地理科学
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78 巻, 3 号
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シンポジウム
論文
  • 和久 貴洋
    2023 年 78 巻 3 号 p. 103-115
    発行日: 2023/09/28
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,国際スポーツイベントのレガシーに関する最近の研究知見および東京2020大会前後からのスポーツ界と国際機関の動向を踏まえて,国際スポーツイベントのレガシー創出・定着に向けて留意すべき点を整理するとともに,国際スポーツイベントのレガシーに関する今後の検証課題を提起した。最近の研究成果は,今後の国際スポーツイベント開催に向けて,招致・開催の戦略性,参加者に快感情を与える仕組みや取組み,およびレガシーに係る経験や記憶の長期共有に向けた工夫が重要であることを示唆した。また,スポーツ界および国際機関の最新動向として,安全なスポーツ環境の強化,デジタル交流の拡大,若年層の取り込み,スポーツSDGなどがあり,それらが国際スポーツイベント開催による経済・社会・環境面の効果,さらにレガシーの時間・空間・領域に影響を及ぼす可能性があることを示した。その上で,その可能性を高める要素として,SNS,AR・VR・メタバースなどのバーチャル空間,招致・開催都市の国際スポーツイベント戦略,若年層の関与が重要であることを提起した。

  • 渡邊 瑛季
    2023 年 78 巻 3 号 p. 116-127
    発行日: 2023/09/28
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,スピードスケート競技文化を有する北海道十勝地方をとりあげ,スピードスケート国際大会がもたらしたスポーツ的レガシーを時間と空間の観点から検討した。ローカル(十勝地方)レベルでは,短期的にはジュニア選手がトップ選手の滑走をみて世界との実力差である“距離”を認識するとともに,トップ選手に対し憧れを抱く。このことは十勝地方からの有望選手の輩出にも寄与し,スピードスケート競技文化とスケート王国ブランドを長期的に維持するレガシーに結びついていた。主としてナショナル(日本)レベルでは,国際大会が競技界の最新動向を知る機会となり,大会運営ノウハウや審判技術を獲得・更新する。この点に加え,国際連盟基準での施設整備を実現することで,継続的な国際大会招致に結びつけていることが確認できた。大会の継続的招致は,日本人トップ選手の長期的強化にも寄与していた。さらに,グローバルレベルでは,帯広市がアジア,世界における大会開催地としてスピードスケート競技を支えていた。これらのレガシーが検証された一方で,世界との競技力の差の認識やトップ選手への憧れの醸成以外のレガシーが創出されておらず,国際大会を地元ジュニア選手の育成に十分につかいきれていないという課題も残されている。

  • ――スキー競技開催地域における選手育成の分析を中心に――
    呉羽 正昭
    2023 年 78 巻 3 号 p. 128-142
    発行日: 2023/09/28
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,アルペンスキーとノルディックスキーの2種目をとりあげ,スキー競技開催地域においてオリンピックのレガシーがどのような意味を有するのかを検討する。スキーの五輪競技施設は有形レガシーとして維持されているが,その傾向はノルディックスキーで強い。アルペンスキーでは,五輪競技開催スキー場で,競技とゲレンデスキーとの間に利用競合が生じている。スキー競技開催地域は選手育成の伝統のもとで,その仕組みを構築してきた。中学生スキー選手は,長野五輪後はアルペン種目では成績が伸び悩んでいたが,ノルディック種目で継続的に上位成績を残している。ただし,ノルディック種目の好成績は,五輪選手の育成にはあまり結びついていない。スキー選手育成の伝統に対して,長野五輪のレガシーが与えた効果は,五輪開催地域というローカルな地域において,ノルディックスキーでより強く認められた。これは日本独自のスキー文化,すなわち,一般の人びとが楽しむスキーは,日本ではアルペンに著しく特化しており,逆にクロスカントリースキーの競技性が高いことと関係している。

  • 小島 大輔
    2023 年 78 巻 3 号 p. 143-151
    発行日: 2023/09/28
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル 認証あり

    第18回ユニバーシアード大会1995福岡 (以下,福岡ユニバ)の招致活動が開始された1980年代末は福岡市政の重要な転換点であったといわれ,それ以降の都市政策には福岡ユニバの影響を見出すことができる。そこで本稿では,福岡ユニバが福岡市のアジア政策とコミュニティ政策に与えた影響を分析,評価した。

    アジア政策への影響については,アジア太平洋博覧会に引き続き開催された福岡ユニバは,他のアジア関連事業とともに「交流」を強調した国際都市づくりに活用された。大会後も,福岡ユニバで一定の成果を得た「交流」を継続して「活力あるアジア」と「共生」することをめざすアジア政策が展開された。

    コミュニティ政策への影響については,福岡ユニバをきっかけに生まれた国際交流活動が定着した高取校区の事例を確認した。福岡ユニバに合わせて実施された「校区ふれあい事業」は国際交流活動への関心を高め,留学生の居住をきっかけに活動を開始し,継続することで,その活動は在留外国人と校区住民の共生を推進する校区独自の取組みとして定着した。

  • 和田 崇
    2023 年 78 巻 3 号 p. 152-161
    発行日: 2023/09/28
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル 認証あり

    1994年に開催された広島アジア競技大会が広島市にもたらした影響(レガシー)を時間,空間,領域の観点から検証した。その結果,地域スポーツの振興,国際大会の招致・開催,市民主体の国際交流活動といった広島アジア競技大会のレガシーは,ローカルレベルを中心とする空間において関連領域のさまざまなアクターがかかわりながらつくり出されたことが確認された。また,それらはナショナルまたはグローバルレベルの政策の後押しを受けて具体化したことも確認された。これに時間の観点を加えてみると,以下の3点が明らかとなった。第1は,大会自体が当時の「新しい開発」物語に即して招致・開催されたことも含め,当時の政策的潮流に乗る形でレガシーが創出されたことである。第2は,それらのレガシーが大会開催前に計画されたわけでなく,主に大会開催後のさまざまなアクターの相互作用を通じてつくり出されたことである。ただしそれらは,広島アジア競技大会後に偶発的産物として生まれたわけではなく,大会開催前から存在した制度や組織,事業などをベースに,大会開催を契機にアップグレードされたり,新たにつくり出されたりしたものであった。第3は,それらのレガシーが政策の変更や社会情勢の変化,担い手の高齢化にともなって時間の経過とともに変化したり,消失したりする可能性があることである。

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