日本森林学会誌
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100 巻, 5 号
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論文
  • 佐藤 司郎, 鈴木 牧, 谷脇 徹, 田村 淳
    2018 年100 巻5 号 p. 141-148
    発行日: 2018/10/01
    公開日: 2018/12/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    丹沢山地において,シカの増加に伴う林床植生の減少がオサムシ科甲虫に与える間接的な影響を検討するため,シカの影響程度(林床植物量)の異なる5地点においてオサムシ科甲虫相を調査し比較した。併せて,植生保護のため8年前に設置された防鹿柵によるオサムシ科甲虫への保全効果を検証するため,防鹿柵内外の6カ所でも調査を行った。GLMとモデル選択の結果,調査区の林床植物量が,最優占種であるヨリトモナガゴミムシの捕獲数には負の,体の大きいクロナガオサムシの捕獲数に正の影響を与えたことが示唆された。この結果は,シカの影響による植被の減少に伴い,小型のオサムシ科甲虫種は増加し大型種は減少するという一般的な傾向と一致した。優占種5種を対象とした冗長性分析(RDA)でも林床植物量はRDA1軸に強い相関を示した。以上の結果から,丹沢山地のオサムシ科甲虫群集にシカが強い間接的影響を与えることが示された。また,シカが増加する前に設置された加入道山の防鹿柵内では林床植生が多く残存し,大型のクロナガオサムシが多数出現しており,防鹿柵の早期設置は大型のオサムシ科甲虫種の保全に効果があったことが示唆された。

  • 中武 修一, 山本 一清, 吉田 夏樹, 山口 温, 宇野女 草太
    2018 年100 巻5 号 p. 149-157
    発行日: 2018/10/01
    公開日: 2018/12/01
    ジャーナル フリー

    近年,航空機LiDARによる高精度の森林情報取得手法が数多く提案されている。樹高や樹冠サイズのような航空機LiDARにより直接計測可能な測定値に対し,材積や胸高直径は一般的に推定式を用いて間接的に求められる。この推定式は樹種ごとに異なるのが一般的であるため,高精度の森林情報の推定には正確な樹種情報の把握が必要不可欠である。そこで本研究では,国内の森林を構成する樹種である,スギ,ヒノキ,アカマツ,カラマツ,広葉樹(落葉および常緑広葉樹)の5樹種を対象に,航空機LiDARデータを用いた単木樹冠単位での高精度樹種分類手法の開発を行った。まず,LiDARデータから反射強度,樹冠形状,レーザー透過率に関する計八つの特徴量を算出し,機械学習のアルゴリズムであるRandom Forestを用いて特徴量の重要度を推定した。推定の結果,10 m×10 mのグリッド単位で算出した樹冠形状に関する特徴量が最も分類に有効である可能性が示された。また,提案した8特徴量を用いた5樹種の分類精度は93.7%と非常に高精度であった。本研究で提案した特徴量を用いることで航空機LiDARによる単木樹冠単位での高精度樹種分類の実現可能性が示された。

  • 原山 尚徳, 津山 幾太郎, 倉本 惠生, 上村 章, 北尾 光俊, 韓 慶民, 山田 健, 佐々木 尚三
    2018 年100 巻5 号 p. 158-164
    発行日: 2018/10/01
    公開日: 2018/12/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    カラマツ植栽木の生残や初期成長に対する,雑草木による樹冠被圧の影響を明らかにするため,裸普通苗,裸大苗およびコンテナ苗を植栽したカラマツ再造林地で,植栽から3年間,合計288本の植栽木の樹高,直径,樹冠被圧状態を調査した。雑草木からの樹冠被圧は3年とも低い順に裸大苗,裸普通苗,コンテナ苗であり,植栽時の苗高の違いを反映していた。下刈りした植栽当年では,生存率は樹冠被圧状態に影響を受けず,樹高成長は植栽木の樹冠が完全に雑草木に覆われたときのみ低下した。無下刈りとした2,3年目では,生存率は樹冠表面積が75%以上被圧された場合,樹高成長は50%以上被圧された場合に有意に低下した。樹冠被圧影響を加味した植栽3年間の生残,成長の最適モデルから,雑草木の種類や苗種によらず,植栽から3年間樹冠表面積が75%以上被圧されると,植栽3年後の生存率は約6割に減少し,樹高が91~100 cm低くなると試算された。これらの結果から,カラマツは雑草木からの被圧の影響を受けやすく,雑草木の被圧を樹冠表面積の75%より低く保つ様に下刈りする必要があり,大苗の植栽は下刈り費用削減に有効であることが示唆された。

  • 柴 和宏, 長谷川 益夫, 相浦 英春, 松浦 崇, 中田 誠
    2018 年100 巻5 号 p. 165-173
    発行日: 2018/10/01
    公開日: 2018/12/01
    ジャーナル フリー

    積雪グライドにより樹林化が阻害された,最大積雪深2 mまでの急傾斜地において木製杭によって雪崩防止林の造成が可能であるか,さまざまな植栽密度のスギ人工林で検討した。調査は,このような立地条件で木製杭を斜面傾斜角35°および40°に対して,それぞれ450および620 基/ha設置すると同時にスギを植栽して10年程度が経過した5カ所の林分(植栽密度1,020~2,500 本/ha)を対象に行った。そして,木製杭の腐朽・損壊状況から求めた残存率と,スギ植栽木のうち雪上直立木(樹高が最大積雪深の2倍以上で直立状態のもの)となった本数密度を経時的に評価した。その結果,木製杭の残存率は,9年経過で約8割に,12年経過で約4割になると推定された。一方,スギ植栽木は中位の地位に相当する樹高成長を示したことにより,植栽密度2,500 本/haでは,雪上直立木が9年経過で1,000 本/ha(斜面積雪を安定させるのに必要な本数密度)に,12年経過では1,500 本/haに達すると推定された。以上のことから,本調査地のような条件においても,植栽密度が適切であれば木製杭による雪崩防止林の造成が可能であると考えられた。

短報
  • 相浦 英春, 中島 春樹, 石田 仁
    2018 年100 巻5 号 p. 174-177
    発行日: 2018/10/01
    公開日: 2018/12/01
    ジャーナル フリー

    多雪地域において森林を対象に調査研究を行ったり,森林の取り扱いを判断したりする場合,積雪環境に関する情報はきわめて重要な要素である。平均年最深積雪については気象庁によってメッシュ平年値2010としてその分布が提供されているが,実際の観測値と比較した場合,標高の高い地域での推定値は明らかに過小となっていた。一方,気温が低い条件下では降雪として供給される降水量が多くなるとともに融雪も発生しにくく,結果として年最深積雪は大きくなると考えられた。そこで,メッシュ平年値2010の平均気温と降水量の値から平均年最深積雪を推定するモデルを作成し,その精度について検討した結果,観測値がよく再現された。

  • 渡辺 靖崇, 鈴木 保志, 涌嶋 智, 坂田 勉, 東 敏生
    2018 年100 巻5 号 p. 178-181
    発行日: 2018/10/01
    公開日: 2018/12/01
    ジャーナル フリー

    コウヨウザン林分における表土移動特性および要因を明らかにするため,コウヨウザン林分に簡易土砂受け箱を設置して表土移動量を観測した。土砂受け箱の設置要因として傾斜条件(急・緩)を設定した。また,物質移動レート(g m-1 mm-1)を指標として他の樹種の林分を調べた既往の研究事例と比較検討した。傾斜条件を比較すると,急傾斜が緩傾斜より物質移動レートが高かった。しかし,急傾斜でも物質移動レートの絶対量は低く,その原因は急傾斜でも落葉落枝の被覆率が高いためと考えられた。既往研究による他樹種林分と比べると,コウヨウザン林分は表土保全の効果が高いとされるアカマツと広葉樹の混交林と同程度の物質移動レートとなった。

  • 宮下 智弘, 中村 人史, 渡部 公一
    2018 年100 巻5 号 p. 182-185
    発行日: 2018/10/01
    公開日: 2018/12/01
    ジャーナル フリー

    マツノザイセンチュウ(以下,線虫と呼ぶ)の大量増殖方法は,精麦したオオムギを用いた培地20gをガラスシャーレに入れて培養する手法が一般的であるが,必要な線虫数が多いと培養にかかる作業量が過大になりがちである。そこで著者らは,食用きのこの菌床栽培に用いられる栽培袋に着目し,この袋に多量のオオムギを入れることにより作業効率が向上できないか検討した。オオムギを用いた培地を計2,000 g入れたシャーレ100枚と,計1,700 g入れた栽培袋6袋で培養を行った。その結果,菌床用栽培袋でも線虫を培養することが可能であった。両者の採取できた線虫数に大きな違いはなかったが,線虫の培養にかかる一連の作業時間は前者が407分,後者が76分と大きく異なった。栽培袋による作業時間はシャーレの場合と比べて20%程度となった。栽培袋を用いることによって,線虫の培養作業を大幅に効率化できると考えられた。

  • 米山 隼佑, 紙谷 智彦
    2018 年100 巻5 号 p. 186-190
    発行日: 2018/10/01
    公開日: 2018/12/01
    ジャーナル フリー

    海岸砂丘の植栽樹種として高木性常緑広葉樹が選択される機会が増えているが,植栽初期の活着不良が問題となっている。2014年3月に新潟海岸において,マツ枯れが進行し落葉高木が侵入しつつある林冠下に,クロマツ代替種としてシロダモとタブノキを試験植栽した。本研究は,これら植栽木480本の直上で夏期に測定した光量,地際周囲の地温と土壌水分が植栽後2生育期間での活着に及ぼす影響を明らかにした。その結果,両樹種の活着には,土壌水分で正の効果があり,光量と地温で負の効果があったことから,林冠木が常緑広葉樹苗木に保護効果を及ぼしていることが推察された。さらにシロダモでは光環境,タブノキでは土壌環境の影響が相対的に強かった。マツ枯れが進行する海岸林において,常緑広葉樹を植栽する場合には,現存している林冠のマツや自然侵入してきている落葉広葉樹の保護効果を活用することが効果的である。

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