日本森林学会誌
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88 巻, 3 号
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論文
  • 中村 仁, 林田 光祐, 窪野 高徳
    2006 年 88 巻 3 号 p. 141-149
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    東北地方の落葉広葉樹林においてカスミザクラを対象に散布前と散布後の種子の死亡について調べた。カスミザクラは散布前に死亡した種子はほとんどなく, 散布後はその多くが野ネズミ類に捕食された。野ネズミ類を排除した場合においても高い割合で種子の腐敗がみられた。昆虫も排除した場合はそのほとんどが生存していた。実験区内の種子の周辺で昆虫が発見され, それらはすべてツチカメムシであった。ツチカメムシを実験室に持ち帰り, カスミザクラ種子を与えたところ, 種子の側面に口吻を突き刺して吸汁することが観察された。また, ツチカメムシが吸汁した種子を用いて菌類の接種実験を行ったところ, 健全種子はほとんど腐敗しなかったが, 吸汁種子はすべて腐敗した。以上のことから, 林床に散布されたカスミザクラ種子は, 野ネズミ類の捕食をまぬがれた場合でもツチカメムシに吸汁され, その後菌が侵入して腐敗することが明らかになった。
  • 玉井 幸治, 後藤 義明
    2006 年 88 巻 3 号 p. 150-155
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    林床可燃物の含水比を予測するモデルのパラメータを, 隣接しながらも樹種構成の異なったプロットを対象に, 同定を行った。一方のプロットはおもに落葉樹のみが生えているのに対し, もう一方のプロットは常緑樹が優占していた。パラメータは, 日射量と蒸発量の関係に関する三つと最大含水比の全部で四つであり, いずれも可燃物の物理特性, 堆積状況などを反映したものである。それぞれのプロットにおける林床可燃物含水比と日射量, 降水量の観測値に基づいてパラメータの同定を行ったところ, 二つのプロットに対するパラメータは大きく異なった。しかし含水比の予測結果に大きな違いはなかった。モデルパラメータよりも光環境の方が, 可燃物の乾燥により大きな影響を及ぼすものと考察された。
  • 川名 正史, 吉井 エリ, 平 英彰
    2006 年 88 巻 3 号 p. 156-159
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    新潟県内で発見された雄性不稔個体の中で, 雌性にも異常が疑われる新大2号, 新大10号を用いて雌性不稔の発現過程を調査した。両個体とも4月の花粉飛散期に受粉が正常に成立し, 胚珠には正常個体と大きな違いは認められなかった。しかし, 5月下旬から6月上旬にかけて, 胚珠に変化が現れた。雌性配偶体が核分裂を行い, 遊離核を形成する時期に, 2号と10号の雌性配偶体には遊離核が形成されなかった。その後, 2号, 10号の雌性配偶体はともに退化して胚の形成は認められなかった。また, 2号, 10号は種子を形成するがすべてシブ粒, 厚皮粒, シイナ粒であった。新大2号と10号の雌性配偶体の退化過程は類似しており, ともに遊離核が形成されないことから, これらの雌性不稔の原因は胚のう母細胞に異常が生じ, 正常な雌性配偶体が形成されないことが主因であると考えられた。
  • ―初等・中等学校における森林教育実践上の課題と対応策―
    広嶋 卓也, 山本 清龍, 田中 延亮, 柴崎 茂光, 堀田 紀文, 坂上 大翼
    2006 年 88 巻 3 号 p. 160-168
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    本論では学校教員を対象とした森林の多面的機能に関する教材を開発した上で, 初等・中等学校の教員を招いて研修会を開催し, 教材を活用した森林教育プログラムの実践例を提示し, さらにアンケート調査を実施して教育効果の把握と問題抽出を行った。アンケート分析の結果, 参加者全体の傾向として, 森林の多面的機能に対する関心がもともと高いこと, 多面的機能を評価する能力や生徒に伝える技能について一定の教育効果が得られたことがわかった。一方, 森林教育プログラムを実際に学校教育で実施する可能性は研修を受けても向上せず, その原因をアンケートの自由解答欄から抽出した結果, 指導者不足, フィールド確保の難しさ等の問題が明らかとなった。今後の学校における森林教育のあり方を考えると, 学校教員が指導者を務めつつ, プログラム実施に要する道具の準備やフィールドの確保については専門家の協力を仰ぐといった連携が必要と考えられた。
  • 草野 僚一, 家入 龍二, 松本 麻子, 森口 喜成, 津村 義彦
    2006 年 88 巻 3 号 p. 169-173
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    熊本県のスギさし木品種であるシャカインのクローン整理や採穂源の管理を目的としてCAPS (Cleaved Amplified Polymorphic Sequences) マーカーを用いた識別システムの構築を行った。既報で報告されている33個のCAPSマーカーのスクリーニングを行った結果, 安定したPCR増幅を示し, 遺伝子型の特定が容易で共優性型である六つのマーカーが選抜された。これらのCAPSマーカーによる16個体のシャカインの分類結果はマイクロサテライトマーカーによるものと一致し, CAPSマーカーによるシャカインのクローン識別が可能であることが確かめられた。6座のCAPSマーカーを用いて熊本県下に植栽されているシャカインを分析した結果, 220個体が27のDNAタイプに分類された。このうちの二つの主要なDNAタイプが全体の78.6%を占めた。また, 各造林地の構成型の割合から, シャカインは一般実生造林地から選抜された品種であると推察された。
  • 村上 智美, 林田 光祐, 荻山 紘一
    2006 年 88 巻 3 号 p. 174-180
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    サポニンを含む果皮とそれを除去するヤマガラの貯蔵行動がエゴノキ種子の発芽に及ぼす影響を明らかにするため, エゴノキの種子散布と発芽特性を東北地方の落葉広葉樹林で調べた。成熟果実は9月までにすべて樹上から消失した。4日間の観察期間中ヤマガラのみがエゴノキに飛来し, そのうちの80%で果実を運搬する行動がみられた。樹上からなくなった果実のうち, 83.0~87.2%が樹冠外に持ち出されたことから, 樹上果実の大半はヤマガラによって運搬されたと考えられる。残りの果実は自然落下したが, これらの果皮は11月中旬まで分解されずに残った。野外での発芽実験では, 果皮を除去した種子は36%の平均発芽率がみられたが, 果実は4%とわずかで, 種子の発芽率が有意に高かった。果皮に含まれるサポニンの量は果実が落下すると急激に減少することからサポニンが発芽を抑制しているとは考えにくい。ヤマガラの貯蔵行動は発芽阻害の原因となる果皮を除去するという行為を伴うので, エゴノキの種子を散布させるだけでなく, 発芽にも大きく貢献していると考えられる。
  • ―岐阜県民有人工林を事例として―
    中島 徹, 広嶋 卓也, 天野 正博
    2006 年 88 巻 3 号 p. 181-186
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    本研究では岐阜県の民有人工林を対象に, 林業統計から京都議定書3条4項に規定された森林を計上する手法を開発し, さらに同面積を試算することを目的とした。京都議定書3条4項が規定する森林管理として植栽, 下刈り, 枝打ち, 除伐, 間伐を取り上げ, 補助金マスターをもとに1990年から2000年までの施業の実施面積を計上した。計上の際には, 施業面積を基礎とする方法, 小班面積を基礎とする方法の2とおりを試みた。試算の結果, 3条4項林面積を正確に推定するには, 施業面積を基礎とする方法を用いるべきであることが明らかになった。一方で, 小班面積を基礎とする方法は, 施業面積を基礎とする方法を代替できる方法であることが認められた。また, いずれの方法でも2000年時には民有人工林面積のおよそ半分が3条4項林に組み込まれていると推定された。
  • 斎藤 真己, 平 英彰
    2006 年 88 巻 3 号 p. 187-191
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    スギ採種園における園外からの花粉汚染対策として, 閉鎖したガラス室内にミニチュア採種園を造成し, その得失と有効性を検討した。ガラス室内のスギの開花時期は, 雄花が2月4日から3月27日であり, 雌花は2月5日から3月22日であった。これに対して, 野外のスギ花粉飛散は2月21日から4月6日であったことから開花時期はガラス室内の方が野外より3週間程度早かった。室内の80%以上の個体が開花した時期は, 雄花が2月17日から3月13日までで, 雌花が2月15日から3月3日までであり, その期間はほぼ完全に重複していた。この採種園から得られた種子の発芽率は21.4%であり, 従来型の採種園から得られた自然交配種子のそれと同程度であった。以上のことから, ガラス室内ミニチュア採種園を利用することで園外からの花粉汚染を防ぎ, さらに雌雄の開花期が揃うことから確実な交配が行われると期待される。今後のスギ造林は多品種を少量面積で植栽する方向に向かうと予想されることから, このことを実現する上においても, 本手法は有効な手段になると考えられた。
短報
  • 北島 博, 菅 栄子, 槙原 寛
    2006 年 88 巻 3 号 p. 192-196
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    コウモリガ幼虫を市販の蚕用人工飼料を用いて, 25℃の長日区 (LD16 : 8) と短日区 (LD10 : 14) で220日間飼育した。蛹化率は長日区 (37.6%) の方が短日区 (13.6%) より有意に高かった。長日区では雌雄とも蛹化したが, 短日区では雄の蛹化だけがみられた。羽化率は長日区 (25.6%) の方が短日区 (12.8%) より有意に高かった。長日区の雄, 雌, および短日区の雄における平均幼虫期間は, それぞれ158.6日, 159.7日, および151.6日間, 平均蛹期間はそれぞれ23.9日, 22.6日, および22.5日間であった。以上より, 本種幼虫を蚕用人工飼料を用いて飼育できること, 本種幼虫の蛹化には日長条件が密接に関係しており, 蛹化率を高めるには25℃の場合長日の方が短日より望ましいことが明らかとなった。
  • 森 康浩, 宮原 文彦, 後藤 晋
    2006 年 88 巻 3 号 p. 197-201
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    クロマツのマツ材線虫病抵抗性クローン (川内ク-290号) の実生苗38個体に対して, マツノザイセンチュウ (島原個体群) を用いて接種検定を行い, 抵抗性個体を15個体選抜した。これら15個体を採穂個体として3年間連続して挿し木を行い, 得られた挿し木苗に島原個体群を接種した結果, 各年における健全率は61~71%と年変動が少なく安定した抵抗性を示した。次に, 12の抵抗性クローンの実生苗18個体を対象に, 島原個体群より強い病原性をもつ線虫2系統 (Ka-4と唐津3) を用いて接種検定を行い, 抵抗性個体群の選抜を行った。選抜された9個体から挿し木を行い, 得られた苗木に強病原性線虫 (唐津3) を接種した結果, 健全率は97.7%ときわめて高かった。このように, マツ材線虫病抵抗性種苗生産において, 強病原性線虫の接種検定により抵抗性をもつ採穂個体群を選抜し, それらから挿し木を行う方法は有効であると考えられた。
  • 平尾 知士, 渡辺 敦史, 福田 陽子, 近藤 禎二, 高田 克彦
    2006 年 88 巻 3 号 p. 202-205
    発行日: 2006/06/01
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    SSR (Simple Sequence Repeat) マーカーを利用し, 関東育種基本区内の835スギ精英樹の遺伝子型を決定した。遺伝子型の決定に利用した3種類のSSRマーカーは多型性が高く, 観察されたヘテロ接合体率の平均は0.831であった。識別能力を算出した結果, 0.98~0.99の範囲であり, すでに報告されているRAPD (Random Amplified Polymorphic DNA) マーカーよりもはるかに効率的に識別することができた。これら3マーカーで識別できなかった189精英樹についてはさらに5マーカーを追加し, 6精英樹のみが新たに識別できた。本研究で利用したマーカーのうち, Cjgssr149は目的とする領域以外にもフラグメントが検出されたことから, 原因を明らかとするため二つの異なる精英樹について塩基配列を決定した。その結果, 重複したSSR領域が増幅されていることが明らかとなった。
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