日本森林学会誌
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92 巻, 5 号
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論文
  • —シカによる植生改変の影響—
    關 義和, 小金澤 正昭
    2010 年 92 巻 5 号 p. 241-246
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/14
    ジャーナル フリー
    栃木県奥日光地域では, ミミズ類の現存量は防鹿柵内のササ型林床よりも柵外のシロヨメナ型林床において多いことが報告されている。本研究では, 柵外のミミズ類の増加要因について明らかにするために, ササとシロヨメナの地上部現存量とミミズ類との関係について調査を行った。表層性のミミズ類の個体数および現存量とシロヨメナの現存量との間には有意な正の相関が認められ, シロヨメナの現存量が増加してもA0層の深さの増加はみられなかった。これらのことと, 表層性のミミズ類は表層でリターを摂食することが報告されていることから, 表層種にとってのシロヨメナの嗜好性は高いと考えられる。一方, ササ型林床では, 1コドラートで1個体が採集されたのみで, ササの現存量が増加するにつれてA0層の深さは有意に増加した。これらの結果は, 表層種にとってササは餌資源として不適である可能性を示唆する。奥日光地域の柵外では, シカの食害によりササ類が全面枯死し, いまではシロヨメナが群生している。以上のことから, 本地域の柵外におけるミミズ類増加の主要因は, シカによりササ類が消失し, シロヨメナが増加したことであると結論した。
  • —インドネシア・東カリマンタン州ベシ村を事例として—
    寺内 大左, 説田 巧, 井上 真
    2010 年 92 巻 5 号 p. 247-254
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/14
    ジャーナル フリー
    ラタン, ゴム, アブラヤシは熱帯地域原産の生産物であり, 先行研究ではもっぱら生態的, 経済的側面が分析されてきた。本研究はラタン, ゴム, アブラヤシを焼畑民の視点から比較し, 彼らの認識と生計戦略を明らかにすることを目的とする。ラタンとゴムを比較すると「労働に対する収益性」の高さからゴム生産が現金収入源として選択されつつも, 利用用途の多さなどの「融通性」の高さからラタン生産も維持されていた。ラタン・ゴムとアブラヤシを比較すると, アブラヤシ生産は「融通性」と「自律性」の低さが懸念される一方で, 「労働に対する収益性」に期待が寄せられていた。そのため, アブラヤシ農園開発は村上流の未利用地では受容されるが, 村周辺の慣習的私的所有地では拒否された。村人は, ラタン, ゴムの長短所を組み合わせ, リスクを回避しながらアブラヤシを導入するという「寄木細工」生計戦略を採っていたのである。
  • 末吉 昌宏, 佐藤 大樹
    2010 年 92 巻 5 号 p. 255-260
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/14
    ジャーナル フリー
    沖縄本島北部の森林の除伐が腐朽木に生息する捕食性アブ類群集に与える影響を明らかにするため, 国頭村西銘岳周辺において, 林床に存在するさまざまなサイズ・腐朽度合いの腐朽木の体積, および, それらから発生する捕食性アブ類の個体数を調査した。未除伐林とその後の経過年数が異なる除伐林が入り混じる森林では, さまざまなサイズと腐朽度からなる腐朽木が不均一に分布しており, それによってそれぞれの林分で生息する捕食性アブ類の個体数が異なった。また, 捕食性アブ類の科構成は除伐後 1 年経過した林分と除伐後 7 年以上経過した林分で異なった。羽化トラップで得られた捕食性アブ類は腐朽木の体積に対応して増減し, アシナガバエ科の個体数も同様に増減した。特に, 除伐による, 腐朽度合いが軽度の腐朽木の大量発生は, キクイムシ類を介して, キマワリアシナガバエ属 Medetera の個体数に対する間接的なボトムアップ効果があると考えた。沖縄本島北部では, 林内の腐朽木の体積が大きく変動することなく, かつ, 異なるサイズと腐朽度合いの腐朽木が存在するような森林管理が捕食性アブ類の多様性を維持すると考えた。
  • 初 磊, 石川 芳治, 白木 克繁, 若原 妙子, 内山 佳美
    2010 年 92 巻 5 号 p. 261-268
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/14
    ジャーナル フリー
    神奈川県東丹沢堂平地区では, シカの採食により, 林床植生が衰退し, 土壌侵食が広い範囲にわたって進行している。土壌侵食の実態を把握するため, 堂平地区のブナ林の山腹斜面に長さ5 m, 幅2 mの土壌侵食調査プロットを17箇所設置した。これらの土壌侵食調査プロットについて, 2006∼ 2008年の3年間の4∼ 11月の期間, ほぼ毎月1回土壌侵食量を観測するとともに, 同時に撮影した写真を用いて林床合計被覆率 (林床植生被覆率+リター被覆率) を求めた。その結果, 雨量1 mm当たりの土壌侵食量 (E) と林床合計被覆率 (F) には指数関数E=65 exp (−0.0615×F) で表わされる高い負の相関があることが分かった。得られた関係式では林床合計被覆率が小さい範囲では林床合計被覆率が大きい範囲に比べて林床合計被覆率のわずかな変化が土壌侵食量に大きな影響を与えており, 既往の人工降雨実験に基づく研究により得られたリター被覆率と土壌侵食量がほぼ直線的に反比例する関係とは大きく異なる結果が得られた。
短報
  • 松本 晃, 小南 裕志, 石井 弘明
    2010 年 92 巻 5 号 p. 269-272
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/14
    ジャーナル フリー
    森林土壌における枯死根の分解呼吸量を推定するため, L層に直接埋設した枯死根を定期的に掘り出して, 小型チャンバーを用いて枯死根からのCO2放出量を測定した。枯死根からのCO2放出量は83.3∼577.3 mg CO2kg−1 h−1で, 枯死根の分解に伴って発生していると考えられた。CO2放出量は季節変化を示し, 気温が高いほど高い値を示した。また, 枯死根の平均直径が小さいほどCO2放出量は高かった。これらの結果から, 森林土壌における枯死根の分解呼吸量の推定においては季節変化および直径の小さい細根の枯死分解過程を考慮する必要があることが示唆された。
  • —静岡県都市部の健診受診者との比較—
    森田 えみ, 鈴木 康司, 井上 孝, 栗木 砂家加, 冨田 耕太郎, 伊藤 宜則, 浜島 信之
    2010 年 92 巻 5 号 p. 273-277
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/14
    ジャーナル フリー
    農漁業がおもな産業である北海道南部の八雲町の住民健診受診者を対象に, 自記式質問紙にて森林散策頻度の実態調査を行った。解析対象者は578人 (男性215人, 女性363人: 平均年齢 (標準偏差) 64.4 (10.2) 歳, 年齢範囲39∼89歳) であった。月1回以上, 森林散策をしている人は83人 (14.4%), 年1回以上の人は180人 (31.1%) であった。70歳代でも9.8%, 80歳代でも14.3%の人が, 週1回以上, 森林散策をしていた。都市部である静岡県中西部地区と比較した結果, 年齢, 性別, 職業, 森林散策の好き嫌いの分布を調整した後でも, 八雲町の方が森林散策頻度は有意に低く, 地域差が認められた。一方で, 森林散策と関連がある要因は静岡県中西部地区の結果と同様であり, 年齢が高く, 男性で, 森林散策が好きな人が森林散策の頻度が高い傾向が認められた。
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