余は健康なる28歳の勞働者が胸部挫傷後第6日目に自然喀出したる氣管軟骨輪を觀察せり. 余は茲に猥りに臆測を逞しくするものに非るも少く共一般臟器に見らるる通則を考慮し, 本症例の病歴, 喀出せる軟骨の性状及び組織學的所見より其の喀出機轉を按ずるに, 前胸部に強大なる壓迫を被りたる結果, 氣管中部に於て氣管輪に並行して横走裂創を惹起し, 二次的に感染して化膿性軟骨膜炎を招き, 更に軟骨膜下に嚢状の限局性膿瘍を生じ, 亞いで軟骨膜は剥離せられ周圍の健康組織と連繋を絶たれ, 元來血管を有せざる軟骨體は容易に腐骨片と化し膿瘍中に浮動するに至り, 軈て膿瘍の氣管内に穿孔するに及び自然に喀出せられたるものと解釋せんとす.
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