の定期調査に年8個の高流量時データを加えるサンプリングと,年12個の離散的な流量比例サンプリングに対し,正確かつ精度の高い推定結果を与える推定量について検討を行った.この結果,前者のサンプリングではbias-corrected regression estimatorが,後者ではHorvitz-Thompson推定量が正確かつ精度の高い負荷推定量を与えることがわかった.rating curve法による推定量は,前者のサンプリングに対して偏った推定量を,後者に対しては他の2つの推定量よりも大きな不確かさを与える傾向があった.

  • 近藤 文義, 渕野 龍太, 阿南 光政, 山崎 拓治, 住吉 和彦
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_231-I_238
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    鋼矢板の設計に必要となる水平方向の変形係数について,水平供試体を使用した一軸圧縮試験から決定し,通常の垂直供試体による試験結果および孔内水平載荷試験から得られた結果との比較検討を行った.シンウォールサンプリング試料土からの供試体の切り出し方法を工夫することによって,直径35 mm,高さ63 mmの水平供試体を作製した.水平供試体と垂直供試体を使用した一軸圧縮試験の結果から,地盤の異方性による一軸圧縮強さの有意差は認められたが,変形係数の有意差は認められなかった.また,孔内水平載荷試験から求まる変形係数は,水平供試体を使用した一軸圧縮試験から求まる変形係数の平均値の1/5程度の小さい値であった.

  • 田本 敏之, 柴田 俊文, 西村 伸一, 珠玖 隆行
    2023 年 91 巻 2 号 p. I_239-I_247
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル 認証あり

    劣化した農業用水路トンネルには,塑性圧が長期にわたり作用し,変状が時間とともに進展したものがある.塑性圧が生じているトンネルの維持管理を考える上で,覆工の内空変位量といった変形性状やひび割れを適切に評価することが非常に重要となる.本論文では,塑性圧が作用する地山とトンネル覆工を対象にRBSM(Rigid Body Spring Model)に基づく数値解析を行い,模型実験の結果との比較を行った.その際,作用させた荷重を入力値とし,変状やひび割れ性状などによりRBSMの適用性を検討した.比較検討の結果,ひび割れ発生位置や発生荷重などの数値妥当性が示された.

研究報文
  • 久保田 幸, 亀山 幸司, 北川 巌, 岩田 幸良
    2023 年 91 巻 2 号 p. II_41-II_51
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/21
    ジャーナル フリー

    本研究では,採卵鶏,ブロイラー,豚のふん(ただし,ブロイラーふんは敷材,豚ふんは敷材,副資材を含む)を原料としてバイオ炭を作成し,炭化温度が炭中の肥料成分濃度と溶出性に与える影響を明らかにした.リン,カリウム等の多量要素は炭化温度が高くなると含有濃度も高くなる傾向にあった.リンは600 ℃以上の炭化で緩効性形態の割合が高く,溶出性が低くなることが示された.微量要素は,採卵鶏ふん炭,ブロイラーふん炭で亜鉛濃度が高く,豚ふん炭で鉄濃度が高かった.亜鉛,銅は全ての畜種の700 ℃以上で難溶化の傾向がみられ,採卵鶏ふん炭と豚ふん炭では高温での亜鉛含量の低下が確認された.結果から,炭化温度400-500 ℃で多量要素が,400-600 ℃で微量要素が供給されやすい家畜ふん由来バイオ炭が生産できると考えられる.

  • ― 圃場と用水機場が連携した灌漑配水システムの構築に向けて ―
    鈴木 翔, 若杉 晃介
    2023 年 91 巻 2 号 p. II_53-II_60
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/11
    ジャーナル 認証あり

    圃場水管理システムは水稲作の普通期において,水位を一定の幅で管理する「一定湛水制御」を行う.一定湛水制御では,灌漑によって圃場内水位が設定水位まで上昇し,その後指定した制御レンジの分の水位が設定水位から低下するように周期的に水位が変動する.そこで,圃場水管理システムから得られる周期的に変動する水位データの変動幅を用いて減水深と用水量を算出し,実測値との比較からその算出手法や精度に関して検討した.減水深の算出値と実測値は計測時間の長さに影響を受けるが,概ね±1.5mm d-1程度の差で求められた.また,得られた減水深データから普通期における用水量を算出したところ,1日ごとの用水量では算出値と実測値に差があったが,1週間程度の期間における積算用水量は近似した.用水量の算出値と実測値の差は,灌漑するタイミングが一定ではなく日を跨ぐことが原因であった.

  • 石井 将幸, 上野 和広, 垣根 伸次, 菊池 隆太, 渡辺 充彦
    2023 年 91 巻 2 号 p. II_61-II_68
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    管路更生工法の中でも構造計算に複合管設計を用いる製管工法では,既設管と更生部材の一体性の評価,特に剥離が生じるか否か,もし生じるならその条件の把握が求められている.もし荷重による変形などにより,局所的な付着不良を起点とした剥離の伝播が管全体に生じるならば,小さな付着不良箇所の存在が補強効果に大きな影響を与える.SPR工法による更生管を対象として,付着状態を変化させた供試体に対して載荷試験を実施した結果,管全体で境界面に付着がない場合は補強効果が大きく損なわれることが確認された.その一方で,劣化や汚れがなく,特別な表面処理も行われていない表面を持つRC管を更生した状況では,局所的な付着不良が存在しても管全体に至るような剥離は破壊に至るまで生じず,耐力は全体が付着した更生管と同等であり,剛性の低下は軽微にとどまることが明らかになった.

  • 森井 俊廣, 小林 秀一, 小林 龍平, 鈴木 哲也, 稲葉 一成
    2023 年 91 巻 2 号 p. II_69-II_76
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    水制工として洪水流路に建設されるロックフィル堤には,越水時,堤体内を被圧状態で流れるスルーフローと天端表面上を流れるオーバーフローが形成される.前者のフローに対する浸透流解析では,粗粒多孔質体の流れに特有な非線形水頭損失式に含まれる係数値を知る必要がある.後者は,スルーフローとの流量交換をともなう場所的に流量が変化する流れであり,不等流計算にあたりエネルギーこう配を規定する天端表面の粗度係数値が必要となる.ロックフィル堤を洪水流に対する水制工として活用していくには,まず構造設計で必要となる越水時の流況を合理的に解析・評価できるよう,これら諸係数値を明らかにしなければならない.粗礫および粗石を用いた室内水路実験に基づき,実規模構造に適用可能なレベルでこれら諸係数値を測定・算定したので,報告する.

  • ― 根釧地域における環境保全型かんがい排水事業の事業効果 ―
    山本 康仁, 濱 裕人
    2023 年 91 巻 2 号 p. II_77-II_83
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    国営環境保全型かんがい排水事業にて整備された北海道東部の根釧地域における排水路及び排水路附帯施設である遊水池を対象に,2005年から2019年にかけて,地元小学校との協働で水生生物の生息状況調査を行った.調査の結果,環境省あるいは北海道レッドリスト掲載種を複数含む,魚類7科14種類,甲殻類3科3種類,両生類1科1種の合計11科18種類の水生生物が確認された.湿地環境の開発に伴い生息地が減少し,個体群の分断化や局所絶滅が進んでいるとされるエゾトミヨ,ヤチウグイ,エゾホトケドジョウといった希少種が高い頻度で確認された.このことから,地域に生息している希少生物の生息地の一つとして,当該施設が機能していると推察された.

研究展望
  • ― 日本の水文・水工学分野研究への適用事例を通して ―
    木村 延明, 桐 博英
    2023 年 91 巻 2 号 p. III_1-III_7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/11
    ジャーナル 認証あり

    本報は,近年のAIの流行を牽引する深層学習で注目を集めているニューラルネットワーク(ANN)について,初期の技術開発から近年までの応用技術の変遷を解説し,さらに,日本における水文・水工学分野に導入されてきたANNの最近までの約30年間の適用事例を説明したものである.適用事例では,土木学会,水文・水資源学会,農業農村工学会などの学術論文集に掲載された査読付き論文を対象にした.それらの研究内容を通して,ANNの利点や欠点を明らかにし,なぜ近年のブームになっているのかを考察した.さらに,過去の研究から得られる知見や最新の知見に基づいて今後の展望の解説を加えたものである.

研究ノート
正誤訂正
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