本稿は,デリー首都圏地域(NCR)に形成されている自動車産業集積のダイナミズムを明らかにすることを目的に起稿したものである。研究の対象は,同地域に所在する本田技研の2つの現地法人-ヒーロー・ホンダ(HHML)社とホンダ・モーターサイクル&スクーター・インディア(HMSI)社-としたが,両社の間には競争と分業が同時に存在することに留意し,その関係の本質把握を前半部分で実施した。そこでは,HHML社がオートバイ,HMSI社がスクーターという従来の分業関係が,2004年より相互に相乗りする競争関係に変化したこと,同一の企業グループにありながら共同のローカル・サプライヤー開発や部品購入,マーケティングなどが実行されてないことより,ライバル性が見出された。ただし両社の製造品目は直接競合しないよう事前に協議されており,「管理された競争」状態がつくり出されているとも捉えられた。後半部分では両社のサプライヤーのデリーNCRへの集中を論じた。当地におけるサプライヤーの立地形態は両社の間で差異があり,HHML社ではグルガオン県への集中度が高いのに対し,HMSI社では分散傾向にあることが明らかになった。これはHMSI社設立時のサプライヤー開拓においてHHML社のそれと接点を持たなかったことが作用していた。近年では日系部品企業の進出等により両社のサプライヤーは共通化する傾向があることと,ローカル・サプライヤーはデリーNCR内での多所立地化を急速に進めていることが観察された。グルガオン県を核とするデリーNCRには,日系自動車企業と部品サプライヤーが累積的に立地しており,集積が集積をよぶ形で,インド最大のオート・ベルトが形成されている。
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