日本森林学会誌
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94 巻, 1 号
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論文
  • 鈴木 和次郎, 中村 香織, 正木 隆
    2012 年 94 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2012/02/01
    公開日: 2012/05/29
    ジャーナル フリー
    鬼怒川流域の本流・支流の82箇所の水辺林の群集組成を類型化し, その分布の成因を立地環境から解析した。主成分分析の結果, 立地環境は河川の流路幅と谷底幅, 標高と相関の高い第1主成分と水面からの比高と相関が高い第2主成分で指標された。群集組成はトチノキ型, ケヤキ型, 混交型, ヤハズハンノキ・ヒロハカツラ型, サワグルミ型, オオバヤナギ・オノエヤナギ型, オオバヤナギ型, ハルニレ型, コゴメヤナギ型の九つに類型化された。狭い氾濫原を持つ渓畔域では, 流路付近にオオバヤナギ型等, 隣接する高位氾濫原から谷壁斜面にかけてはトチノキ型等が成立していた。標高800∼1,400 mの山地帯では谷底幅が広いために多様な微地形が形成され, 6タイプの水辺林が分布していた。また, 山地帯に広く出現した型は, 支流では本流よりも低標高域に分布する傾向があった。これは, 低標高でも支流は上流部に似た谷底地形を呈するためであると考えられた。このように, 本流と支流をあわせると広い標高域に多様な河川地形が存在し, 多様な森林群集が分布可能であることが示唆された。
  • 森谷 佳晃, 森本 未星, 森本 淳子, 中村 太士
    2012 年 94 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2012/02/01
    公開日: 2012/05/29
    ジャーナル フリー
    電子付録
    風倒木処理がシカの採食に与える影響, および採食による植生への影響を明らかにするため, 風倒が発生したトドマツ人工林において, 倒木を放置した「倒木区」, 倒木の除去後植栽された「植栽区」, 倒木除去に伴い発生した残渣 (枝や根株など) を列状に集めた「残渣区」の3処理間で採食圧を比較した。また, 各処理についてシカ排除フェンスを設置し, 1年間の採食による植生への影響を調べた。採食圧は植栽区, 残渣区, 倒木区の順に高く, シカが倒木のある場所を避けること, 倒木が列状に配置される方が採食を受けやすいことが示唆された。採食による植生への影響は, 残渣区のフェンス外で群落高と草本種数の減少が, 植栽区のフェンス外では逆に草本種数の増加がみられた。倒木区では有意な影響はみられなかった。これには植物種構成や群落高, 植被率の処理区間の違いと共に, シカによる種子散布や採食による優占種の減少が寄与している可能性がある。風倒木を広く残すことによりエゾシカの採食を減らせる可能性がある一方で, 採食による植生への影響は複雑であり, 長期的なモニタリングが必要である。
  • —苗場山ブナ天然更新試験地のデータから—
    正木 隆, 佐藤 保, 杉田 久志, 田中 信行, 八木橋 勉, 小川 みふゆ, 田内 裕之, 田中 浩
    2012 年 94 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2012/02/01
    公開日: 2012/05/29
    ジャーナル フリー
    苗場山ブナ天然更新試験地の30年間のデータを解析し, 天然更新完了基準を検討した。試験地では1968年に5段階の強度 (皆伐∼対照区) での伐採, および5通りの林床処理 (刈り払い, かき起こし, 除草剤散布等) が行われ, 1978年には残存母樹も伐採された。本研究では残存母樹の伐採から4年後の1982年と2008年の植生調査 (各種の被度および最大高) および樹木の更新調査 (稚樹密度および稚樹高) の結果を解析した。高木性の樹木が更新 (2008年に高木性樹種の被度50%以上) する確率は, 1982年当時の稚樹密度・稚樹高・植生高でよく説明され, ブナに対象を限定した場合では, 稚樹の密度と高さのみでよく説明された。高木性樹種の更新の成功率は, 稚樹の密度が20万本/ha以上, かつ植生が除去された場合にようやく8割を超えると推定された。各地の広葉樹天然更新完了基準では, 稚樹高30cm, 密度5,000本/haという例が多いが, この基準は低すぎると考えられた。伐採前に前生稚樹の密度を高める等の作業を行わない限り, 天然下種によるブナ林の更新は難しいと考えられた。
  • 今泉 文寿, 上治 雄介
    2012 年 94 巻 1 号 p. 24-30
    発行日: 2012/02/01
    公開日: 2012/05/29
    ジャーナル フリー
    山岳域では山腹が急傾斜であることから, ドライラベルやソイルクリープなど土粒子そのものに作用する重力に起因する土砂移動現象がみられる。これらは地表流の発生によって引き起こされる表面侵食とは土砂移動メカニズムが異なっており, 表土の貧弱化や立木の損傷などを引き起こすため, 山岳域で林業を行う場合はその抑制が大きな課題となっている。そこで本研究では, 赤石山脈南部の急傾斜人工林内において間伐材を利用した丸太柵工を設置し, そこでの土砂移動特性と柵工のもつ土砂移動抑制効果について調べた。現地観測の結果, 調査地では凍結融解現象が頻発する冬季においてドライラベル, ソイルクリープによるとみられる活発な土砂移動が確認された。斜面上方からの土砂生産の影響が少ない地点においては, 柵工設置からの経過時間とともに土砂移動量が減少する傾向がみられ, 柵工の設置により斜面の安定化がなされることが示された。柵工により斜面の安定化が保たれるエリアは安息角と斜面の傾斜に依存するため, それを踏まえた柵工の配置が必要であると考えられる。
短報
  • 江崎 功二郎
    2012 年 94 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2012/02/01
    公開日: 2012/05/29
    ジャーナル フリー
    電子付録
    ミズナラ林において, 2009年に初めてカシノナガキクイムシの穿入を受けても枯れなかった穿入生存木と, 過去の穿入が認められない未穿入木について2010年の穿入数を調査した。2009年と2010年の穿入密度の関係は, 両年ともに最大値を示した調査木でのデータを除くと, 有意な負の相関関係が認められた。そのため, 2010年の穿入生存木の穿入密度および枯損率は, 未穿入木の場合よりも有意に低く, 穿入履歴による枯損防止率は約81%と推定された。これらの結果は, 前年に穿入密度が高かった穿入生存木では, 新たな穿入および枯損が抑制されることを示唆している。
  • 江原 秀宗, 石井 弘明, 前藤 薫
    2012 年 94 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2012/02/01
    公開日: 2012/05/29
    ジャーナル フリー
    列状間伐による生物相への影響を明らかにするため, 間伐強度および間伐後の経過年数が異なる二つの列状間伐林分においてアリ群集構造を調査し, 隣接する対照林分と比較した。強度の列状間伐後11年経過した林分では対照林分よりも森林性種が少なく, 広域生息種が多く出現する傾向がみられた。一方で, 弱度の列状間伐後4年経過した林分では, 逆の傾向がみられた。また, 環境条件がアリ類の種構成に与える影響は明瞭ではなかったが, 林冠からの入射光量や下層植生のバイオマス量との関係が示唆された。アリ類は様々な生態的特長を有するため, アリ群集構造を人工林における森林施業の撹乱強度やその後の生物相の回復過程を表す指標として用いるためには更なる検討が必要であると考えられる。
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