日本森林学会誌
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92 巻, 2 号
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論文
  • 杉元 貴信, 石井 弘明, 千葉 幸弘, 金澤 洋一
    2010 年 92 巻 2 号 p. 63-71
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    高齢林の成長動態を明らかにするため, 比叡山延暦寺の90年生ヒノキ林において伐倒調査および樹上計測を行い, 成長量に影響を与える樹冠部の枝葉量の垂直分布を非破壊的に推定した。枝葉積算量と梢端からの距離の関係に拡張アロメトリー式を適用し, その係数を胸高直径と樹高から推定する式を得た。樹冠における枝葉量の垂直分布は個体サイズの小さい個体では樹冠上側に偏り, 大きな個体では下側に偏って分布していた。調査地全体の枝量および葉量はそれぞれ18.3 および9.6 t ha−1であった。枝量は地上高16 mで最大値2.2 t ha−1 m−1, 葉量は地上高17 mで最大値1.2 t ha−1 m−1を示した。先行研究との比較から, ヒノキ林では高齢化に伴い, 林分枝量は約72年でピークを迎え, その後緩やかに減少するが, 葉量は維持されることが示唆された。一方, 枝葉現存量比は林齢とともに増加することが示唆された。
  • 松浦 邦昭, 中北 理, 小林 一三, 星崎 和彦, 太田 和誠, 田代 隼人
    2010 年 92 巻 2 号 p. 72-78
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    寒冷地等でのマツ材線虫病の被害の拡大を防ぐため, 病原線虫の媒介者マツノマダラカミキリ幼虫の穿入している被害木を見落としなく探査し, それらを駆除処理することが求められている。空中写真の利点を最大限に活用して枯損木を探査する技術を開発する研究に取り組んでいる。マツ材線虫病の進行を2種の空中写真 (ナチュラルカラーおよび赤外カラー) と地上観測により経時的に追跡するため, 30本のマツからなるマツノザイセンチュウ接種区を設けた。空中写真の解像度は12.5 cmで, この解像度で接種木の発病による樹冠の変化を個体別に追跡した。個別判読 (個体別の追跡) のためのキーは画像に写る樹冠の色, 形および, 地上に設けた航空標識との位置関係とした。草地の中に立つ接種マツは, 初秋に, 判読が困難な個体もあったが, 2006年10月の撮影ではすべての接種木の個別判読が可能であった。地上観測のために設けた8段階から構成される樹冠針葉変化区分のとらえかたは, 2種の空中写真で異なった。
  • 井上 真理子, 大石 康彦
    2010 年 92 巻 2 号 p. 79-87
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    森林および木材に関する多様な教育活動が行われているが, それらを俯瞰する教育内容の整理は未だに十分とはいえない。そこで本研究では, 森林教育の全体像を明らかにするために, 文献調査と森林体験活動の実態調査を行い, 森林教育が包括する内容の整理, 分類を行った。その結果, 森林教育の内容は4要素8項目に及ぶものであることが確認された。すなわち, 1) 森林資源: (a) 資源利用 (木工, 林産物利用など), (b) 森林管理 (林業作業など), 2) 自然環境: (c) 森林環境 (森林の働きの学習など), (d) 生態系 (自然観察など), 3) ふれあい: (e) 保健休養 (森林浴など), (f) 野外活動 (運動, 芸術的活動など), 4) 地域文化: (g) 地域環境, (h) 暮らしである。これらの要素には, 実態調査から得られた多様な森林体験活動の内容をあてはめることができた。森林教育には異なる内容の要素が含まれていたが, それぞれの要素の明確な区分は難しく, 重複した関係がみられた。森林教育に多様な内容が含まれる背景には, 森林がもつ多面的な機能と, 社会からの森林へ多様な期待とが考えられた。森林教育への今後の課題として, 教育目的の整理, 体系化と, 実施体制の確立が挙げられた。
  • 江藤 寛子, 佐々木 ノピア
    2010 年 92 巻 2 号 p. 88-92
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    近年, 温室効果ガス削減対策の一つとして, 再生可能エネルギーであるバイオマスの利用が注目されている。本稿では, 木質バイオマス利用による発電に着目し, 発電量が堅調に増加傾向である欧州各国 (ドイツ・スウェーデン・オーストリア・イタリア) における, 再生可能エネルギー政策に関する分析を行い, 木質バイオマス利用促進のために, 日本が導入するべき政策の検討を行うことを目的としている。分析の結果, 欧州各国の共通する政策として, 電力市場の全面自由化, 再生可能エネルギー利用による電力を優遇固定価格で買い取る制度, 優遇税制措置が導入されており, 木質バイオマス発電量が増加している。一方, 日本においては, 欧州と比較して, 木質バイオマス利用における促進政策が十分ではなく, 木質バイオマス発電が普及していないと考えられるため, 実質的な優遇制度の導入が必要であると考える。
  • 河合 洋人, 西條 好迪, 秋山 侃
    2010 年 92 巻 2 号 p. 93-99
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    竹林の面積変動と林縁拡大速度, 林縁における地下茎の伸長速度と成長年を比較検討した。対象竹林は岐阜県揖斐川町にあり, ダム建設のため1987年以降付近に住民はいない。竹林の面積は1982∼2006年の間, 拡大傾向にあり, 1992∼2003年の拡大が顕著であったが, これは周囲の樹木が1997年から2003年の間に伐採されて無立木地となったためである。林縁部10箇所における平均林縁拡大速度は1.35 m/年であったが1982∼1992年が1.07 m/年であったのに対して1992∼2003年は1.37 m/年, 2003∼2006年は2.16 m/年と林縁拡大速度が速くなった。したがって周辺の無立木地の出現が竹林拡大に大きく寄与したと考えられる。また地下茎は林縁部よりも2.8∼8m外側に先端があり, 年間伸長速度は1.92 m/年であった。2003年から2006年における林縁部の拡大速度と地下茎の伸長速度を比較した結果, 負の相関関係にあることが認められた (p<0.05) 。以上から, 竹林の急速な拡大傾向は続くものと思われ, 成長様式は地上部あるいは地下部の片方を重点的に成長させる様式である可能性が示唆された。
  • 市原 優, 升屋 勇人, 窪野 高徳
    2010 年 92 巻 2 号 p. 100-105
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    日本の冷温帯の代表種であるコナラとミズナラの堅果壊死の病原菌を明らかにするために, コナラとミズナラの壊死堅果に偽菌核を形成して発生するCiboria batschianaの病原性と発生生態を調査した。C. batschianaの菌叢をコナラとミズナラの堅果に接種した結果, 両種ともに堅果は壊死し偽菌核を形成し, 接種菌が再分離されたことから, C. batschianaにはコナラとミズナラの堅果を壊死させる病原性があることが確認された。岩手県のコナラ林では, 子嚢盤が発生した9月下旬に堅果が落下し, 10月には楕円形の一部壊死が認められ, 融雪後の4月には感染堅果のほとんどが偽菌核を形成していた。本菌は秋季にコナラ堅果に感染して病斑を形成し, その後融雪時期までに堅果全体を壊死させ偽菌核を形成すると考えられた。
短報
  • 宮嶋 大介, 吉井 エリ, 細尾 佳宏, 平 英彰
    2010 年 92 巻 2 号 p. 106-109
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    近年発見されたスギ雄性不稔新大8号の細胞学的・遺伝的特性を調査した。新大8号における花粉の分化は, 小胞子形成期まで正常に行われたが, その後の花粉有糸分裂に異常が生じ, 正常な花粉壁が形成されず, 核が消失して小胞子は崩壊した。また, 新大8号の戻し交配苗では, 不稔と可稔が1: 1に分離した。しかし, 新大8号と雄性不稔スギ富山不稔, 新大1号, 新大3号, 新大5号および新大7号との交配家系はすべて可稔であった。このことから, 新大8号の雄性不稔性は, これまで報告されている雄性不稔スギと異なる1対の劣性核遺伝子によって支配されていると考えられる。
  • 森田 えみ, 内藤 真理子, 西尾 和子, 石田 喜子, 菱田 朝陽, 若井 建志, 浅井 八多美, 浜島 信之
    2010 年 92 巻 2 号 p. 110-114
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    静岡県中西部地区において, 35∼69歳の人間ドック受診者を対象にして, 森林散策の頻度に関して自記式質問紙による大規模な実態調査を行った。解析対象者は4,666人 (男性3,174人, 女性1,492人: 平均年齢 (標準偏差) 52.1 (8.7) 歳) で, 森林散策をする頻度が月1回以上の人は, 男性では644人 (20.3%), 女性では259人 (17.4%), 年1回以上の人は男性では1,818人 (57.3%), 女性では798人 (53.5%) であった。性別では男性の方が, 年齢別では高年齢の人の方が, 有意に森林に高い頻度で行っていた。また, 森林散策が好きな人ほど有意に高い頻度で森林に行っていた。今後は, 都市公園の利用頻度も含め, 他地域での森林散策頻度も検討する必要があると考えられる。
  • 井田 秀行, 高橋 勤
    2010 年 92 巻 2 号 p. 115-119
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    2004年よりブナ科樹木萎凋病によるナラ枯れが顕在化している長野県飯山市では, 1750年にも同様の被害が発生していた。当時の様子は古文書に, 「神社の社叢において, 多数のナラ樹の葉が夏頃から変色し始め, 秋にほとんどが萎凋枯死した。虫は樹幹に加害しており駆除の手段がない」と記されていた。また, 対処法として, 被害発生の翌年, 直径19∼35 cm程度のナラ樹35本が売却され, 売上金が社殿の修復料に充てられたことや, 他の枯死木から約500俵 (約9.4 t) の木炭が作られたことが記されていた。これらの状況から, 当時の被害はカシノナガキクイムシが病原菌Raffaelea quercivoraを伝播して発生するブナ科樹木萎凋病による被害であると考えられる。すなわち, カシノナガキクイムシは江戸時代以前から我が国に生息しており, ブナ科樹木萎凋病は社叢のような大径木が多い立地で発生を繰り返していた可能性が高い。
  • 倉本 哲嗣, 平岡 裕一郎, 大平 峰子, 岡村 政則, 藤澤 義武
    2010 年 92 巻 2 号 p. 120-123
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    マツノザイセンチュウ接種後の生存率の年次変動の原因を明らかにするため, マツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ自然交配家系11家系に対する接種検定後の生存率について8年間の結果を検討した。その結果, 生存率は接種後8週間ならびに接種前後21日間の降水量との間に相関関係は認められなかった。しかし, 解析の対象とした11自然交配家系のうち7家系で, その家系が受粉した年の開花期の降水量が少ないほど統計的に有意に生存率が高かった。よって, 開花期の降水量の違いによってもたらされる花粉の飛散状況の違いが, 抵抗性クロマツ自然交配家系に対する接種検定の年次変動を生じさせる原因の一つである可能性が高いと予想された。
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