森林内の様々な構成要素(樹冠や落葉層,土壌など)に分布する放射性セシウムが地上1mの空間線量率に寄与する程度を定量的に把握した。計算には,2011年から2014年までの福島県内4カ所五つの林分で取得された枝葉,落葉層,鉱質土壌層の放射性セシウム蓄積量を用いた。2011年の空間線量率は,落葉層,鉱質土壌表層(0~5cm),および自然放射線に加えて,樹冠層の寄与が大きかった。しかし,2014年には,空間線量率に対する樹冠層の寄与率は3%以下となり,落葉層と鉱質土壌表層(0~5cm),および自然放射線を合わせた寄与率が88%以上となった。このことは,2014年以降においては森林内の落葉層と鉱質土壌表層(0~5cm)および自然放射線を用いることにより,森林内の空間線量率が概ね再現できることを示唆する。また,これら林分において落葉層除去前後の空間線量率を推定したところ,事故後4年が経過した林分であっても,落葉層それ自体のガンマ線遮蔽効果よりも落葉層に含まれる放射性セシウムの除去による空間線量率の低下効果の方が高いため,落葉層の除去は森林内の空間線量率を低減させる効果があることが示された。
ブナ林が卓越する豪雪中山間地にある長野県飯山市においてブナ堅果の特産物としての有用性を検討した。市内で行った11~17年間の堅果生産量モニタリングの結果,豊作ないし並作の頻度は極相林分で隔年,里山林分で2~4年ごと,孤立林分で17年間中1回であった。胚の一般成分は100g当たり水分6.3%,蛋白質22.7%,脂質49.9%,炭水化物17.3%,灰分3.8%であり,抽出油の酸化安定性は市販のクルミよりも高かった。市内最大の里山ブナ林(約5.5ha)における豊作時のブナ堅果の賦存量を2015年の生産量をもとに試算すると約8t(約800万円相当)となった。ブナ堅果の資源管理のあり方としては,極相林では豊作ないし並作時に広場等に落下した定着可能性の低い堅果を採取し,里山林では積極的に堅果採取を行うことで林分の再利用を促進し,孤立林では採取せずブナ個体群を保全することが望ましいと考えられた。以上からブナ堅果の有用性はある程度認められたが,特産物として利用を持続させるには適切な資源管理の下で高付加価値化に向けた工夫を行うことが重要である。
近年,山間地などを中心に全国で温浴施設等への薪ボイラーの導入事例が見受けられるようになった。薪は製造が簡単であるというメリットがある一方で燃料投入を人力に頼るため,一定規模以上での利用は不向きであるとされ,100kW以上の規模での事例研究は限定的である。本研究では二つの100kW以上の薪ボイラー導入事例を対象に調査を行った。結果,(1)灯油ボイラー使用時と比較し燃料コストが削減されており,木質エネルギーへの代替率も70%を超え,(2)予測通り人力での薪の投入は薪ボイラー使用者への負担となっている。一方で,(3)薪投入によって追加的な人件費が発生するといった経営面への影響は見受けられず,(4)熱提供の形態によっては利用者側の負荷を軽減できる可能性があることが明らかとなった。
将来木施業(残す木の成長を妨げる準優勢木を主に間伐する方法)を施した人工林における表土移動特性とそれに関係する要因を明らかにするため,樹種(スギ,ヒノキ),林冠閉鎖,傾斜,地形の4要因各2水準の組み合わせで解析できるよう林床に土砂受け箱を設置して表土移動量を3年間観測した。また物質移動レート(g m-1 mm-1)を指標として従来型施業が行われた既往の研究事例と比較検討した。4要因に粒径と観測期間を加えて分散分析を行った結果,表土移動量の大小には,観測期間の違いが大きく寄与しており,各期間の降雨強度の違いが影響していると考えられた。間伐施業の影響が残る観測初年は,表土移動量の増加要因が重なる箇所で林内崩落があり全体的に物質移動レートが高かったが,時間経過に伴い減少した。ヒノキ林は下層植生の回復度合いが大きかったが落葉落枝の被度が低く,物質移動レートは高かった。従来型施業事例と物質移動レートを比べると,スギ林では同程度であったがヒノキ林ではより高い結果となった。将来木施業を行うとしても,落葉落枝の少ないヒノキ林では準優勢木以外の間伐木も増やして植生回復を促し,表土流亡を抑制する必要があると考えられた。
放射性セシウムの空間分布の実態を評価し,空間分布に影響している要因を検討することを目的として,2011年と2012年に茨城県北端の落葉広葉樹林内に61個のリタートラップを設置し,回収したコナラ落葉の放射性セシウム濃度を測定した。落葉の放射性セシウム濃度と落葉採取地点の斜面方位,傾斜度,落葉量の関係を調べたところ,2011年において,コナラ落葉の放射性セシウムの空間分布は一様ではなかった。東向き斜面の落葉の放射性セシウム濃度は西向き斜面の落葉のものよりも高く,また落葉量が大きいほど落葉の放射性セシウム濃度が高かった。2012年においても,空間分布の偏りは小さくなったものの同様な傾向がみられた。これらの原因としては放射性セシウムが原発事故時に大量放出された際の風向きが調査地付近では東風であったことなどが考えられた。
低密度植栽がスギ人工林の林分構造と成長に及ぼす影響を明らかにするため,1,000,2,000本ha-1 および従来の植栽密度の2,500本ha-1 で植栽後,11年が経過した秋田県の林分において調査を行った。1000本区ではスギ植栽木の胸高直径および直径成長量の平均値が有意に大きかった。しかし,樹高も1000本区で高い傾向を示したこと,形状比と生枝下高に植栽区の間で差が認められなかったことから,植栽密度がもたらす個体間競争の違いが植栽木のサイズと形状に及ぼす影響は現時点では限定的と考えられた。曲がりや二又などの形質不良木の割合は,植栽密度が低いほど高くなる傾向を示した。1000本区と2000本区ではスギ以外の天然更新木の幹密度が全立木密度の40%以上に達し,スギの樹高の中央値を上回る幹が従来区に比べて多かったことから,天然更新木による被圧がスギの樹高の顕著なばらつきをもたらしている可能性が示された。
全国に点在しているヤクスギ円盤の基礎情報を収集し,それらの整理を行った。その結果,ヤクスギとして展示されている円盤の総数は88点,54個体であった。そのうち1,000年以上のいわゆるヤクスギの円盤は,54点で23個体であること,さらに最も多い年輪数は約2,000であることがわかった。