高性能林業機械を導入した素材生産事業体の経営負担となる経費を明らかにすることを目的に,事業体の機械にかかわる経費の負担認識と実際の経費の関係を考察した。宮崎県・大分県・熊本県の認定事業体を対象にアンケート調査による分析を行った。負担感は0~5点で評価してもらった。負担感の平均では,「導入費」,「修繕費」,「燃料費」,「社会保険料等」が高かった。「導入費」は負担感,経費構成の比率がともに高く,事業体の機械投資において重要な項目だと言えた。「人件費」は経費としては大きな比率を占めるが,負担感としてはあまり高くなく,必要経費と考えると経費削減の優先順位は低い。「修繕費」は経費の構成比率は高くないが負担感が高く,修繕作業の頻度が負担感を高めたと考えられる。修繕発生の抑制が必要である。また,「機械保険料」の負担感と経費構成の比率が低いため,保険加入による抑制は効果的と示唆された。「燃料費」の負担を低くするのは他の経費に比べると難しいが,現場条件に適した機械の配置が重要と言える。「社会保険料等」は負担感が高いものの,就労条件の整備は必要であるため,削減は慎重にすべきである。
鹿児島県内のシラス地域に開設された,中型トラックの走行を想定した作業道98路線について維持管理の実態を分析した。維持管理は開設後4〜6年をピークに実施されている。工種別箇所数では,伐開,不陸整正,敷砂利,コンクリート路面工で80%を占める。金額では路盤工のコンクリート路面工及び敷砂利で約90%を占める。1回あたりの維持管理費用は開設後の経過年数が経つほど増大する。シラス地域の作業道において累計維持管理費率は開設後16年目で開設事業費の25%以上が見込まれる。
台風などによる林道や作業道ののり面の崩壊は数多く発生しており,林道,作業道に適用可能なのり面保護工において,より優れた工法の開発は急務である。近年,BSC 工法と呼ばれる微細藻類を用いたのり面保護工が開発された。本工法は藻類の繁茂により土壌表面の緊縛力を高め,支持力の上昇と早期緑化を図る手法であるが,林道や作業道における適用事例は数少ない。そこで本研究では林道および作業道における微細藻類を用いたのり面保護工の機能評価を行うために東農大演習林(東京都奥多摩町)内の林道と作業道において微細藻類施工区と無施工区を設置し,流出土砂量,植被率,相対光量子量等の経過観測を行った。その結果,流出土砂量は施工区にて無施工区と比較して両試験区とも積算流出土砂量が16%以上減少した。植被率は植生繁茂が大きくなる夏の時点で無施工区よりも施工区で1.5 倍以上大きくなった。また,微細藻類の繁茂は相対光量子量の影響を受けることが示されたが,以上の結果から光環境が十分でない林道および作業道においても微細藻類によるのり面保護工の効果が十分に発揮されると考えられる。
小規模林業では簡易な手段による間伐材搬出等を通した森林整備が行われており,架線集材の場合には構造が単純で容易に架設できる主索式軽架線が用いられることが多い。主索式軽架線では搬器本体と吊り荷を確実に係留することで土壌攪乱など林地への被害や吊り荷滑落などの労働災害を防止できるため,軽量かつ架設や作業時の操作が簡単な軽架線用手動式係留搬器が開発された(矢部ら2019)。開発された搬器の性能評価のために集材試験を行った結果,1サイクルの平均所要時間は上げ荷293.6 ± 16.6 sec(平均値±標準誤差;n = 10),下げ荷278.7 ± 17.9 secとなり,下げ荷集材でも使用できる可能性があることが示された。吊り荷に近寄らなくても作業できるように改善され,動作自体も一通り動くことが確認されたが,実験中に横取りと引上げでローディングブロック係留不良によるタイムロスが多く発生したため,改良してタイムロスを改善する必要があると考えられる。この結果を踏まえて今後,小規模林業の活性化をはかるためにも現場試験を繰り返し,軽架線用手動式係留搬器の実用化をめざす。