静脈学
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23 巻, 4 号
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巻頭言
シンポジウム・パネルディスカッションのまとめ
特集:災害とVTE(第31 回日本静脈学会総会 緊急企画)
原著
  • 榛沢 和彦, 岡本 竹司, 佐藤 浩一, 林 純一, 伊倉 真衣子, 中島 孝, 品田 恭子
    2012 年 23 巻 4 号 p. 315-320
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:2004年の新潟県中越地震(中越地震)では10万人以上が車中泊避難を行ったことから被災地では深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)が遷延し慢性化していることが判明している.中越地震6年後のDVT検診を小千谷市と十日町市で行い867人(平均年齢65.9±11.2歳)が受診した(292人が初めて検診を受診).その結果,下腿DVTを85人に認め,17人(5.8%)が初めて検診を受けた人であり中越地震6年後のDVT頻度は5.8%と推定された.また高血圧,高脂血症,糖尿病のうち高血圧のみDVTが有意に関連していた(p<0.001).また震災後発症の脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)は下腿静脈のDVT有りでは7人(8.2%),DVT無しでは28人(3.6%)であり,年齢と性別を層別化したMantel-Haenszel検定においてDVT保有者でオッズ比2.73(95%CI; 1.11–6.68)で有意に脳梗塞が多かった(p<0.01).以上より震災後のDVTは遷延しやすく高血圧と関連することが 示唆された.また震災後のDVTは慢性期の脳梗塞・TIAと関連することも示唆された.
  • 柴田 宗一
    2012 年 23 巻 4 号 p. 321-326
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:2008年岩手・宮城内陸地震および2011年東日本大震災発生後,携帯型超音波診断装置を用いた深部静脈血栓症(DVT)スクリーニング検査を避難所にて行った.対象は岩手・宮城内陸地震発生後3年目,東日本大震災発生後5週目までに検査を行ったそれぞれ127名,330名である.東日本大震災発生後5週目までのDVT発生リスク要因分析を多変量解析にて行い,岩手・宮城内陸地震発生後3年目までに追跡し得たDVT陽性20例をもとにKaplan-Meier法を用いて経時的なDVT残存率を推定した.東日本大震災では74例(22%)にDVTを認め,下肢外傷,トイレを控えたことが統計学的に有意であった.また岩手・宮城内陸地震後の追跡調査では1年半までにDVT残存率は55%まで漸減し,3年後には16%へ低下した.遷延するDVTの存在を考慮すると災害時における静脈血栓塞栓症対策には早期のDVT予防介入と継続したフォローアップ検査が重要であると考えられた.
総説
  • 植田 信策
    2012 年 23 巻 4 号 p. 327-333
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:2004年の新潟県中越地震以降,避難生活において深部静脈血栓症(DVT)が多発することが知られている.石巻地域の避難所での下肢静脈エコー検診においても高いDVT陽性率が認められた(最大45.6%:3月).3月~5月において,津波で浸水した避難所は非浸水避難所に比較し明らかにDVT陽性率が高く(それぞれ36.4%,20.7%,P<0.001),さらに,多数の避難者によって密集した避難所では震災後1カ月で高齢者の6.3%に明らかな日常生活自立度の低下を認めた.以上より,津波で衛生環境の悪化した避難所での嘔吐・下痢症に伴う脱水や,不潔なトイレを忌避して飲水を控えたことによる脱水と,密集した避難所での高齢者の活動性低下などが,高いDVT陽性率の原因と推測された.これらより,震災後,とくに津波被害の著しい場合は,衛生環境が悪く,密集した避難所のある浸水地域からの速やかな二次避難が求められる.
その他
  • 水谷 嘉浩
    2012 年 23 巻 4 号 p. 335-344
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:東日本大震災は,東北3県およびその周辺にわたり甚大な被害をもたらした.震災発生後,低体温症を予防し避難者を助ける目的に,われわれは段ボールベッドのプロトタイプを平成23年3月20日に作成した.その後段ボールベッドが避難所のエコノミークラス症候群,呼吸器疾患,廃用症候群に有効であることが判明したため,東北3県と和歌山県奈良県に約3000床を提供した.段ボールベッドは,腰をかけたときに足がしっかり地面につく高さで,組み立てに工具の必要はなく,6カ月以上の使用が可能である.高齢者のADL低下,ストレスの低減,埃の吸引減少など多くの利点を有している.イタリア北部地震を視察したが,避難所では大型テントが設置され,パイプ製簡易ベッドも被災者分配置した迅速な設営が行われていた.現在は,備蓄不要で災害発生後に迅速に届ける防災協定の締結を,自治体と進めている.また政府への働きかけにより,平成24年9月6日防災基本計画の改定で,避難所の項目に初めて簡易ベッドの導入に関する文言が記載された.ストップザ雑魚寝!今後はこの教訓を活かし,避難所のQOLを改善するため努力することが,段ボール産業従事者の務めと認識している.
特集:静脈,リンパ浮腫診療におけるコメディカルとバスキュラーラボの役割(第31 回日本静脈学会総会 シンポジウム2)
総説
  • 田中 宏樹, 山本 尚人, 鈴木 実, 眞野 勇記, 佐野 真規, 斉藤 貴明, 杉澤 良太, 兼子 由美, 井田 艶子, 波多野 絹子, ...
    2012 年 23 巻 4 号 p. 345-351
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:コメディカルとバスキュラーラボの重要性は脈管診療において確固たるものになっているが,施設間ごとにさまざまな問題を抱えている.当科は研究機関の役割を担う大学病院であり,現在,静脈・リンパ疾患の臨床研究を行っている.2009年6月から「脈管検査室」と称した検査室を設置し,主に,静脈・リンパ疾患患者を対象とし,当科の研究内容に則した検査を実施している.検査は看護師2名,検査技師1名のコメディカルにより,SF36を含めた問診,空気容積脈波法,インドシアニングリーン蛍光リンパ管造影法を実施し,データマネージメントも行っている.浮腫などの両疾患に共通する症状を鑑別し,両系統の関連性を調査することが研究内容の一つであり,これまで複数の新知見を報告している.バスキュラーラボ設置後,諸検査数は著しく増加しバスキュラーラボの設置の効果と考えている.当科のような研究機関施設にとって,データバンクの充実は,バスキュラーラボにおけるコメディカルに寄与するところが大きく,将来,研究の成果が日常診療に還元されると思われる.
その他(オピニオン)
  • 戸島 雅宏, 藤縄 摂子, 井上 幸子, 麻柄 恵一, 森野 良久, 牧野 聡美, 荒瀬 弘美
    2012 年 23 巻 4 号 p. 353-358
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:当院では2004年血管外科開設,2005年リンパ浮腫外来開始,2008年認定血管診療技師誕生と血管疾患の診療を充実させてきた.静脈,リンパ浮腫診療においてコメディカルとの共同診療で得られた知見と課題を示す.【理学療法士】各種弾性着衣による接触圧,伸び硬度を測定し,病態に応じた圧迫療法を実践している.労働時間対評価の面で複合的理学療法業務と保険点数の不均衡が課題である.【臨床検査技師】超音波検査で,大腿部穿通枝単独逆流下肢静脈瘤の検査手順,硬化療法時のmicroembolism検討,膝下駆血光電脈波検査法による下肢静脈瘤手術適応スクリーニングの有用性を示した.【看護師】日帰り下肢静脈瘤手術における術前ビジュアルパスオリエンテーションによる患者理解度・満足度向上と,手術前後の患者QOLの改善を示した.【結語】コメディカルが活躍しやすい院内環境の変革整備には病院管理者の強い支援が必要である.
  • 佐藤 信子, 村上 厚文, 洞口 哲, 加藤 盛人
    2012 年 23 巻 4 号 p. 359-364
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:下大静脈フィルター(IVCF)留置後マイクロカテーテルによる緊急の血栓溶解療法を行った深部静脈血栓症(DVT)の2例を通じ,患者治療期間中の心理変化や看護の問題点に関する情報収集を行い評価をした.初期段階では予期せぬ疾患名や治療法にパニック状態に陥るが,患者の不安には治療に関するもの,病気に関するものの他に社会的役割(仕事),経済,家族などがあり,これらの不安がさらにパニック状態を増幅させることが示された.不安を持つ患者ほど詳しい情報を必要としており,専門性を高めた血管診療技師(CVT)ナースによる病態,治療法,予後などの充分な説明は,患者不安を軽減させ,医療従事者との間にラポール形成を促進する.結果的に患者がその後の治療を主体的にとらえる手助けとなると考えられた.患者のニーズに合った援助として専門知識を有するCVTナースが情報提供を行い,他職種と連携して総合的に支援していくことが重要と考えられた.
原著
  • 服部 努, 前田 英明, 梅澤 久輝, 中村 哲哉, 梅田 有史, 小林 宏彰, 高坂 彩子, 河内 秀臣, 飯田 絢子, 塩野 元美
    2012 年 23 巻 4 号 p. 365-370
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:【目的】急性期中枢型深部静脈血栓症に対するカテーテル線溶療法(CDT)後の静脈弁機能・静脈開存率・血栓再発率について検討することを目的とした.【対象・方法】2003年1月から2009年10月までにCDTを施行した深部静脈血栓症50例とした.CDTは下大静脈フィルター・intermittent pneumatic compression併用,膝窩静脈アプローチにて行った.【結果】CDT後の静脈開存は面積率にて91%,38例(76%)は完全溶解された.平均観察期間は51カ月で静脈一次開存率は80%,二次開存は83%,静脈弁逆流を認めない累積静脈弁機能温存率は88.6%であった.臨床所見ではCEAP分類にてC0が39例,C3が4例,静脈血栓関連の累積血栓再発回避率は93.9%であった.【結語】CDTは慢性期の血栓再発を抑制,また静脈弁機能を温存し慢性期血栓後遺症の予防としても有用であった.
  • 松村 博臣, 宮田 圭悟
    2012 年 23 巻 4 号 p. 371-374
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:慢性静脈不全症に伴って下腿皮膚潰瘍等が発生するのは,穿通枝での逆流が原因とされている.治療には不全穿通枝の切離が有効である.不全穿通枝の処理方法として,Linton手術が行われてきた.皮膚病変部を直接切開するため,創合併症が高頻度に発生した.このLinton手術の理論に内視鏡下手術手技を融合させたのが,内視鏡下筋膜下不全穿通枝切離術(subfascial endoscopic perforating vein surgery; SEPS)である.当科では2本のXcelポートを下腿筋膜下腔に挿入して,二酸化炭素を送気するtwo-port system SEPS(TPS-SEPS)を行っている.Xcelポートによって下腿筋膜下腔へのアプローチが迅速かつ安全にできるようになった.また二酸化炭素の送気によってワーキングスペースが広くなった.本術式は,下腿皮膚病変を伴う下肢静脈瘤症例に対する有用な手術法である.
  • 白石 恭史
    2012 年 23 巻 4 号 p. 375-379
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:われわれは大伏在型下肢静脈瘤の手術を大腿神経ブロックで行ってきたが,その93%に大腿四頭筋麻痺を生じていた.それを改善するために,使用する1%キシロカインを6~10 mlから2 mlに減量し,同10 mlを用いた伏在神経ブロックを併用する方法を用いた.2010年11月1日より2011年6月6日までに上記の方法を用いて手術した81例99肢を対象として術直後の大腿四頭筋麻痺の程度を検討した結果,術直後に歩行が可能だったのは86肢(86.9%),歩行は困難だが立位が可能であったのは9肢(9.1%),立位が不可能だったものは4肢(4.0%)であった.感染や出血,伏在神経障害などの合併症はなかった.伏在神経ブロックを併用することにより,大腿四頭筋麻痺の出現頻度が激減して安全性が向上したとともに下腿の広範囲な処置も可能となった.この手技は日帰り手術における有用な麻酔方法のひとつと考える.
総説
  • 宇藤 純一
    2012 年 23 巻 4 号 p. 381-387
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:2010年5月から2011年10月までの間に825肢の下肢静脈瘤日帰り手術を行った.基本術式は高位結紮,伏在静脈の内翻式抜去,金属フックによる小切開での瘤切除である.麻酔法はtumescent local anesthesia(TLA)とレミフェンタニルとプロポフォールによる静脈麻酔にて行った.患者の平均年齢は61.5±11.0歳,男女比は1対2.73,手術時間は平均36.5±12.5分,皮膚切開数は平均4.31±2.21カ所,手術当日の在院時間は平均約2時間であった.全例,術直後から歩行や食事が可能で,手術当日に入院を要した症例はなく,重篤な術後合併症も経験しなかった.多くの下肢静脈瘤患者はTLAを用いることで外来での日帰りストリッピング手術が安全に施行可能であると思われた.
  • 平井 正文, 岩田 博英, 宮崎 慶子, 小山 明男, 小南 幸哉, 池田 和宏, 北村 等, 中村 久子
    2012 年 23 巻 4 号 p. 389-395
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:弾性包帯や弾性ストッキングを含む圧迫療法は,四肢の静脈疾患,リンパ浮腫において欠くことのできない治療法である.しかし,弾性包帯の大きな短所の一つは再現性の良い,正しい圧迫圧を得ることが難しいことであり,弾性ストッキングでは着脱の困難さがあげられる.これらの短所は患者のコンプライアンスを悪くするため,本文ではいくつかの解決,改善策を取り上げ,その有用性を解説した.すなわち,弾性包帯に関しては,圧迫圧確認用印付き弾性包帯,多層包帯法,患者教育であり,弾性ストッキングでは弾性ストッキングなどの重ね履き,分離式弾性ストッキング,筋ポンプ作用増強のためのゲートルの応用である.
症例報告
  • 宮地 紘樹, 市原 利彦
    2012 年 23 巻 4 号 p. 397-402
    発行日: 2012/11/25
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ●要  約:症例は72歳の女性である.9年前に右足骨折後に肺塞栓を来したため下大静脈フィルター(Simon-Nitinol filter)を留置された.留置した4年後の胸部単純レントゲンで下大静脈フィルターの脚部分が肺動脈末梢に飛散している所見を認めた.精査の結果フィルターは破損しており6本あった脚は1本を残すのみとなっていた.分離した5本の脚は,下大静脈内,右室内,左肺動脈内にそれぞれ1本,右肺動脈内に2本移動していた.症状がないため手術による摘出は行わずワーファリンによる抗凝固療法で経過観察とした.下大静脈フィルター破損の報告はあるも,肺内異物としてフィルター構造物が塞栓を来した症例は極めてまれではある.今後長期留置における問題として啓蒙となるので報告する.
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