日本森林学会誌
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91 巻, 6 号
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論文
  • 曽根 晃一, 畑 邦彦, 永野 真一朗, 中野 寛之, 林崎 泰, 森田 茂
    2009 年91 巻6 号 p. 377-381
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    MEP-MCの空中散布によるマツノマダラカミキリ成虫の死亡率を推定するために, 2004年から2006年にかけて鹿児島県桜島の10カ所のクロマツ林分で, 誘引トラップを用いて成虫を捕獲し, 捕獲した成虫からMEPを検出した。散布地域とそれに隣接する林分では, 2004年は薬剤散布終了後39日, 2005年は51日, 2006年は33日目までの捕獲個体からMEPが検出された。MEP検出個体は, 2004年は散布終了4日後, 2005年は散布終了5日後に, 散布地域から4∼5 km離れた林分でも捕獲された。散布地と非散布地での成虫の捕獲状況と捕獲成虫からのMEP検出状況をもとに算出したMEPによる成虫の死亡率は, 散布地では2005年は62%, 2006年は76%, 散布地に隣接する林分では2005年は62%, 2006年は66%と推定された。これらの結果から, MEP-MCの空中散布はマツ材線虫病拡大に対し, 予防効果をもっていると考えられた。
  • 杉田 久志, 高橋 誠, 島谷 健一郎
    2009 年91 巻6 号 p. 382-390
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    青森県八甲田ブナ施業指標林において, 伐採前後における種子落下量, 稚樹の発生消失・成長データならびに伐採後約30年時の更新状況調査から, 天然更新施業におけるブナの更新過程を考察した。1976年に顕著なブナの豊作があり, その前年に皆伐が行われた第1区では伐採時のブナ稚樹本数が約3万本/haであったが, その翌年, 2年後に皆伐母樹保残が行われた第2区, 第4区ではそれぞれ約43万本/ha, 26万本/haであった。1986年に生存していた更新木のうち伐採前に発生したものの割合はそれぞれ98, 97, 78%であり, 第1区以外は大部分が1976年豊作由来であった。伐採から約30年後には, 第1区のブナ密度は標準的なブナ二次林と比較すると疎であったが, 第2区と第4区は密であった。地床処理の有無, 種類による更新木本数のちがいは, 30年間を通してほとんど検出されなかった。以上のことから, この試験地では保残木が母樹としての役割を果たさず, むしろ前更更新により更新林分が成立したことが判明した。
  • —四国西部地域を対象にして—
    藤井 多起, 垂水 亜紀, 藤原 三夫
    2009 年91 巻6 号 p. 391-397
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    過疎高齢化が進む農山村では, 自治機能低下や資源管理放棄が生じ集落の衰退が危惧される一方, 都市住民の移住・就農就林意向が高まっており, 集落活性化の一つとして移住の推進が注目されている。移住者の定着には不動産の保有と住民との親和, すなわち農山村住民が不動産提供と受入の意向をもつかが重要な要因となる。そこで本研究では移住者受入許容集落の特性把握を目的に, 四国西部でのアンケート調査から四つの集落タイプを抽出し, あわせて農業集落カードの分析から集落差の要因を検討した。その結果, 兼業化が進み自力での集落維持を目指す「活力維持集落」では積極的な受入意向がみられ, 耕作・施業放棄が進む「衰退傾向集落」, 山間地に立地する「守旧的集落」, 公的組織の斡旋希望がみられる「公的支援依存集落」は移住者受入意向が弱いか, 農山村不動産の売貸対象に移住者が想定されにくい。つまり, 集落維持意向と資源管理の現状および展望とで移住者受入意向が異なり, それらが集落存続に影響すると考えられた。
  • —地質および降雨特性の異なる3サイトにおける観測結果の解析—
    宮田 秀介, 恩田 裕一, 五味 高志, 水垣 滋, 浅井 宏紀, 平野 智章, 福山 泰治郎, 小杉 賢一朗, Sidle Roy C., ...
    2009 年91 巻6 号 p. 398-407
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    森林斜面におけるホートン型表面流の発生に寄与する要因を検討するため, 地質や降雨特性の異なる3カ所の試験地 (高知・三重・東京) のヒノキ, スギ, 広葉樹林斜面のプロットにおいて表面流出量を観測した。すべてのプロットにおいて表面流が発生し, 流出率は樹種間の差よりも試験地間の差が大きかった。降雨強度と浸透強度の関係式から求めた各プロットの表面流出指標は, 斜面勾配, 表層土壌の飽和透水係数と明瞭な関係を示さず, 林床被覆率が高く, 表層土壌のシルト・粘土含有量が小さいほど表面流出指標が小さい傾向がみられた。雨水浸透を阻害する土壌孔隙の「目詰まり」に対して, 林床被覆は雨滴衝撃を防ぐことで「目詰まり」発生を抑制し, 表層土壌のシルト・粘土は土壌孔隙を「目詰まり」させる材料として寄与すると考えられた。
総説
  • 柴田 英昭, 戸田 浩人, 福島 慶太郎, 谷尾 陽一, 高橋 輝昌, 吉田 俊也
    2009 年91 巻6 号 p. 408-420
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    日本の森林生態系における物質循環と森林施業の関わりについて, 既往研究をレビューした。これまで, 森林伐採が物質循環や水質形成に及ぼす影響については, 伐採後に樹木の養分吸収が低下することによって, 河川へ硝酸態窒素が溶脱することが示されてきた。一方, 北海道北部における伐採後の林床植生による窒素養分吸収や, 関東北部での火山灰土壌における硝酸吸着, 流域水文過程に伴う河川水質変化など, 日本における特色あるプロセスについて報告されている。また, 急傾斜地における森林施業の結果として斜面崩壊が生じることで, 流域生態系の水文・水質形成過程が影響されることも示唆された。さらに, 河畔緩衝域での窒素除去, 河川流路内での栄養塩スパイラル, 里山における森林管理と物質循環変化など, 生態系境界域での研究が重要であることが指摘されている。今後は, 地域ごとの特性を考慮に入るとともに, 施業影響下での物質循環モデルのパラメタリゼーションなどをさらに推し進めることが重要である。
特集 キクイムシとその関連微生物
—森林がはぐくんだ見えざる生物多様性—
巻頭言
総説
  • 伊藤 昌明, 梶村 恒
    2009 年91 巻6 号 p. 424-432
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    近年, さまざまな分子マーカーを用いて, 系統地理を検証する研究が種々の生物で行われてきた。キクイムシ類では, 樹皮下穿孔性キクイムシを中心に系統地理解析が進んでいるが, 最近, 養菌性キクイムシでも着手されるようになった。本総説では, 樹皮下穿孔性キクイムシ3属9種, 養菌性キクイムシ1属2種の研究例を紹介する。樹皮下穿孔性キクイムシでは, キクイムシの分布形成と寄主植物の分布変遷との相関について検証し, 養菌性キクイムシでは, 地史的要因が分布形成に及ぼす影響について考察した。最後に, キクイムシの遺伝的構造を総合的に比較し, その分布を決定する要因について議論するとともに, 今後期待される研究の方向性を提示した。
  • 升屋 勇人, 山岡 裕一
    2009 年91 巻6 号 p. 433-445
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    菌類が関連していないキクイムシは存在しない。キクイムシ関連菌の中には子嚢菌類や担子菌類といった非常に多様な菌類が含まれる。その中で経済的, 生態的重要性からオフィオストマキン科, クワイカビ科の菌類に関する研究が進んできた。アンブロシア菌は養菌性キクイムシと絶対的共生関係にあるが, 系統的に異系のグループであることが近年になって判明してきた。またオフィオストマキン科, クワイカビ科にそれぞれ近縁であることも明らかになってきた。両科は樹皮下穿孔性キクイムシの主要な随伴菌としても知られ, 直接的, 間接的にさまざまな共生関係を樹皮下キクイムシと結んでいる。キクイムシは進化の過程で養菌性を複数回進化させてきたが, 菌類は自身の系統とは無関係にキクイムシと共生関係を結んできたと考えられる。そして結果的に, キクイムシ随伴菌はキクイムシの主要栄養源として機能する絶対的共生関係から, 宿主樹木に対する病原力をもってキクイムシの繁殖戦略に貢献する共生関係まで, 非常にさまざまな関係を結ぶことになったと考えられる。
  • キクイムシ関連線虫研究の現状と今後の課題
    神崎 菜摘, 小坂 肇
    2009 年91 巻6 号 p. 446-460
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    ゾウムシ科 (Curculionidae) は線虫の媒介者, 寄主として最も重要な昆虫グループの一つである。中でも, 樹皮下キクイムシ類については多くの研究がなされており, 合わせて 100 種以上の寄生性, 便乗性線虫種が記載されている。また, これらのうち一部の寄生性線虫では生態が明らかにされ, 生物的防除資材としての利用の可能性も示されている。一方, 樹皮下キクイムシ類と非常に近縁な養菌性キクイムシ類から報告された線虫は非常に少なく, これまでに命名されているものはわずか7種である。樹皮下キクイムシ類と養菌性キクイムシ類の生活環境を比較すると, 食餌菌類の利用様式以外に特別大きな違いはみられず, 線虫相にここまでの差がみられる理由は明らかではない。また, Ruehmaphelenchus 属のように, これまでに養菌性キクイムシからのみ検出されているものがみられるなど, 養菌性キクイムシに特化した線虫グループが存在している可能性がある。しかし, キクイムシ類と線虫の関わりはいまだ明らかになっていない点も非常に多く, 今後, 線虫相や, その進化的背景を解明していく必要がある。
  • 岡部 貴美子
    2009 年91 巻6 号 p. 461-468
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    キクイムシとダニの相互関係は, ダニによる便乗, 寄生, 捕食, および (便乗以外の) 片利共生や相利共生などである。最も歴史が長く一般的な関係はダニが移動分散のために他の生き物にヒッチハイクする便乗であり, 寄生をはじめとするより長期的な共生関係が進化したものと考えられた。共生や捕食などの相互関係は, トゲダニ, ケダニ, コナダニ, ササラダニの4亜目に認められ, それぞれ独立に始まったと考えられた。捕食性のダニはキクイムシ未成熟ステージのほか, 他の昆虫や線虫も摂食するものが多く, 餌としての選好性は低かった。キクイムシの卵や幼虫を捕食または捕食寄生するダニがキクイムシに便乗することが普通であり, ダニによる個体群動態へのインパクトは低いものと予想された。これまでに知られているキクイムシとダニの相利共生は直接的ではなく, 菌や線虫, 他種のダニなどを介した間接的なものであることが示唆されている。これらのことからキクイムシとダニおよびその他の微生物を含む相互関係は, ハビタットの共有が起点となっていると考える。
  • 食性と繁殖様式に関する研究の現状と展望
    上田 明良, 水野 孝彦, 梶村 恒
    2009 年91 巻6 号 p. 469-478
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    キクイムシ類 (キクイムシ亜科とナガキクイムシ亜科) の生態的多様性を, 食性, 配偶システム, 坑道型, 社会性の多様性から論じた。食性は, 植物のさまざまな部分に穿孔して基質そのものを食べるバークビートルと, 木質部へ穿孔して坑道に共生微生物を栽培しこれを食べるアンブロシアビートルに分けられる。配偶システムは, メス創設の一夫一妻, 同系交配の一夫多妻, ハーレム型一夫多妻, オス創設の一夫一妻に分けられる。また, 特異的な繁殖として, 半倍数性の産雄単為生殖と精子が必要あるいは不要の産雌単為生殖もみられた。坑道型は, 配偶システムと食性の両方の影響をうけて多様化していた。また, 社会性の発達についても論じ, ナガキクイムシ亜科のAustroplatypus incomperusのメス成虫が不妊カーストとなる真社会性の観察および, カシノナガキクイムシ (Platypus quercivorus) 幼虫の利他行動の観察例を紹介した。最後に, 直接的観察によるキクイムシの坑道内での生態解明とそのために必要な人工飼育法開発の重要性について論じた。
  • 後藤 秀章
    2009 年91 巻6 号 p. 479-485
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    日本産キクイムシ類の分類について, これまでの研究史を述べるとともに, キクイムシ類研究の基礎的資料として, 日本産キクイムシ類の学名, および和名のリストを作成し, その中で5種について新たに和名を与えた。その結果日本産のキクイムシ類はキクイムシ科302種, ナガキクイムシ科18種が記録されていることがわかった。
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