日本森林学会誌
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91 巻, 2 号
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論文
  • 稲葉 誠博, 近藤 観慈, 沼本 晋也, 林 拙郎
    2009 年 91 巻 2 号 p. 63-70
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    1水年を通して日蒸発散量を算出する短期水収支法を提案し, 三重大学大学院附帯施設演習林ぬたの谷流域における日蒸発散量を算出した。提案した短期水収支法は, 流況曲線の95日目から365日目の範囲に等間隔に設定した複数の規準流出量, 出水日数を2日以上, 水収支期間を10日以上100日以内とする条件からなる。本解析法を適用した結果, 1水年を通して日蒸発散量が算出された。本解析法の設定条件を変えて算出される同一水年における年蒸発散量の較差は5.2%以下であった。本解析法の設定条件は流況に応じて調整することが可能である。
  • —岩手県一関市大東町旧鳥海村地区の共有林を事例として—
    佐々木 一也, 岡田 秀二
    2009 年 91 巻 2 号 p. 71-78
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    市町村合併と共有林との関わりおよび共有林の展望・課題を明らかにする立場から, 一関市大東町の旧鳥海村地区を事例として取り上げ, 以前と現在の共有林の状況を概観し, 市町村合併に伴う展開の整理を行った。調査は, 聞き取り調査, アンケート調査および資料・文献調査によって行った。結果として, (1) かつて入会慣行が存在した共有林も経営的には低調であったこと, (2) 市町村合併に伴って186 haの林野が正式に地元地区の所有となったことを機に, 地区内の共有林の管理運営組織を一元化する方向付けがなされたこと, (3) (2) について地元住民の理解度は高く, 地域自ら林野の支え手となる意識がある一方, 他の主体との関わりを受け入れる意識が低く, また森林の公益的機能発揮に対する期待が高いこと等が明らかになった。共有林という地域資源の有効活用を図る上で, 森林のもつ多面的な機能に注目し, 他の主体との連携も視野に入れた幅広い視点からの利活用策の検討が重要な課題となろう。
  • 和田 覚, 金子 智紀, 八木橋 勉, 杉田 久志
    2009 年 91 巻 2 号 p. 79-85
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    多雪環境下にある秋田県内の三つの小流域において, スギ人工林を対象に, スギの成林状況と広葉樹の侵入による混交林化の程度に影響を及ぼす要因を分析した。スギの密度や樹高成長は標高の増加に応じて低下し, 標高約650 m以上になると, 密度は標準値を下回るようになり, 上層木平均樹高は地位5級 (地位の最下位) の樹高曲線の値を満たさなくなった。三つの調査流域のスギ人工林内には, ミズキ, コシアブラ, リョウブ, ウワミズザクラ, ブナ, ミズナラなどの多様な広葉樹が共通して出現した。標高が増すにつれてスギ林の不成績化と広葉樹の侵入による混交林化が進む一方で, ササ類の密度も高くなり, 広葉樹の侵入・定着が阻害される場合もあった。標高870 m以上では人工林としてはもちろん混交林としても成林している状況になかった。以上の結果から, スギ人工林の経済林としての維持管理を流域スケールで効率化するためには, 標高約650 m以下, 最深積雪深およそ2.0 m以下の範囲に重点をおくことが有効である。これより高標高に存在する人工林については機能の重点を経済林から環境林へとシフトさせていく必要があると考えられる。
  • 作田 耕太郎, 谷口 奨, 井上 昭夫, 溝上 展也
    2008 年 91 巻 2 号 p. 86-93
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    21年生ヒノキ同齢林を対象として帯状伐採を行い, 伐採が林床の微気象因子と植生に及ぼす影響について伐採直後から15カ月間の調査を行った。林床の相対光強度は, 伐採前の0.15から伐採部中央で0.6, 林縁で0.3程度まで上昇した。林床の気温, 飽差, 地温および土壌含水率のうち, 伐採部と林縁における地温の変化が著しかった。伐採直後と15カ月後の樹木種の個体数と被覆面積の測定より, 林床植生の多様度指数 (H´) を算出した。伐採部のH´は伐採直後が最低であり, 15カ月後には林内と同じ程度にまで回復した。林縁部のH´は調査期間を通して高い値であり, 加えて林内においてもH´は上昇していた。帯状伐採は, 新たに形成される伐採面と林縁部の広さに特徴があり, 林床の微気象や植生への影響を通じ, ヒノキ人工林の生物多様性の維持に有効と考えられた。
  • —予測モデルの検証—
    小松 光, 久米 朋宣, 大槻 恭一
    2008 年 91 巻 2 号 p. 94-103
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    針葉樹人工林の間伐による渇水緩和機能の変化を評価する一環として, 小松ら (2007c) は間伐による年蒸発散量の変化を予測するためのモデルを作成した。このモデルは蒸散と遮断蒸発の部分からなり, モデルの妥当性は, 1) 間伐による蒸散量の不変性, 2) 間伐による遮断蒸発量の減少量, 3) モデルの流域スケールへの適用可能性の3点から検証される必要がある。本論ではおもに2) の検証を行った。間伐による遮断蒸発量の変化を計測した7事例を文献より収集し, モデルによる予測結果と比較したところ計測値とモデル予測値は概ね一致し, 2) がほぼ妥当であると思われた。3) については, 流域水収支法による蒸発散量の計測データが1事例しか得られなかったが, このデータについては計測値とモデル予測値は概ね一致し, モデルが流域スケールへ適用できる可能性が示唆された。本論では1) の検証は行われておらず, 3) の検証も不十分であるので, 将来の検証作業で必要となるデータを列挙し, 今後の計測研究に指針を示すことも行った。
  • 阿部 俊夫, 坂本 知己, 田中 浩, 壁谷 直記, 延廣 竜彦, 萩野 裕章
    2008 年 91 巻 2 号 p. 104-110
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    林床での落葉移動距離を推定するため, 冬期の落葉広葉樹林において落葉の模型を用いた現地実験を行い, 模型の移動速度を予測する2モデルを作成した。重回帰分析より得られた統計的モデルでは, 説明変量として高さ1 mの風速の傾斜方向成分, 林床植生の被度, 斜面傾斜の3変量が採択された。経験的モデルは, 落葉移動プロセスに関する考察をもとに, 同じ変量をもつモデルを作成した。AICの比較から, これら2モデルでは経験的モデルの方が優れていると考えられた。さらに, 9樹種の落葉と模型の移動速度を比較したところ, 模型に対する比は0∼6.1であり, 広葉樹落葉については, 葉が大きく, 落下速度が遅い樹種ほど移動の速い傾向が認められた。以上より, 本調査地と似た条件の森林では, 経験的モデルと模型に対する各樹種の速度比を用いて, 落葉のおおよその移動距離が推定できると考えられた。この成果は, 渓流に対する落葉供給源の範囲を評価することに役立つと期待される。
  • 上田 明良, 日野 輝明, 伊東 宏樹
    2008 年 91 巻 2 号 p. 111-119
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    ニホンジカによる森林衰退が進む奈良県大台ヶ原では, 防鹿柵によるシカの排除が行われているが, これが節足動物の多様性に与える影響は不明である。本研究では, ニホンジカによるミヤコザサの採食とオサムシ科甲虫の群集構造との関係を調べるため, シカの主要食物であるミヤコザサの現存量を防鹿柵や刈り取りにより操作した実験区を設け, ピットフォールトラップによる捕獲調査を行った。また, オサムシ科甲虫の食物となる地表性小動物を捕獲するため, 粘着トラップを各実験区に設置した。オサムシ科甲虫の総捕獲数, 種数と多様度指数はササ現存量と明確な関係がなかった。最優占種オオクロナガオサムシ捕獲数はササ現存量とバッタ目捕獲数に対して正の関係があった。2番目に多いフジタナガゴミムシは, ササ現存量との関係はなく, 開空度と負の関係があった。3番目に多いコガシラナガゴミムシ捕獲数はササ現存量と負の関係があり, トビムシ目, ハエ目, ハチ目と正の関係があった。これらの結果から, ニホンジカの採食によるミヤコザサの減少は, オサムシ科甲虫の多様度には大きな影響を与えないが, 群集構造には影響すると考えられた。
短報
  • 鳥田 宏行
    2008 年 91 巻 2 号 p. 120-124
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    本研究では, カラマツの風荷重による根返りおよび折損に関する力学的な評価を行うため, 立木の引き倒し試験を北海道十勝管内で実施した。カラマツは, 十勝における主要造林樹種であり, たびたび当地域は台風被害を受けてきた。回転モーメントと傾斜角の関係からは, 最大回転モーメント時の根元の平均傾斜角は 9.7ºで, 比較的小さな傾斜角であった。最大抵抗モーメントと立木の諸因子 (胸高直径D, 樹高H, 形状比H/D, 材積D2H, 枝葉重Wcr, 幹重Ws, 全重Wt) との相関分析の結果, 胸高直径Dは, 根返りおよび幹折れのいずれの場合においても相関が高く, 立木の耐風性を示すもっとも重要な指標となることが示された。今回の結果では, 根返りに関しては, 最大抵抗モーメントは, Dの約2.6乗に比例し, 幹折れはDの約3乗に比例して増加した。被害形態に関しては, 直径が細い立木では幹折れが発生し, 太くなると根返りすることが示唆された。
総説
  • 伊藤 太一
    2008 年 91 巻 2 号 p. 125-135
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    近年自然地域におけるレクリエーションのための入域や施設利用, インタープリテーションなどのサービスに対する費用負担が国際的課題になっているが, 日本では山岳トイレなど特定施設に限定される。ところが, 江戸時代の富士山においては多様な有料化が展開し, 登山道などの管理だけでなく地域経済にも貢献し, 環境教育的活動の有無は不明であるが, 環境負荷は今日より遙かに少なくエコツーリズムとしての条件に合致する。そこで本論ではレクリエーション管理の視点から, 登山道と登山者の管理およびその費用負担を軸に史料を分析し, 以下の点を明らかにした。1) 六つの登山集落が4本の登山道を管理しただけでなく, 16世紀末から江戸などで勧誘活動から始まる登山者管理を展開することによって, 19世紀初頭には庶民の登山ブームをもたらした。2) 当初登山者は山内各所でまちまちの山役銭を請求されたが, しだいに登山集落で定額一括払いし, 山中で渡す切手を受け取る方式になった。さらに, 全登山口での役銭統一の動きや割引制度もみられた。3) 同様に, 登山者に対する接客ルールがしだいに形成され, サービス向上が図られた。4) 一方で, 大宮が聖域として管理する山頂部では個別に山役銭が徴収されるという逆行現象もみられた。
  • 平田 泰雅
    2008 年 91 巻 2 号 p. 136-146
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    本総説では, 高分解能衛星データの特徴について述べ, 単木および林分を観測する手法とその検証結果について整理した。さらに, これまでに森林モニタリングの分野で高分解能衛星データが応用された事例を紹介し, 今後の課題と展開について述べた。高分解能衛星データは, 単木レベルでの観測が可能であり, 局所最大値フィルターによる梢端の抽出や, Watershed法やValley-following法による樹冠分割が可能である一方, 太陽光の当たり方の違いにより同一樹種の林分においても輝度値が異なる。そのため近年では, オブジェクト指向型分類が森林情報の抽出に用いられるようになってきている。高分解能衛星データは, おもに自然災害や病虫害といった森林被害のように緊急性が高いもの, あるいは代替の情報の取得が困難なものに対して研究の応用事例がみられる。光学センサとしての問題はあるものの, センサの高分解化によりデータから得られる情報は確実に増大している。これらの情報をいかに実用的に引き出し, 現実の問題に対処していくのかといった視点での解析に関する経験の蓄積が重要であると考える。
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