頭頸部外科
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32 巻, 1 号
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原著
  • 櫛橋 幸民, 伏見 千宙, 増淵 達夫, 羽生 健治, 多田 雄一郎, 三浦 弘規
    2022 年 32 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    喉頭癌における手術は喉頭温存手術と喉頭全摘出術に大別される。cT4a症例では喉頭全摘出術が標準治療であるにもかかわらず喉頭温存の希望が強く,化学放射線療法を施行せざる得ない場合をしばしば経験する。一方で喉頭全摘出術の術後合併症として咽頭粘膜の縫合不全が挙げられる。粘膜の縫合不全は頻回の処置を要するうえに経口摂取再開の時期が遅れるなど,患者も医療者も負担を強いられる。当センターでは照射後の喉頭全摘出術において2018年から舌骨温存喉頭摘出術を施行している。5例に舌骨温存喉頭摘出術を施行した結果,粘膜縫合不全は1例も認めなかった。この術式が有用であるか通常の喉頭全摘出術と比較して検討する。
  • 岡野 渉, 松浦 一登, 林 隆一, 篠崎 剛, 富岡 利文, 森下 洋平
    2022 年 32 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    高齢者に対する喉頭垂直部分切除術の長期経過の報告はこれまでない。1992年1月‐2007年12月にかけて喉頭垂直部分切除術を施行した70歳以上の症例20例を対象とし術後5年/10年の生存率,喉頭機能温存生存率をカルテおよび電話調査で追跡可能な範囲で遡及的に調べた。年齢中央値73歳,経過観察期間中央値87か月であった。全生存率5年/10年が73/55%,喉頭機能温存生存率5年/10年で69/44%であった。術後5年以降の死因に原病死はなかった。また,術後に喉頭機能低下が原因となり会話不能,経口摂取不能,誤嚥性肺炎での入院,喉頭摘出,気管切開が必要となった症例はなかった。
  • 石田 宏規, 辻村 隆司, 江藤 杏奈, 森田 勲, 木村 俊哉, 暁 久美子, 西村 一成, 本多 啓吾, 三浦 誠
    2022 年 32 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    わが国では高齢化の進行に伴い高齢頭頸部癌患者は増加してきている。高齢頭頸部癌患者では暦年齢に加えて個々の状況を鑑みて治療方針を決定する必要がある。2016年から2020年までに当科で手術加療を行った75歳以上の頭頸部癌症例61例に対し,術後合併症や転院を要した症例およびそのリスク因子につき検討した。術後全身合併症は11症例で生じ,うち6症例は転院を要した。術後合併症のリスク因子として認知症,併存症,手術時間,気管切開で相関があり,また認知症は転院を要するリスク因子としても関与していた。高齢頭頸部癌患者の治療に際しては,術前に認知機能の評価を行い,治療方針検討の際に考慮する必要があると考えた。
  • 上田 勉, 弓井 康平, 築家 伸幸, 樽谷 貴之, 河野 崇志, 濱本 隆夫, 竹野 幸夫
    2022 年 32 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    内視鏡診断法の進歩により,頭頸部の表在癌が発見できるようになり,その治療法として経口的咽喉頭手術が普及してきている。咽喉頭領域のみでも同時性または異時性に多発癌病変に遭遇することは少なくない。今回,経口切除を施行した症例を対象とし多発咽喉頭癌症例のリスク因子と同時複数病変切除施行によるリスク因子について検討した。複数病変の発症は単変量解析にて頭頸部癌既往歴と食道癌既往歴が有意なリスク因子であった。複数病変の同時切除および複数病変の複数回切除によるリスク因子を検討したところ明らかな因子はなかった。適切な切除の判断と術後狭窄予防で安全な手術は施行できるが,今後多施設の前向きな検討が必要である。
  • 千代延 和貴, 石永 一, 濱口 宣子, 竹内 万彦
    2022 年 32 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    耳下腺癌はまれな疾患であるが,組織型が多彩であり,悪性度も様々で,診断や治療に苦慮することがある。今回は当科で一次治療として手術を行った耳下腺癌症例41例を対象として検討を行った。5年粗生存率は90.2%,5年無再発生存率は84.6%であり,多変量解析で有意差を認めた予後因子は頸部リンパ節転移の有無であった。予防的頸部郭清術を行った9症例中5例に頸部リンパ節転移を認めていたことから,局所進行癌や高悪性度癌が疑われる症例では予防的頸部郭清術を考慮することが必要と考えられた。肺転移再発をきたした症例にトラスツズマブ療法が著効した例があり,手術不能例や遠隔転移例に対する化学療法の知見の蓄積も期待される。
症例
  • 関 正大, 進 保朗, 宮崎 瑞穂, 梅野 博仁
    2022 年 32 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    下咽頭原発巨大軟部腫瘍の2例を経験したため報告する。
    患者1は61歳男性。下咽頭輪状後部に表面平滑な有茎性の軟部腫瘍を認めたが,喉頭への嵌頓はなく待機的に手術加療を行った。術後病理検査で,巨大血管線維ポリープの診断となった。
    患者2は60歳女性。嘔気・嘔吐を契機に腫瘍が口腔外に突出し,搬送となった。下咽頭後壁に2本の表面平滑な有茎性の軟部腫瘍を認め,気道狭窄の危険があり緊急手術を施行した。術後病理検査で高分化型脂肪肉腫の診断であったが,再発なく経過良好である。
    下咽頭原発の巨大軟部腫瘍は,極めて稀な疾患であるが,喉頭への嵌頓に伴う窒息の可能性があるため,緊急手術を要することがある。
  • 髙木 千晶, 大西 将美, 若岡 敬紀, 奥田 弘, 髙田 菜月
    2021 年 32 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/08
    [早期公開] 公開日: 2021/12/18
    ジャーナル フリー
    咽頭に発生する脂肪腫は比較的稀である。今回われわれは下咽頭脂肪腫の1例を経験したので文献的考察を加え報告する。
    症例は58歳男性。嚥下時違和感を主訴に受診。下咽頭後壁に粘膜下腫瘍を指摘されたが,腫瘍径が12mmと小さく,生検で悪性所見も認めなかったため,近医にて経過観察。約3年後には腫瘍が喉頭に覆い被さるほど増大し,気道閉塞の危険性があるため摘出術を行う方針となった。外切開ではなく極力低侵襲である経口的咽喉頭部分切除術(TOVS)を行った。
    下咽頭脂肪腫は長期間無症状であることが多いが,増大すると気道閉塞をきたすこともある。脂肪肉腫との鑑別が困難な場合もあり,摘出術が勧められる。
  • 紫野 正人, 佐藤 瞭, 井田 翔太, 新國 摂, 近松 一朗
    2022 年 32 巻 1 号 p. 53-59
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    分泌癌(Secretory Carcinoma:SC)は近年,疾患概念が確立された低悪性度唾液腺癌で,以前は乳腺相似分泌癌と呼ばれていた。今回は4例(耳下腺3例,顎下腺1例)の分泌癌について診断過程や経過を報告する。細胞診標本の細胞転写法による免疫染色で術前に分泌癌と推定できた症例が1例あった。全症例で手術を施行し,切除断端近接の2症例では術後照射を追加した。免疫染色で診断した症例が1例,ETV6-NTRK3融合遺伝子を同定して確定診断とした症例が3例あった。分泌癌に特異的とされるPan-Trk抗体による免疫染色は全症例で陽性であった。再発や転移なく全症例が良好に経過している。
  • 三輪 好, 松村 聡子, 蝦原 康宏, 中平 光彦, 菅澤 正
    2022 年 32 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    【はじめに】アメーバ赤痢は赤痢アメーバ原虫による感染症で,重症化すると消化管穿孔など重篤な合併症を生じうる。今回,癌化学放射線療法中に発症したアメーバ赤痢を経験した。
    【症例】60歳男性,既往に2型糖尿病あり。中咽頭癌に対しシスプラチン併用化学放射線療法を行った。加療中に下痢が出現し,下部消化管内視鏡検査でアメーバ赤痢と診断された。メトロニダゾールとパロモマイシンを10日間ずつ投与したところ症状は改善した。
    【結語】本例では内視鏡検査にて診断・早期治療介入できたため重症化することなく原疾患の治療も完遂可能であった。化学療法中に腹部症状が遷延した際には,アメーバ赤痢も鑑別疾患として考慮すべきである。
  • 郡司 寛之, 泉本 彩, 小宅 功一郎, 池谷 洋一, 野垣 岳稔, 小林 斉
    2022 年 32 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    耳鼻科外来診療における異物症例は,新患総数のおよそ0.5-2%程度である。その中でも極めて稀な鼻腔を介した頭蓋内異物の一症例を経験したので報告する。
    症例は39歳男性。樹脂で繋げた自作綿棒で鼻腔清掃の後,綿棒先端の遺失に気づき前医受診。左嗅裂部に異物認めるも摘出困難で当科紹介。初診時鼻腔内に異物を認めず,CT施行。異物の嗅裂部穿破,頭蓋内穿通を認めたため,開頭での異物摘出施行。合併症なく術後10日で退院となった。
    頭蓋内穿通症例では髄液漏,感染の合併が高頻度であるため,異物を認めても画像診断にて損傷を評価する前の安易な抜去は危険である。早期手術による摘出が必要であるが,脳神経外科との綿密な連携が重要である。
  • 塚本 咲, 山田 雅人, 高橋 佑輔, 柳橋 賢, 溝口 由丸, 小島 史也
    2022 年 32 巻 1 号 p. 73-78
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    Clear cell carcinomaは小唾液腺より発生する稀な低悪性度癌である。今回われわれは舌根より発生したclear cell carcinomaの1例を経験したのでこれを報告する。症例は64歳男性で,舌根に17mmの隆起性病変を認め,生検でclear cell carcinomaが疑われた。腫瘍が限局しておりリンパ節転移を認めなかったことから,舌正中離断法による腫瘍切除を行った。術後,腫瘍細胞の遺伝子検査でEWSR1-ATF1融合遺伝子が検出されたことで確定診断に至った。現在術後9か月経過しているが,再発転移を認めていない。審美性も保たれ,嚥下障害や構音障害などの機能障害も残らなかった。
  • 原田 雄基, 宮本 俊輔, 山本 賢吾, 大木 幹文, 山下 拓
    2022 年 32 巻 1 号 p. 79-83
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    血管内乳頭状内皮過形成(intravascular papillary endothelial hyperplasia:IPEH)は血管内皮細胞の増殖による良性病変である。今回,稀な上顎洞IPEHを経験したので報告する。症例は52歳の男性。右鼻出血を繰り返すため当科へ紹介され受診した。CTとMRIで上顎洞底部に辺縁不整な一側性上顎洞腫瘤を認めた。術前に生検が困難であり,悪性腫瘍が否定できなかった。診断的治療を目的としてCaldwell-Luc法による切除を行い,IPEHの診断となった。上顎洞IPEHは悪性腫瘍との鑑別が困難な場合があるため,鑑別疾患のひとつとして知っておくことは有用と考える。
手技・工夫
  • 雨皿 和輝, 中野 友明, 中濵 千晶, 金村 信明
    2022 年 32 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    後天性後鼻孔閉鎖症に対して内視鏡下鼻内手術を行った1例を経験したので,報告する。症例は78歳女性で,鼻閉を主訴に当院受診した。鼻内内視鏡検査および頸部CT画像検査所見で後鼻孔の膜性閉鎖を認めた。成人期より症状が生じており,梅毒感染症の既往歴があることから梅毒を契機とした後天性後鼻孔閉鎖症と考え,内視鏡下鼻内手術を行った。術後再狭窄を認め,12か月後に再度内視鏡下手術を行ったが,再狭窄予防にステント留置と下鼻甲介粘膜移植を行った。ステントを留置していたが,作成した後鼻孔はステント径より大きく,下鼻甲介粘膜移植により開存が維持できているものと考え抜去した。13か月の時点で後鼻孔は再々狭窄なく経過しており,下鼻甲介粘膜移植が狭窄予防に有効であったと考えられた。
  • 道塚 智彦, 熊井 琢美, 佐古 澄子, 高原 幹, 片田 彰博, 林 達哉, 藤田 智, 原渕 保明
    2021 年 32 巻 1 号 p. 91-95
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/08
    [早期公開] 公開日: 2021/12/18
    ジャーナル フリー
    新型コロナウイルス陽性患者(COVID-19)に対する気管切開術を2症例経験した。症例1は80代男性。長期間の気管挿管管理が必要となり,N95マスクを使用したFull PPEにて気管切開を施行した。症例2は60代男性。1例目の気管切開では視野の確保が困難であった点を踏まえて,電動ファン付き呼吸⽤防護具(PAPR:powered air-purifying respirator)下で外科的気管切開を行った。PAPRを用いることで,Full PPEで外科的気管切開を行う上での視野確保における問題点を解決できており,安全な感染制御下での外科的気管切開に有用と考えられた。
  • ~手技工夫と考察~
    佐原 利人, 安原 一夫, 向井 俊之, 寺村 侑, 髙野 智誠
    2021 年 32 巻 1 号 p. 97-103
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/08
    [早期公開] 公開日: 2022/01/06
    ジャーナル フリー
    頭頸部進行癌の皮膚浸潤や転移を呈した症例では出血,悪臭,疼痛などの症状を伴い著しくQOLを損なうが有効な治療手段がないのが現状である。塩化亜鉛含有であるMohs軟膏を使用することによって腫瘍を化学的に固定し出血や疼痛などを抑えることが可能であり,近年は頭頸部を含む複数の領域においてその緩和治療としての使用経験が報告されている。
    今回,われわれは止血困難な中咽頭癌転移リンパ節の皮膚浸潤症例に対し,腫瘍へ直接Mohs軟膏を塗布する従来の手法では止血困難であったが,ガーゼを用い手技を工夫することにより出血を制御することができた症例を経験した。Mohs軟膏使用における頭頸部領域特有の注意点や従来のMohs軟膏塗布の手技も含め報告する。
  • 濱本 隆夫, 永松 将吾, 弓井 康平, 築家 伸幸, 樽谷 貴之, 河野 崇志, 石野 岳志, 上田 勉, 竹野 幸夫
    2022 年 32 巻 1 号 p. 105-110
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー
    咽喉頭食道摘出術を行う場合,永久気管孔を作成する必要があり,化学放射線療法後の救済手術では縫合不全や断端壊死などを生じるリスクがある。気管孔トラブルを避けるための様々な工夫が検討されているが,創傷治癒不全を生じた症例への局所処置やカニューレ選択などに関しての報告は少ない。化学放射線療法後の頸部食道癌に対して咽喉頭食道摘出術後に永久気管孔創傷治癒不全を生じた症例において気管断端の創部治癒不全を生じた3例を提示し,局所処置やカニューレ選択などを検討した。気管断端壊死から気管孔の再形成に至るまでには,創部の状況に応じた局所処置と,気管孔の状態に合わせたカニューレ選択が必要と考える。
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