森林利用学会誌
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38 巻, 1 号
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特集巻頭言
総説
  • 今冨 裕樹
    原稿種別: 翻訳
    2023 年 38 巻 1 号 論文ID: 38.5
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/03/19
    ジャーナル フリー

    本研究はこれまでのわが国での林業労働に関するエルゴノミクス研究を調査し,今後の林業労働のエルゴノミクス研究のあり方,課題を提起することを目的としている。本研究では林業労働のエルゴノミクス研究に関して文献調査を行い,わが国で林業労働のエルゴノミクス研究が始まった大正中期より今日まで林業機械化の推移とともに内容を整理した。林業機械の変遷区分はⅠ期を明治から1945年,Ⅱ期を1946年から1965年,Ⅲ期を1966年から1985年,Ⅳ期を1986年から2005年,Ⅴ期を2006年以降とした。 その結果,第Ⅲ期から第Ⅴ期にわたる期間全体では,「労働負担の軽減・快適性追求」や「労働災害防止」に関する研究テーマが多いことが確認された。Ⅳ期以前は,「労働負担評価に関する研究」,「機械・装置の安全装備」や「機械器具の評価改良」が多かったのに対し,近年(Ⅴ期)では「安全教育・研修・技能向上」等,労働者育成をテーマとしたものが多かった。これらの結果を踏まえ,労働災害防止,労働安全衛生・健康管理,労働組織・体制の構築,教育組織・体制・制度の構築に区分し,今後取り組むべき課題を示した。

論文
  • 猪俣 雄太, 中田 知沙, 山口 浩和
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 38 巻 1 号 論文ID: 38.13
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/03/19
    ジャーナル フリー

    林業の傷害災害に影響を及ぼすと考えられる労働者の年齢,高性能林業機械の導入状況,立木サイズ,急傾斜地での作業,広葉樹の生産量を変数とした統計モデルを構築し,各変数が林業の傷害災害発生率に及ぼす影響を評価した。統計解析の結果,急傾斜地での作業は傷害災害発生率を上げ,高性能林業機械の導入は発生率を下げることが分かった。また,若年従事者の増加は傷害災害発生率を上げ,高齢従事者は傷害災害発生率を下げることが分かった。これらの成果より,傷害災害発生率の低減には,急傾斜地での作業を減らすこと,高齢従事者を増やし,若年従事者を減らすこと,高性能林業機械の導入することが,統計上は有効であることが示された。しかし,急傾斜地での作業や林業従事者の年齢を調整するのは困難であることから,傷害災害発生率の低減には,高性能林業機械の導入が現状では有効であり,更に傷害災害発生率を下げるには,若年従事者の傷害災害発生率を下げる必要性があることが分かった。

速報
  • 飛田 京子, 上村 巧, 武田 一吉, 志田 大輔
    2023 年 38 巻 1 号 論文ID: 38.23
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/03/19
    ジャーナル フリー

    2017年から2021年に発生した林業の死亡災害はチェーンソーによる伐木作業中の災害が61%と最も多く,その中でもかかり木処理中の災害が32%を占めている。かかり木処理作業のうち元玉切りは,法令等でも具体的な切込み位置や形状及び順序について示されておらず不明である。そこで本研究では,かかり木処理作業の安全性を向上させる方策を検討するために,アンケートによる作業現場での元玉切りに関する実態調査を行った。その結果,鋸断手順については30種類に分類され,元玉切りの別称については32種類の回答があった。これらのことから,元玉切りは統一された鋸断手順を示す言葉ではないことが分かった。また,鋸断手順と別称に一貫性はなく,地域や組織等の狭い範囲で元玉切りの鋸断手順が伝達されていることが伺える結果となった。

  • 中田 知沙, 猪俣 雄太, 上村 巧, 山口 浩和
    2023 年 38 巻 1 号 論文ID: 38.29
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/03/19
    ジャーナル フリー

    本研究はチェーンソーの水平把持に着目し,その精度の現状を把握することを目的とした。また把持高さと地面傾斜による影響を調査した。ガイドバーの長手方向の傾きのズレは,被験者の4割が2°以上で,かかり木や隣接木接触等による労働災害につながる可能性のある水平把持精度であることが分かった。被験者のうち初心者は刃先が下がりやすく,経験者は刃先が上がりやすい傾向が見られた。また,把持高さによる差は見られなかった。グループ間の技能の顕著な差はないと判断できたことから同じ母集団として地面傾斜やチェーンソーの把持姿勢,スロットル操作の指の違いによる影響を調べた。傾斜0°と10°ではガイドバーの傾きが有意に高く,チェーンソーの把持姿勢とスロットル操作の指の違いによる有意差は見られなかった。まずは安全な平坦地で訓練を行うことで,傾斜地でも水平を維持できるようになることが期待された。

  • 有水 賢吾
    2023 年 38 巻 1 号 論文ID: 38.35
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/03/19
    ジャーナル フリー

    今後林業従事者の不足が見込まれる中でカーボンニュートラルとして期待される森林のCO2吸収機能を発揮するためには,これまで以上に省力的かつ労働生産性の高い素材生産を目指すことが必要となる。労働生産性を向上させる手法の一つとして林業機械の荷役作業の自動化に着目した。本研究では荷役作業の自動化にあたって必要となる材の把持位置推定について,より省力的に学習モデルの作成が可能な物体検出手法を用いた材の検出と材の荷掴み位置の推定手法について提案し,適用可能な作業について検討を行った。結果として,材把持位置を径方向,材長方向,標高方向にそれぞれ最大誤差1.644,1.866,0.407 mで,RMSEが0.643,0.547,0.150 mで推定可能であった。物体検出手法を用いた材把持位置推定手法は適用範囲が限定され精密な作業には不適であることが示唆されたものの,複数物体追跡から推定把持位置の出力まで平均0.792秒と高速であることからセグメンテーションの前段階として周囲の材を探索する場合には有効である可能性が示唆された。

  • 滝沢 裕子, 伊藤 幸男, 山本 信次, 林 雅秀
    2023 年 38 巻 1 号 論文ID: 38.43
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/03/19
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,ドイツにおける林業事業体の作業種認定制度と林業労働者のチェーンソー技能認定制度(以下ECC)の実態の解明である。結果は次の3点である。1点目は,PEFC及びFSCは事業体に作業種認定を,労働者にチェーンソー技能の証明を義務付けていた。これは,認証林が森林面積の約8割を占めるドイツにおいて,多くの事業体が作業種認定を取得する必要があることを意味する。そして,外国人労働者の増加を背景にFSCは制度を強化し,チェーンソー作業を行う者へECCの取得を義務付けていた。2点目は,作業種認定は事業体が作業種別に取得するものであり,事業体の受託形態を反映している認定であることが明らかになった。3点目は,ECCはヨーロッパを中心に展開しており,レベルに応じて4段階に設定されていた。乾燥や虫等の被害木処理といった高度なチェーンソー技能を有する証明として最もレベルの高いECC4が設定されているが,ドイツにおいてはECC4の取得者が9割以上を占めていたことが明らかになった。しかし,ECC4の取得までにかかる費用は林業労働者の平均月給を超え,労働者にとって金銭的負担が大きいことが示唆された。

論文
  • 鈴木 秀典, 宗岡 寛子, 山口 智, 佐々木 達也, 山口 浩和, 毛綱 昌弘
    2023 年 38 巻 1 号 論文ID: 38.51
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/03/19
    ジャーナル フリー

    自動走行フォワーダは同一箇所を繰り返し走行するため,操作者が搭乗する有人走行と比較して路面の形状変化がより顕著になる。路面の形状変化を抑えた有人走行の特徴を明らかにすることで,変形を抑えた繰り返し走行が可能となり,自動走行における省力化,低コスト化が実現する。そこで,フォワーダによる自動走行と有人走行によって周回走行路を繰り返し走行し,走行後の路面形状と各走行の特徴を明らかにした。その結果,どちらの走行でも路面の沈下量よりも旋回による土の盛り上がり量の方が多く,自動走行では曲線部で土の盛り上がりが特に顕著となった。有人走行では同一箇所の繰り返し走行を抑え,多くは前回の走行位置から左右どちらかに0.2 m以上の差がついていた。このような走行は変形した路面をならす効果があったと思われ,自動走行でも同様の制御によって走行することが路面変形の抑制に有効といえる。しかし,車幅の他に左右0.2 m以上の走行幅と,さらに安全性を考慮した余裕が必要となり,急傾斜地などではこのような幅員の確保が難しいこともある。一方で,幅員を大きくする代わりに車幅の小さな車両を使用することは,全体の生産性を下げることにつながる。

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