日本森林学会誌
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98 巻, 2 号
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論文
  • 佐藤 嘉彦, 武津 英太郎, 平岡 裕一郎, 渡辺 敦史, 高橋 誠
    2016 年98 巻2 号 p. 45-52
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    本研究では,スギ在来品種6品種が3段階の植栽密度(5,000,3,000,1,500本/ha)で植栽されたスギ品種別・植栽密度別比較試験林における28年生次の樹幹解析データを用いて,成長への品種および植栽密度の影響を解析するとともに,低密度植栽を想定した間接早期選抜の効率について検討した。樹高成長の成長パターンには遺伝の影響が大きく,異なる植栽密度でも品種特有の成長パターンが維持されることが示された。また,胸高直径成長には品種・植栽密度の両者が影響することが示された。樹高は成長期間を通して植栽密度の影響および品種と植栽密度の交互作用の影響は小さく,造林地における樹高の制御についての品種選択の重要性が示された。また,従来の林木育種の遺伝的評価の結果を異なる植栽密度での利用に適用できることが示された。一般的な植栽密度下の試験地を用いて低密度下での28年次の樹高成長を目的に選抜する際には,獲得量の8割を得るためには約15年が必要であることが示された。
  • ―個体による違いと河川敷における分布状況―
    千葉 翔, 小山 浩正
    2016 年98 巻2 号 p. 53-58
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    ニセアカシアは種子異型性を示し,休眠種子と非休眠種子を生産する。本研究では,個体による両者の比率を河川に沿った分布位置および母樹サイズとの関係で調べた。非休眠種子の割合は個体間で大きく異なり,年度間で有意な正の相関があった。このことは,非休眠種子(休眠種子)を生産しやすい個体があることを示している。上流にある個体では非休眠種子の割合が低く,下流ほどその割合が高い個体が多く分布する傾向があった。母樹のサイズは下流から上流に向かうにつれて増加傾向になり,大きな個体ほど休眠種子を生産しやすい傾向がみられた。しかし,小サイズの個体には休眠種子を生産しやすい個体も含まれていたため,両者の生産比率を樹齢やサイズだけで説明できたわけではなかった。非休眠種子を生産することは,適地で直ちに発芽・定着して新規群落を成立させやすいため,攪乱が卓越する河川域での分布拡大に有利に働くと考えられる。一方,休眠種子は土壌シードバンクを形成し,既存群落が攪乱を受けたときの再生・修復に貢献すると考えられる。以上のことから,種子異型性はニセアカシアが河川敷で急速に分布を拡大した一因と考えられる。
  • 深山 貴文, 森下 智陽, 奥村 智憲, 宮下 俊一郎, 高梨 聡, 吉藤 奈津子
    2016 年98 巻2 号 p. 59-64
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    森林土壌のテルペン類の放出特性に関する研究は少なく,特に空間分布特性の評価が必要とされている。本研究はアカマツ林床が放出するテルペン類の主成分であるα-ピネンについて,その放出量を測定するための土壌チャンバーを開発し,空間分布特性と変動要因について検討した。野外観測の結果,樹幹からの距離とα-ピネン土壌放出量の関係性は方位の違い,個体差に関わらず認められなかった。アカマツのリター堆積量とA0層上の放出量の間には関係性が認められなかったが,リター堆積量とリター除去後に測定したA層上の放出量との間には春秋共に正の相関が認められた。室内実験で十分にリターを撹拌した場合,リター量とリターの放出量の間には線形的な関係が認められた。アカマツ林床では特に春に高い放出量が観測されるが,これはA0層上に存在する樹脂成分が放出量の不均一性をもたらすと共にその高い放出の原因となっている可能性が考えられた。
  • 礒辺 山河, 逢沢 峰昭, 久本 洋子, 軽込 勉, 齋藤 央嗣, 中山 ちさ, 遠藤 良太, 後藤 晋, 大久保 達弘
    2016 年98 巻2 号 p. 65-73
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    電子付録
    関東地方のヒメコマツの中には,近年の急激な個体数の減少や生育地の分断化により地域絶滅の危惧される集団が少なくない。本研究では,関東地方のヒメコマツの絶滅危惧集団(房総,丹沢および花園)と健全集団(庚申山)の遺伝的多様性と交配様式を明らかにすることを目的とした。核DNAのマイクロサテライトマーカー4遺伝子座を用いて,合計100個体のヒメコマツ成木と184個体の稚樹の遺伝子型を決定し,各集団の遺伝的多様性および自殖由来の稚樹割合の推定を行った。また,各個体のヘテロ接合遺伝子座の割合(MLH)を調べた。房総と丹沢の成木の遺伝的多様性は健全集団と同程度であったが,絶滅危惧集団の自殖由来の稚樹割合は34.2~65.5%で,健全集団(15.1%)と比較して高かった。また,4集団ともMLHの低い個体は,樹齢5年生未満の稚樹で多く,成長とともに減少する傾向がみられた。さらに,絶滅危惧集団の有効な花粉親数は健全集団に比べて低かった。以上から,絶滅危惧集団の成木の遺伝的多様性は概ね保持されているものの,成木数の減少により自殖が増加しており,近交弱勢によって自殖由来の稚樹が減少している可能性が示唆された。
短報
  • ─中国新疆ウイグル自治区の観光振興にむけて─
    馬依拉 阿夏木江, 比屋根 哲, 山本 清龍
    2016 年98 巻2 号 p. 74-78
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    電子付録
    本研究の目的は,新疆ウイグル自治区の観光振興に寄与する基礎的な研究として,日本人旅行者の海外旅行に対する志向を明らかにすることである。調査は,自然を見どころとした白神山地と,歴史・文化を見どころとした平泉を訪れる日本人旅行者を対象に,海外旅行に対する志向を把握するためのアンケート調査により実施した。調査の結果,1)日本人旅行者は海外旅行に対して,自然景観と歴史・文化との触れ合いの二つの志向を持っていること。2)アジア地域を志向する旅行者は,現地の人々との触れ合いや発見・刺激に対する志向が強いこと。3)調査で提示した新疆の四つの観光地は,自然,歴史・文化,安らぎの場として,それぞれ位置づけられること,等がわかった。
総説
  • 志水 克人, 太田 徹志, 溝上 展也, 吉田 茂二郎
    2016 年98 巻2 号 p. 79-89
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    本総説では,森林モニタリングにおける時系列衛星画像の処理と変化推定の方法,および熱帯林での応用事例について整理した。さらに,これまでの熱帯林での研究から示された課題と今後の研究の展望についても述べた。時系列衛星画像は,森林減少や劣化などの詳細な森林変化の把握に利用されてきた。Landsat データの無料化以降,画像処理の自動化や森林変化推定アルゴリズムが発達したことに伴い,熱帯林を含む森林分野での利用が多く行われるようになった。熱帯林では,雲の被覆頻度が高いことや撹乱後の早い植生回復が利用の障害であったが,多数の画像を扱う推定方法や複数センサの融合による推定方法などの発展により精度の高い森林変化推定が行えるようになってきている。今後も森林変化推定やその情報を利用した森林構造の推定などで時系列衛星画像の利用は続くと考えられるが,まだ地上調査の不足や複数センサ利用時の処理の検討が不十分であるといった課題が存在するため,熱帯林を対象としたさらなる事例の蓄積・新たな変化推定手法の開発が必要である。
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