現在,ラオスの山岳地域ではアクセスの悪い高地から盆地や河川沿いなどの低地への移住が最重要の人口移動となっている。これにはインフラ整備などの農村開発事業を低地で重点的に実施し,高地での焼畑を抑制しようとするラオス政府の政策が関係している。本稿はこのような農村開発政策の是非を問うため,ルアンパバーン県シェンヌン郡カン川流域の高地村落であるフアイペーン村と,低地村落のフアイカン村の生計と土地利用を比較し,前者から後者への移住の意義と問題点を考察した。この結果,フアイペーン村では安定的な焼畑により飯米を確保した上で,家畜飼育などの市場向けの仕事にも従事し,その隔絶性にもかかわらず,ある程度の現金収入を得ている世帯も多いのに対し,低地のフアイカン村では焼畑の実施が困難で,飯米不足が一般化している上に,換金作物などの現金収入源もふるわないため,フアイペーン村からの移住世帯の多くがタイ系民族を中心とする低地社会の中で貧困化していることが明らかになった。さらに,こうした状況に対応するため,焼畑民の多くは高地と低地の双方を活用する生計戦略を採っており,農村開発政策はこれを支援すべきであること,そのためには高地と低地の間のアクセス改善や村落の境界問題への対応策が課題となることを示した。
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