本稿では,1930年代の台湾における中国籍労働者雇用政策について,内地や樺太,朝鮮と比較しながら検討しながら,その地域的差異と背景について考察した。台湾においては,内地や樺太とは異なり,中国大陸との地理的・歴史的近接性や,鉱工業の振興等の必要性から,中国籍労働者の導入が比較的積極的に進められていた。しかしながら,漢民族住民が人口の大多数を占める台湾では,中国籍労働者の導入を拡大することは,同化主義的政策との間に,大きな矛盾を生みだした。とりわけ,1931年に満州事変が勃発すると,総督府内部や産業界から,同化政策の強化や戦時中の安定的な労働力の確保という観点から,中国籍労働者の増加を懸念する意見が出されるようになり,彼(女)らに対する入島制限や強制送還処分が厳格化されていった。さらに,1937年の日中戦争以降は,労働者が新規に入島することは禁止され,極めて厳格な規制が行われるようになった。
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