静脈学
Online ISSN : 2186-5523
Print ISSN : 0915-7395
ISSN-L : 0915-7395
最新号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
総説
  • 久米 博子, 小泉 伸也, 櫻澤 健一, 本間 香織, 加賀山 知子, 岸野 充浩, 岩井 武尚
    2024 年 35 巻 1 号 p. 59-65
    発行日: 2024/04/27
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル オープンアクセス

    骨盤内の静脈血行は複雑で未だ十分に病態生理が解明されていない.骨盤静脈疾患(pelvic venous disorders)は骨盤うっ滞症候群,メイ・ターナー症候群,ナットクラッカー症候群など,骨盤内の静脈うっ滞により起こるさまざまな症候群の総称である.これらの症候群は特定の症状に着目した病名で,各診療科でそれぞれに治療がなされてきたため,骨盤静脈疾患は系統的な治療や研究が行われていなかった.一般には経産婦で骨盤内に静脈拡張を認めても,無症状の場合が多い.しかし,静脈のうっ滞する部位によりさまざまな症状を呈することもあり,画一的な治療方針が立てられないのも事実である.米国静脈リンパ学会が提唱するSVP(Symptoms-Varices-Pathophysiology)分類は症状,静脈瘤の部位,病態生理をもとに,骨盤静脈うっ滞を統合的に捉える試みである.今回は自験例をもとにSVP分類の有用性を検討する.

  • 廣松 伸一
    2024 年 35 巻 1 号 p. 75-82
    発行日: 2024/04/27
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル オープンアクセス

    日本人における静脈血栓塞栓症(VTE)の実態を政府が公表しているNational Databaseのオープンデータとe-Statを用いて検討した.1995年から2021年までの肺塞栓症(PE)による年間死亡数の平均値は1741.1±31.1人で2011年が2034人と調査期間では最大であり,東日本大震災の関連が考えられた.直接経口抗凝固薬(DOAC)時代の2014年から,下大静脈フィルター(IVCF)留置は,減少傾向にあったが,抜去した症例は50%程度であった.肺動脈塞栓除去術の件数は増加傾向にあり,IVCF留置症例の減少と相反する傾向であった.慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)による指定難病受給者は,漸次増加し2021年では2014年の約2倍に増加したが,肺動脈血栓内膜摘除術は増加傾向ではなかった.腸骨大腿静脈血栓摘除術は減少傾向にあり2021年は1例もなかった.本邦は,がん関連静脈血栓塞栓症(Cancer-VTE)が約30%を占めており,低分子ヘパリンが使用できない日本において,すべてのDOACに非弁膜症性心房細動と同様の減量基準が使用できることが望まれる.

原著
  • 福岡 友音, 榎本 由香, 堀江 江美子, 後藤田 晶, 平島 祐子, 葛籠 比佐美, 荒瀬 裕己
    2024 年 35 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2024/02/25
    ジャーナル オープンアクセス

    弾性ストッキング(以下ES)は術後静脈血栓症予防のため標準的に使用するが,皮膚障害が報告されている.当院ではES着用が慣習化し皮膚障害を予防する意識が薄い傾向にあった.そこで,ESによるトラブルの発生状況を把握し皮膚障害予防の効率的な観察方法を検討した.ES着用の観察ポイントを上端,踵,つま先の位置の3点とし,1日2回観察した.不適切な着用があったものを「3点チェック」異常とした.全身麻酔下で手術を受け,肺塞栓予防プログラムを実施した57例を対象とし,「3点チェック」異常の有無,「皮膚異常」の発生状況を調査した.その結果「皮膚異常」を12例(21.0%)認め,「3点チェック」異常があれば「皮膚異常」の発生割合は有意に高かった.「3点チェック」に異常があることが「皮膚異常」発生のリスクと判断し,予防的な介入を行うことが重要である.皮膚の異常が発生する前に介入するべき症例を判断できるという点で,「3点チェック」はESの適切な着用の指標となり得る.

  • 輕部 義久, 孟 真, 根本 寛子, 伏見 謙一, 阿賀 健一郎, 箕輪 和陽, 橋山 直樹
    2024 年 35 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2024/04/27
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル オープンアクセス

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における静脈血栓塞栓症(VTE)を主とした血栓症対策として,当院入院94例に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における静脈血栓塞栓症予防の診療指針2021年4月5日版(Version 2.0)」に基づいて予防対策を講じた.入院中最重症時重症度は,軽症・中等症I 18例(19.1%),中等症II 59例(62.8%),重症17例(18.1%)であり,軽症・中等症I 2例(11.1%),中等症II 56例(94.9%),重症17例(100%)に予防的抗凝固療法を施行した.VTE発症は肺塞栓症,下腿型深部静脈血栓症を発症した重症例1例(1.1%)のみ,他に下行大動脈血栓症1例を確認,大出血を2例(2.1%)に認めた.COVID-19入院症例に選択的にヘパリンによる予防的抗凝固療法を行うという診療指針に基づいた血栓症予防対策は妥当であった.

  • 田淵 篤, 柚木 靖弘, 渡部 芳子, 桒田 憲明, 田村 太志, 古澤 航平, 山根 尚貴, 山澤 隆彦, 金岡 祐司
    2024 年 35 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2024/04/27
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル オープンアクセス

    術中下腿部フォーム硬化療法を併用した下肢静脈瘤血管内焼灼術の治療成績を検討した.血管内焼灼術324肢(2018年10月−2022年4月)のうち245肢(75.6%)に術中フォーム硬化療法を併用し,237肢には伏在静脈血管内焼灼術後に下腿部静脈造影,透視下フォーム硬化療法を行った.術中合併症は一過性下腿痛3.3%をきたし,術後合併症は術後7–10日で血栓性静脈炎3.3%,術後1カ月で硬結35.5%,色素沈着2.9%に生じた.無症候性ヒラメ筋静脈血栓症は5肢であったが,症候性の深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症は認めなかった.術後6カ月で8.2%に静脈瘤残存があったが,追加で硬化療法を行った症例はない.Revised venous clinical severity scoreは術前5.4±2.5, 術後6カ月1.0±1.3で有意に改善した.術中下腿部フォーム硬化療法を併用した下肢静脈瘤血管内焼灼術の安全性,有効性は問題ないと思われた.

  • 中井 義廣, 角瀬 裕子
    2024 年 35 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 2024/04/27
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル オープンアクセス

    当院で静脈血栓塞栓症に対して直接経口抗凝固薬を用いて治療を行った164例を対象とした.リバーロキサバンを用いた49例をR群,アピキサバンを用いた97例をA群,エドキサバンを用いた18例をE群とした.平均年齢はR群67.2歳,A群78.0歳,E群72.0歳でA群がR群より有意に高齢であった(p<0.001).女性の比率は,R群よりA, E群が有意に高率であった(p=0.026).血栓の中枢型の割合は,A群がR群,E群より有意に高率であった.内因性クレアチニンクリアランス(mL/min)の平均値は,A群57.2, R群78.9(p<0.0004),E群76.0(p<0.05)とA群が有意に低値であった.全体のCRPの陽性率は70.7%と高率であったが,各群間では差がなかった.血栓の平均退縮期間は,R群8.0週,A群7.6週,E群11.2週と有意差はなかった.平均投薬期間はR群6.1カ月,A群6.0カ月,E群7.3カ月と差を認めなかった.再発率は,R群18.4%,A群11.3%,E群22.2%で有意差は認めなかった.いずれの群も大出血例は認められなかった.

  • 石川 諄武, 山本 尚人, 遠藤 佑介, 露木 肇, 山中 裕太, 嘉山 貴文, 片橋 一人, 佐野 真規, 犬塚 和徳, 竹内 裕也, 海 ...
    2024 年 35 巻 1 号 p. 67-74
    発行日: 2024/04/27
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル オープンアクセス

    下大静脈フィルター(IVCF)は長期留置に伴う合併症もあり早期回収が推奨されるが,大きなフィルター内血栓があると回収時に肺動脈血栓塞栓症(PTE)を生じる可能性がある.2017年4月~2021年12月に診察した静脈血栓塞栓症(VTE)308例のうち下肢深部静脈血栓症(DVT)は271例(うち中枢型148例).IVCFを留置した12例について検討した(中枢型DVTの8.1%).IVCFはニューハウスプロテクトSE 1例,OptEase 2例,ALN 9例.回収なしが3例,画像上フィルター内血栓なく回収が4例,2 cm未満の血栓あり回収が3例,4 cm以上の大きな血栓あり直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)強化療法後回収が2例.全例で有症状PTEなし.DOAC強化療法の2例とも出血性合併症なし.血栓溶解療法では出血リスクがある場合でもDOAC強化療法でフィルター内血栓を縮小させて有症状PTEを発症することなくIVCF回収が可能であることが示唆された.ガイドラインが改訂され,使用頻度が減少しているなか,IVCFの適正使用についても考察した.

症例報告
手術・手技の工夫
  • 宇藤 純一, 塚本 芳春
    2024 年 35 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2024/04/27
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル オープンアクセス

    下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術後に生じる神経障害を回避する目的で,新しい治療プロトコール(新法)を設定し,大伏在静脈(GSV)弁不全1042症例を治療した.直径1.27 mmの細径ファイバーを波長1470 nmの半導体レーザー装置に接続し,不全GSVを焼灼した.膝上のGSVは出力7 W(LEED 50–70 J/cm)で焼灼し,膝下GSVにも逆流を認める場合は5 W(LEED 20–25 J/cm)で焼灼した.瘤は短軸エコーガイド下に内腔を穿刺しファイバーを挿入し5 W(LEED 30 J/cm)で焼灼した.シースイントロデューサーは使用せず,不全静脈はすべて16 G静脈留置針による穿刺法にてアクセスした.術後,伏在神経損傷などの重篤な神経障害の発生は認められず,新法は有用であった.

  • 市来 正隆
    2024 年 35 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2024/04/27
    公開日: 2024/04/27
    ジャーナル オープンアクセス

    この40年間の医療の低侵襲化の波に伴って下肢静脈瘤治療も変遷してきた.ストリッピング手術からグルーを使用する最新の血管内治療(cyanoacrylate closure: CAC)までほぼすべての治療を経験してきた.その度に浮き彫りになった各治療法の問題点を教訓として自らのExperience-Based Medicine(EBM: 経験に基づく医療)の視点からCAC治療を位置づけた.この2年間に615例792肢のCACを連続施行した.その結果,焼灼術の欠点(TLA麻酔,DOACや抗血小板薬中止,神経・周囲組織の熱損傷の懸念)がないCACは脂肪織皮膚硬化症や潰瘍症例でも大・小伏在静脈の全長閉鎖が可能であり,やや煩雑とされるデバイスの取り扱いの工夫や手技もカットダウン法にすることによりさらに低侵襲・安全・簡便となった.

feedback
Top