側頭骨内顔面神経麻痺に際して, 顔面筋によって易傷性, 麻痺回復能において差があるか否かを臨床的, また動物実験を用いて検討した. 臨床的研究では発症後2週間以内に受診した Bell 麻痺20例, Hunt 症候群10例, 計30例について, 眼輪筋と口輪筋の筋電図, 誘発筋電図, 強さ-時間曲線および顔面神経麻痺スコアを比較検討した. 動物実験ではモルモットを用いて, 側頭骨内顔面神経麻痺のモデルを作り, 両筋支配枝の神経興奮伝導の抑制時間と圧迫直後の反応域値を測定し, 更に両筋支配神経枝を形態学的に検討した. その結果, 以下の結論を得た.
(i) 眼輪筋の方が口輪筋より受傷性が高い.
(ii) 眼輪筋の麻痺回復能が口輪筋のそれに比較して遅延する.
(iii) 眼輪筋と口輪筋の受傷差は麻痺の程度や脱神経の程度の影響をうける.
(iV) 圧迫による側頭骨内顔面神経麻痺モデル動物においても, 眼輪筋支配枝の麻痺回復が口輪筋支配枝のそれよりおくれることが明らかにされた. また, 前者は後者より高い易傷性があることを証明した.
(V) 以上の両筋支配神経の受傷性の差の原因の1つは眼輪筋支配神経の神経線維の径が口輪筋のそれより大きいためである.
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