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萩原 大生, 島本 由麻, 鈴木 哲也
2021 年89 巻1 号 p.
I_1-I_9
発行日: 2021年
公開日: 2021/01/12
ジャーナル
フリー
腐食劣化が進行している鋼矢板護岸において矢板材の変形を評価することは,施設の維持管理の観点から不可欠である.本稿では,農業用の切梁式鋼矢板水路を対象に,画像解析による図形検出手法のひとつであるハフ変換を用いて鋼矢板護岸の傾斜角度の推定を試みた.解析的検討では,鋼矢板護岸のディジタル画像に対して直線検出を行った.検討の結果,水路内の画像では鋼矢板だけでなく,笠コンクリート,切梁,および断面欠損箇所を中心に直線形状が検出された.ハフ変換より求めた鋼矢板の直線形状に対する傾斜角度から,実測角度の推定が可能であることが確認された.ディジタル画像を用いて鋼矢板護岸の傾斜角度を評価できる可能性が示唆された.
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桑原 淳, 大友 秀文, 横濱 充宏
2021 年89 巻1 号 p.
I_11-I_18
発行日: 2021年
公開日: 2021/01/12
ジャーナル
フリー
圃場の大区画化整備において,施工に伴う土壌物理性の悪化を抑制する指標を明らかにするために,施工時の土壌水分状態と施工前後の土壌物理性を調査した.調査圃場の土壌は,表土(0~30cm)が軽埴土またはシルト質埴土であり,下層土が低位泥炭土であった.調査圃場の施工前の表土(0~15cm)は作土層であり,表土(15~30cm)は耕盤層であったため,表土(0~15cm)の物理性の悪化を抑制する施工時の土壌水分条件から施工開始の判断指標を示せることが分かった.表土(0~15cm)の物理性の悪化を抑制するためには,表土(0~15cm)のpFが2.0~2.5(-9.8~-31kPa)まで乾燥した状態で施工する必要があることを明らかにした.表土(0~15cm)のpFが2.0~2.5(-9.8~-31kPa)に対応する地耐力は0.58~0.69MPaであり,表土(0~15cm)の地耐力が降雨後の施工開始の判断指標の1つになると考えられる.
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谷口 真理, 佐藤 由佳, 角道 弘文
2021 年89 巻1 号 p.
I_19-I_27
発行日: 2021年
公開日: 2021/01/12
ジャーナル
フリー
日本固有種ニホンイシガメの生息に影響を及ぼす環境要因を明らかにするために,兵庫県宍粟市のため池10箇所で2015年5月から11月に現地調査を行い,本種の個体数(/m2)を目的変数に,環境17項目を説明変数に,重回帰分析を行った.甲羅干し場(箇所/m2),ため池周囲の林地以外の接地割合が影響のある項目として抽出され,日当たりが良く,体温維持等に必要な甲羅干し場が複数存在する環境が必要であると推測された.また,雌の産卵期6月の移動範囲を明らかにするために,データロガー付GPS機器を用いて追跡したところ,移動範囲は最大12,640m2で,放流地点からの最大移動距離は210mであった.本種は様々な環境で出現し,特にため池周縁部と一部の水田で出現地点が集中した.本種の生息地の保全には,ため池だけでなく,その周辺の陸地も含めた対策が必要であることが確認された.
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高橋 直己, 三澤 有輝, 本津 見桜, 柳川 竜一, 多川 正, 中田 和義
2021 年89 巻1 号 p.
I_29-I_35
発行日: 2021年
公開日: 2021/02/20
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遡上阻害が発生している水路の急傾斜区間を対象として,水生動物の生息場ネットワークを分断する高速流発生箇所の流況を,低コストかつ速やかに改善するための可搬魚道システムを提案した.魚道内流況を調整するためのブロックを,ブロック設置後に堰上げられる区間の長さ(魚道設置角7°,魚道内流量4.3L/sの条件では25cm)に合わせて千鳥配置することで,魚道設置前の5倍以上の水深を確保した上で,6割水深での測定流速と魚道設置前の流速の比ν0.6H/ν0が1を下回る流況を創出できた.特にブロックの下流側では,測定流速がν0の2割程度の値まで低減されており,現場にて魚道を利用する魚類の休憩箇所として機能すると考えられた.現地実験にて体長3.4cm以下の魚類が遡上し,提案魚道システムにより短時間で構築された遡上環境を,小型魚類が移動に用いることを確認できた.
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石神 暁郎, 西田 真弓, 浅野 勇, 川上 昭彦, 川邉 翔平, 森 充広
2021 年89 巻1 号 p.
I_37-I_51
発行日: 2021年
公開日: 2021/02/20
ジャーナル
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積雪寒冷地におけるコンクリート施設では,近年,凍害や摩耗を対象とした調査・診断および補修・補強が行われている.従来の更新だけではなく,補修・補強を前提とした凍害や摩耗の調査・診断では,施設を構成するコンクリートの表面近傍における劣化状態の把握が重要となる.本研究では,北海道内に位置する複数の開水路および頭首工を構成するコンクリートにおいて,主に水に曝される部位を対象としたコア試験体の採取を行い,劣化状態の詳細調査を行った.その結果,積雪寒冷地において長期間供用されたコンクリート施設では,圧縮強度や相対動弾性係数などの力学的特性の低下を伴う著しい劣化を生じる場合があること,表面近傍における凍害とカルシウム成分の溶脱を伴う摩耗とが複合的に発生する可能性があることが明らかとなった.
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大山 幸輝, 兵頭 正浩, 緒方 英彦, 石井 将幸, 吉原 修
2021 年89 巻1 号 p.
I_53-I_61
発行日: 2021年
公開日: 2021/02/20
ジャーナル
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本研究では,地盤による拘束がRC管の断面内剛性に与える影響を評価するため,地上に静置したRC管と土地改良事業計画設計基準のもと埋設したRC管を対象に内面載荷法を適用した.その結果,埋設RC管における荷重-変形量の関係は,土圧の作用しない管体のみの場合と同様に強い線形関係を有することを確認した.載荷中の鉛直・水平土圧および管外面の周方向ひずみ分布から,埋設RC管は地上試験の場合と同様に縦長の楕円形に変形し,載荷部では局所的な膨れが生じることがわかった.また,埋設RC管は管体のみの場合と比較して,所定の水平変形量を生じる際の管頂部および管底部での周方向ひずみが地盤による拘束の影響で大きくなることがわかった.さらに,RC管における一載荷断面あたりの管側部における応力は,管軸方向の40cm以下に伝達することが確認された.
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桒原 良樹, 辰己 賢一
2021 年89 巻1 号 p.
I_63-I_69
発行日: 2021年
公開日: 2021/02/20
ジャーナル
フリー
本研究では,新潟県十日町市東下組地区の水田圃場において気象環境測定および水稲の収量調査を3年間実施し,中山間地域の複雑地形による光環境の差異が水稲収量に与える影響を定量的に評価した.その結果,異なる光環境下にある2つの圃場(以下,強光圃場,弱光圃場;弱光圃場の日射量は強光圃場の80%程度)で生長した水稲の収量に有意差は認められなかった.その要因として,1)1m2あたりの全籾数(シンク能)が出穂前60~30日間の積算PPFDと有意な正の相関があること,2)弱光圃場の個葉の光合成能力が弱光条件への調節機能により高くなること,3)強光圃場では相対的に大きいシンク能を満たすのに十分な光合成生産ができず登熟歩合が弱光圃場と比較して低くなること,が挙げられる.以上の結果は中山間地域での収量を予測するモデル化技術や気象環境を利用した農業技術の開発の一助となる.
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森 充広, 川邉 翔平, 高橋 良次, 金森 拓也
2021 年89 巻1 号 p.
I_71-I_78
発行日: 2021年
公開日: 2021/02/20
ジャーナル
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農業水利施設の補修設計において,補修材料の耐久性を事前に照査することが重要な課題である.本研究では,劣化因子の遮断を目的として農業用水路に施工された有機系補修材料を対象として,経年調査で得られた変状の面積と,あらかじめ同種の補修材料で行った促進試験による変状の面積とを比較し,変状の面積が同程度となる年数と促進耐候性試験時間の相関を求めることにより,促進耐候性試験の促進倍率を推定した.その結果,暴露期間約8年の表面変状は,北北西に面した側壁気中部では促進耐候性試験時間約1,500時間に,南南東に面した側壁気中部では,促進耐候性試験時間約2,000時間に相当した.本調査地区では,暴露期間と促進耐候性試験時間がほぼ線形で近似できた.
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株木 康吉, 渡部 正, 武田 光雄, 小山 幸則
2021 年89 巻1 号 p.
I_79-I_91
発行日: 2021年
公開日: 2021/03/10
ジャーナル
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硬岩用の全断面型TBMにおいて,カッタヘッドの中心部を開口にしたドーナツ型TBMが考案された.このドーナツ型TBMは,中心部を掘削しないことによりセンターカッタを無くすことや,掘削面積の減少によりカッタ配置数を少なくできるなど全断面型TBMとは異なる掘削特性がある.本研究はこの掘削特性を評価するため,高強度モルタル供試体を用いてカッタヘッドが接するすべての範囲を掘削する実験装置を新たに製作した.この装置を用いた掘削実験により,全断面型TBMの岩盤破砕のメカニズムが再現できることや,センターカッタが切削抵抗を大きくしていることを実証するとともに,ドーナツ型TBMは掘進速度が増大し,比エネルギが減少することを明らかにした.
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上野 和広, 島田 燿平, 佐古田 又規, 溝渕 健一郎, 水野 正之, 佐藤 周之, 長束 勇
2021 年89 巻1 号 p.
I_93-I_102
発行日: 2021年
公開日: 2021/03/10
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ベントナイト混合土をため池堤体の遮水材料として用いるため,締固め条件がベントナイト混合土のせん断強度に与える影響を評価した.異なる乾燥密度と飽和度で作製した供試体を用い,圧密定体積一面せん断試験によって水浸した状態でのせん断強度を評価した結果,ベントナイト混合土のせん断強度は締固め時の飽和度の影響を大きく受けることが明らかとなった.この影響は乾燥密度が高いほど顕著であり,締固め時の飽和度が高くなるほど大きなせん断強度が得られた.そのため,ベントナイト混合土の転圧時には,その水分量を注意深く管理する必要性が生じる.しかしながら,より高いせん断強度を実現するための締固め条件は,遮水性の観点から従来採用されてきた含水比管理条件と類似したことから,ベントナイト混合土を転圧する際に用いるべき施工管理手法は,従来の手法を大きく変える必要はない.
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上野 和広, 森山 翼, 石井 将幸, 長束 勇
2021 年89 巻1 号 p.
I_103-I_109
発行日: 2021年
公開日: 2021/03/10
ジャーナル
フリー
一面せん断試験での無機系材料間の付着界面の剥離の発生要件を明らかにし,一面せん断試験によるせん断付着強度の評価手法を明確化するため,同一条件の付着界面(付着界面の耐えうるせん断応力の限界値が同一)を有し,断面形状のみが異なる供試体を用いた一面せん断試験を実施した.その結果,付着界面が剥離した際に発生していた最大せん断応力は供試体断面形状によって大きく異なり,その相違は約1.7倍にも達した.一方,付着界面が剥離した際に発生していた平均せん断応力は,供試体の断面形状によらずほぼ同一の値になった.この結果は,平均せん断応力がある限界値へ到達することによって付着界面の剥離が生じることを示す.したがって,一面せん断試験によるせん断付着強度の評価では,付着界面に発生する平均せん断応力の限界値をせん断付着強度として採用すべきである.
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羽田野 袈裟義, 荒尾 慎司, 金守 幸吉
2021 年89 巻1 号 p.
I_111-I_118
発行日: 2021年
公開日: 2021/04/01
ジャーナル
フリー
ゲートをすぎる流れに関する従来の水理検討はもっぱら流量評価に向けられ,年々頻発化している異常降雨で問題となるゲート上流の浸水に関係するゲート上流の水深評価の試みは殆ど皆無である.本研究では,スルースゲートからの自由流出と潜り流出の両方について,水理学の基礎式に基づき,ゲート上流水深の評価を試みている.自由流出については,従来方法と同等の近似で運動量の定理を適用し,ゲート開度,ゲート上流水深および限界水深の間の相互依存関係を推定すると共に実験データの解析によりその関数形を与え,そして流量から上流水深を評価する式を導出した.潜り流出については,上流の断面と縮流断面にベルヌーイの定理そして縮流断面と下流断面に運動量の定理を適用し上流水深に関する3次方程式を導いた.得られたゲート上流水深の評価式は広範囲の室内実験の結果を良好に再現した.
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亀山 幸司, 岩田 幸良, 宮本 輝仁, 北川 巌, 久保田 幸
2021 年89 巻1 号 p.
I_119-I_126
発行日: 2021年
公開日: 2021/04/01
ジャーナル
フリー
本研究では,有機物が不足する砂質土に対して,国内において入手が容易な木質バイオ炭と牛ふん堆肥の混入が土壌の物理・化学的特性に及ぼす影響について検討した.バイオ炭混入割合の増加により,全炭素,陽イオン交換容量(CEC),pH,易有効水分量,1 mm以上のマクロ団粒の割合が有意に増加した.また,バイオ炭を堆肥と混合施用した場合,全炭素,pH,CEC,1 mm以上のマクロ団粒の割合が有意に増加した.更に,バイオ炭と堆肥の混合施用によりCECが相乗的に増加する可能性が考えられた.ただし,バイオ炭単独の施用では混入割合の増加と共に易有効水分量が増加する効果が見られたが,バイオ炭と堆肥の混合施用の場合は易有効水分量の増加が抑制された.今回の試験結果から,砂質土に対して木質バイオ炭と牛ふん堆肥を混合施用した場合,保肥性の改善やマクロ団粒の増加が期待できる一方,易有効水分量の増加が抑制されることやpHの急激な増加に留意する必要があると考えられた.
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岡島 賢治, 岩田 祥子
2021 年89 巻1 号 p.
I_127-I_135
発行日: 2021年
公開日: 2021/04/01
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農地石垣の崩壊に関して,豪雨発生時に農地石垣背面で生じる地下水変動と農地石垣の崩壊の関連性を明らかにするために,農地石垣の背面に土壌水分計と水位計を設置し水分状態を計測した.計測した地下水位について,土壌雨量指数を10倍した値から観測地特有の値を引く単純な式で地下水位の増加過程とピーク地下水位を精度よく予測することができた.そして,降雨イベントによる総予測地下水位をリスク指標として用いることで対象地域全域の農地石垣の崩壊数を比較的精度よく推定できた.それらの結果から,石垣背面では石垣に沿った鉛直方向の水の流れと岩盤に沿った地下水の移動により地下水位が上昇することを明らかにした.また,土壌雨量指数では土砂災害注意報程度の降雨から農地石垣崩壊リスクは高まることを明らかにした.
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坂井 孝太郎, 藤澤 和謙, 村上 章
2021 年89 巻1 号 p.
I_137-I_147
発行日: 2021年
公開日: 2021/04/24
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フィルダムの耐震性能照査に用いる地震応答解析と塑性変形解析を別々に行う解析手順では,大きな地震動を受けた場合,堤体材料の剛性が低下することで,応答加速度の増幅が抑えられ,塑性変形量が過度に小さく評価される可能性がある.この問題を解決するため,速度型Space-Time有限要素法(v-ST/FEM)を用いたフィルダム弾塑性地震応答解析手法を検証した.弾塑性挙動と同様に,変位の増加に伴い剛性が低下する非線形ばね問題で,v-ST/FEMの時間積分法はNewmark-β法よりも高精度な計算が行えることを示した.また,下負荷面を用いたMohr-Coulomb型の弾塑性構成則をv-ST/FEMに適用し,一次元及び二次元のフィルダム弾塑性地震応答解析を行い,微小変形の範疇で地震応答と塑性変形に一貫性をもって解析できることを確認した.
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前田 真宏, 村上 章, 藤澤 和謙
2021 年89 巻1 号 p.
I_149-I_163
発行日: 2021年
公開日: 2021/04/24
ジャーナル
フリー
全国に数多く存在するため池の地震時堤体安定性向上にかかる対策は喫緊の課題であり,低コストによる安定対策のニーズが高くなっている.本論文では,ため池に波浪による侵食防止の目的で設置され,通常は安定計算に考慮されない法面保護工に着目し,その堤体安定性向上効果を遠心模型実験及び動的有限要素法解析で検証した.一般的にため池法面保護工に用いられる張ブロック,ブロックマット,布製型枠保護工について比較検証を行い,結果として強度が高く布材とコンクリートの一体構造物である布製型枠保護工について,上下の保護工端部を土中に固定することで安定性向上効果が高いことを明らかにした.また,布製型枠保護工でより効果を大きくする要件として,布製型枠布材の引張強度を大きくし,その強度が発揮される際の布材のひずみを小さくすること,下部の根入れ深度を深くすることを明らかにした.
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― 山形県の低平地水田地区を例として ―
藤山 宗, 中矢 哲郎
2021 年89 巻1 号 p.
I_165-I_171
発行日: 2021年
公開日: 2021/04/24
ジャーナル
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山形県の低平地水田地区において,開水路形式の幹線用水路の0.5m程度の低水頭を利用した自然圧パイプラインの水理および水利用機能を評価した.用水配分の機能について定常流況解析により検討した結果,全給水栓を開放したケースでは有効水頭0.3mを下回るが,開放する給水栓箇所数の調整により有効水頭を確保できることを明らかにした.この開放する給水栓箇所数の調整は現地でも行われているが,給水栓の操作による一定流量での給水が可能であるため,開水路に比べて水管理労力が低減することが聞き取り調査よりわかった.さらに現地観測では,最大で計画流量の4割程度に相当する余水が生じている開水路に対し,自然圧パイプラインでは開水路より少ない計画流量の範囲内での送水が実現しているものの,管内流速が0.3m/sを下回るきわめて低い流速となり機能低下のリスクがあることを示した.
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奥田 涼太, 渡辺 晋生
2021 年89 巻1 号 p.
I_173-I_180
発行日: 2021年
公開日: 2021/04/24
ジャーナル
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土壌水分量が凍結過程にある黒ボク土中の熱移動に与える影響を調べるため,異なる初期液状水量(θinit)の黒ボク土を用いて,一次元カラム凍結実験を行った.θinitが大きいほど土中の温度・液状水量の低下や氷の生成は緩やかになり,同じ冷却時間であっても凍結深は浅くなった.また,凍結にともなう非凍結層から凍結層への水分移動量は,非凍結層の不飽和透水係数に大きく依存することが明らかになった.次に,実験結果に熱量保存則の差分式を適用し,顕熱・潜熱成分,総熱フラックス,土中熱フラックスを求めた.顕熱成分はθinitによる差が小さく,潜熱成分はθinit依存性が大きかった.総熱フラックス・土中熱フラックスはθinitが大きいほど大きくなった.水分移動にともなう熱の移流は,総熱フラックスに対する1割未満と小さく,θinitによる差も相対的に小さくなった.
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金重 稔, 西村 伸一, 柴田 俊文, 珠玖 隆行
2021 年89 巻1 号 p.
I_181-I_189
発行日: 2021年
公開日: 2021/05/11
ジャーナル
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近年,ドローンなどのUAVを用いた3次元計測が容易に行えるようになってきている.地形計測は非常に高精度化しているが,地震応答解析は2次元解析が主流である.本研究では,3次元計測結果を拡張することによって,地中も含めたため池堤体全体を有限要素モデル化するツール開発を行っている.ドローンによってため池堤体の空撮を行い,撮影されたため池堤体の写真を用いて3次元点群データを作成し,地上部分のモデルを作成,さらに,地中部分を拡張することによって有限要素モデルを完成させる.最終的に,このモデルを用いて3次元地震応答解析を実施し,ため池堤体の構造的な弱点部分を明らかにするとともに,2次元解析結果と比較することによって,現行の2次元解析の問題点を示唆することができた.
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藤井 三志郎, 伊藤 浩三, 丸山 利輔
2021 年89 巻1 号 p.
I_191-I_199
発行日: 2021年
公開日: 2021/05/11
ジャーナル
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これまで純放射が測定されていない場合は気温・相対湿度・日照時間から有効長波放射を,日射・アルベドから有効短波放射を求めていた.しかし,有効長波放射推定式の係数は,外国の資料に基づき決定されたもので,我が国の資料によったものではなかった.本研究は,国立研究機関3試験地の時間単位の気象資料に基づき,日単位・時間単位で推定式の係数を決定し,実用に供し易い形式でまとめた.係数は,これまでの推定式の型を基本とし,実測値を再現するよう最適同定した.この結果,係数には地域性があり,地域毎に決定することが原則であることを確認し,積雪のある地域では作物生育期(4月~10月)に限定することにより,係数の推定精度が向上することを示した.また,アルベドの時間変化の影響は小さく,月別では積雪期を除くと約0.20であることを示した.
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― 愛媛県松山市の柑橘園地を対象として ―
武山 絵美, 西久保 依里佳
2021 年89 巻1 号 p.
I_201-I_208
発行日: 2021年
公開日: 2021/05/28
ジャーナル
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農地中間管理機構関連農地整備事業による樹園地整備実施予定地区を対象に,聞き取り調査,土地利用調査,地権者・借り手へのアンケート調査から,事業への同意・参加理由を明らかにした.調査地区は傾斜地に立地する樹園地であり,土工量と地元負担の増大,および樹木の伐採に伴う無収益期間の長さにより,一般的に地権者の同意が得られにくい.これに対し,調査の結果,1)機構事業により借り手の意向に応じた好条件の樹園地が整備されることにより,樹園地の荒廃化に伴う土砂災害から地域を守りたい地権者と,条件の良い農地で営農したい借り手の意向が合致したこと,2)機構事業により地元負担金が求められない等地権者の経済的損失が少ないこと,3)JAによる借り手の掘り起こしや機構の仲介の下で長期貸借が保証される仕組みが,事業への同意・参加理由であることを明らかにした.
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山谷 祐貴, 小林 伸行, 木村 篤史, 谷 宏
2021 年89 巻1 号 p.
I_209-I_224
発行日: 2021年
公開日: 2021/05/28
ジャーナル
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CバンドおよびXバンドの合成開口レーダで観測された多時期の衛星データを用いて,高精度かつ効率的な作付作物の分類を検討した.衛星データからは,後方散乱係数と各種散乱成分を変数として算出し,分類には3種類の決定木による機械学習アルゴリズムを使用した.まず,各アルゴリズムで精度を比較した結果,Extremely Randomized Treesが最も精度が高く,有効なアルゴリズムとして示された.次に,CバンドとXバンドで精度を比較した結果,多時期の分類においてCバンドの有効性を示した.最後に,利用コストを削減するために,両バンドの一部の時期のデータのみを使用して分類を行った.7月中旬にCバンドからXバンドへ衛星データを変更する手法は,両バンドのすべての時期のデータを使用した分類と有意差がなく,効率的な分類手法として提示した.
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島本 由麻, 仲野 聡, 鈴木 哲也, 馬場 光久, 杉浦 俊弘
2021 年89 巻1 号 p.
I_225-I_233
発行日: 2021年
公開日: 2021/06/17
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植物の生体情報の一つである水ストレスを検出するため, Acoustic Emission(AE)法の利用が試みられている.AE法による植物の水ストレス評価を実用化するためには, 多くのノイズ波の中から, 道管内の気泡運動に起因して発生する植物起源弾性波(突発型AE)を抽出する必要がある.本論では, 決定木およびランダムフォレストを用いて, 突発型AEとノイズ波の自動判別を試みた.検討の結果, 決定木とランダムフォレストのどちらの手法においても, 正解率0.85以上の高精度で判別できることが明らかになった.特に, ランダムフォレストでは多くの説明変数を用いることで, 過学習を緩和し, 突発型AEを正確に抽出できることが示された.
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