福岡県糸島市を事例として,同市の観光業を担う飲食業者や工芸・雑貨製造販売業者の起業と事業継続の背景について,事業者間の関係性にも注目しながら検討した。糸島市では,観光客数が増加した2000年以降に開業した観光事業者が増加し,同市で事業を行うUターン者や他地域からの移住者も増加している。事業者が糸島市に出店した理由は,自然環境や福岡市との近接性,糸島産材料・原料の存在などが上位に挙げられていた。また,出店後に地域に対して求める要素には,経済需要・雇用に加えて,事業者間での人脈や交流などが上位に挙げられており,出店後の事業継続要因としては,これらの要素が満足度を高めるものであることが明らかになった。加えて,回答者が糸島市で事業を継続するにあたり,自身の能力や経験を発揮したい,あるいは地域に貢献したいという動機が満足度に影響を与えていることが示唆された。とりわけ,回答者には同業・類似業種から出店相談を受ける人が多くみられ,このような人は開業満足度が高かった。対象地域では,同業・類似業者間でのネットワークの存在が移住・起業や事業継続の背景になっている可能性がある点が確認できた。
人口規模を中心とした都市分類を行った森川(2022a)において,同一階層の都市間においても地理的位置の差異が重要なことを指摘した。それは国勢調査(2020年)や財政力指数(2020年度)を分析した本稿においても再確認されたので,都市分類を次のように修正した。第Ⅰ~Ⅲ階層を大都市および大都市圏内の都市とし,第Ⅳ~Ⅵ階層を地方の中核都市,近接地方都市,遠隔地方都市とした。この地理的位置を重視した都市分類は人口増減や都市の活力によく対応する。しかし,分類境界の設定については課題も多い。旧5大都市における京都市,神戸市,広域中心都市における仙台市,広島市の問題,中核都市の下限を人口20万とすることなどについては未解決のままである。