森林利用学会誌
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特集巻頭言
  • 山口 浩和
    2024 年 39 巻 1 号 論文ID: 39.3
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/04/02
    ジャーナル フリー

    日本の人工林は本格的な利用期を迎え,国産材の供給量も増加傾向にあります。これらの森林資源を循環利用していくためには,主伐とその後の再造林をさらに進めていかなければなりません。労働力が減少している中において,国内の木材生産量を高めていくためには,高性能林業機械等を活用した作業システムの導入を進め,生産性を向上させていくことが不可欠です。また同時に,他産業と比較して10 倍高いといわれる林業における労働災害発生率を低減させることが急務の課題ともなっており,人力作業を機械に置き換えることで,森林作業の安全確保を図っていかなければなりません。高性能林業機械の導入台数(林野庁2023)は,令和元年に10,000 台を超えました。しかし,日本の森林の多くは山地にあり,世界のほかの地域と比較して急傾斜地の割合が高く,伐倒作業や造林作業は,その多くが未だに人力作業に頼っている状況です。いかに地形を克服するかが機械化において常に課題となってきました。これに対して,機械メーカーや研究機関ではさまざまな機械や技術の開発が試みられてきましたが,広く普及するまでには至っていませんでした。しかし,近年,新たな技術,あるいは技術の見直しにより,傾斜克服する試みがみられるようになってきました。そこで,2023 年度の森林利用学会の活動テーマには,改めて傾斜地で活用される機械,技術に焦点があてられることとなり,本特集号では「傾斜とたたかう機械」というテーマで特集を組むことと致しました。 38 巻1 号における原稿募集の案内では,「たたかう」は多様な意味をもたせるために,あえて「ひらがな」としているとされ,機械のみならず,作業システムや路網,そのほか,広く傾斜を克服するための研究に関する原稿を募集しました。その結果,論文1 報(山口ら2023),速報1 報(鈴木ら2023)が掲載されることになりました。 以下,簡単に内容をご紹介いたします。 山口らの技術論文は,再造林が進まない現状を打開するため,生産性向上と労働負担の低減を目的として,人力作業で行われている作業の機械化を図るため,作業者が手で保持しながら林地を移動する形の小型電動機械とアタッチメント型の作業機を開発し,現地への適用を試みています。その中で,小型機械でも荷物を積載した状態でも十分な登坂性能があり,走行部を1 輪とすることで機動性が大きく高まり,伐根等を容易に回避して林地を走行できることや,作業者が補助することで段差等の局所的な地形克服できることを示しました。また,安全な作業が何よりも重要であるという認識で,荷物を積載した下り斜面においても車両が滑走することがなく安全に運搬できることを確認しています。実証効果では,苗木の運搬作業,作業アタッチメントによる植栽作業ともに,開発した1 輪車を用いて労働負担が大幅に軽減されることを明らかにしました。本研究は,木材生産活動における脱炭素化が求められる中において,小型機械であるものの電動技術をいち早く取り入れたことにも特徴があります。 鈴木らの速報では,ライブスカイライン式軽架線集材を取り上げ,集材木の吊り上げ能力を確保するための作業条件について,搬器に働く力を静力学モデルにより検討しました。搬器の荷掛けフックを動滑車とし,作業索を取り回すことで,巻き上げ時に荷上げ力を倍力化し,搬器が元柱方向へ滑走することを防ぐ方式で,荷上げ時に搬器が係留するための条件を,現場の地形条件,横取りを含めた荷掛位置等の作業条件から,モデルを用いたシミュレーションにより明らかにするとともに,現場における実測試験の結果等からモデルの有効性を示しました。シミュレーションでは,動滑車を介さない1 倍力では係留力はほとんど発生しないが,2 倍力,3 倍力とすることで係留できる作業条件が増加すること,また主索傾斜角が大きいほど,横取り角が小さいほど,あるいは荷掛け位置が搬器から遠いほど,係留力が大きくなる結果となりました。一方,2 倍力,3 倍力では,1 倍力よりも作業索の引き出しに労力を要することになるため,実際の運用では2 倍力を基本とし,大径材等への対応時に3倍力を用いる方式が良いと提案しています。軽架線は,低投資で可能な集材システムとして小規模林業事業体でも取り入れることができるため,現場作業においてすぐ応用できる結果が示された報告であるといえます。 本特集号の掲載論文では,造林作業と伐出作業に関して,比較的小規模林業事業体でも導入しやすい実用的な機械に関する研究が紹介されました。これらの報告のほか,本テーマに関する近年の動きとしては,まずは10 年ほど前から海外でみられるようになってきたウインチアシスト(あるいはテザー)システムが,国内実証が始まったことがあります。ウインチアシストの考え方自体は,新しいものではありませんが,海外での適用事例が増えるにしたがって,日本でも技術が見直されることとなり,新たに林業用に開発されたものです。林地条件が欧州のような一様ではない「しわ」の多い日本の現場にどのように適応させられるのか,今後それらの報告が学会誌等で紹介されることと思います。また,電動技術が進展し全産業的にUAV の活用が進みましたが,林業においてもすでに森林計測や苗木運搬等において導入実績が増えてきました。さらに,試験的な試みではありますが,小型電動4 足歩行ロボットなども実証実験が行われています。かつては油圧式の6 脚歩行ロボットなども開発されましたが,電動技術によって動的歩行による移動速度向上や様々な状況に対する瞬時の対応力が進化し,実用的な技術となってきました。このように以前に検討された機械も,新たな技術との融合により見直された事例でもあります。 新たな機械や作業システムの導入によって,機械が人力作業に代わることができれば,生産性および安全性の向上が期待される一方で,新たなリスクも生じる可能性があります。これらについては,森林利用学会において議論を深めていき,新たな技術をより安全で効果的に利用するための作業条件や作業体系を示していく役割があるかと思います。 最後に,本特集号の発行にあたって,限られた期間で査読を行っていただいた皆様に,この場を借りてお礼申し上げます。

論文
  • 山口 浩和, 佐々木 達也, 猪俣 雄太, 中田 知沙, 上月 康博, 茅根 幸人, 櫛田 行宏
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 39 巻 1 号 論文ID: 39.5
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/04/02
    ジャーナル フリー

    伐採・搬出作業と比較して,これまでなかなか機械化が進まなかった造林作業の作業能率向上と労働負担の低減を目的として,電動オーガを搭載可能な電動クローラ型1 輪車を開発した。本機は,岩や伐根等が散在する急傾斜不整地において,障害物を避けながら自由に走行できる高い機動性と走破性を備え,60 kg の荷物を積載して30 度の斜面を直登方向,横断方向へ安定して走行することができた。また,荷物を積載した急な下り坂においても,機械が滑走することなく,安全に走行可能であった。本機を用いて,コンテナ苗の運搬および植栽に関する実証試験を行った。その結果,運搬作業では従来の人力作業の約2.5 倍の能率向上を確認した。一方,植え付け作業ではディブルを用いた人力作業と同程度の作業能率であった。これらの結果をもとに,1 日に植栽可能な苗木本数をシミュレーションで求めた結果,運搬距離が長くなるほど電動クローラ型1輪車を用いた作業において多くの苗木を植栽できることが明らかとなった。また,作業中の労働負担については,苗木運搬,植え付け作業ともに,1輪車を用いた作業の方が,主観的評価において楽だと感じる運動強度であることが分った。

速報
  • 鈴木 保志, 青木 遥, 吉村 哲彦, 山﨑 敏彦
    原稿種別: 速報
    2024 年 39 巻 1 号 論文ID: 39.15
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/04/02
    ジャーナル フリー

    主索式軽架線を動滑車の取り回し方式により1,2,3 倍力の3 方式に分類し,荷上げ時の搬器係留力を静力学モデルにより検討した。1 倍力では搬器係留力はほぼ発生しないが,2 倍力と3 倍力では荷掛けする材が搬器に対して一定程度斜面の下方にあれば搬器係留力が発生する。主索の傾斜角が大きいほど搬器係留力が発生する機会は多くなり,その数は1 倍力 < 2 倍力 < 3 倍力で,1 倍力と2 倍力の差に比べると2 倍力と3 倍力の差は小さい。スイングヤーダを用いて主索をライブスカイライン式とした全木間伐材の半懸架集材実作業で,2 倍力方式の搬器係留力の検証試験を行った。その結果,計測対象の8 サイクルにおいて,荷上げ索張力は1.4 ~7.3 kN で,実搬器走行までの荷上げ作業中,搬器係留力が発生していることを確認した。上側支点索張力は9.3 ~20.1 kN で,控索の併用でこの方式による生産性の向上が示唆された。

論文
  • 國分 大地, 岩岡 正博, 松本 武
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 39 巻 1 号 論文ID: 39.25
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/04/02
    ジャーナル フリー

    森林作業道において,重機の走行によって道の浸透能が低下することが指摘されていることから,森林作業道作設時の締固めによっても,路体支持力を高めることに加えて,雨水が路体に侵入しないよう遮水性を高めることができると考えられる。しかしながら,一般土木の盛土とは異なり,専用の機械ではなく油圧ショベルを用いて転圧していることから,必要な転圧力が得られているのか不明である。そこで,森林作業道作設に用いられる小型油圧ショベルの履帯に相当する接地圧で静的に締固めたときの,締固めの特徴と土の遮水性について明らかにすることを目的に,U字溝を用いた土槽を作成し,そこに投入した土におもりを載荷して締固めを行い,締固め回数と土壌硬度,ならびに不飽和透水係数との関係を分析した。その結果,土壌表面の硬度の上昇は,締固め回数3 回で頭打ちとなり,それは油圧ショベルによる締固めを行った作業道盛土の土壌硬度と同等であった。一方,圧力水頭2 cmH2O下での不飽和透水係数は締固め回数による変化は見られず10-3 cm/sの水準を示し,無制限に浸透することはないが,遮水性を発揮するまでには至っていなかった。

速報
  • 森山 誠, 瀧 誠志郎
    原稿種別: 速報
    2024 年 39 巻 1 号 論文ID: 39.31
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/04/02
    ジャーナル フリー

    近年の森林・林業分野における担い手不足の問題に小型無人航空機(UAV)やデジタル情報の利活用が注目されている。様々な形態のUAV とソフトウェアが発売される中,これらの組み合わせがどのように省力化を果たすのか明確となっていない。そこで垂直離着陸機,回転翼機のUAV と樹木計測機能を有するソフトウェアを用いて従来の調査手法と比較してどの程度省力化を見込めるか調査した。その結果,立木本数の測定においては,5 ha で最大約70% の作業時間減,10 ha で最大84% の作業時間減となると試算された。面積が増加すればさらに作業効率は向上すると考えられ,UAV とソフトウェアの活用は森林・林業の担い手不足解消に大きく貢献するものであると考えられた。

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