静脈学
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34 巻, 3 号
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総説
  • 小川 智弘
    2023 年 34 巻 3 号 p. 375-381
    発行日: 2023/11/23
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル オープンアクセス

    下肢静脈瘤に対する硬化療法は,歴史的にも他の治療法と比較し,歴史も古く,幅広い下肢静脈瘤に適応され,安価で,繰り返しでき,施行時に特別な設備も必要としない.硬化療法は液状硬化剤,フォーム硬化剤を静脈瘤タイプで使い分けるとともに,単独硬化療法に加え,他の静脈瘤治療法との併用にて,さらなる治療成績向上の工夫がされている.硬化療法の効果については解剖学的な静脈再疎通は少なくないものの,コスト,QOLも考慮し,総合的に評価する必要がある.最近では伏在静脈遮断効果の高い血管内治療が優先されるため,硬化療法を施行する機会は少なくなっているが,それでも残存静脈瘤,再発性静脈瘤治療,特殊な静脈瘤には必要である.それ故,下肢静脈瘤治療を行う上で,硬化療法に対する正しい知識と手技を身につけなければならない.

原著
  • 奥田 奈々恵, 大西 文夫
    2023 年 34 巻 3 号 p. 357-362
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル オープンアクセス

    リンパ管細静脈吻合術の周術期に積極的な保存療法を組み合わせることが,治療の有効性を高めることを検証した.2009年11月–2020年7月までに下肢のLVAを受けた患者108名を対象に,A群:術後周術期保存療法介入なし50名,B群:術後周術期集中排液介入あり58名に分類し,術前および術後1–6カ月後の浮腫量を比較した.周術期集中排液介入群には患者参加型かつセラピストによるサポート下で,7日間の保存療法を実施した.傾向スコアによるマッチング解析の結果,6カ月後の患肢ボリューム減少効果はB群で高い傾向が認められ(p=0.068),観察期間中は改善状態が維持されていた.LVAにより排液効率が改善した状態で集中排液を行うことで,相乗効果が得られる可能性が示唆された.また,LVA周術期の入院期間中は,効果的な集中排液や維持期に繋がるセルフケア習得を,セラピストによる緊密なサポートのもとに行える理想的な環境であると考えられた.

  • 内田 智夫
    2023 年 34 巻 3 号 p. 363-367
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル オープンアクセス

    当院で2003年から2016年までに行った伏在静脈瘤に対して結紮術などを併用しないポリドカノールによるフォーム硬化療法単独の治療成績を報告する.抜去術や焼灼術の適応があると考えられても患者が手術を希望しない場合を主な治療対象とした.症例数は296例383肢(大伏在静脈338肢,小伏在静脈45肢)であった.再発のため後に手術を施行したのは28例28肢(7.3%)(抜去術4例,EVLA19例,RFA5例)であった.初回に硬化療法を行ってから再手術を施行するまでの期間は1–10年(中央値6年)であった.合併症は硬結や色素沈着が多いが,重篤なものはなかった.方法が簡便で費用が安いことから,再発率が高いことを説明したうえで患者が希望する場合は伏在静脈瘤に対して初回にフォーム硬化療法単独で治療することも選択肢の一つとして良いと考える.

  • 前田 文江, 小畑 貴司, 木戸口 周平, 高森 督, 山田 就久
    2023 年 34 巻 3 号 p. 369-374
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル オープンアクセス

    下肢静脈瘤に対する超音波検査の重要性は明白であり,諸学会から適切な検査法が示されたが,検査には時間を要する.われわれは“血管径から逆流の有無を推定できないのか?”と考え,逆流評価の必要性を検討した.大伏在静脈の伏在大腿静脈接合部付近と,大腿中央付近で逆流の有無と血管径を測定した.血管径と静脈逆流関連症状の関係や,血管径と逆流の関係,血管径における逆流診断能と逆流陰性診断能を検討した.症状や逆流を有する場合,血管径は有意に太い結果であった.また,血管径は逆流診断には有用だが感度は100%ではなく,逆流陰性感度を100%とすると特異度が低かった.下肢静脈瘤の治療方針決定は,血管径測定だけでは決定できず,逆流評価が必要である.

  • 洞井 和彦, 長門 久雄, 古根川 靖, 吉良 浩勝, 植山 浩二
    2023 年 34 巻 3 号 p. 389-392
    発行日: 2023/11/23
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル オープンアクセス

    今回当科におけるシアノアクリレートを用いた塞栓術(CAC)の早期治療成績について報告する.対象は下肢静脈瘤に対するCAC治療患者32例(女性18例,平均年齢は64.2±1.6歳)とした.手術は大伏在静脈本幹病変にCAC施行後,周辺病変に対しては静脈結紮・瘤切除術を併用せず,血管内治療後2–4週間後に硬化療法のみを行う二期的手術とした.CAC施行後,硬化療法は24/32例(75.0%)で,大伏在静脈下腿残存本幹硬化療法は21/32(65.6%)例を要した.平均観察期間は8.6±0.9カ月で,治療本幹の再疎通はなかった.Hypersensitive reactionを4例(12.5%)認め,すべて治療本幹が体表から3 mm未満を走行している症例であった.CACは良好な治療本幹の閉塞率を得られたが,今後は塞栓長を延長して硬化療法の軽減を図り,CAC自体による治療効果の増大の検討を継続する.

  • 草川 均
    2023 年 34 巻 3 号 p. 393-399
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル オープンアクセス

    2020年より日本で一般に保険診療が可能となった下肢静脈瘤の伏在静脈に対する当施設の血管内塞栓術の症例選択と初期成績について報告する.症例は2021年12月までの連続206例,277肢,283本で,大伏在静脈238本,小伏在静脈45本であった.症例選択は,本治療と他治療の特徴ならびに各患者の病変の特徴を患者に説明し,両側同時治療希望者や下腿中部以下までの治療が必要な方を中心に治療した.結果的に同期間の伏在静脈治療全549本中283本(51.5%)に本治療を行った.93.3%に術後6カ月までの来院診療を,非来院の19本中17本に電話で状態確認を行った.閉塞率は95.8%,再疎通12本(大伏在9小伏在3)はすべて部分的で,4本に再治療を行った.2度以上の深部静脈接合部血栓は2.1%,塞栓物関連の炎症性合併症は7.9%に見られたが,10肢は無治療,残る12肢は対症療法で術後5週までには軽快した.本治療は使用局所麻酔量が少ない,神経障害がないという長所が生きる症例でとくに有用と考えられた.

  • 洞井 和彦, 長門 久雄, 古根川 靖, 吉良 浩勝, 植山 浩二
    2023 年 34 巻 3 号 p. 401-405
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル オープンアクセス

    当科では下肢静脈瘤本幹病変の加療後,逆流残存本幹や周辺病変に対しては硬化療法単独で加療して,低侵襲化を図ってきたので報告する.対象は2018年4月から2021年12月までの高周波焼灼術(RFA)治療患者298例とした.治療は本幹病変にはRFA, 周辺病変には側枝静脈瘤切除併施の代わりにフォーム硬化療法のみを行った.患者内訳はRFA治療患者298例(女性191例,平均年齢は67.3±0.7歳)とした.術後神経障害,血栓症などの合併症はなかった.硬化療法は256例(85.9%)で施行して,不要な症例は42例(14.1%)のみであった.下腿残存本幹逆流例は186例(62.4%)に認め,すべて硬化療法を行った.術後観察期間は20.9±0.7(0–44)カ月で,再発例は4例で認めた.RFA後には多数の残存病変があり,硬化療法の追加治療により低侵襲で合併症のない治療経過を得られた.

  • 田代 秀夫
    2023 年 34 巻 3 号 p. 407-410
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル オープンアクセス

    Cyanoacrylate: CA(シアノアクリレート)塞栓術は,伏在静脈弁の破綻による逆流を消失させることで,下肢静脈瘤の治療を行う.静脈内に注入されたCAは肉芽腫様異物反応を引き起こし,静脈壁の炎症反応から線維化を伴い静脈は漸次,分解吸収に至る.今般のCA塞栓術は,術後圧迫療法は不要とのことであるが,10%程度のphlebitisが報告されている.そこで,筆者らは,術後圧迫療法を継続したところ,phlebitisの発症が,諸家の報告に比べ少なかった.実際の手技は,CAを注入後,伏在静脈直上の皮膚に圧迫圧が約50 mmHgのかかる圧迫枕子をあて,弾性包帯で固定した.翌朝,包帯,枕子を外し,CA注入部位をカバーできる弾性ストッキング着用を昼間,約1カ月励行した.対象症例は,2021年1–12月にCA塞栓術を施行した下肢静脈瘤115例141肢で,(男28 女87例,平均67.5歳),治療部位は大伏在静脈114肢,小伏在静脈27肢である.Phlebitisの発症例はCA注入後2日目に大伏在静脈本幹周囲の皮膚に発赤,腫脹を生じ,アレルギー反応を思わせた3例(2.1%)とCA非注入部の静脈瘤内に血栓性静脈炎を生じた2例(1.4%)であった.(結語)CA治療に伴う術後圧迫療法の併用は,phlebitisの発症頻度を低減することが示唆された.

症例報告
  • 久米 博子, 小泉 伸也, 櫻澤 健一, 本間 香織, 岸野 充浩, 岩井 武尚
    2023 年 34 巻 3 号 p. 351-356
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル オープンアクセス

    骨盤うっ滞症候群は骨盤,腹部,背部の慢性的な鈍痛,非典型的な下肢静脈瘤,再発を繰り返す下肢静脈瘤や下肢痛などを呈する症候群である.その原因の多くは左卵巣静脈の逆流であると言われている.左卵巣静脈の逆流を伴う骨盤うっ滞症候群8例についての治療経験を報告する.【症例】2008年から2020年に当科で治療した女性8例.34–64歳(平均46.5歳).【治療】下肢または陰部静脈瘤に対してはEVLAと硬化療法で治療し,7例に左卵巣静脈コイル塞栓術を施行した.【結果】1例はEVLAと硬化療法で症状軽快を得た.7例のコイル塞栓術後,4例に卵巣静脈逆流の残存または再発を認めた.そのうち1例は症状再発にて再度左卵巣静脈のコイル塞栓術を施行した.再施行の1例を含め,全例に症状の軽快を認めた.コイル塞栓術による合併症や症状の増悪は認めなかった.【結語】卵巣静脈コイル塞栓術は重篤な合併症が少なく,症状の改善に有効である.

ガイドライン
手術・手技の工夫
  • 田代 秀夫
    2023 年 34 巻 3 号 p. 383-387
    発行日: 2023/11/23
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル オープンアクセス

    下肢静脈瘤治療が,レーザーや高周波,Glue塞栓術のみで完結,残存ないし再発静脈瘤が,そのまま放置されている憂いがある.下肢静脈瘤の根本原因は,下肢静脈高血圧であり,それに対する根本治療は,圧迫療法である.筆者は,この根本思想に基づいて,下肢静脈瘤硬化療法を行ってきた.以下にその要諦を記す.硬化療法前にも適切な弾性ストッキングなどでの圧迫療法を施行し,浮腫や腫脹を軽減してから硬化療法を行う.自然消退する静脈瘤もあるので,注射箇所や薬剤の使用量を抑えることができる.術前の圧迫療法により,皮膚の循環障害も改善されるので硬化剤の注射による皮膚合併症も軽減できる.腫脹や浮腫が軽減することで,確実に皮下に静脈瘤を視認できるようになるが,必要に応じて,静脈の可視化デバイスも併用する.硬化剤は,全量foamではなく,foamとliquidを半々に調製して使用した.硬化療法後の圧迫療法として,硬化剤注入部位にウレタン製圧迫パッドを使用し,弾性包帯で固定する.翌朝より夜間を除き弾性ストッキングを約4週間の着用を励行し,良好な治療効果が得られている.

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