日本森林学会誌
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98 巻, 4 号
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特集「低コスト再造林に向けたコンテナ苗の活用」
巻頭言
論文
  • 八木橋 勉, 中谷 友樹, 中原 健一, 那須野 俊, 櫃間 岳, 野口 麻穂子, 八木 貴信, 齋藤 智之, 松本 和馬, 山田 健, 落 ...
    2016 年98 巻4 号 p. 139-145
    発行日: 2016/08/01
    公開日: 2016/10/04
    ジャーナル フリー

    これまでに,コンテナ苗の樹高成長は,植栽時の苗の形状比が平均60程度の集団であれば,裸苗と同等以上であるが,形状比が平均100程度の集団では,裸苗と比較して劣ることがわかってきた。本研究では,集団の平均値ではなく,個体ごとの形状比と成長との関係に注目し,コンテナ苗と裸苗の成長を4成長期にわたって調査した。1成長期ごとの形状比と相対成長率の関係は,相対樹高成長率では,すべての成長期において,形状比とは負の相関があったが,特に1成長期目と2成長期目の相関が強かった。相対地際直径成長率では,すべての成長期において,形状比とは正の相関があり,特に1成長期目と2成長期目の相関が強かった。このことから,形状比が高い個体は,成長初期には樹高成長を抑え,直径成長を優先することが明らかになった。また,樹高の成長量に関しては,4成長期にわたる経時的データについて線形混合効果モデルを用いて解析した結果,形状比が高いことは樹高成長量に対しても,有意に負の効果があった。以上のことから,相対成長率だけでなく,樹高成長量に対しても,高過ぎる形状比は,負の効果があることが明らかになった。

短報
  • 杉原 由加子, 丹下 健
    2016 年98 巻4 号 p. 146-150
    発行日: 2016/08/01
    公開日: 2016/10/04
    ジャーナル フリー
    電子付録

    コンテナ苗は,キャビティの容量が小さいために根系発達が制約されるが,施肥と潅水によって養分や水分の強いストレスを受けずに育てられる。そのため地下部に比べて地上部の大きい形状になりやすく,植栽後に強い水ストレスを受ける可能性がある。本研究では,スギコンテナ苗の形状と植栽当初の蒸散速度との関係を調べ,山出しに適したスギコンテナ苗の規格基準に関する基礎的な知見を得ることを目的とした。苗高の高い苗木では形状比の大きく,細根量当たりの地上部乾燥重量(地上部/細根比)が大きい苗木が多かった。植栽当初の蒸散速度は,地上部/細根比が大きい苗木で低い傾向が認められ,蒸散速度が低い苗木では地上部乾燥重量当たりの細根成長量(植栽後約2カ月間)が小さい傾向が認められた。以上から,苗高の高いコンテナ苗では,植栽当初に強い水ストレスを受け,葉量に見合う根量になるのにより時間がかかる苗木の割合が高い可能性を示唆した。

論文
  • ―植栽時の水ストレスから1年後の活着・成長・物質分配までの比較―
    新保 優美, 平田 令子, 溝口 拓朗, 髙木 正博, 伊藤 哲
    2016 年98 巻4 号 p. 151-157
    発行日: 2016/08/01
    公開日: 2016/10/04
    ジャーナル フリー
    電子付録

    夏季植栽におけるコンテナ苗の優位性を検証するため,スギ挿し木コンテナ苗 (1年生および当年生) とスギ挿し木裸苗を9月に植栽し,植栽直後の生理的ストレスと植栽後1年間の成長を比較した。裸苗の水ポテンシャルは植栽直後に大きく低下し,その後1カ月間,コンテナ苗よりも低い値で推移した。しかし,水ポテンシャルの低下は,枯死に至る致命的なストレスとはならなかった。植栽当年の苗高は1年生コンテナ苗で最も大きく,次いで当年生コンテナ苗であり,裸苗が最も小さかったが,植栽翌年には裸苗の伸長成長量が最も大きかったことから,植栽1年後の裸苗と当年生コンテナ苗には苗高差がみられなくなった。また,植栽時は苗の地上部および地下部の各器官の配分が苗種間で異なっていたが,植栽1年後には差がなくなった。さらに,植栽当年は1年生コンテナ苗で傾斜被害が多く,裸苗では主軸先端の萎れや枯れがみられ,健全苗の割合に苗種間で差が生じていたが,植栽1年後には差がみられなくなった。以上のことから,コンテナ苗は裸苗よりも乾燥に対する耐性が強いと考えられたが,今回の乾燥条件においては,夏季植栽におけるコンテナ苗の優位性は示されなかった。

  • 原山 尚徳, 来田 和人, 今 博計, 石塚 航, 飛田 博順, 宇都木 玄
    2016 年98 巻4 号 p. 158-166
    発行日: 2016/08/01
    公開日: 2016/10/04
    ジャーナル フリー
    電子付録

    コンテナへ直接播種し育苗した1年生カラマツコンテナ苗が積雪期以外で通年植栽可能か明らかにするため,2014年5月から10月まで毎月植栽し,生存率,成長,生理生態特性を調べた。対象として5月には裸苗も植栽した。5月に植栽した未開葉のコンテナ苗は裸苗よりも植栽後の成長量が大きく,2成長期間で裸苗のサイズに追いついた。これは,コンテナ苗の方が植栽後の根の成長が旺盛で光合成速度や気孔コンダクタンスが高かったことが要因と考えられた。6~8月に植栽したコンテナ苗は,植栽時の細根の電解質漏出率,圧ポテンシャルを失うときの葉の水ポテンシャルおよび葉/根比が高いなど,個体全体の耐乾性が他の時期よりも低かった。さらに7月の極端に少ない降水量と土壌乾燥が重なり,6,7月植栽の当年秋の生存率はそれぞれ62, 22% と低かった。一方,8月植栽苗は植栽前後に十分な降水があり生存率が97% と高かった。9,10月植栽苗は耐乾性が高く,植栽翌年秋の生存率が高かった。現状では,カラマツ裸苗の秋の植栽は10月下旬から11月上旬までの短い期間に限定されているが,コンテナ苗の植栽により2カ月程早められると考えられた。

  • 成松 眞樹, 八木 貴信, 野口 麻穂子
    2016 年98 巻4 号 p. 167-175
    発行日: 2016/08/01
    公開日: 2016/10/04
    ジャーナル フリー
    電子付録

    カラマツコンテナ苗の植栽適期を明らかにするために,5月から11月の各月に苗を植え,翌月以降に掘り取って,活着と根,樹高,地際直径の成長を植栽月で比較した。植栽月は当年と翌年の成長に影響し,植栽月によっては根と樹高の成長が連関した。苗は各植栽月で97% 以上の活着率を示したが,秋植えでは根鉢からの根の伸長量が減少した。8月以前は地温が高く迅速に根が伸長し,10月以降は地温が低く根の伸長が抑制されたと考える。植栽当年の樹高成長は5月と6月の植栽でのみ明瞭だった。そのピークは各々8月と9月に現れ,根長成長ピークから1カ月遅れた。7月以降の植栽では,樹高成長が根長成長後に生じるカラマツの特性により,樹高成長開始前に秋を迎えたと考えられる。植栽当年11月の地下部重量は早い植栽月で大きく,植栽翌年7月までの樹高成長率と正の相関を示した。その結果,植栽当年11月にみられた樹高の差は,その1年後でも完全には回復せず,11月植栽苗の樹高は,8月以前の植栽苗より小さかった。本研究の結果は,カラマツのコンテナ苗は春から秋まで植栽可能だが,9月以降の植栽は冬季枯損や植栽翌年までの成長不良のリスクが高まる可能性を示唆している。

短報
  • 諏訪 錬平, 奥田 史郎, 山下 直子, 大原 偉樹, 奥田 裕規, 池田 則男, 細川 博之
    2016 年98 巻4 号 p. 176-179
    発行日: 2016/08/01
    公開日: 2016/10/04
    ジャーナル フリー

    ヒノキの通年植栽の可能性を検証するために,岡山県の国有林において,夏(2013年8月),秋(2013年10月)および春(2014年5月)に植栽されたコンテナ苗と裸苗の活着と成長を2014年10月に調査した。植栽時期に関わらず,コンテナ苗は裸苗より高い活着率を示した。夏植栽においてコンテナ苗が裸苗よりも著しく高い活着率を示した(コンテナ苗,90%;裸苗,57%)。夏植栽において苗タイプ間に直径成長量の差はみられなかったが,秋と春植栽においてコンテナ苗は裸苗より小さい直径成長量を示した。また,夏植栽においてコンテナ苗は裸苗よりも大きい樹高成長量を示し,秋と春植栽では苗タイプ間に樹高成長量の差はみられなかった。植栽に不適とされてきた夏の植栽においてコンテナ苗が裸苗に対して優位性を示したことから,コンテナ苗を用いることでヒノキの植栽可能期間を拡大できることが示された。

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