日本森林学会誌
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88 巻, 6 号
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論文
  • 江崎 功二郎, 樋口 俊男
    2006 年 88 巻 6 号 p. 441-445
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    クワカミキリ成虫に対するBeauveria brongniartii の野外での殺虫効果を調査した。石川県内灘町ニセアカシア・エノキ混交林において, 多数のクワカミキリの被害が発生しており, ニセアカシアが産卵木として, エノキが後食木としてクワカミキリに利用されていたことが推察された。調査はこの海岸林の0.75ha調査区にあるエノキで2003年に実施した。クワカミキリ成虫に対する殺虫効果を試験するために, 調査地の一部のエノキに昆虫病原糸状菌Beauveria brongniartii を培養したシート型不織布製剤を懸架した。不織布製剤施用41日後までの捕獲した成虫の感染死亡率は55.0%であり, 施用21日後に最大値を示した。不織布製剤施用41日後までにマーキング後再捕獲された個体の44.4%が, 感染死体でみつかった (n=18)。この結果から, クワカミキリ成虫が集中する後食木にB. brongniartii を培養したシート型不織布製剤を施用することにより, クワカミキリを高率に感染させられる可能性が示唆された。
  • 稲田 哲治, 柚村 誠二, 前藤 薫
    2006 年 88 巻 6 号 p. 446-455
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    大規模かつ急速な針葉樹人工林化は, 地域固有の生物多様性に大きな影響を与えてきたと考えられる。一方, 複層林施業は, 地域の生物多様性の保全につながることが期待される。本研究では大規模林業地域の愛媛県久万高原町とこの地域本来の植生が残存する近隣老齢二次林のカミキリムシ相の違い, ならびに森林タイプ (針葉樹人工単層林, 針葉樹人工複層林, 天然更新二次林), 林齢, 植物種数, 倒木量とカミキリムシ相の関係を調査した。久万高原町では, 成熟した森林環境に依存するカミキリムシ類が衰退していた。カミキリムシ相の対応分析の結果, 森林タイプ別にクラスターは形成されていなかったが, 老齢二次林が最小値を示した対応分析の第1軸と植物種数の間に有意な負の相関関係が認められた。これらのことから, カミキリムシ相は複層林施業によってただちに回復するわけではないが, 森林タイプにかかわらず, 下層植生を適切に管理して植物種数を増やすことによって本来のカミキリムシ相を保全することができると考えられる。
  • ―東北地方の落葉低木型林床ブナ林における事例―
    杉田 久志, 金指 達郎, 正木 隆
    2006 年 88 巻 6 号 p. 456-464
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    岩手県の黒沢尻試験地の落葉低木型林床ブナ林における皆伐母樹保残法による天然更新施業試験地の更新実態について解析した。1948年伐採 (保残母樹密度6本/ha) で刈払いを実施した林分は, 伐採後54年の時点でブナ純林状の再生林となっていた。1969年伐採林分 (保残母樹密度13本/ha) のうち, 刈払いを省略した林分では伐採後33年の時点でウワミズザクラ, ホオノキなどの再生林となっており, ブナ更新樹はわずかしかみられなかった。刈払いを実施した林分では, 多数のブナ更新樹がみられL字型の直径階分布を示したが, 保残母樹の樹冠下およびその周辺に限られ, 林冠層に達しているものは少なく, ブナ優占の更新林分が成立している状態ではなかった。以上の結果から, 刈払いがブナ稚樹の定着, 生存に大きな効果をもつことが示されたものの, 刈払いが実施され多くのブナ稚樹が定着した林分がその後必ずしもブナ再生林へと推移しているとは限らないことが判明した。刈払いの実施にもかかわらずブナの更新状況にちがいを生じさせた要因として, 施業とブナ結実とのタイミングに加えて, 施業前のブナ稚樹生育状態も関係している可能性がある。
  • 村上 弥生
    2006 年 88 巻 6 号 p. 465-472
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    明治初期に洋紙の流入が起こり, 和紙生産の形勢が不利になることが感じられた中, 大蔵省印刷局抄紙部および高知県土佐和紙産地を中心として新しい技術を導入しての新紙種が開発された。重要な役割を果たしたのがミツマタ混合製薄様紙を主とする改良・特種紙であり, 大蔵省印刷局史および吉井源太日記により, これらの紙種の開発における原料煮熟, 漂白, 滲み止め等の技術開発の実態および特質が把握できた。高知県からこの技術を学んだ産地のうち, 従来ガンピ・ミツマタを原料として紙を抄造していた産地においてこの新技術の普及・定着が起こったことを内国勧業博覧会出品記録より明らかにした。これらの紙種の抄造は和紙生産額および輸出額の増大をもたらした。このことは各産地内および産地間における生産紙種を二分化させるとともに, 産地における和紙製造業の盛衰も生じさせた。これらの紙種は従来型和紙や洋紙とは異なる需要を開拓したものとなったことが存在意義であった。
  • 西川 僚子, 村上 拓彦, 大槻 恭一, 溝上 展也, 吉田 茂二郎
    2006 年 88 巻 6 号 p. 473-481
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    竹林の分光反射特性の季節変動を把握することを目的として, 多時期衛星データ (SPOT/HRVデータ8シーン, LANDSAT/TMデータ9シーン) の解析および地上での分光反射測定から竹林, 広葉樹林, 針葉樹人工林の分光反射特性の季節変動を把握した。その結果, 衛星データと地上分光反射データにはいくつかの共通点がみられた。4~6月の可視赤色域においては, 竹林は他の森林タイプよりも反射係数およびデジタルナンバーが高い傾向にあった。近赤外域では, 竹林と広葉樹林で春から夏にかけて順位の入れ替わりがあった。短波長赤外域は, 衛星データにおいて竹林が年間を通して最も高い値をとった。また, 5~7月の近赤外域およびほとんどのシーンの短波長赤外域において全森林タイプ間でデジタルナンバーに有意差がみられた。竹林の分光反射特性の季節変動には, 葉替わりが大きく関与しているものと思われた。
  • 齊藤 哲, 猪上 信義, 野田 亮, 山田 康裕, 佐保 公隆, 高宮 立身, 横尾 謙一郎, 小南 陽亮, 永松 大, 佐藤 保, 梶本 ...
    2006 年 88 巻 6 号 p. 482-488
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    九州の針葉樹人工林 (n=59), 皆伐地 (n=41) を対象に, 定着した樹木の本数を調査し, 定着本数密度の簡易な予測モデルを提示した。人工林, 皆伐地の全種の定着密度は, 対照として調査した広葉樹天然林と比べ低かった。とくにブナ科高木種などの林冠優占種の定着は困難であることがわかった。数量化I類による定着密度予測モデルの決定係数は, 人工林, 皆伐地とも, 全種の場合に比べ, 明るいところを成育適地とする陽性高木種に区分した方が高かった。定着密度に大きく影響した要因は, 人工林では傾斜角, 皆伐地では標高と, 両者で異なる点もみられたが, 成立後の年数 (林齢, 皆伐後経過年数) が最も大きい点は共通していた。本研究では, 光環境に対する樹種特性を反映させた種群でまとめることにより, 標高や林齢など地理情報や森林簿から容易に得られる情報から定着密度を比較的高い精度で予測することができた。
  • 鳥田 宏行
    2006 年 88 巻 6 号 p. 489-495
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    2002年台風21号による防風林の被害要因の解析を行った結果, 樹種, 防風林の延長方向, 林齢, 風上森林区画 (林小班) はおもな被害要因であることが示された。十勝の防風保安林のおもな造林樹種の中で, カシワはもっとも根返りに対する抵抗性が高い樹種であり, 風上区画に配置すると被害が軽減されることが示された。本事例では北北東あるいは北東方向に延長された防風保安林 (南東からの卓越風にほぼ直角方向) は被害を受けやすく, 被害軽減のためには優先的に風上区画にはカシワ林を造成することが有効である。カラマツ林の林分構造の比較検討からは, 同材積レベルの林分では, 無被害林は被害林に比べて本数密度が低く, 直径が太いことが示唆された。施業履歴の検討 (林齢35~45年) からは, 被害林は無被害林に比べて間伐回数が少なく, 本数密度も1.8倍高いことが示された。カラマツ林の根返りに対する抵抗性を向上させるためには, 林齢35~45年に達するまでに, 本数密度約400本/haを上限として, 2~3回程度の間伐を実施することが有効である。
  • 三谷 智典, 小杉 緑子, 尾坂 兼一, 大久保 晋治郎, 高梨 聡, 谷 誠
    2006 年 88 巻 6 号 p. 496-507
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    滋賀県南部桐生水文試験地において2年半にわたり土壌呼吸速度の時空間分布の観測を行った。土壌呼吸速度は, 斜面下部の土壌水分が年間を通じて高い場所において, 斜面上部および中部に比べて低い値を示した。一方で, 各場所での時間変動をみた場合には, 土壌呼吸速度は地温の変動に伴い変動するものの, 乾燥により土壌水分が低下するようなときには土壌呼吸速度の低下がみられた。土壌呼吸速度は, 地温が高くなるにつれて指数関数的に増加し, Q10は, 2.00から2.20の範囲にあった。土壌水分の変動に対しては, 二次式モデルを使用した場合が, 最も適合した。得られた地温, 土壌水分と土壌呼吸速度の関係を用いて, 年間土壌呼吸量の推定を行ったところ, 2003年は692±21, 2004年は716±46gCm-2yr-1と推定された。
  • 木佐貫 博光, 斎場 勇治, 武田 明正
    2006 年 88 巻 6 号 p. 508-514
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    異なる土壌水分条件が絶滅危惧種シデコブシの実生苗に与える影響を調べるために, ガラス室内で滞水区, 冠水した流水区, 乾燥区, 対照区の四つの土壌水分処理区を設置し, 2年生実生苗について葉のフェノロジーおよび水分生理特性を調べた。滞水区と乾燥区での落葉率の高さから, 土壌中の酸素濃度の低さや乾燥に対するシデコブシの感受性の高さが顕著に示された。夜明け前の葉の水ポテンシャルは乾燥区の実生苗で低かった。葉の水分生理特性値については, 膨圧を失うときの水ポテンシャルは滞水区および乾燥区の実生苗で処理前よりも低下した。十分吸水したときの浸透ポテンシャルは滞水区の実生苗でのみ低下した。シデコブシの葉では主として冠水ストレスに対して浸透調節, 乾燥ストレスに対して弾性調節が行われると推定される。一方, 流水区の実生苗では落葉率と葉の水分生理特性に処理の影響が認められず, シデコブシの保全には, 湧水や流水を伴う湿地が不可欠と考えられる。
  • 平田 令子, 畑 邦彦, 曽根 晃一
    2006 年 88 巻 6 号 p. 515-524
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    スギ人工林への広葉樹の種子散布に対する果実食性鳥類の働きを解明するために, 2002年10月~2004年4月まで, 鹿児島県下の常緑広葉樹林とそれに隣接するスギ人工林内にシードトラップを設置し, 鳥類により散布された種子と結実木から直接落下した果実 (自然落下種子) の種数と種子数を調査した。人工林内に落下した鳥散布種子の種数と種子数は, 自然落下種子よりも有意に多く, またそれらは春~夏季よりも秋~冬季で多く, 2002年秋~冬季よりも2003年秋~冬季で少なかった。人工林内に落下した自然落下種子は広葉樹林との境界部に分布が限られたが, 鳥散布種子は, 林分内に広くランダムに落下した。2003年2~12月まで43日間, 調査地の鳥類相を調査したところ14種の果実食性鳥類が観察され, 秋~冬季にはヒヨドリの出現頻度が最も高かった。これらのことから, 鳥散布種子の種数, 種子数, 分布は自然落下種子とは大きく異なり, 果実食性鳥類, 特にヒヨドリが人工林への種子散布者として重要な役割を果たしていると考えられた。
  • 市川 貴大, 高橋 輝昌, 浅野 義人
    2006 年 88 巻 6 号 p. 525-533
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    林齢および樹種の違いが森林生態系の有機物動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的に, 関東地方の13, 21, 34, 48, 66, 93年生の同一斜面に隣接したスギ林およびヒノキ林において, 林床被覆率, リターフォールとA0層の乾重, 鉱質土壌の炭素含有量を比較した。年間のリターフォール量はスギ林では林齢の増加につれて減少し, ヒノキ林では林齢にかかわらずほぼ一定となった。ヒノキ林の土壌中に混入した針葉は1.5~7.3Mg ha-1であり, 林齢にかかわらずスギ林よりも多かった。土壌中の針葉量を加えたA0層量はスギ林とヒノキ林で概ね同じとなり, 13~34年生にかけて増加し, 34年生以上で一定となった。リターの滞留時間 (A0層量/年間のリターフォール量) は林齢の増加にともないヒノキ林では短くなっており, スギ林では長くなっていた。土壌の炭素含有量には林齢の増加にともなう一定の変化や樹種による明確な差がなかった。以上のことから, ヒノキ林ではA0層での有機物分解がスギ林よりも盛んであるにもかかわらず, 土壌中の炭素量がスギ林と違わないことから, リターの無機化がスギ林よりも活発であることが示唆された。
  • 長谷川 香織, 小葉竹 重機
    2006 年 88 巻 6 号 p. 534-540
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    関東平野北西部における森林からの渓流水の窒素流出の地域分布特性を把握するため, 群馬県内に調査地を設定し, 継続的な観測を行った。これによって, 窒素流出の地域分布特性が, 概ね利根川を境とするその東西部で異なることが示され, 西部では東部で示されない高濃度の渓流水中NO3-Nが観測された。この傾向は土壌抽出水中NO3-N濃度でもみられた。また, 降水量と渓流水中NO3-N濃度との相関傾向では, 利根川東部では西部よりも高い正の相関を示した。これらのことから, 利根川以西において窒素飽和の状態が示されていることが考えられ, その要因として首都地域からこの地域に輸送される大気汚染物質の影響が考えられる。
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