日本森林学会誌
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104 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
論文
  • 横尾 謙一郎, 阪上 宏樹, 松村 順司
    2022 年104 巻2 号 p. 65-73
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル オープンアクセス

    芽かきを実施し,長さ4 m以上の通直な幹に仕立てたセンダン林の現存量の推定精度を高めるために,16年生林分において層別刈り取りによる幹,枝および葉の分布を調べ,相対成長関係を検討した。用材生産に不可欠である通直な幹が長く,枝下高が高い個体は胸高直径が小さい傾向がみられた。一方,枝下高が低い個体であっても二次枝が枯れ上がることで葉が上層の狭い範囲に集中している個体では,10年生以降の幹の直径成長の抑制がみられた。また,これまでセンダンの幹材積推定には「立木幹材積表―西日本編―」の広葉樹Ⅰ類の幹材積式が利用されてきたが,幹の曲り部分を含んでいるという問題があった。そこで,センダンの幹の通直部分に加え,芽かきによって仕立てた用材として有用な無節部分(地上高0.2~4.2 m)の幹材積を推定する相対成長式を求めた。従来の広葉樹の幹材積式との比較から,本研究で導出した相対成長式は芽かきによる用材生産を目的としたときの幹材積を高い精度で推定するのに有効であると考えられる。

  • TAN JIAZE, 道中 哲也, 立花 敏
    2022 年104 巻2 号 p. 74-81
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル オープンアクセス

    世界の森林面積が減少を続ける中で,中国の森林面積は1980年代から一貫して増加している。本研究では,何がその原動力となったのかを社会経済要因に注目して明らかにする。森林資源と社会経済との関係性については多くの先行研究がある。この分野の研究に用いられる手法はパネルデータ分析を主にし,時系列データに対して単位根,共和分といった検定を行った研究蓄積は限定的である。そこで,本研究では中国の森林面積と社会経済要因に関する直近40年分の時系列データを用い,変数の定常性や共和分関係も考慮しながら自己回帰分布ラグモデルによる分析を行った。単位根検定の結果,すべての変数はI(0)過程またはI(1)過程であった。また,推定の結果,1人当たりGDP変化率は森林面積変化率に対して短期で正の影響を与えるが,長期では負の影響を与えること,農村人口変化率は短期でも長期でも負の影響を与えること,都市人口変化率と中国に対する海外直接投資については短期に正の影響を与えることがわかった。

    Editor's pick

    令和4年(2022年)日本森林学会誌論文賞
    この論文は、中国の森林資源動態を対象として、経済水準が森林面積に与える影響を、これまで試みられていなかった長期と短期の双方の視点を取り入れて、自己回帰分布ラグ(ARDL)モデルを導入して分析したものであり、この点に新規性と独創性が認められる。また、分析においては、丁寧な検討をした上で、計量経済学的に適切なモデルと検定を用いており、進歩性が認められるほか、このような長期と短期の双方の視点を取り入れたARDLによる解析は、将来的に学術分野の発展に多大な貢献をもたらすという点で高く評価できる。さらに、脱炭素社会に向けて森林動態の研究が国際的に注目される中で、中国を事例にして森林面積に対する複数の社会経済要因の影響を明らかにしたという点で社会的波及性もあり、将来的に持続的森林管理に向けた政策や投資などに関する一層の重要な知見をもたらすことが期待できる。

  • 李 婉, 伊藤 勝久
    2022 年104 巻2 号 p. 82-91
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,人々の森林意識と森林体験の特徴およびその関係を明らかにするため,日中における森林意識と森林体験についてアンケート調査を行った。分析の結果,森林意識と森林体験については日本と中国では明らかな差がみられた。日本においては森林意識と森林体験の年齢層別の違いがみられた。一方,中国では森林意識と森林体験は世代間の差がみられなかった。中国では義務造林という同一の「植樹体験」および学習による「概念的な体験」がすべての世代の共通の森林意識に影響している。日中の森林と人々の関わりの変遷を考慮すると,両国では各年齢層ともに小さい頃の森林体験が森林意識に影響していることが分かった。また,日中とも森林意識と森林体験について,地域別では差がみられず,各地域の森林資源状況に合わせたきめ細かな森林環境教育や森林体験プログラムが必要と思われる。

短報
  • 御田 成顕, 都築 伸行
    2022 年104 巻2 号 p. 92-98
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル オープンアクセス

    南九州地方における無断伐採(盗伐と誤伐)の発生状況を明らかにするため,無断伐採被害の報告のある自治体に居住する森林所有者(502名)を対象に,2020年にアンケート調査を実施し,161名(32%)の有効回答を得た。所有者の7%が無断伐採の被害経験があると回答し,12%が被害の有無を把握していなかった。所有者を被害あり,被害なし,被害の有無不明に分類し比較した結果,被害ありと被害なしの所有者の所有林に対する認知度は同程度であったが,登記がなされていない森林が被害を受けやすい可能性が示唆された。被害の有無不明の所有者は所有林の認知度が低かった。無断伐採被害者への聞き取り調査から,無届伐採,隣接地からの侵入および伐採届の偽造といった伐採届の不正使用が認められたことから,伐採届提出後の現地確認が必要であると考えられた。所有者の認知度が低い森林において,さらなる無断伐採の発生が懸念される。

  • 小林 裕之, 松浦 崇遠
    2022 年104 巻2 号 p. 99-105
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル オープンアクセス

    マツ枯れ被害木の早期発見と地上調査での見落とし防止を目的として,海岸クロマツ林の1区画(約130 × 40 m)において,光学カメラ搭載UAVとマルチスペクトルカメラ搭載UAVによる時系列観測と地上調査を行った。NDVIおよびRGB画像の目視判読により,2019年7月31日,8月15日,8月28日,9月18日でそれぞれ5,3,3,6カ所のNDVI低下域または樹冠の変色域が抽出され,9月17日までの地上調査によって確認されたマツ枯れ木26本のうち,16本がこれら17カ所の領域内とその近辺に存在した(検出率=61.5%)。空撮画像の判読による検出には一定の限界はあるが,約6割のマツ枯れ木を検出できれば,その周辺を精細に地上調査する契機となり,上空および地上からのクロスチェックによって見落としを防止できると考えられた。NDVI画像はRGB画像よりも2週間程度早く被害木を検出できる可能性も示唆された。

  • 伊藤 哲, 徳田 楓, 平田 令子, 栗田 学, 長倉 良守
    2022 年104 巻2 号 p. 106-110
    発行日: 2022/04/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    スギ挿し木コンテナ苗の出荷に適した根鉢形成状態を判断する指標として,根系による培地の表面被覆度合い(以下,表面被覆率)の有効性を検討することを目的として,コンテナ苗を用いた落下試験を行い,根量および表面被覆率と落下の衝撃で脱落する培地の割合との関係を調査した。その結果,脱落培地量を目的変数とした一般化線形モデルの結果では,表面被覆率を説明変数に採用したモデルが最適モデルとして選択された。また,コンテナ苗の根鉢の表面被覆率が高くなるのに伴って脱落培地率が指数関数的に減少した。以上の結果から,表面被覆率が挿し木コンテナ苗の根鉢強度の指標として利用可能であること,ならびに本研究で採用した培地の脱落量の許容基準(6%)に照らした場合,27%程度以上の表面被覆率がなければ最低限必要な根鉢強度が得られないことが示された。

その他:書評
その他:シンポジウム記録
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