日本森林学会誌
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最新号
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論文
  • ―福島県只見町を事例に―
    小柳 知代, 松浦 俊也, 古川 拓哉, 小山 明日香
    2024 年 106 巻 4 号 p. 77-87
    発行日: 2024/04/01
    公開日: 2024/04/26
    ジャーナル オープンアクセス

    農山村で継承されてきた野生生物資源の生態や利用の知識(地域知)は,生活様式変化や人口減少・高齢化のなかで消失の危機にある。本研究では,福島県西部の山間地にある只見町における多様な食用野生植物資源利用の変容過程とその要因を明らかにした。まず,出版物や聞き取り資料から,戦後から現在までの同町の自然資源利用と時代背景の変遷を年表にまとめた。次に,同町で利用されてきた山菜45分類群,木の実26分類群を抽出し,その利用変化と要因を地域のキーインフォーマント(60代後半~80代)11名から聞き取った。その結果,利用変化は,(A)主に食糧難期(1940年代)に利用,(B)高度成長期(1950年代後半から70年代)に衰退,(C)現代まで縮小しつつも継続,(D)近年に利用開始の四つに分けられた。これらのうち(A)~(C)の要因として,①生活様式が変わり購入可能な代替財に置換,②河川・道路・圃場整備等の開発行為や農薬利用,③二次林や草地の管理低下で生育地が縮小,④商品価値の盛衰,⑤採取地へのアクセス性の変化の五つが挙げられた。今後,教育を含む人的交流を通じた効果的な地域知の継承方法の解明が求められる。

  • ―森林・林業コースを有する高校の事例―
    阿部 真弥, 比屋根 哲
    2024 年 106 巻 4 号 p. 88-100
    発行日: 2024/04/01
    公開日: 2024/04/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,専門高校における森林・林業人材育成の課題や可能性を検討するための基礎的研究であり,一つの農業高校を対象に,そこで行われている森林・林業教育の現状と課題の一端を明らかにすることを目的とした事例研究である。調査対象は,東日本で森林・林業コースを有する農業高校(A高校)である。調査は,A高校に関する資料調査,A高校の現職教員や元教員への聞き取り調査,森林コースに所属する生徒へのアンケート調査によって行った。調査の結果,A高校の専攻班Fでは,森林・林業教育に関わる科目の減少はあるものの,大学で森林科学の専門教育を受けた教員に支えられて,森林・林業人材の育成機能が維持されていた。しかし,専攻班F以外の生徒に対する森林・林業人材育成機能は,十分とはいえない現状であった。そして,A高校E学科の森林・林業人材の育成機能の充実に向けては,1)森林・林業関連科目の内容の改善,2)他機関との教育連携,3)林業大学校との連携,4)教員の量的・質的充実等の課題があることがわかった。

  • 江崎 功二郎, 中村 克典, 前原 紀敏
    2024 年 106 巻 4 号 p. 101-108
    発行日: 2024/04/01
    公開日: 2024/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    マツノマダラカミキリ(以下,本種)幼虫駆除のために行われる伐倒くん蒸処理において,薬剤投入量の不足や不完全な被覆などによる被覆内のメチルイソチオシアネート(以下,MITC)濃度の低下は殺虫率の低下をもたらす。さらに被害材の地面などとの密着は,材内への有効成分の浸透を阻害し,本種の殺虫効果を低下させる可能性がある。本研究では被覆内で集積山の中心部のほかに,集積山の下部と上部に地面または被覆シートに接触させた試験丸太を配置し,全面被覆式,上面被覆式および薬剤1点散布の上面被覆式による3通りのくん蒸処理を行った。被覆内のMITC濃度の最高値が2.14 g/m3以下であった全面被覆式の1集積山および薬剤1点散布の上面被覆式の3集積山では,処理丸太の樹皮下および蛹室内から生存個体がみられた。これらは集積山の下部で接地または上部で被覆シートに接触した丸太でみられる傾向にあり,成虫まで発育して丸太から脱出できた。マツ材線虫病防除の伐倒くん蒸処理で求められる高い殺虫率を得るには,薬剤の集中散布,被害材の地面や被覆シートとの接触などのMITC濃度の低下要因を避ける必要がある。

短報
  • ―対馬諸島と佐渡島との比較から―
    久保 満佐子, 懸野 友晴, 須貝 杏子, 井上 雅仁, 崎尾 均, 立花 寛奈
    2024 年 106 巻 4 号 p. 109-115
    発行日: 2024/04/01
    公開日: 2024/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    日本海にある隠岐諸島(島根県)は氷期に島根半島と陸続きになった地史をもつ。隠岐諸島では森林植生の垂直分布が不明瞭であり,氷期の遺存的な樹種が存在すると考えられているが,どのような樹木組成を基盤としてその植生が成立しているのかは不明である。そこで隠岐諸島の樹木組成の特徴を明らかにするため,日本海にあり更新世中期に九州および朝鮮半島と陸続きになった対馬諸島と,更新世中期には離島であった佐渡島を文献資料から比較した。その結果,分類群数は隠岐諸島が272,対馬諸島が329,佐渡島が313あり,面積が最も小さい隠岐諸島で少なかった。南に位置する対馬諸島は広布種と南方種が多く,北に位置する佐渡島は北方種が多かった。中間に位置する隠岐諸島は両島との共通種が多く,高木では落葉ナラ類が多く,クスノキ科の常緑類が分布することが特徴であった。

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