本研究の目的は, 地理学習を探究学習による地理的技能の習得過程とすべきであるという立場から, ARGUSのアクティビティの分析・考察とその典型的なアクティビティの実践から, わが国の高等学校地理教育における学習方法の改善の要点を明らかにすることにある。ARGUSは, 米国の高等学校地理教育において地理的技能を広義の学習技能として体系化した全国統一の地理カリキュラム指針である「地理ナショナルスタンダード」を全面的に採用した具体的成果である。その中心的な教材であるアクティビティは, 生徒の主体的な探究学習であり, その目的は, 広義の地理学習技能の習得, すなわち, 概念的知識の習得もしくは合理的な意思決定の能力の育成をめざすものである。授業実践したアクティビティは, ニューヨーク市において現在, 拡がりつつある結核病に対し, その要因を分析し, 行政的な対策を考えるという, 具体的かつ実践的な政治地理の学習活動である。このアクティビティは, 結核病対策のための要因分析の手段として生徒に地図分析をさせ, その技能の習得のみならず, その意義を理解させることをもめざしている。これは地理学習の有効性を実証し, その存在意義を示すものである。アクティビティの実践から, この学習活動が現実を扱う創造的で主体的学習であり, 生徒の興味や関心に応え, その能力差をふまえた意思決定の革新的な地理学習である, ということが例証された。
抄録全体を表示