日本森林学会誌
Online ISSN : 1882-398X
Print ISSN : 1349-8509
ISSN-L : 1349-8509
101 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
論文
  • 福沢 朋子, 新井 涼介, 北島 博, 所 雅彦, 逢沢 峰昭, 大久保 達弘
    2019 年 101 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー

    カシノナガキクイムシ(以下,カシナガ)によるナラ類集団枯損被害(以下,ナラ枯れ)は標高300 m以下で多く発生するが,富山県などで標高1,000 mを超える被害が確認されているため,被害が高標高域へと拡散している可能性がある。カシナガの繁殖成功度などは標高の上昇・気温の低下と負の関係があり,今後ナラ枯れの拡大予測や予防を行う上で,高標高域におけるカシナガの脱出・飛翔に関する生態的知見は重要である。本研究では,標高傾度に沿ったカシナガ成虫の脱出消長や数,林内における飛翔数とその季節変化を明らかにすることを目的とした。2015年6~12月,2016年6~11月にかけて,標高600~1,000 mの標高100 mごとに衝突板トラップと脱出トラップを設置し,カシナガ成虫を捕殺した。本研究の結果,標高600 m以上の高標高域では低標高域に比べてカシナガの繁殖成功度は極めて低く,標高600~900 mの範囲では,標高傾度の影響はなかった。さらに標高900 m以上では,樹種組成の変化で主な寄主であるミズナラが減少する影響を受けて,飛翔成虫が極めて少ないと考えられた。

  • 木村 憲一郎
    2019 年 101 巻 1 号 p. 7-13
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿の課題は,原発事故が福島県の木材需給に与えた影響と林業・木材産業の現状を明らかにすることである。結果,福島県では一部の地域を除き津波と地震による施設被害への対応は当面の完了をみたが,原発事故への対応は今なお続いている。震災以降,県全体の木材需要量は大きく増加したが素材生産量の伸びは小さく,移入材の増大によって他県産材の割合が増加した。木材価格は全国動向とやや異なり,製材品価格の伸びは小さく,素材価格,山元立木価格,林業産出額はいずれも震災前から低下した。県内地域間の比較分析では第1原発が立地した相双地域では木材需給が縮小し,それ以外の地域でも需給バランスに変化がみられた。原発事故に伴う営林活動の制限,木材価格の下落が素材生産活動を停滞させ,それらが県内の木材生産・流通の構図を変容させた。川中・川下側の復興が進む一方,川上側の経営環境は一段と悪化していることが福島の現状である。林業再建に向けては川上対策および相双地域の実情に即した対策の強化が必要である。

特集「マツ枯れ防除の盲点としての潜在感染木」
巻頭言
総説
  • ―潜在感染木への適用可能性―
    竹内 祐子
    2019 年 101 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー

    目の前にマツがある。立木でも丸太でもいい。果たしてこれは,マツ材線虫病キャリアだろうか。防除現場における伐倒駆除対象木の選定に際して,あるいは港・空港など梱包材を含むマツ材を輸出・輸入する水際で,マツ材線虫病診断が求められる場面は多い。マツ材線虫病をはじめとする樹木病害の症状は一般に重複していることが多く,厳密に診断を行うためには病原体の検出・同定が必要となる。本病においても,1971年に病原体がマツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)という線虫であると特定されて以降,診断対象から病原体を分離し,あるいは分離せずに検出し同定するための手法が様々に開発されてきた。本稿ではマツ材線虫病の診断法,言い換えればマツノザイセンチュウの検出同定法の歴史を紹介し,各法の長所・短所を概説するとともに,明確な外部病徴を伴わないいわゆる潜在感染木への適用可能性について実際の調査事例を交えながら検証する。

短報
  • 趙 庸祺, 鄭 圭元
    2019 年 101 巻 1 号 p. 26-29
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー

    韓国におけるマツ材線虫病の被害は約30年前の1988年に始まったが,2000年頃まではそれほど問題にならなかった。その後,被害量が増加したが,2005年に防除特別法に基づく強力な防除推進などの積極的な対応で抑制に成功したかにみえた。しかし,被害は2012年頃から再び全国に拡大し,2014年には被害本数が218万本に達した。このような被害再燃の原因は防除体制の変更,中でも潜在感染木の存在を想定した防除手法である皆伐防除が実施されなくなったことにあると考えられる。最近になって,韓国山林庁の防除指針に潜在感染木の概念が正式に導入され,被害木の周囲のマツに対して,1)樹脂滲出調査で確認された衰弱木の選別伐採,2)一定範囲のマツの皆伐,のいずれかの方法が採用できるようになった。本稿では,韓国におけるマツ材線虫病の被害状況,ならびに潜在感染木に対する取り組みの変遷過程とその効果などを紹介する。

論文
  • 高須 夫悟
    2019 年 101 巻 1 号 p. 30-34
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー

    マツ材線虫病は100年以上にわたって深刻な森林病害であり,植物病理学,昆虫学,森林生態学などの実証的研究に加え,数理モデルを用いた数理的視点に基づく研究が精力的に展開されてきた。マツノザイセンチュウに感染しつつも感染当年には発病枯死しないマツの存在は以前から知られており,このようなマツの存在がマツ枯れ防除をすり抜けて被害拡大の重要な要因になり得る可能性が指摘されている。本研究は,センチュウに感染した翌年に発病枯死するマツを潜在感染木と限定して用い,潜在感染木の存在が健全マツとカミキリの個体群動態に及ぼす影響を数理的に解析する。特に,潜在感染木がカミキリを誘引して健全マツとの接触回数を増加させる効果がマツ枯れ進展にどのように影響するのかに注目した数理的解析を行う。解析結果から,1) 感染後の発病枯死が1年遅れる時間遅れの効果自体はマツ枯れ進展に大きく影響しないこと,2) 潜在感染木がカミキリを誘引して健全マツとの接触回数を高める効果(誘引効果)がマツ枯れ進展に大きく影響すること,が明らかになった。本モデルで仮定した誘引効果の実証的な測定・検証が求められる。

  • 小岩 俊行
    2019 年 101 巻 1 号 p. 35-45
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー

    岩手県のマツ材線虫病被害林で,伐倒駆除後も被害が継続する原因解明のため,駆除後の被害推移の詳細を調査した。その結果,樹脂滲出異常にもかかわらず外観上健全なマツが林内に長期間存在し,マツノマダラカミキリの発生源となっていることが確認され,このような潜在感染木が被害継続に関与していると考えられた。潜在感染木の実態を明らかにするため,本病被害木周辺のマツを伐採し感染の有無を調査したところ,調査3林分中2林分で潜在感染木の存在を確認した。潜在感染木を駆除するため,樹脂滲出調査を併用した伐倒駆除を行った結果,潜在感染木の一部が駆除されると,枯死木の発生が極めて少なくなった。潜在感染木の単木的な発病抑制の可能性検討のため,樹幹下部から低密度のマツノザイセンチュウが検出されたマツに樹幹注入剤を処理した。処理後,多くのマツでマツノザイセンチュウが検出されなくなり,注入約3年後もマツは生存した。岩手県内陸アカマツ林でも,潜在感染木が存在し,発症過程で感染源の役割を果たしている可能性が高い。樹脂滲出調査の潜在感染木駆除への活用や樹幹注入剤の処理で,一定の防除効果が期待できた。

短報
  • 加藤 徹, 劔持 章, 山田 祐記子, 二井 一禎
    2019 年 101 巻 1 号 p. 46-51
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー

    防除対策が適切に実施されているマツ林で発生するマツ材線虫病被害について,その原因が潜在感染木の存在にあることを確かめるために調査し,潜在感染木の発症を阻止する方法として,殺線虫剤の樹幹注入処理試験を行った。静岡県三保半島先端にあるマツ林に樹幹注入処理区と無処理区を設け,クロマツの生立木と切株の位置を測量し,各立木の3カ所でマツノザイセンチュウDNAの検出を行った。その後,2週間に1度樹脂滲出量等を1年間調査した。その結果,同種DNAの検出木は全体の33%であった。枯死木には新鮮な後食痕がなかったことからそれらは潜在感染木で,感染の1,2年後に発症・枯死したと考えられる。事前に潜在感染木の特定ができなかったが,樹幹注入処理区では枯死木は発生せず,無処理区では有意に多い6本(19%)の潜在感染木と考えられるクロマツが枯死したことから,潜在感染木を含むマツ林で樹幹注入に発症阻止効果があることが示唆された。

feedback
Top