1.はじめに近年、酸性雨問題や森林環境保護への対応のため森林流域における渓流水の水質形成に関する研究が精力的に行われてきた。水質の決定要因は、流域内の水文過程、地形過程、生物地球化学過程及びそれらの相互作用によるものである。土壌中では、CO
2の水への溶解によって生じたH
+が化学的風化作用により消費されることによる結果として、CO
2は絶えずHCO
3-として固定されている。すなわち、この生成された渓流水のHCO
3-フラックスは酸中和能としての意味をもちアルカリ度と定義される。本研究では、酸緩衝能が比較的小さい花崗岩からなる流域で、渓流水のアルカリ度の変動を評価することを目的とした。
2.研究地域及び方法試験流域は花崗岩が広く分布する広島県竹原市に位置する山地小流域である。標高30_から_130mにあり、流域面積は約1.55haで、年平均降水量1187.5mm、地質は花崗岩となっている。また、この地域は過去に山火事などの土壌撹乱にあい、二次林で覆われている。調査方法として、渓流水が定常的に存在する場所にVノッチ堰を設け、そこで渓流水の採水及び流量測定を行った。採水時にはpH、電気伝導度の測定も行った。調査は1999年から現在まで継続している。採水した試料水は実験室に持ち帰り、pH4.8アルカリ度硫酸滴定法によりアルカリ度を定量した。基盤地質が花崗岩であり炭酸塩鉱物をほとんど含まないこと、また渓流水のpH5_から_7の間であることから大部分 HCO
3-の形態であると考えられる。
3.結果と考察1)渓流水中のHCO
3-濃度の季節変化 ここでは、2000年のデータで解析した。HCO
3-濃度は5月中旬から10月中旬まで濃度が上昇し (0.08_から_0.15meq/l)その後低下傾向となり、他の季節では約0.07meq/lと一定の濃度を形成している。この原因としては、夏季において動植物の活動及び有機物分解の活性と温度上昇による風化速度の上昇が考えられるが、この年は一年を通して降水量が少なかったため、より滞留時間の長い深層の地下水が流出している影響もあると考えられる。2)雨季における渓流水中のHCO
3-濃度変動渓流水中のHCO
3-濃度は雨季の影響もあり、全体的に平年よりも小さくなっている (Fig.1)。これは、平水時には河川水が地下水から形成されているが、雨季における連続した降雨により継続的に地下水との混合が生じ、雨季を通してHCO
3-濃度が比較的低くなったと考えられる。また流量が比較的大きい時、つまり降雨イベントの規模が比較的大きい時は多少のHCO
3-濃度の低下が見られるが、ある一定濃度(0.04meq/l)よりは低くならないことがわかる(Fig.2)。以上より、イベントが連続する雨季における渓流水の形成には、イベントの大小に関係なく降水が飽和地下水と混合し徐々に希釈されながら流出することが明らかになった。-3)イベント時における渓流水中のHCO
3-濃度の変化 2003年7月3日の累積降水量が25mmのイベントの結果をFig.3に示す。渓流水中HCO
3-濃度は,降雨開始時に3時間後で低下しているが、それ以降は降雨が強くなってもほぼ一定の値を示す。以上のような小規模なイベント時には地下水流出が渓流水の水質形成に主に寄与していることが明らかになった。すなわち、イベントでは地下水中の希釈は生じないことが確認できた。
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