日本森林学会誌
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97 巻, 5 号
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論文
  • ―太枝がない若齢針葉樹における試み―
    工藤 琢磨, 鈴木 貴志
    2015 年 97 巻 5 号 p. 225-231
    発行日: 2015/10/01
    公開日: 2015/12/23
    ジャーナル フリー
    猛禽類の巣の土台となりそうな太枝がない若齢針葉樹に,人工巣を設置することで中型猛禽類の営巣を誘導できるか,試みた。その結果,オオタカとトビ,それぞれ一つがいが営巣を行った。オオタカは2羽の巣立ち雛を育てることに成功した。トビは育雛期になって巣を放棄したが,原因は山菜採りによる撹乱の可能性が疑われた。オオタカは前年に自ら構築した自然巣が近くにあったにもかかわらず,人工巣を利用した。トビが利用した人工巣は,もともとトビを含む中型猛禽類の営巣がみられなかった地域に設置されたものだった。これらの結果は,若齢や間伐遅れのために太枝が発達していない針葉樹でも,人工的に中型猛禽類の営巣を誘導することが可能であることを示した。この技術を利用すれば,営巣適木がない森林を営巣適地に変えることが可能で,結果として生息地域拡大も期待できる。
  • 後藤 晋, 松井 由佳里
    2015 年 97 巻 5 号 p. 232-237
    発行日: 2015/10/01
    公開日: 2015/12/23
    ジャーナル フリー
    電子付録
    採穂園における対象品種以外の個体の混入は, 苗木の品質上大きな問題である。採穂園のクローン分析には多型性の高いマイクロサテライトマーカーが有効であるが, 全個体からDNAを抽出し, 分析するには相当の労力とコストがかかる。本研究では, 熊本県の主要なスギ挿し木在来品種であるシャカインの採穂園を対象に, 効率的なクローン分析法の確立を試みた。まず, シャカインの針葉と別品種の針葉を 4 : 1 と 9 : 1 の割合で混合 (バルク) したサンプルを調整し, 抽出したバルク DNAを鋳型としてマイクロサテライト分析を行った。その結果, 別品種を含む全てのサンプルにおいて, シャカイン以外のピークが検出された。そこで, 最近造成されたシャカイン採穂園 A を構成する 387 個体と採穂園 B を構成する 1,007 個体にバルク分析法を適用した結果, A 採穂園では 21.1% に相当する 103 サンプル分, B 採穂園では 35.1% に相当する 353 サンプル分の分析で, 混入個体を同定することができた。以上の結果から, バルク DNA を用いたマイクロサテライト分析を行うことで, シャカイン採穂園の効率的なクローン分析が可能になると考えられた。
  • 松本 剛史, 佐藤 重穂
    2015 年 97 巻 5 号 p. 238-242
    発行日: 2015/10/01
    公開日: 2015/12/23
    ジャーナル フリー
    キバチ共生菌キバチウロコタケを人工的に接種したヒノキ丸太と対照丸太を2013年春期に野外に設置し, キバチ類に産卵させた。すると2014年度春期から夏期にかけてキバチ類が羽化脱出してきた。羽化脱出してきたキバチ類は全てオナガキバチであった。また, 羽化脱出してきたオナガキバチは全てキバチウロコタケ接種丸太からであった。産卵選好性の比較でも接種丸太を好んで産卵していることが明らかとなった。またキバチウロコタケ子実体発生丸太での成虫発生数が多く, 繁殖成功度も高かった。本試験によって野外においてもキバチ共生菌が接種された材を選好して産卵・羽化脱出していることが明らかとなった。
  • 宮下 智弘, 渡部 公 一
    2015 年 97 巻 5 号 p. 243-250
    発行日: 2015/10/01
    公開日: 2015/12/23
    ジャーナル フリー
    マツノザイセンチュウ抵抗性品種の効果的な選抜のため, クロマツ抵抗性候補木の実生苗に対して三つの強度な接種試験を試みた。一つ目の接種試験は枯損を促す環境を検討するため, 水分ストレスを与えるようにポット苗を用い, さらに高温状態を維持したハウス内において強毒性線虫である島原を 1 万頭接種した結果, その生存率は約 3% となった。二つ目の接種試験は接種頭数の増加により枯損を促す手法を検討するために行った。すなわち, 島原を1 万頭または 2 万頭接種する試験を行ったところ, 2 万頭接種では生存率が半減した。三つ目の接種試験は健全苗集団の抵抗性とそれらの接種履歴の関係を検討するために行った。すなわち, 健全苗に対して線虫を連年接種して選抜した集団に対し, 別の強毒性線虫である Ka-4 を 2 万頭接種した。その結果, 接種履歴が多い選抜集団ほど枯損が緩やかに進行し, 生存率も高かった。このような枯損の進行は, これまで報告されているような抵抗性品種の病徴進行過程の特徴を示していた。以上の結果から, 実生苗に強度な接種方法を適用して健全苗を選抜することによって, 抵抗性個体の選抜を効果的に行えると考えられた。
短報
  • 市川 貴大, 逢沢 峰昭, 大久保 達弘
    2015 年 97 巻 5 号 p. 251-256
    発行日: 2015/10/01
    公開日: 2015/12/23
    ジャーナル フリー
    東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射性セシウムが降下した落葉広葉樹林で構成される里山において, 事故以前 (2009 年 3~11 月) と事故後 (2012 年 1 月~2013 年 12 月) における分解にともなう落葉中の放射性セシウム濃度および量の変化を明らかにした。事故以前である2009 年 3~11 月に採取した分解にともなう落葉中の放射性セシウム濃度は2.3~14.6 Bq/kg であった。事故後の 2012 年に採取し分解させた落葉の放射性セシウム濃度は同年秋以降に急激な上昇がみられた。また, 分解によって落葉の重量が減少したにもかかわらず, 落葉中の放射性セシウム量は落葉採取時よりも増加していた。分解にともなう落葉中の放射性セシウム濃度および量の増加の原因として,重量減少にともなう放射性セシウムの濃縮のほか, 活性化した微生物の体内に放射性セシウムが系外から取り込まれた可能性が考えられた。
  • 八木橋 勉, 中村 克典, 齋藤 智之, 松本 和馬, 八木 貴信, 柴田 銃江, 野口 麻穂子, 駒木 貴彰
    2015 年 97 巻 5 号 p. 257-260
    発行日: 2015/10/01
    公開日: 2015/12/23
    ジャーナル フリー
    現在東北地方の津波被害地では広範囲の海岸林の早急な再生のため, 大量のクロマツ苗の植栽が必要になっており, 育苗期間の短縮と, 作業の平準化のための通年植栽が求められている。そこで, 当年生苗の利用可能性と通年植栽の可能性を検討するため, 宮城県仙台市において, 当年生コンテナ苗と 2 年生裸苗の成長比較試験と, コンテナ苗を厳冬期の1 月を除き, 2 カ月おきに通年で植栽する試験を行った。その結果, 11 月下旬と 3 月下旬植栽の当年生コンテナ苗の成長後の幹長と地際直径は 2 年生裸苗と有意差がなかった。幹長の成長量は, 3 月植栽で裸苗よりやや劣ったものの, 11 月植栽のコンテナ苗では同等で あった。地際直径の成長量は, コンテナ苗の方が有意に多かった。コンテナ苗は, いずれの植栽時期でも越冬後の活着率が98.4%以上と高く, 成長に大きな問題もみられなかった。以上のことから, 当年生苗の利用と通年植栽は, ともに可能と考えられた。
  • 長谷川 陽一, 高田 克彦, 八木橋 勉, 櫃間 岳, 齋藤 智之
    2015 年 97 巻 5 号 p. 261-265
    発行日: 2015/10/01
    公開日: 2015/12/23
    ジャーナル フリー
    日本に固有の樹木であるアスナロ属ヒノキアスナロは伏条更新によるクローン繁殖を行うことが知られており, これまでにアイソザイムマーカーを用いたクローン構造の調査が行われている。しかし, 一般にアイソザイムマーカーの多型性は低いため, 正確なジェネットの識別は難しい。そこで本研究は,近年開発された多型性の高いEST-SSRマーカー 6 座を用いてマルチプレックス PCR を行い, ヒノキアスナロ天然林に分布する稚樹 359 本のクローン識別を試みた。その結果, EST-SSR マーカー を 3 座以上用いることで 45 ジェネットが識別された。また, 1 ジェネット当たりの幹数の最大値は 82 であり, 平均値は 8.0 であった。本研究の結果から, EST-SSR マーカー 6 座を 1 回のマルチプレックス PCR で増幅することで, ヒノキアスナロ天然林の稚樹のジェネットを簡便かつ正確に判別可能であることが示された。
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