日本森林学会誌
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103 巻, 6 号
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論文
  • 渡辺 陽平, 白濱 千紘, 石田 清
    2021 年 103 巻 6 号 p. 379-390
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル オープンアクセス
    J-STAGE Data

    北日本の多雪山地における環境条件の背腹性(冬季季節風の風上・風下斜面間の環境や植生の違い)に対応した,ブナとミズナラのすみ分けの実態とその生成要因を解明することを目的に,青森県八甲田連峰内の八幡岳山稜に,稜線をまたぐように東西方向に2調査区(高木林区,低木林区)を設置し,毎木調査と生育環境の評価を行った。その結果,両調査区ともに環境条件や両種の個体数の割合に背腹性が認められ,積雪と土壌水分の多い場所にはブナが,それらが少ない場所にはミズナラが多く分布していた。また,両種の個体密度と環境要因との間の因果関係を推定するためにパス解析を行った。その結果,最大積雪深と土壌含水率,斜度が両種の個体密度に大きな影響を与え,また斜度は地形が急峻な低木林区の方が大きな影響を与えると推定された。また高木林区において,ミズナラ個体密度はブナ以外の樹種から正の影響を受けていると推定された。以上より,多雪山地における両種の局所的なすみ分けには主に積雪や土壌水分の背腹性が関与し,地形が急峻な場所では斜度も大きく影響していることが示唆される。また,他樹種がミズナラの分布に正の作用を与えている可能性が示唆される。

短報
  • 千葉 翔
    2021 年 103 巻 6 号 p. 391-394
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル オープンアクセス

    オオシラビソ種子の発芽に対する乾燥の影響を調べ,4℃および-20℃で貯蔵した種子の発芽率の推移を観察した。種子の含水率を4段階(無処理,9.9%;弱乾燥,7.1%;中乾燥,6.3%;強乾燥,5.1%)に調整して発芽実験を行ったところ,乾燥強度に応じて発芽率が低下する傾向はなく,どの処理でも7割以上の種子が発芽した。4℃で冷蔵貯蔵した種子の発芽率は,処理の違いに関わらず3年後に10%未満となった。一方,-20℃で冷凍した場合は貯蔵から3年が経過しても48.3~77.4%の種子が発芽した。以上の結果から,同種の種子は含水率を調節しての冷凍貯蔵が可能であり,2~3年とされる結実周期のカバーには氷点下での保存が有効と考えられる。

  • 井貝 紀幸
    2021 年 103 巻 6 号 p. 395-400
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル オープンアクセス
    J-STAGE Data 電子付録

    森林内におけるRTK-GNSS測量の水平誤差およびその誤差の低減に受信機の設定が及ぼす影響を明らかにすることを目的として,愛知県にある豊田市市有林2カ所にて調査を行った。その結果,RTK-GNSS測量の水平誤差は中央値が0.878 m,最大値が4.011 mであり, DGNSS測量よりも小さかった。この誤差の低減に,SNRと測位時間はほとんど貢献しなかった。また,仰角25°未満の衛星を測位演算から除外した場合,誤差はわずかに小さくなったが,最大で4 mを超えることもあった。森林内の所有界の境界測量において,許容誤差は0.9 m以内と考えられることから,森林内におけるRTK-GNSS測量では,この精度を満たさない場合があると考えられた。

  • 國崎 貴嗣, 白旗 学, 松木 佐和子
    2021 年 103 巻 6 号 p. 401-404
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル オープンアクセス

    過密なスギ若齢,壮齢林計5林分を対象に,樹冠長と直近5年間の平均胸高直径成長量との対応関係を調べた。林木の胸高直径成長がほぼ停止する胸高直径の閾値は林分で異なるのに対し,樹冠長の閾値はいずれの林分でも4.0 mとなり,樹冠長4.0 m未満の平均胸高直径成長量は0~0.04 cm/年と,全く,あるいはほとんど成長していなかった。樹冠長が4.0 m以上の林木を対象に,樹冠長から4.0 mを減じた差引き樹冠長と直近5年間の平均胸高直径成長量との関係を共分散分析で解析し,胸高直径を共変量とした共分散分析モデルと比較した。その結果,後者の自由度調整済み決定係数は前者のそれより明らかに高かった。スギ過密林での間伐木選定にあたっては,樹冠長4.0 m未満の林木を胸高直径成長停止木,樹冠長4.0 m以上の林木については胸高直径が大きいほど活力のある林木として判断すれば良いと考えられる。

特集「未利用木材利用可能量推計およびサプライチェーンマネージメント」
巻頭言
論文
  • 広嶋 卓也, 中島 徹, 鹿又 秀聡, 堀田 紀文
    2021 年 103 巻 6 号 p. 409-415
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル オープンアクセス

    再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度において,間伐材や林地残材からなる未利用木材による木質バイオマス発電に対して,調達価格が高値に設定されたことを受け,未利用木材の利用量は年々増加している。そして未利用木材の中で,間伐由来の原材料割合は約4割を占めることから,間伐材生産量の増減が未利用木材に与える影響は無視できない。以上を踏まえ,本研究では,既往モデルを利用して,FIT制度の電源調達期間である20年間にわたる,都道府県別・間伐材生産量のシミュレーションを行った。シミュレーションでは,47都道府県を,間伐量に応じて3グループに分類しグループごとに,モデルの主要パラメータである,間伐面積,間伐材搬出率について,2012年(実績値)から2032年にかけての変化の傾向を3通り作成した。一つは,2012年以降の時系列変化の傾向を延長した「すう勢シナリオ」で他は,パラメータの変化の増減傾向に仮定をおいた「間伐減退シナリオ」および「間伐増進シナリオ」である。これら三つのシナリオに従い,都道府県別の間伐材生産量がどのように変化するか調べた。各都道府県に共通して見られた傾向として,間伐材生産量は,間伐増進シナリオ>すう勢>間伐減退の順に大きく,2012年から2032年にかけて間伐増進シナリオは増加,すう勢は減少,間伐減退は大きく減少する結果となった。都道府県別に見ると,北海道,静岡,大分,鹿児島の4道県は,間伐材生産量が大きく,かつ今後さらに生産量を増やす余地があるという点で,今後の未利用木材の需要増に応える上で,重要度が高いと考えられた。

  • 松岡 佑典, 林 宇一, 有賀 一広, 白澤 紘明, 當山 啓介, 守口 海
    2021 年 103 巻 6 号 p. 416-423
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    本研究では,まず都道府県が管理する民有林の森林GISと林野庁が管理する国有林の森林GISを取得し,地域森林計画を基に施業条件を設定,傾斜や起伏量といった地形量から作業システムを設定した。次に,GISを用いて収穫コストの算出,スギ・ヒノキ・マツ・カラマツの木材売上,山元立木価格,造林費を用いて収支を算出した。最後に,FITで未利用木質バイオマス発電設備に認定され,2020年6月時点で稼働している日本全国の発電所を対象に,経済的に利益が得られる小班からの供給ポテンシャルを利用可能量として推計した。その結果,供給ポテンシャルは用材65,490,336 m3/年,未利用材13,098,067 m3/年と推計された。利用可能量は用材31,080,672 m3/年,未利用材6,216,134 m3/年と推計され,供給ポテンシャルの47.5%との結果を得た。また,未利用材利用可能量と需要量を比較した結果,需要量に対する利用可能量の割合は71.6%であった。ただし,再造林を担保するために造林補助率を100%として推計したところ,全国での需要量を満たす未利用材供給が可能になると推計された。

  • 酒井 明香, 石川 佳生
    2021 年 103 巻 6 号 p. 424-434
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル オープンアクセス

    木質バイオマス発電所の操業下における北海道の製材工場の原木調達の実態を明らかにした。2018年7月から8月に製材工場137社に郵送アンケート調査を実施しカラマツ材およびトドマツ材を主体に挽く84社の回答を用いて分析した。調査の結果,北海道の製材工場の約8割が,原木の曲がりや腐朽などを組合わせた独自の調達基準を設定しており,トドマツを主体に挽く工場の68%,カラマツを主体に挽く工場の40%が特定の径級や長さ,材質の確保等で原木調達に困難を感じていると回答した。製材工場が調達する原木の約7割は国有林と民有林から直送方式で納品されていた。また原木の仕分け工程は素材生産事業体に担われていた。発電所5社に燃料向け未利用木材の集荷方法について電話調査を行った。製材工場の9割が工場より片道100 km圏域から原木調達するのに対し,発電所は中間土場などの拠点から最大で片道250 km圏内から広域に集荷しており,前者と後者の多くが重複することが示された。両者の棲み分けのためには,短期的には原木の仕分け工程の徹底が課題であり,地域全体で強化する方法を模索することが重要であると思われた。

  • 守口 海, 白澤 紘明
    2021 年 103 巻 6 号 p. 435-442
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    熱供給・発電事業における木質バイオマスの利用が進むと,材積歩留まりや収穫木の平均単価,収穫・輸送費用が変化し,それに伴い,林業の収益性も変化すると予想される。そこで林業の収益性の変化が年供給量や年補助総額に与える影響を,補助林分の最適選定モデルを用いて分析したところ,次の結果を得た。①最大造林補助率を一定とする場合や年補助総額を一定とする場合は,収益性の改善に伴い造林補助を得て木材生産を行う林分が増加するため,年供給量が増加する。材積歩留まりの向上は,直接的な供給量の増加のほか,収益性の改善を引き起こすため,年供給量の増加率は材積歩留まりの増加率よりも大きくなる。また,最大造林補助率が一定の場合は年更新面積が増加するため,年補助総額は増加する。②年供給量を一定とする場合,収益性の向上により年補助総額は減少する。最適補助対象林分の選定において収穫・輸送費用よりも地位条件を重視するために,年更新面積も減少する。

短報
  • 斎藤 仁志, 佐々江 希望, 白澤 紘明, 松澤 義明, 植木 達人
    2021 年 103 巻 6 号 p. 443-448
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル オープンアクセス

    樹種別の造材歩留まりを推定し,木質資源の利用可能量に与える影響を検討した。カラマツ・ヒノキ・スギ・アカマツの樹種別造材歩留まりを推定するため,長野県内で行われた搬出作業の結果から伐採量と販売量を把握し,造材歩留まり推定した。その結果,主伐ではすべての樹種において,造材歩留まりが従来値よりも低くなり,間伐では,アカマツ以外の樹種で従来よりも高い値となった。また,集材方法別では,車両系集材の方が架線系よりも高い値となった。この結果を用いて,樹種別に造材歩留まり考慮した場合と,従来通り一定値とした場合とでそれぞれ木質資源利用可能量推定を行った。その結果,従来方法の推定よりも,カラマツ,ヒノキ,スギでは利用可能量が増加し,アカマツでは利用可能量が減少することが明らかになり,造材歩留まりの正確な推定が重要であることが示された。

  • 福田 雄治, 鈴木 保志, 飯國 芳明
    2021 年 103 巻 6 号 p. 449-454
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    木質バイオマス発電用材の供給を目的として既報で構築した架線集材による針・広葉樹林の同時伐採モデルをGIS(地理情報システム)に適用し,地理空間上でこの方式の適地を特定する手法の開発を,高知市土佐山地区を対象として試みた。手順は,1)架線架設に適した一定以上の面積の谷形状の区域を表す集水域ポリゴンにより対象地域の林分を区分し,2)トラック運材を考慮し幅員3 mの道路に隣接する集水域ポリゴンを抽出した。その後,当該モデルの集材面積を超える集水域ポリゴンのみに分析対象を絞り込み,3)さらに保安林などの伐採制限や樹種・樹齢を考慮して残った集水域ポリゴンのha当たりの収益性を分析した。その結果,4)対象地域で再造林費を賄う以上の収益性が確認された林分1,908 haからの建築用材および燃材としての木質資源の供給可能量は,建築用材153千 m3,燃材154千 tと推算された。

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