農業農村工学会論文集
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研究論文
  • ― 揖保川上流域の事例研究 ―
    多田 明夫, 田中丸 治哉
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_1-I_12
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/09
    ジャーナル フリー

    本研究では,我が国の公共用水域で長期間蓄積された月1度の河川水質モニタリングデータに基づく年河川負荷量の推定に対して,不偏推定量であるHT推定量と精度の高い推定量であるBCREそれぞれの妥当性について検討を行った.対象とした水質項目はTNとTPで,対象河川は揖保川である.揖保川での月1度の低頻度水質データと米国の日単位水質データを利用して日単位の揖保川の水質データを合成して解析に供した.解析の結果,単年度データに基づく年河川負荷量あるいは10年間の長期データに基づく平均の年河川負荷量の推定の両方で,HT推定量の信頼区間は期待される信頼水準で真値を含むことができないため,BCREを年河川負荷量の推定に利用すべきことが示された.

  • 森井 俊廣, 小林 龍平, 小林 秀一
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_13-I_20
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/09
    ジャーナル フリー

    ため池堤体斜面に被覆敷設した鉄線かご枠石詰め層に生じる越水流れの水理解析法を開発し,その実務性を,実際の法こう配を想定した20°および30°の傾斜水路における越水実験により検証した.越水が起きると,石詰め層内を被圧浸透するスルーフローと層の上を流下するオーバーフローが生じる.力学的に安全な被覆構造体を設計するには,これら越水流れの水理挙動を定量的に把握する必要がある.スルーフローに対し有限要素法による非線形浸透流解析を,オーバーフローにはspatially varied flowの数値積分法を適用し,これらを連結して,フロー間の局所的な流量交換と大きな斜面こう配の効果を考慮した水理解析法を開発した.その計算値は,越水実験で測定された流況と良好に対応した.ため池堤体の越水保護工として期待されるガビオンマットレスの水理解析に向け,技術検討課題をまとめた.

  • 武山 絵美, 古川 なつ実
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_21-I_27
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/21
    ジャーナル フリー

    本研究では, 収穫可能な樹木の伐採による経済的損失と無収入期間の長さ, 複数の小規模団地からなる広域での合意形成, および整備後の担い手確保という課題を有する, 傾斜地に立地する小規模分散型樹園地の圃場整備における合意形成の特徴を明らかにした.その結果, 団地が小規模に分散していることで減収リスクの分散が可能になるほか, 団地内での農地集積率向上により, 担い手を中心とした合意形成につながると考えられた.また, 小規模分散性は, 状況に応じた臨機応変な事業区域の取捨選択を可能にするほか, 合意形成に係る話し合いの単位を小さくすることにつながるメリットがあることもわかった.さらに, 事業区域内の既存耕作者が, 耕作の継続を望まない地権者と, 規模拡大を望む事業区域外の比較的若い新規耕作者の橋渡しを可能にし, 農地流動化に至ることがわかった.

  • 小嶋 創, 吉迫 宏, 竹村 武士, 李 相潤, 正田 大輔, 三好 学, 安芸 浩資
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_29-I_40
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/21
    ジャーナル 認証あり

    中山間地の谷部に立地するため池の決壊事例を対象として, 浸水痕跡調査の結果に基づき氾濫流況に影響を与えた因子を抽出し, それらの因子を組み込んだ氾濫解析によって痕跡に基づく浸水深からみて妥当な結果が得られるかを明らかにした.組込みを行った因子のうち, 降雨および家屋については, その反映の有無で痕跡箇所の最高水位に20 cm以上の差異が生じ, 解析結果の最高水位に及ぼす影響が大きいことがわかった.降雨については, 決壊時刻以降だけでなく集水域の洪水到達時間を考慮し先行降雨を反映させる必要があり, また, 家屋についても建物占有率に応じた粗度係数値を与える簡便な方法では妥当な最高水位は得られなかった.一方, 周辺ため池の反映の有無や, 土地利用を反映する粗度係数の違いは, 解析結果に与える相対的な影響度合いが小さかった.

  • 正田 大輔, 吉迫 宏, 井上 敬資, 小嶋 創, 酒井 直樹
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_41-I_50
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル 認証あり

    土石流流入によるため池の被災事例がある.本研究では土石流流入時における,ため池堤体に作用する土石流流体力の評価手法を提案することを目的として模型実験を実施した.土石流によるため池の被災事例をもとに,土石流を模した土砂の流入条件としてピーク流入流量を設定し,貯水の有無や斜面からの堤体位置が異なる条件での,堤体に作用する荷重を計測した.また,作用荷重と算定した土石流流体力との比較を行った.その結果,流入土砂量が多い場合,斜面から堤体が離れることで,作用荷重が減少し,特に貯水が無いことでその効果が大きくなることが明らかになった.さらに,堤体に作用する荷重を既存式で評価できることを明らかにした.

  • ― 埼玉県比企郡滑川町のため池維持管理参加者を対象として ―
    新田 将之, 伊藤 海音, 廣瀬 裕一, 二宮 仁志
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_51-I_63
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/10
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,維持管理参加者のため池に対する選好性及び非選好性の評価構造の構築を目的とし,比企丘陵に位置する埼玉県比企郡滑川町を対象に,評価グリッド法を用いたインタビュー調査を行った.そして,構築された評価構造を,65歳を境として高年層と中年層とに大別し比較分析した.その結果,世代間の共通性の高い評価構造として【遊び】,【防災】,【景観】,【違法行為】,【水環境】に関する階層関係が抽出された.また,担い手の評価構造には,項目数や内容,階層間の関係性において,世代間に差異が生じており,なかでも評価階層及び外的環境階層では,高年層の方が一人当たりの項目数が有意に高く,多様な評価軸かつ広い空間領域からため池を評価していることが示された.こうした評価の差異が確認された要因として,ため池を含む谷津環境との日常的な関わりの変化が影響していたと考えられた.

  • 石黒 覚, 阿藤 正樹, 棚 友裕
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_65-I_74
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/10
    ジャーナル 認証あり

    中性化によるモルタルの破壊特性の変化を調べるため,促進中性化試験および破壊試験を実施した.水セメント比および養生条件の異なる中性化供試体について,切欠き引張強度および破壊エネルギーを測定した.また,モルタルの圧縮および曲げ強度試験も実施した.これらの試験結果と気中供試体の試験結果とを同材齢で比較検討した結果,中性化供試体の圧縮強度は,気中供試体に比べて増加すること,破壊エネルギーは,同程度か大きいことが確認された.中性化による曲げ強度および切欠き引張強度の変化は,水セメント比の相違によって異なる傾向を示すことが確認された.

  • 三木 昂史, 後藤 眞宏, 石井 雅久, 高杉 真司, 舘野 正之
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_75-I_85
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル 認証あり

    近年, 地中熱のカテゴリーに含まれる地表水を熱源にしたヒートポンプの利用が促進されている.農業用水路は全国に整備されており, ヒートポンプの熱源として水路を流れる農業用水(流水熱)は期待できる.本研究では, 水深が浅い水路にシート状熱交換器を設置して実規模の模型実験を実施し, 流水熱に関するヒートポンプシステムの熱交換量(熱交換器における採熱量)や熱通過率(熱の取り出しやすさ)などの熱交換特性を評価した.実験結果から, ヒートポンプの暖房利用では, 熱通過率は水路の流速と水温が影響すること, 水路内の水温が高いほどヒートポンプシステムの熱交換量やヒートポンプシステムのエネルギー消費効率が高くなることが明らかになった.水路の流水を熱源としたヒートポンプシステムを設計する際, 流速や水温に着目することで水路の流水中の熱を効率的に利用できることが示された.

  • 稲口 知花, 倉澤 智樹, 鈴木 麻里子, 井上 一哉
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_87-I_98
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル 認証あり

    地下ダム帯水層における溶質輸送現象は, 止水壁や帯水層の透水性, 塩水浸入の影響を受ける.本研究では, 帯水層深部の透水性を変化させた4種類の地下ダム模擬地盤にて溶質輸送実験を実施し, 画像解析により溶質輸送挙動を定量化した.貯留型, 塩水阻止型の両者に対して溶質の軌道を定量化し, 溶質の重心位置をもとに透水性の異なる層の境界をまたぐ溶質の軌道の屈折を評価した結果, 透水係数の比と軌道の屈折は対応関係にあることを示した.溶質の拡がりを濃度分散として算定したところ, 塩水くさびの有無に依らず, 地下水面に近い溶質の濃度分散は輸送距離とともに増加する一方で, 帯水層深部の溶質は止水壁の影響を受けて水平方向への拡がりが制限されることが明らかになった.また, 短い輸送距離に対しては溶質の分散を表す指標としてエントロピーが利用可能であることを示した.

  • Peter KABA, Yuki SAKODA, Daniel PEPRAH-MANU, Shushi SATO
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_99-I_110
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル 認証あり

    Cement mortar subjected to freeze-thaw cycle action at an early age is expected to suffer serious physical damage, resulting in the cement mortar’s mechanical performance degradation. In this study, we examine the effects of rapidly repeated freeze-thaw cycles on 81 moulded cement mortar specimens of different mixed proportions at an early age by using destructive and non-destructive testing methods. Three mortar mixes with different water-cement ratios of 50%, 60%, and 70% were tested to compare the mechanical properties according to JIS R 5201. The test findings demonstrate that the 50% water-cement ratio of mix composition is highly advised due to its improved early-age strength following the freeze-thaw process. The freeze-thaw test against mortars also indicates a strong link between mix proportions, curing age, and frost durability. Furthermore, ultrasonic pulse velocity showed a high correlation with compressive strength for specimens not subjected to freeze-thaw cycle action. These highlights could provide a laboratory reference of theoretical values for early-age cement mortar on its mechanical properties and can also be applied to extend the strength-weakness theory of cement mortars subjected to freeze-thaw cycles.

  • ― Sダムにおける検討事例 ―
    相原 星哉, 吉田 武郎, 上山 泰宏
    2024 年 92 巻 1 号 p. I_111-I_117
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー

    洪水吐ゲートを有する農業用ダムの事前放流が流域の治水安全度向上に寄与するポテンシャルを評価するため, Sダムを対象として, 洪水時に洪水量での一定量の放流を行う操作(一定量放流型)を実施した場合に期待されるピークカット効果を評価した.その結果, 総雨量200 mmの降雨に対して最大で60.2%のピークカット効果が得られた.それ以上に降雨量が増加するとピークカット効果は減少するものの, 最大で総雨量350 mmの降雨まで効果が発揮されるものと推定された.Sダムの事前放流の実施基準を満たす規模の降雨に対しては, 一定量放流型の操作は, 流入量が洪水量以下まで減少した後に貯留操作を実施することで, 貯水位の回復に影響を及ぼさないことも確認した.

研究報文
  • 久保田 幸, 亀山 幸司, 北川 巌, 岩田 幸良
    2024 年 92 巻 1 号 p. II_1-II_8
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/16
    ジャーナル フリー

    国内の市販鶏ふん炭について,炭素貯留量の推定係数の適用性と肥料資材としての特徴を理化学性,成分分析から明らかにし,さらに肥料効果をリン酸肥料との比較から検討した.Jクレジット制度において炭素貯留量の算定に与えられている有機態炭素含有率(FC)および100年後の炭素残存率(Fperm)のデフォルト値は,市販鶏ふん炭の値と同等であり,鶏ふん炭の炭素貯留効果の推定に利用可能と考えられた.肥料成分は試料間でばらつきがみられ,この要因として原料と炭化温度が関係していると考えられた.コマツナのポット栽培試験では,鶏ふん炭区は即効性リン酸肥料区と同程度の乾物重が得られた.また,作物の微量要素の吸収が示されたことから微量要素供給源として有効であると考えられる.

  • ― 自動採水器を用いた山林小流域での事例研究 ―
    多田 明夫, 田中丸 治哉
    2024 年 92 巻 1 号 p. II_9-II_15
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル フリー

    山林からの年間の物質流出量である河川負荷量を推定することを目的として,面積12.14haの山林流域で,自動採水器を用いて,2016年に2日に1度の定期採水と,累積流出高5mm毎にサンプリングする離散的な流量比例採水の2種類の水質モニタリングを実施し,あわせて大気からの総沈着量も測定した.対象項目は懸濁態と溶存態を含む16項目である.負荷量推定の結果,効率の良い流量比例採水を採用し年間183個の標本濃度値を得たにもかかわらず,懸濁態成分を含む水質項目で河川負荷量の不確かさが点推定量の数倍程度と大きいことと,溶存態項目での不確かさが十分に小さいことが示された.懸濁態成分を含む項目での大きな不確かさは不規則な水質変動に起因するものであり,当該流域においては,2日に1度の高頻度の定期調査では負荷量の推定精度が非常に低いことも示された.

  • ― 水利施設の概念モデルを用いた分析 ―
    鬼丸 竜治
    2024 年 92 巻 1 号 p. II_17-II_25
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル 認証あり

    わが国の河川を水源とする大規模水田稲作地域では,これまで水利用者間の配水調整は,集落を基礎単位とした重層的な水利組織が担う体制となっていた.ところが,近年,水利用者の多数を占めていた小規模農家に替わり大規模経営体が増え,水利用者が少数化・多様化してきたことから,配水調整体制の再構築が課題となっている.そこで,本報では,先行研究で示されてきた,配水調整体制が備えるべき基本的要件を整理した上で,水利施設の概念モデルを用いて,大規模経営体の増加に対応するための配水調整体制を分析した.その結果,①交渉の場を設けるといった基本的要件を備えた配水調整体制は,小用水路の水利用者グループを基礎単位とした重層的な水利組織であること,②配水調整による合意の遵守を促す仕組みとして,土地改良区にもICT水管理の監視・操作の権限を持たせることを示した.

研究ノート
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