近年,離島や山村などといった地域において,地域活性化を目的としたアートイベントが多数開催されてきた。こうしたアートイベントは地域の人間関係を活発化させるなど一時的な地域活性効果をもつ一方で,その継続性が課題である。それに対して先行研究では地域の既存の事業者の関与によって地域社会に連鎖的な展開を生みだすという方法を提示してきた。これをふまえて本研究では地域に根差した民間企業が運営するアートイベントを取り上げて,地域社会との関係構築のあり様を明らかにした。分析対象とする事例は香川県小豆島においてオリーブ産業に関連する企業が展開するアートプロジェクトMである。2018年から2021年にかけて断続的に行った聞き取り調査の結果,アートプロジェクトMは地域の観光産業振興に新しい展開をもたらした画期的事業である反面,地域住民らとの間に一部葛藤を抱え込んでいることが分かった。しかしアートプロジェクトMのもつ創造性と地域のもつ固有な文化と歴史は,互いに好影響を与えあう可能性があると考えられた。こうした両者にとっての発展性をもたらすためには,対話の機会を十分に確保しフラットで相互的な関係構築が重要である。