日本森林学会誌
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105 巻, 6 号
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論文
  • ―埼玉県秩父地域を事例に―
    江田 星來, 立花 敏, 茂木 もも子
    2023 年 105 巻 6 号 p. 191-198
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    2019年に開始された森林経営管理制度の運用において市町村の業務負担増加・人員不足が指摘されている。その対応策として広域連携が期待されているが,その連携構造や導入による各主体への影響に関する研究は見当たらない。本研究では,本制度における広域連携の役割及び各主体の連携構造の解明を目的に,本制度を運用する専門組織を設立して1市4町を核に多様な主体が連携する埼玉県秩父地域を対象に,林野庁,埼玉県,1市4町,森林組合,林業事業体の担当者,また自伐型林業家,森林所有者へ聞き取り調査を行った。その結果,広域連携の役割では秩父市と集約化推進員が制度運用の中核を担い,連携構造では4町が自らの計画策定,埼玉県は助言やサポート,林業事業体は施業実施を行っていた。広域連携の結果として,4町の業務負担軽減,全体としての経費削減,情報アクセスの効率化,ノウハウの蓄積,運用の進展,小規模林業事業体の施業地確保等が見られた。他方,課題として秩父市の業務負担増加,出向元団体の業務量増加が見られた。以上から,本制度における広域連携の導入は総じて市町村の業務負担軽減に貢献すると推察された。

  • 徳地 直子, 岩崎 綾, 山口 高志, 久恒 邦裕, 中川 光, 家合 浩明, 牧野 奏佳香, 村野 健太郎
    2023 年 105 巻 6 号 p. 199-208
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    日本の窒素沈着量を長期的に把握するため,全国環境研協議会,環境省(庁),森林総合研究所,気象庁によるバルクあるいは窒素湿性・乾性沈着量を状態空間モデルを用いて解析した。窒素湿性沈着量は1988年には全国の中央推定値が6.0 kgN ha-1n=24),2000年には7.6 kgN ha-1n=92)に増加,2010年の7.6 kgN ha-1n=82)までほぼ横ばい,その後減少に転じ,2018年には6.2 kgN ha-1n=76)になった。状態空間モデルにより窒素湿性沈着量の中央推定値が,東部日本では2004年まで,全国と日本海側では2012年まで増加し,その後減少する傾向が示された。窒素乾性沈着は2003~2018年に継続的に観測された7地点で年平均6.0±0.1 kgN ha-1であり,湿性沈着と乾性沈着を合わせた窒素総沈着量は11.5±1.6 kgN ha-1,乾性沈着の割合は0.41~0.61であった。窒素累積沈着量は過去30年間で300 kgN ha-1を上回ったと推定された。

  • 小松 雅史
    2023 年 105 巻 6 号 p. 209-215
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス
    J-STAGE Data 電子付録

    東日本の広域で野生きのこに課されている,出荷制限のより効率的な設定・解除に資するため,同一市町村内で得られた種ごとの放射性セシウム(137Cs)濃度分布特性に着目した解析を行った。解析には2014年から2019年に東日本の各県で採取された7,920件の野生きのこの測定データを用いた。同一市町村で採取された種の137Cs濃度分布を見ると対数正規分布と見なすことが可能であった。対数正規分布のばらつきの指標である種・市町村ごとの幾何標準偏差を見ると,検体数が増えると収束する傾向がある一方,種によって2~3の幅で異なると考えられた。また,同一市町村で採取したナメコと他の種の137Cs濃度を比較したところ,幾何平均値の比は採取市町村によらず比較する種ごとに一定であり,種の濃度傾向は地域によらず共通であると考えられた。種のばらつきを考慮した濃度分布を見ると,幾何平均が10倍異なる種であっても濃度分布が重なる場合があった。一方で種が異なっても濃度の分布が非常に似通ったケースも認められた(例:ナメコとムキタケ,ブナハリタケとヒラタケ)。こうした情報は出荷制限や解除を考える上で重要な情報となる。

  • ―20年間の観測に基づく森林動態―
    平岡 裕一郎, 西村 尚之, 小山 泰弘, 岡田 充弘, 柳澤 賢一, 鈴木 智之, 新其楽図
    2023 年 105 巻 6 号 p. 216-224
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では亜高山帯針葉樹老齢林内に設定した1 ha固定調査区において,20年間の樹種・階層ごとのニホンジカ被害が林分動態と優占樹種の更新に及ぼす影響を明らかにし,今後の林分の存続可能性を検討した。林冠木(DBH 5 cm以上で林冠層近くに達する),下層木(DBH 5 cm以上で林冠層に達しない)および稚樹(DBH 5 cm未満かつ樹高1.3 m以上)の各階層における累積被害割合は2011年までに急増した。各階層の被害幹の69~88%に剥皮がみられた。死亡率は林冠木と下層木で2011~2016年に最も高く,稚樹ではほぼ横ばいに推移した。生残割合は樹種により異なり, 2020年までに樹種構成が大きく変化した。林冠木および下層木の肥大成長により胸高断面積合計は微増した。各階層への加入率は調査期間中にそれぞれ0.1%未満に低下した。2011年以降の死亡率と加入率に基づいた場合,林冠木の本数は68~90年後に半減すると試算され,被害程度が軽減されない場合,近い将来,森林の衰退につながる可能性が高いことが示された。

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