世界の森林面積が減少を続ける中で,中国の森林面積は1980年代から一貫して増加している。本研究では,何がその原動力となったのかを社会経済要因に注目して明らかにする。森林資源と社会経済との関係性については多くの先行研究がある。この分野の研究に用いられる手法はパネルデータ分析を主にし,時系列データに対して単位根,共和分といった検定を行った研究蓄積は限定的である。そこで,本研究では中国の森林面積と社会経済要因に関する直近40年分の時系列データを用い,変数の定常性や共和分関係も考慮しながら自己回帰分布ラグモデルによる分析を行った。単位根検定の結果,すべての変数はI(0)過程またはI(1)過程であった。また,推定の結果,1人当たりGDP変化率は森林面積変化率に対して短期で正の影響を与えるが,長期では負の影響を与えること,農村人口変化率は短期でも長期でも負の影響を与えること,都市人口変化率と中国に対する海外直接投資については短期に正の影響を与えることがわかった。
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Editor's pick
令和4年(2022年)日本森林学会誌論文賞
この論文は、中国の森林資源動態を対象として、経済水準が森林面積に与える影響を、これまで試みられていなかった長期と短期の双方の視点を取り入れて、自己回帰分布ラグ(ARDL)モデルを導入して分析したものであり、この点に新規性と独創性が認められる。また、分析においては、丁寧な検討をした上で、計量経済学的に適切なモデルと検定を用いており、進歩性が認められるほか、このような長期と短期の双方の視点を取り入れたARDLによる解析は、将来的に学術分野の発展に多大な貢献をもたらすという点で高く評価できる。さらに、脱炭素社会に向けて森林動態の研究が国際的に注目される中で、中国を事例にして森林面積に対する複数の社会経済要因の影響を明らかにしたという点で社会的波及性もあり、将来的に持続的森林管理に向けた政策や投資などに関する一層の重要な知見をもたらすことが期待できる。