顔面腫瘍剔出手術とくに上顎癌の拡大手術では顔面皮膚に広範な欠損を生ずる例が勘くない. 腫瘍根治を目的とする以上, 術後の顔面皮膚欠損に拘泥の余り, 腫瘍剔出が不徹底となり治癒の可能性をも放棄するが如き姑息な考え方は許されない. しかし術後の顔表面の欠損による醜形は患者に著しい心理的負担となるばかりではなく, その社会復帰を不可能にする. このため一般に術後数ケ月または年余を経て, 欠損を補綴する手術が従来慣用されている. その多くは胸部, 腕部, 前額部などに作つた皮膚棒を煩瑣な手順で顔面欠損部に移動し閉鎖を計る. 現在まで報告されている各様の綴補例を通覧すると, あるいは完全に被覆し得なかつたり, あるいは著しい陥凹を生じたりして, 必ずしも満足な成果を挙げておらない. かくの如き失敗の因は, 術直後は比較的小さい欠損であつても, 術後経過とともに穿孔縁が萎縮し菲薄化して, 欠損が漸次拡大するため, 移動させた皮膚棒の縫着部位は栄養供給不足のため, 往々にして着床不良に陥る. またたとえ閉鎖が完成しても皮膚の凸凹不整のため, 必ずしも形成の目的を達し得ない事がある. 腫瘍剔出後に欠損部を直ちに閉鎖すれば, 術後の欠損の拡大も防止し得る筈である. ただ補綴材料の皮膚を何処から移動させるかが問題となる. 胸部, 腕部からでは移動に日数を要する. 従つて頭部, 前額下顎あるいは頸部などの近隣部位から有茎皮膚弁として移動させるのが合理的である. 一見当然と思われるこの一次的補修手術は主としてアメリカ文献にはごく少数の報告を見るが本邦において試みられた例をきかない. 今まで腫瘍剔出の術者はいわゆるablation opcrationのみを主体とし顔面欠損の如きは末梢的問題として無関心であつたとの批判は免れ得ない. 今回われわれは広範な上顎骨, 眼球剔出術における比較的広範囲な顔面欠損に対し, 術後直ちに前額部皮膚弁を以つて補綴し, 術後早期治癒を可能に対する術式を2, 3の症例に応用して良結果を得たのでここに報告する.
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